先生と一通り会話して、何とか心を持ち直した感じのミカ。まだ若干辛そうではあるが、少なくとも東京タワーに入った直後と比べれば、見違えるほど顔つきが穏やかになっている。
「―――へ? ナカミチに? うん、今代わるね。ナカミチ、先生がナカミチと話がしたいって…」
そして、その会話の途中で、唐突に中道にスマホを差し出してくるミカ。だが、その差しだされたスマホに中道は「うっ…」と言葉を詰まらせてしまう。
「ナカミチ…?」
向けられたスマホになかなか手を出さない中道に首を傾げるミカ。一方、中道は全身を小刻みに震わせ、緊張の面持ちでスマホを見続けるのみだ。
とはいえ、この中道の反応も無理はないかもしれない。こと戦闘においてはここまでほぼ無敵だったあのミカが、崩れかけた心身を話し合うだけで回復させてしまう程に心酔している相手。更に、だいぶ前の会話からミカと同格かそれに迫る者達を何人も…いや、下手したら何十、何百と従えている可能性のある相手。
これが、今の中道から見える”先生”という人物なのだろう。加えて、その場にいるすべての者の視線が中道に集まっている。比喩でも何でもなく、この話し合いの結果で東京中の人々の生死が決定するのだ。助力を得られればまだ生の可能性があるが、もし……何らかの失言で……”先生”の機嫌を……損ねて……しまえば……。
この状態で緊張するなという方が無理があるだろう。とはいえ、臆して待たせるのもいけない。待たせるなど、もうその時点で失礼な行為だ。なので、意を決して中道はスマホを受けとった。
「も、もしもし…。………はい、俺、あ、いや、私が中道…世代中道です…。はい……はい……いえ……こちらもミカ…さんには、何度も助けられましたし……はい……」
話し合いを始める中道だが、極限の緊張からかどうにも言葉がたどたどしい。悪魔と交渉する時の話術など見る影もない程に言葉遣いがボロボロだ。
そうしながらも、暫く話し合いを続ける中道と先生。数十分の話し合いの末、
「ミカ、もう一度先生がミカに代わってくれって…」
「わかった!」
スマホは再びミカの手に戻る。
「どうだった?」
嬉しそうに先生との会話を再開するミカを背に、小声で中道に手応えを聞いてくる愛子。
「―――大丈夫だ。助力はしてもらえるそうだ」
そして、何やら難しい顔をしている中道の答えに、周囲の人々はワッと歓声を上げる。生き残れる可能性が出てきたのだから、こうなるのも無理はない。
「その割には…何やら思案顔をしているな」
そんな中、中道をじっと見ていたパスカルが、心配そうな声色で尋ねる。同じく愛子も中道の表情が気になっていたのだろう。言葉こそださねど目線が心配そうだ。
「いや、この先生って人なんだが…どうやら本当にこの世界出身っぽかったんだ。ミカと違って東京の地理は大体知っていたし、東京以外についても、ある程度有名な地ならそれも答えられたし…」
ぽつりぽつりと語りだす中道。それを、愛子もパスカルも黙って聞いている。
「ただ、その中に出てきた”東京スカイツリー”とかいう高層建造物が出てきてな…。なんでも、あの東京タワーより高い建造物が東京にあったらしいんだ」
「東京タワーより高い!? そんな建造物、少なくとも東京にはない筈よ。やっぱり、私達とは別の世界の話なんじゃ…」
「そうかもしれないし、先生が言うには”パラレルワールド”ってやつかもしれないとも言っていたな」
「パラレルワールド?」
「もし、これがこうなっていたら…あるいはこうならなかったら…っていうIFの世界だな。俺達の世界的に言えば、もし大破壊が起こらなかったら…ってところか」
「大破壊が起こらなかったら…。やっぱり平和な世界が続いていたのかしら…」
「さあな…。まあ、今よりはましだろうが神や悪魔とかは存在しているだろうから、こいつらが裏で暗躍してたりするんじゃねえか? もしくは、ある日突然、東京丸ごと異世界に飛ばされたり…とかな」
「中道よ、何故そんな暗いパラレルワールドしか出てこんのだ…」
お互いの世界に関する中道と愛子の会話は、パスカルの溜め息からの言葉で締められるのだった。
ミカも先生との会話を終え、改めて今後の方針を確認する一行。
最終目標はロウとカオスの二大勢力の討伐と、ミカの帰還…この二つだ。そして、ロウとカオスのどちらから攻めるかだが、これについてはカオスを先に攻める事となった。
理由としては、高さと共にミカの世界につなげるもう一つの要素となる”神聖さ”という概念だ。
すこしでも余力を持って二大勢力を倒したいのなら、まずは強引にカテドラルを駆け上がり、ミカの世界から応援を呼んでロウの勢力を倒し、その勢いでカオスの勢力も倒すのが一番楽ではあるだろう。
しかし、ロウの軍勢が居なくなった時点で、カテドラルを神聖な場所と呼べなくなってしまうのでは? という懸念が中道から発せられたのだ。神聖さが無くなってしまえば、ミカは勿論援軍として来てくれた他の人達まで帰れなくなってしまう。それでは意味がない。
結局、カオスは中道達現地の人々とミカでなんとかして、ロウの軍勢はミカの世界の応援を借りて倒し、神聖さが完全に消える前にミカと応援の人達を元の世界へ帰す。ミカと応援の人達の帰還の確実性を考えれば、これが一番いい筈…と結論づいた。
続いて戦力の問題だ。敵も強大になっていき、流石にミカ一人で無双するという戦法は厳しくなっている。現に、少し前のハニエルとの戦闘でも、ハニエルの謎のドーピングはあったとはいえ、ミカは少し負傷していた。あのドーピングをハニエルよりさらに強い奴にされては、流石にミカと言えどかなり危うい。
キーポイントとしては、やはりひのかぐつちの真の力の開放だろうか。未だに使い道の見えないベリアルの封印された壺も、もしかしたら強化につながるかも知れない。
さらに、これについてはパスカルからもある訴えがあったのだ。何者かに呼ばれている…とても偉大な力を感じる何者かに…と言う訴えが。
そこで、中道はパスカルを連れてその何者かに呼ばれている場所まで行ってしまった。ミカと愛子も同行しようとしたのだが、これは中道に止められる。
中道曰く、持ち直したとはいえミカはだいぶ疲弊している。とにかく、今日一日はゆっくり休んで少しでも英気を養って欲しい。愛子も、ミカの傍にいてやって欲しい…との事だ。
そして翌日。中道は無事帰ってきた。何やら物々しい雰囲気を放つ刀を持ちながら。
「東京の守護者…そんなのにパスカルは呼ばれていたのね」
「ああ、本当に悔しそうにしながら、俺にこの刀を託してくれたんだ。その思いを無駄にしない為にも、今まで以上に身を引き締めないとな」
「名前を軽々しく呼んではいけない人か…。凄い人…なのかな…」
行き先で何があったのかの中道の説明に、愛子は驚きの声を上げ、ミカも何やら興味深そうに中道が授かった刀を見つめていた。