先生=アクマ使い?
翌日…中道、法二、そしてミカの三人はシンジュクを発った。目的地はロッポンギ…ではなく、シブヤと呼ばれている場所だ。
先日の酒場で会った小汚い男…彼は自身をサイコダイバーと名乗っていた。他人の精神に入り込む技術を持ち、それをオザワの洗脳に利用されていたそうだ。
その彼が、中道の発作の原因をSOSだと教えてくれたのだ。どうやら、誰かが定期的に中道に助けて欲しいという念波を送っているそうだ。
最初は誰がそんな事をしているのか分からなかったが、酒場で情報収集をしているとそれらしいものが聞けたのだ。何でも、シブヤという所にメシアと呼ばれる少女がいたが、その少女が今は昏睡状態に陥っているとの事。
更に、その少女の名前は
「愛子!? 愛子だって!?」
「同じだ…三十年前、僕達に力を貸してくれたレジスタンスのリーダーの名前と…」
その情報に驚愕の声を上げる中道。法二も、驚き動揺している様子。どうやら、二人して共通の同姓同名の知人がいる様子。
ただ、残念ながらその知人ではない事は確定している。三十年前の人物と言う事もあるが、その時の大破壊から中道を逃す為、自ら犠牲になったそうなのだ。
では、今シブヤにいる”三流愛子”は何者なのか? それを確認するためにシブヤに向かう事に決まったのだ。
無論、ミカとしてはそんな寄り道などせずにロッポンギに行きたくはあった。しかし、スティーヴンは例のオザワの悪魔召喚プログラムの後始末の為、しばらくシンジュクから動けない。
それに、中道や法二には途方に暮れていたところを拾ってもらった恩もあるし、これからもお世話になりそうだ。なら、その恩返しも兼ねて、手伝う事に決めたのだ。
「よし、契約成立だ」
そう言って、中道は右腕の機械を前に突き出す。すると、今まで交渉していた悪魔が機械の中に吸い込まれるように消えてしまった。
「すっご…。普段とは別人みたいに口がまわるまわる…」
その交渉の光景を見ていたミカが、口に手を当てて感嘆の声を上げる。が、それも無理はない。
唐突に現れた悪魔にやはり唐突に交渉を持ち掛けたと思ったら、普段の無口っぷりからは想像もできない程の口の軽さで宥め、おだて、ほめそやし、説得に持ち込み、最初はそんな素振り一切見せていなかったにもかかわらず、最終的には交渉成立させ仲魔とやらにしてしまったのだ。
「ええ、本当に…。大破壊前も凄かったですが、さらに磨きがかかっていますね…」
その横では、法二も何やら感心した様子で中道を見ている。それなりに付き合いの長そうな法二ですらほれぼれしている様子だ。
「でも、あの悪魔なんだったんだろう? スティーヴンにスマホ預けちゃったから調べられないな…」
そうしながらも、少し不服そうに口をとがらせるミカ。そう、ミカのスマホは現在スティーヴンに預けてしまっているのだ。何故なら、新たな問題が…それも、かなり重い問題が発覚したから。
そう、ミカのスマホは…充電が出来なかったのだ!
シンジュクに限らず、それなりに大きな町にはターミナルという施設がある。本来ならここで必要な電力を充電するのだが、ミカのスマホはそれが出来ない。理由は簡単、接続端子が合わなかったから。
そして、今朝の時点でスマホはバッテリー切れの警告を発していた。このままではバッテリー切れでスマホそのものが動かなくなる。スマホが動かないのでは悪魔召喚プログラムも何もあったものではない。
幸いにして、シンジュクにはそういう方面に強い職人が何人かいた。彼らとスティーブンが力を合わせれば、急ごしらえながら専用の端子変換器は作れるそうだ。ただ、その為にスマホの充電口の端子の形状を確認したいからと、預ける事となったのだ。
「待たせたな。じゃあ、行こう」
機械を確認した後、ミカ達に振り返る中道。既に先ほどまでの饒舌さはなく、寡黙の雰囲気に戻っている。ビックリするほどの二面性だ。
「うわ、さっきまでのナカミチとはまるで別人みたい」
「交渉の事か? アクマ使いには必須のスキルだ。召喚した仲魔に前線に立って貰い、自身は後方支援に徹する。当然この戦法は、前線に立って貰う悪魔がいないと話にならないからな。口下手はアクマ使いにはなれん」
無表情のまま説明する中道だが、そんな自身をミカが興味深そうに見つめている事に気づいた。
「なんだ?」
「んー…。いや、やっぱ先生に似てるなーと思って…」
訝し気に聞く中道にミカは中道を見つめ続けながら口を開く。
「先生?」
「そ、先生! 先生もお話でいろんな子を味方にしてたけどホント凄いんだよ! なんたって、自分の命を狙ってた子達すらお話で味方にしちゃったもんね!」
何やら自慢げに話すミカだが、何故かその話を聞いた中道は冷汗をかいている。
「因みにだが…。その味方になった子達にミカに匹敵する強者はいるのか?」
「む! 一番強いのは勿論私だよ! …でも、そうだね。トリニティやゲヘナやミレニアムの有名な子達は大体先生を慕ってるよ。中には私に迫る強さの子も…何人かはいるかな」
少し怒り顔になって最強を宣言した後、中道の質問に答えるミカ。
「ミカレベルの子を何人も従えているアクマ使いか…。できれば事を構えたくはないな…」
「先生…という事は、ミカ様に教えを示している…という事か? ミカ様にそんな事が出来るのは僕の知識では一人しかいないのだけど、まさか…?」
その答えに、中道は笑みを浮かべながらも一層冷や汗を濃くしている。一方、法二も何やら想像しているらしく、表情が凍り付いていた。
そうして、なんとかシブヤに到着した三人。途中、何度も悪魔の襲撃にあったものの、時に中道が交渉を仕掛け、ときにミカが追い払い、無事に到着できたのだ。
さて、そのシブヤだが、やはりそこまでの活気はない。メシア教会やガイア神殿がないので宗教争いこそないが、街中に悪魔が入り込んでいるため治安はかなり悪い。それを憂いてかメシア教徒が教会を建てようとしているが、資金が足りず寄付を募り、しかしその寄付が全く集っていないという有様だ。
そんな中で三人がまず目指したのがターミナルのある場所だ。このターミナルを中道の右腕の機械とつなげる事で、以前に行ったことのある町のターミナルに転送できるようになる機能があるらしい。つまり、これでいつでも直ぐにシンジュクに戻れるという事だ。
「へー…。スマホもない遅れてる世界だと思ったけど、こういうハイテクな所もあるんだね」
ターミナルの説明を聞いたミカは素直に感心している。
まあ、とりあえずこれで最低限の準備は整った。という訳で、改めて三人は三流愛子についての情報を探すためにシブヤの探索を始めるのだった。