個性『天の聖杯』!!??   作:マガラナイ

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入試にて

 

 

 数ヶ月に及ぶじっちゃんとの地獄の特訓、そしてホムラとの『キズナ』を深める(主に俺の理性が試される)日々を経て。

 俺たちはいよいよ、雄英高校ヒーロー科の入試本番を迎えていた。

 

「すごいですね玲空! これが雄英高校……建物が大きすぎて、先が見えません!」

 

「ああ。いよいよだな、ホムラ」

 

 

 

 

 そして、筆記試験とプレゼント・マイクによるオリエンテーションを終え、俺たちは実技試験の会場である仮想市街地──演習場Bのゲート前に立っていた。

 周りの受験生たちは緊張した面持ちで、それぞれの個性を確認したりストレッチをしたりしている。だが、彼らの視線はチラチラと、いや、かなり露骨に俺の隣へと向けられていた。

 

「おい、見ろよあいつ。すげえ美少女連れてるぞ……」

「っていうか、あの赤い服……露出ヤバくね!? 胸元とか太ももとか!」

「あれも個性の一部なのか!? だとしたら羨ましすぎるだろ……!」

 

「……なあホムラ。やっぱりお前のその格好、かなり目立ってるぞ。せめて上着を羽織るとか、普通のジャージとかに着替えられないのか?」

 

 周囲の痛いほどの視線を浴びながら小声で尋ねると、ホムラは自身の赤い衣装を見下ろし、不思議そうに小首を傾げた。

 

「普通のお洋服に着替えること自体はできますよ? でも、この服は、私の能力の一部でもあるんです。エーテルの循環に最適化されているので、別の服を着ると上手く力が回らなくなって、玲空への出力がガクッと落ちてしまいます」

 

「えっ、そうなのか!? じゃあ、いざって時に戦うためには、絶対その格好じゃないとダメってことか……」

 

「はい。それに……」

 

 ホムラはにっこりと、悪気のかけらもない聖母のような笑顔を浮かべた。

 

「私自身、玲空と繋がった時に生まれたこの服が一番落ち着くんです。風通しも良くて動きやすいですし……玲空は、嫌ですか?」

 

「嫌じゃない! 嫌じゃないけど、目のやり場に困るっていうか……っ」

 

 小首を傾げて覗き込んでくるホムラの、圧倒的なプロポーションが視界を埋める。周囲の男子受験生たちから、ギリリッと歯ぎしりするような明確な殺意が飛んできた気がした。

 

『START!!!』

 

 突如、プレゼント・マイクの絶叫が響き渡る。

 他の受験生が一瞬ポカンとする中、じっちゃんの実戦訓練で不意打ちに慣れきっていた俺は、誰よりも早く地を蹴っていた。

 

「行くぞホムラ!」

 

「はい!」

 

 俺の疾走に合わせ、ホムラが並走する。俺と彼女の間に淡い青色の光の帯──『キズナ』が繋がり、エーテルが供給される。

 胸のコアクリスタルから『聖杯の剣』を引き抜くと同時に、最初の標的である2Pヴィラン(ロボット)が路地から飛び出してきた。

 

「ターゲット、捕捉」

 

「遅いっ!」

 

 エーテルの炎を纏わせた剣で一閃。

 鋼鉄の装甲をバターのように溶かし斬り、ロボットは爆発四散した。

 

「玲空、その調子です!」

 

「おう! どんどん行くぞ!」

 

 そこからは無双状態だった。

 じっちゃん仕込みの体術と、エーテルによる身体強化により、ロボットの攻撃を軽々と躱し、仮想ヴィランをスクラップに変えていく。

 周囲の受験生が「なんだあいつら!?」と驚愕の声を上げているのが聞こえたが、立ち止まる余裕はない。

 試験終了まで残り数分というアナウンスが流れた、その時。

 

 ──突如、地面が激しく揺れ、ビル群の奥から天を突くような巨大な影が姿を現した。

 0Pヴィラン。

 倒してもポイントにならない、ただのお邪魔虫。だが、そのサイズは優にビルを超えており、圧倒的な質量で市街地を破壊しながら突き進んでくる。

 

「はぁ!? 普通に危険すぎるだろ!」

 

 パニックになった受験生たちが一斉に出口へと逃げ出す。

 俺もホムラを連れて退避しようとした、その瞬間。

 

「ちょっ……!」

 

 瓦礫が崩れ落ちた道の真ん中で、一人の少女が逃げ遅れていた。

 ショートボブの髪に、耳たぶからイヤホンジャックのようなものが伸びている女の子だ。彼女の足元には崩れたコンクリートの破片が散乱し、足を挟まれたのか、立ち上がれずにいる。

 そして、彼女の頭上には、0Pヴィランの巨大なキャタピラが容赦なく迫っていた。

 

「……ッ!!」

 

 考えるより先に、身体が動いていた。

 

「合わせろ、ホムラッ!!」

 

「はい、玲空!」

 

 俺の意図を瞬時に察したホムラが、俺の背中にぴったりと張り付くように密着する。

 

 ドクンッ!! 

