「助かった。礼を言う」「ええ、本当にありがとうございます」
「わあ…。結構深手だったと思うのに、本当に直ぐに治っちゃった…」
瞬く間に全快してしまった中道、法二、力也の三人に、感動の声を上げるミカ。既に戻されているが、アメノウズメも完治している。
「神の救いを信じる者はいつでも歓迎致します。それが、天使様の加護を受けた者達なら猶更です」
そんなミカに掛かる声。声の主は法衣に身を包んだ女性だ。そう、今いる場所はメシア教会の治療室だ。逃走中に意識を取り戻した中道の誘導で、ここに導かれたのだ。
「天使様って私の事? いや、別に私はそんな偉い人じゃないよ…」
「ふふ…。溢れんばかりの光の力を纏いながら、何と謙虚な方なのでしょう。ですが、何故貴女様程のお方がこの様な場所に降臨を? 降臨されるとしたら、メシア教の総本山…品川大聖堂かと思いましたが…」
その法衣の女性に対し、苦々し気に首を横に振るミカ。しかし、その態度が法衣の女性には好感触らしく、どこかうっとりした様子でミカに尊敬の視線を送る。
そうしながらも、疑問の声も上げる法衣の女性。なぜこのような場所に…と言われても、それを一番聞きたいのはミカ自身であるのは言うまでもない。
「おい、ミカ…」
と、ここでこれまで一言も喋らなかった力也がミカを呼ぶ。声色からしてかなり不機嫌そうな様子だ。
「てめえ、なんでおめおめと尻尾を巻いて逃げやがった!? てめえならあのタケミナカタとかいう悪魔もぶっ飛ばせたはずだ!」
「なんでって…。アナタ達をあのまま放っておけるわけないじゃん…」
「その通りです。そこに感謝こそすれ、責めるのはお門違いですよ」
「まあ! この様な高位の天使様に向かって何たる無礼な口の利き方! 不敬ですよ!」
憤怒の形相でミカに詰め寄る力也。法二がフォローを入れ、法衣の女性は力也に対し非難の声を上げるが、力也の怒りは収まりそうにない。
「あめえっ! てめえら全員甘すぎる!! くそっ、俺に力が…もっと、もっともっと力があれば…っ! おいミカ! お前は一体どうやってそんな力を手に入れたんだ!?」
「ど、どうやって…? さ、さあ…この力は生まれつきだし…」
「う、生まれつき…。やっぱ人間は悪魔に勝てねぇってのか…? いや、そんな訳ねぇ! 考えろ俺! 何か、何かある筈だ! 悪魔に勝てる方法! 悪魔に…! 悪魔……に……」
半狂乱状態に陥りながら頭を抱えて怒鳴る力也。だったのだが、不意にその声量がだんだんと収まって来る。
「―――そうだ、そうだよ…。なんでこんな簡単な事に気づかなかったんだ? あるじゃねえか、悪魔に勝つ方法が…はは、ははっはははは…!」
そして今度は不気味に笑い始める力也。瞳孔が開ききったその笑みは非常に不気味で、ミカを含む周りの者達も一歩後ずさるほどだ。
「おい中道。一緒に来い」
次の瞬間、唐突に冷静に中道に声を掛ける力也。「何をするつもりだ?」と聞く中道に、力也は表情を変えずに口を開いた。
「お前の仲魔を一体寄越せ。俺はそいつと合体する」
「なっ!?」「何ですって!?」「が、合体…?」
平然と言い放ったその言葉に、法二と法衣の女性が驚愕の声を上げる。ただ、ミカは力也の意図を掴めずに困惑している。
「本気で言っているのか…?」
「当然だ! 悪魔に勝つために悪魔の力を手に入れる! 簡単な事だ!」
さすがの中道も訝し気にしているが、力也の返答に迷いは無い。
「お、おやめなさい! その様な愚かな行為に救いはありません!! 自身の道を閉ざしてまで力を求めて一体何になると…」
「話は聞かせてもらったぞ!!」
そんな力也を懸命に説得しようとする法衣の女性だったが、ここで新たな声が割って入る。全員が声の方を振り向くと、何やらエキゾチックな服装に身を包んだ威厳のある男性が立っているではないか。
