真・女神転生 聖園ミカの終末世界紀行   作:塞翁が馬

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開放されたシンジュク

 オザワが倒されたという情報は瞬く間にシンジュク全体にいきわたる。長く苦しいオザワの支配から遂に解放されたその喜びの声はすさまじく、ミカが初めてシンジュクを訪れた時とはまるで別の場所の様な活気と喧騒に包まれていた。

 

 その第一功労者であるミカは、シンジュクで一番広い酒場に呼ばれ、町の人から感謝の言葉を投げかけられていた。

 

「ありがとうございます天使様!」「貴女様のおかげで俺達は救われました!」「ああ、こんな世界にゃ夢も希望もねえと思ってたけど…」「ああ! やっぱり神様は俺達を見捨ててなんかいなかったんだ!」「おお…ありがたやありがたや…神様、天使様、ありがたや…」

 

 次々に飛んでくる感謝の気持ち。その熱量に、流石のミカも少し気圧されてしまうのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ~~っ…。疲れたぁ…」

 

 人々にもみくちゃにされ、言葉通りにフラフラと酒場のある席に向かうミカ。その席には中道、法二、メシア教会の法衣の女性と、ガイア神殿の威厳のある男性、そしてスティーヴンの五人が座っていた。

 

「お疲れ」

 

「お疲れ様です、ミカエル様」

 

「ああ、この目でミカエル様の御姿を見られるなんて…」

 

「この小娘がミカエル…? ふーむ…」

 

「お疲れ様。すっかりこの町のヒーローだね。いや、この場合はヒロインかな?」

 

 中道、法二、法衣の女性、威厳のある男性、スティーヴンの順番でミカに声がかかる。が、その内の法二、法衣の女性、威厳のある男性の三人にミカは億劫そうな眼差しを向けた。

 

「ねえ、その名前で呼ぶの止めてくれない? わたしには聖園ミカって言うちゃんとした名前があるの」

 

「む…し、しかしそういう訳には…」

 

 嫌悪感すら感じるミカの言葉に、法二が何かを言おうとするが、これを法衣の女性が手で遮る。

 

「承知いたしました。それでは、聖園ミカ…ミカ様とお呼びいたしますが宜しいですか?」

 

 両手を合わせながら笑顔でミカに問う法衣の女性。対して、どこか胡散臭そうに法衣の女性を見ながらも「いいけど…」と一応は肯定の意を見せるミカ。

 

 まあ、頬は紅潮し瞳孔は開ききっているその法衣の女性の表情を見れば、聖園ミカではなくミカエルとして見られているのは一目瞭然なので、このミカの反応も当然ともいえる。

 

「貴方も…この方は聖園ミカ様です。よろしいですね?」

 

 次いで、法二の方に振り向き確認を取る法衣の女性。が、笑顔こそ変わっていないがミカに向けた物とは違う有無を言わさぬ迫力の表情に、法二も「はい…」と答えるしかない。

 

「ところでミカさん。どうやら気分がすぐれない様だけど、大丈夫かい?」

 

 そんな中、スティーヴンからミカに声がかかる。確かに、ミカの表情には何やら翳りがある。

 

「う、うん…その…。人が二人も死んだのに、こんなに盛り上がるなんてやっぱり何かおかしいって思って…」

 

 そのスティーヴンの言葉に、ミカは心中を素直に吐露する。そう、死んだのはオザワだけではない。私設警察の長官という男…初めてシンジュクに来た時に、スティーヴンに命令していたあの男だ…も、殺害されていたのだ。その場には置手紙があり、その内容から力也がやったのは確定している。

 

「いなくなってこんなに喜ばれるなんて、それだけ酷い事をあの二人はしてきたんだろうけど、それでも…やっぱりどこか引っかかって…」

 

「ああ、あのような極悪人達にまで気にかけられるなんて、ミカ様はなんと深く広い器の持ち主なのでしょう。ですが、これも因果応報というもの。彼らは罰せられるべくして罰せられたのです」

 

 悲しげに語るミカに、諭すように語り掛ける法衣の女性。

 

「この弱肉強食の世に、その様な下らぬことを気にする余裕があるか…面白い」

 

 一方、威厳のある男性は一つ頷いた後、おもむろに懐から一振りの剣を取り出し机の上に置いた。

 

「これは、この地シンジュクにガイア神殿を建てる際に見つかった物。その名も”あめのむらくも”…古の文献(ぶんけん)にて、業物(わざもの)と評された逸品よ。受け取れ」

 

 そう言って、ミカに剣…あめのむらくもを差し出す威厳のある男性。その突飛な行動に訝し気にしながらも、おずおずと剣を手に取るミカ。少し古めかしく切れ味も悪そうだが、業物と言うだけありなにやら剣自体から気品が漂ってくる。

 

「うーん…。くれるというなら悪い気はしないけど、今はアンティークを集める気分じゃないかな…」

 

「はっはっは! 素直な奴だ! が、話は最後まで聞いた方がいいぞ」

 

 申しわけなさそうに剣を返そうとするミカだが、どうやら威厳のある男性の話はまだ終わっていない様だ。

 

「その剣はかつて最強と謳われた剣の片割れでな。文献によると、なんとその最強の剣は人間の力でかのルシファー様をも切り裂いたというではないか! そして、そのもう片方は品川のどこかに眠っているという。ガイア教徒の我ではあそこには行けぬが、天使の貴様であれば易々と辿り着けよう」

 

「何故、ガイア教徒の貴方がミカ様に肩入れを? 何が目的です?」

 

 何やら上機嫌に剣について語る威厳のある男性。そんな彼に、法衣の女性は懐疑的な視線を送る。

 