 俺たちのキズナが最高潮に達し、二人を繋ぐ光の帯が、青から『黄金色』へと輝きを変えた。

 

「「──『バーニング』……ッ!!」」

 

 俺とホムラは、巨大な炎の剣を共に握り締め、大きく天へと振りかぶった。

 刀身から吹き上がる炎が、渦を巻いて数十メートルの巨大な火柱へと成長する。周囲の空気が一瞬で乾燥し、爆発的なエーテルエネルギーが臨界点に達した。

 

「「──『ソーーーード』ッ!!!」」

 

 振り下ろされた黄金と紅の斬撃。

 それは、ビルよりも巨大な0Pヴィランの装甲を正面から叩き割り、その巨体を真っ二つに両断した。

 

 そのまま、大爆発と共に、0Pヴィランが崩れ落ちる。

 吹き荒れる爆風と熱波の中、俺は剣を消散させ、瓦礫の横でへたり込んでいるイヤホンジャックの少女のもとへ向かった。

 

「君、大丈夫か!? 怪我はない?」

 

 俺は彼女の前にしゃがみ込み、じっちゃんに言われた「ヒーローはいつでも安心させる笑顔を忘れるな」という教えを思い出しながら、手を差し伸べた。

 

「すっご。何、今の……」

 

 少女は、目の前で起きた規格外の破壊劇と、差し出された俺の手に、完全に呆気を取られていた。

 大きな瞳を瞬かせ、俺の顔と、背後で優しく微笑んでいるホムラを交互に見る。

 

『そこまでぇぇぇぇ!! 実技試験、終了ぉぉ!!』

 

 その直後、プレゼント・マイクの終了を告げる声が会場に響き渡る。

 俺は差し出した手をそのまま彼女に握らせ、ゆっくりと引っ張り上げた。

 

「俺は西里玲空。こっちは俺の『個性』のホムラ。……立てるか?」

 

「あ、ありがと……。ウチは、耳郎響香……っ、痛っ!」

 

 立ち上がろうとした耳郎さんだったが、瓦礫に挟まれていた右足に力が入らず、ふらりとバランスを崩す。

 

「おっと! 大丈夫か?」

 

 俺は咄嗟に彼女の肩を抱き寄せ、倒れないように支えた。

 

「っ……! だ、大丈夫! ちょっと捻っただけだから……って、近っ!」

 

 至近距離で俺に支えられ、耳郎さんはバッと顔を真っ赤にして視線を逸らした。

 

「無理はいけませんよ。少し見せてくださいね」

 

 そこにホムラが心配そうに身を乗り出してきた。

 屈み込んだホムラの、あの重力に逆らう暴力的な胸元が、耳郎の顔のすぐ近くまで迫る。

 

「ひゃっ!? っていうか、なんなのその服!? 胸元やばっ!? え、これ本当に個性!?」

 

 情報量の多さに、耳郎さんが完全にパニックを起こしてしまった。

 同性から見ても、ホムラのそのスタイルと露出度は刺激が強すぎたらしい。

 

「あー……ごめん。色々と情報量多いよな。俺も最初はそうだったから、気持ちはすげえ分かる」

 

「えっと、ただ心配しただけなんですけど……ごめんなさい」

 

「あ、いや……助けてもらったのに、変なこと言ってごめん。その……マジで、ありがと。あんたたちがいなかったら、潰されてた」

 

 耳郎さんはイヤホンジャックの先端を指に絡めながら、少し照れくさそうに、けれど真っ直ぐに俺の目を見てお礼を言ってくれた。

 まあ、入試で本当に潰されるってことは流石にないと思うけど(……ないよな?)。

 

「怪我した女の子を放っておくわけにはいかないだろ?」

 

 俺はじっちゃんに言われた「ヒーローはいつでも安心させる笑顔を忘れるな」という教えを思い出しながら、笑いかけた。

 

「ほら、救護テントまで肩貸すよ。ホムラ、反対側頼めるか?」

 

「はい、玲空。耳郎さん、ゆっくり歩きましょうね」

 

「……ん。お願い……西里、くん。ホムラ、さん」

 

 俺とホムラに両脇を支えられながら、耳郎さんはどこか居心地が悪そうに、それでも少し嬉しそうに頷いた。

 

 

 ***

 

 

 試験終了後の雄英高校モニタールーム。暗い部屋の中に無数に並んだスクリーンの一つ──0Pヴィランが真っ二つに両断され、炎上する映像を前に、雄英の教師陣は静まり返っていた。

 

「……信じられない破壊力ね。0Pヴィランを一撃で溶断するなんて。エンデヴァーの『ヘルフレイム』にも匹敵する火力じゃないかしら」

 