「ふっふっふ…。悪魔と合体し力を手に入れる…か。良いぞ、貴様、なかなか良い!」
「あ、貴方はガイア教の…!? 何故ここにいるのです!? 立ち入りを許可した覚えはありませんよ!! 即刻立ち去りなさい!!」
上機嫌に力也を見定めている威厳のある男性に、法衣の女性が敵意をむき出しにして威嚇する。その言葉から察するに、威厳のある男性はシンジュクに居を構えるガイア教の高僧の様だ。
「なに、オザワに戦いを仕掛けた高位の天使がここの教会に逃げ込んだと聞いて、天使の割に調和を乱す変な奴だと気になって見に来たのだ。しかし、これは思わぬ原石を見つけてしまった様だ。おい小僧!」
法衣の女性の威嚇に、しかし威厳のある男性は全く意に介さずに力也に呼び掛ける。
「悪魔との合体…もし本気ならば我自らが邪教の館の主に掛け合ってやろう。あやつとは個人的に交流があってな。我の頼みとあらば、断りはしまい」
「ほ、本当か!? ありがてえ…よし、直ぐに行くぞ中道!!」
「ちょ、ま、待て力也!」
威厳のある男性の提案にあっさり乗り、中道の手を引っ張って行こうとする力也。止めようとする中道にもお構いなしだ。
「ま、待ちなさい! 繰り言になりますが、力のみを求めたその先に道はありません! それでも良いと、貴方は言うのですか!?」
「道がないというのなら、新たに得た力で切り開けば良いだけの事。下らん…実に下らんな」
尚も力也を止めようとする法衣の女性に、しかし威厳のある男性はバッサリと切り捨てるのだった。
威厳のある男性について行く力也と、その力也に無理やり連れていかれた中道。この三人を、法二とミカも慌てて追いかけたのだが、件の邪教の館という場所に二人が着いたときには、既に合体の準備が終わってしまっていた。
「な……なに、これ…?」
不気味な容器の中に目をつむって入っている力也。その隣には同じ容器に悪魔と思しき生物が収まっている。その、とにかく背徳的な光景に、ミカも絶句するしかない。
「では、合体を始めるぞ」
そう言って、全身をローブで包んだ人物…恐らく彼がこの館の主なのだろう…が腕を上げる。すると、力也の入っている方の容器が液体で満たされた直後、まるで溶けたかのように力也の体が液体ごと消えてしまったのだ!
そして、今度は悪魔の方を液体が包み、こちらも液体ごと溶けて消える。直後、この二つの容器にコードで繋がっていた、魔法陣が刻まれた台座が点滅と脈動をはじめ、赤黒く禍々しい光で周囲を包んだ後、その台座の上に一人の男が立っていた。
「―――遂に………遂に力を手に入れた…! 悪魔の…俺の力だ! もう誰にも負けねぇ…タケミナカタにも…オザワにも…そして、ミカ! てめえにもだ!!」
その男が、ミカを見下しながら名指しして叫ぶ。禍々しく輝く二つの灼眼に、悪魔を思わせる
「素晴らしい…実に素晴らしいぞ! おい主! この所業は他の人間でも可能か?」
「残念じゃが、普通は不可能じゃ。今回成功したのは、悪魔との合体という行為においてなお、消す事が出来なかったあくなき力への渇望が、奴の意思をとどめたにすぎん」
一方、満足げに館の主に問いかける威厳のある男性だが、これを館の主は淡々と否定する。
「ああ…。力也君…何という事を…。君は本当に…何という事を…!」
そして、変わり果てた力也の姿に法二は悲し気に膝をつく。中道も、口こそ開かねど戦慄した様子で力也を見ている。ミカについても戦慄の色は見えるが、どちらかと言うと困惑の色が強い。そもそもとして、合体という概念が理解できていない様子だ。
「さあ…もう一度、オザワの所に行こうぜ。今度こそ最後だ。奴を…ぶっ殺す」
そんな様々な周囲の思惑を他所に、台座から降り立った力也は再びオザワの事務所に向かって歩き出した。