「強き力を見たい。ただただそれだけ…我の目的はそれだけよ。ガイア教に入信したのもそれが目的。かつては自身で追い求めていたが、それも限界を感じてな。力が見れるなら、悪魔でも天使でも構わん」

 

「己の欲望の為だけに、ガイア教の崇めるルシファーすら貶めると? 何と身勝手な…」

 

「勘違いするな。神を崇める貴様らメシア教と違い、我らガイア教が信ずるは力のみ。例えルシファー様と言えど、敗北を喫すれば我のみならず、ガイアの者どもの大半から見限られよう。そして、それを成したのがそこの小娘と言うならば、我はすぐにでもその小娘を崇める新生ガイア教を建ててやろう」

 

「愚かな…。高位の天使であるミカ様は法と秩序を重んじている筈。その欠片もないガイアの者どもなど、どうして受け入れましょう」

 

「既に堕天しているとも聞いているぞ。そして、先ほどの他の死に思考を巡らせられる余裕。そう、この命が紙より軽い時代に、死を目前にして尚、他の者ばかりで”自身が死ぬ”という可能性に一切気が向かぬ当たり、よほど自身の持つ力に自信があると見える。この高慢なまでの自信はどちらかと言えばガイア寄りだな」

 

「黙りなさい! ミカ様の慈悲の心を冒涜するのは許しませんよ!」

 

 言い争う法衣の女性と威厳のある男性だが、語気がだんだん強くなりヒートアップしていく。

 

「ふ、二人とも落ち着いて! 喧嘩は良くない、良くないよ!」

 

 これはいけない! と、感じだのか思わずミカは止めに入ってしまう。すると、法衣の女性は「ミカ様がそう仰るなら」ととどまり、威厳のある男性も「ふむ…」とミカの顔を見た後、とどまってくれる。

 

「言い合いは終わったかい? なら、次はミカさんの持つ悪魔召喚プログラムについて話したいのだが…」

 

 そこに間髪入れずにスティーヴンが入ってくる。ミカからすれば喉から手が出るほどに欲しい情報なので、すぐさま「お願い!」と食いついてしまう。

 

「よし。まずは最終目的地だが……ここ、ここだ。旧警視庁ビル。伝え聞く話によると、ここの警備ロボットは今でも自律的に動いているそうだ。当然、それを制御する機械も動力を支える機材も豊富にある筈。ここを占拠し、これらの機材を研究用に作り替える。そうすれば、研究所の代替えとしては十分だろう」

 

 机に地図を広げ、目的地を指差しながら説明するスティーヴン。それを、ミカは何度も相槌を打ちながら真剣な表情で聞いている。

 

「そしてこの旧警視庁ビルへの経路だが、今の時点では六本木を経由して銀座地下道から直接ビルへ、もしくは一旦銀座の外に出て、正門から改めて侵入するかの二択だ。ただ…」

 

「ただ…?」

 

 つらつらと説明していたスティーヴンだが、ここで少し表情を曇らせる。その様子に、ミカも何やら嫌な予感を隠せない。

 

「この六本木なのだが…。今は謎の結界が張られているらしく、その結界が邪魔をして銀座地下道への道が閉ざされてしまっているそうなのだ。ここは今、悪魔も宗教争いもない天国と言われているそうだが、同じくそう言われていた新宿がオザワの支配の上で成り立っていたことを鑑みるに、ここもかなりきな臭い。結界の解除には間違いなく一悶着はあるだろうね」

 

 難しい顔で語るスティーヴン。オザワの支配していたシンジュクと似たような場所…つまり、最低でもあのタケミナカタレベルの強者が君臨している可能性が高いという事か。いや、下手をしたらもっともっと手ごわい悪魔がいる可能性も…。

 

「それでも、行かないと! 行って結界を解除してもらわないとそのきゅうけーしちょービル? とかいう所に行けないんでしょ? じゃあ、行ってみるしかないね」

 

 しかし、ミカに迷いはなさそうだ。それ程までに早く…一刻も早く元の世界に帰りたいのだろう。

 

「分かった。ただ、私はオザワの残した悪魔召喚プログラムの後始末をしなければならない。放置するには流石に危険すぎるからね。なので、君は先に行ってまず六本木の現状を確認して欲しい。あと、中道君達にも同行してもらいたまえ。君はまだこの世界に疎そうだ。彼らと一緒なら、色々と都合が良かろう」

 

「そうだね、そうする。というわけでナカミチ、一緒に来て欲しい………ナカミチ?」

 

 話に一区切りつけて中道に振り返るミカ。が、なにやら中道は頭を押さえて辛そうにしているではないか。

 

「ああ、ミカ様。どうも中道君は定期的に謎の発作を発症してしまうようで…」

 

 そんな中道の背をさすりながら、法二が悲しそうに語る。

 

「ほ、発作!? え、ま、まさか……し、死んじゃったりなんか…しないよね?」

 

 慌てて中道に駆け寄り、青ざめた様子で中道の背中に手を置くミカ。

 

「いえ、そこまで酷い物ではありません。少し安静にしていたら治まる様です」

 

「そ、そうなの…? ならいいんだけど…」

 

 法二の説明を聞き、それでも心配そうに中道を見つめるミカ。やはり、目の前での人の死はミカの心に暗い影を落としている様だ。

 

「おっと…。俺をあの絶望の牢の中から出してくれたっていう、噂の天使様を見に来たんだが…。こいつはもしかして早速天使様のお役に立てるかもしれねえな」

 

 そんなミカに不意にかかる声。振り返ると、何やら小汚い恰好の男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。




 次回から、シブヤ編に入ろうと思います。そしてヒロインなのですが…最初はちょっとミカに当たりがキツイと思われます。まあ、転生までして追いかけた男の傍に変な女がうろついてたら、そりゃいい顔はしないですよね…。
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