 沈黙を破ったのは、18禁ヒーロー・ミッドナイトだった。彼女の視線の先には、瓦礫の中で耳郎を助け起こす玲空と、その背後で微笑むホムラの姿が映し出されている。

 

「西里玲空……。出願書類の個性欄に記載されているのは『天の聖杯』、常時顕現型の意思を持つ個性とあるが……」

 

 ブラドキングが手元の資料に目を落とし、眉をひそめた。

 

「凄いのは火力だけじゃないさ!」

 

 モニタールームの特等席で、淹れたての紅茶を啜りながら明るい声を上げたのは、小動物のような姿をした雄英高校校長──根津だった。

 

「彼の基礎身体能力を見てよ。炎の力の発動なしでも、並の身体強化系個性を凌駕する動きを見せている。おそらく、身体強化も同時に行い、更に彼は幼い頃から相当な武術の訓練を積んできてるんだろうね。だけど……」

 

「──『分断』されると、極端に弱体化する」

 

 暗がりの中から、気怠げな声が響いた。

 ぼさぼさの黒髪に、首に捕縛布を巻いた男──イレイザーヘッド(相澤消太)だ。彼は鋭い目でモニターを睨みつけていた。

 

「あの赤い服の女と西里を繋ぐ、光の帯。あれが切れる、あるいは距離が離れると、西里自身の動きが明らかに鈍り、剣の出力が落ちている。強大すぎるが故の、分かりやすい弱点(デメリット)だ」

 

「いやはや相澤くん、君の言う通り、彼らには明確な弱点がある! しかし、だからこそ素晴らしいのさ!」

 

 根津校長は嬉しそうに尻尾を揺らし、熱弁を振るい始めた。

 

「自らの弱点──分断されるリスクを承知の上で、逃げ遅れた他者を救うために、あの巨大な敵の前に迷わず飛び出す自己犠牲の精神! これぞ正しく、我々が求めているヒーローの資質!」

 

「それにしても、あの個性……どこかで聞いたことがあると思ったら、思い出したぞ」

 

 教師の一人、スナイプが思い出したように声を上げた。

 

「数ヶ月前、○○市で起きたヴィラン襲撃事件だ。ある男子中学生が、下校中の女子中学生を庇って、一度重傷を負う。しかしその後、少年は鋼鉄の皮膚を持つヴィランを爆炎の剣で黒焦げにしたという報告があったはずだ。たしか、それが個性の『発現』だったとかで、正当防衛として処理されていたが……」

 

「その通りさ!」

 

 根津校長が頷き、モニターの玲空の顔を大写しにした。

 

「彼は数ヶ月前まで『無個性』だった。けれど、死の淵で発現した、規格外の力……普通なら、突然得た強大な力に振り回されてしまう。しかし彼は、無個性時代から決して夢を諦めず、たゆまぬ鍛錬で自らを磨き続けていた! だからこそ、あの巨大な力をヒーローとして正しく振るうことができるのさ!」

 

 相澤は黙ってその様子を見つめていたが、やがて小さく息を吐き、手元の資料──『西里玲空』の顔写真に目を落とした。

 

(……力に振り回されているわけではないようだが、あの『光の帯』の弱点……俺のクラスに来るなら、徹底的にしごく必要があるな)

 

 

 ***

 

 

 そんな大人たちの評価が下されていることなど露知らず。

 実技試験を終えた俺は、耳郎さんを救護テントのリカバリーガールのもとへ送り届けた後、ホムラと共に帰り道を歩いていた。

 

「お疲れ様でした、玲空。かっこよかったですよ」

 

「お前が力を貸してくれたおかげだろ。サンキューな、ホムラ」

 

 ホムラが労うように俺の汗をハンカチで拭ってくれる。相変わらず距離が近くてドキドキするが、今日ばかりは素直に甘えておくことにした。

 

「ホムラは、怪我してない?」

 

「……え。私、ですか? 大丈夫ですよ。どこも怪我していません」

 

「そっか。なら、良いんだけど」

 

「……玲空、ありがとうございます。今日の夕飯は、玲空の好きなものを作りますね」

 

「おっ、マジで!? ホムラの手料理、じっちゃんも絶賛するくらい美味いからなぁ。じゃあ、ハンバーグがいい!」

 

「ふふっ、分かりました。腕によりをかけて作りますね」

 

 夕日に照らされながら、ホムラが嬉しそうに微笑む。

 その笑顔を見ると、試験の疲労も吹き飛ぶような気がした。

 

 

 

 だが、この時の俺はまだ知る由もなかった。

 この先。俺の『エッチすぎる美少女の個性』が、新たなクラスの仲間達(主にぶどう頭と金髪アホ毛)から凄まじい嫉妬と殺意を買うことになろうとは。

 

 

***

 

 

個性『天の聖杯』

 

意思を持つ少女を顕現させ、強大な炎の剣で共に戦う!

お互いのダメージは共有され、離れすぎると力が落ちる!

 

 

 

 

 

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