個性『天の聖杯』!!??   作:マガラナイ

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戦闘訓練

 

 放課後の教室。

 上鳴の電撃が炸裂する直前、俺は『痛覚共有』の事実を叫んだ。

 

「痛いのも!! ダメージも半分こなの!! 戦闘でホムラが傷ついたら俺も同じ痛みを味わうし、逆も同じだ! それに、俺が傷ついて死んだらホムラも消えちゃうんだよ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、上鳴の動きと電撃がピタッと止まり、離れていた峰田も近づいてきた。

 

「痛覚、共有、だと……?」

 

「そう! 俺たちは感覚を共有してるから、『気持ちいいのも半分こ』ってのは、そういう感覚の繋がりをホムラが天然で言い間違えただけだ! だから、俺たちが戦うってことは、常に二人で痛みを分け合うってことなんだよ!」

 

 俺が息を荒くしながら説明すると、上鳴と峰田は顔を見合わせ、それからじわじわと目に涙をため始めた。

 

「つまり……お前が傷つく度に、ホムラちゃんみたいな超絶美少女が、痛い思いをしてるってことか……?」

 

「そ、そうだ……」

 

「それなのに俺たちは、ホムラちゃんを困らせるような真似を……!」

 

 峰田がガバッと床に伏せ、上鳴が天を仰いで涙を流す。

 

「分かったよ西里……。ホムラちゃんをこれ以上傷つけないために、今日だけはお前を許してやる……! その代わり、ホムラちゃんに指一本でも傷つけてみろ、オイラたちが承知しねえからな!!」

 

「そうだ! 漢の約束だ!」

 

「あ、ありがとう……?」

 

 ホムラを傷つけたくない(守りたい)という、妙な方向性のファン心理と同情によって、なんとか俺の命は救われたのだった。

 

 

 ***

 

 

 翌日の午後。

 ヒーロー基礎学の授業を知らせるチャイムが鳴り響いた直後、教室の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「私が……普通にドアから来た!!」

 

「おおっ、オールマイトだ!」

 

「すげえ……本当に先生やってるんだ」

 

 アメコミの画風そのままのNo.1ヒーロー、オールマイトの登場に、教室中の空気が一気に沸き立つ。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくるため、様々な訓練を行う科目だ! 早速、今日は戦闘訓練をするぞ!!」

 

 オールマイトがビシッと指を差すと、教室の壁がガラガラと開き、中から番号が振られたアタッシュケースがズラリと現れた。

 

「入学前に提出してもらった個性届と要望に合わせて作られた、君たちのコスチュームだ! 着替えたら、グラウンドβに集まるように!」

 

 

 

 

 

 

 薄暗いゲートのトンネルを抜け、太陽の光が差し込むグラウンドβへ。

 それぞれの個性を活かした色とりどりのコスチュームに身を包んだクラスメイトたちが集まる中、俺も自身のヒーロースーツに袖を通し、ホムラと共に歩み出た。

 

「とても似合ってますよ、玲空」

 

「そうか? お前と並んで戦うための『相棒』って感じを意識してみたんだ」

 

 俺のヒーロースーツは、機械工の作業着の様な衣装だ。鮮やかなコバルトブルーを基調としつつ、各所にあしらわれた金の歯車やリベットが、鈍く重厚な光を放っている。

 さらに、左腕のガントレットにはワイヤー射出機『アンカーショット』が内蔵されている。これは機動力を補うだけでなく、いざという時にホムラとの距離が離れすぎないように繋ぎ止めるための命綱でもあった。

 

「おっ、西里! 動きやすそうでいいデザインじゃねえか!」

 

「切島。そっちも男らしくてかっこいいな」

 

 上半身裸にギアを身につけた切島鋭児郎が、快活な笑みを浮かべて肩を叩いてきた。

 ちなみにホムラは、相変わらずの超絶ダイナマイトエロティカルな赤い衣装のままである。しかし、峰田と上鳴の二人は昨日の『痛覚共有』の件があるため、ホムラを遠巻きに見つめながら「俺(オイラ)たちの女神(ホムラちゃん)に傷をつけさせちゃいけねえ……!」と謎の使命感に燃え、涙ぐみながら拝んでいた。

 

「西里くーん! ホムラさんも!」

 

 声に振り返ると、宙に浮いた手袋とブーツがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。葉隠ちゃんだ。

 

「おお、葉隠ちゃん……って、えっ!?」

 

 俺は彼女の姿(?)を見て、思わず言葉を失った。

 

「えへへ、じゃーん! これが私のヒーローコスチューム! どうかな?」

 

「どうってお前、それッ……」

 

 手袋とブーツしかない。つまりそれ以外の部分は──。

 

「じ、実質全裸ってことか……!?」

 

 俺は慌てて視線を明後日の方向へと逸らした。いくら透明で見えないとはいえ、同い年の女の子が文字通り『一糸まとわぬ姿』で目の前に立っているという事実は、思春期の男子にとって刺激が強すぎる。

 

「ふーん。西里くん、見えないのに意識しちゃってるんだ……?」

 

 葉隠ちゃんはそう言って、わざとらしく俺の顔を覗き込んでくる。見えないはずなのに、至近距離に『いる』という気配と香りがして、俺は冷や汗が止まらなくなった。

 

「いや、頭では分かってるんだけど! 倫理観というか、男としての理性が……!」

 

「ふふっ。機能美に特化していて、とても素敵なコスチュームですね、葉隠さん。でも、お腹を冷やさないように気をつけてくださいね」

 

「うん! ありがと、ホムラさん!」

 

 ホムラが少しズレた感心をしている横で、葉隠ちゃんは俺のコスチュームをしげしげと見つめた。

 

「西里くんのコスチューム、シュッとしてて、すごくかっこいいね! 似合ってる!」

 

「お、おう。サンキュ……」

 

「……でも」

 

 葉隠ちゃんが、俺のスーツをジッと見つめる。

 

「この色……ホムラさんを意識してるよね?」

 

「あ、ああ。あえてホムラと対照的にしてる」

 

「むー……」

 

 見えないはずの葉隠ちゃんの頬が、ぷくっと膨れたのがはっきりと分かった。

 

「かっこいいけど……やっぱり、ちょっとズルい!」

 

「何がだ……」

 

 ズバッと言い放ち、少し拗ねたようにそっぽを向く葉隠ちゃん。

 先日の個性把握テストの時から続く彼女の謎の対抗心に、俺はどう対応していいか分からず、ただ誤魔化すように頭を掻くことしかできなかった。

 

 

 

 そして、授業が始まった。

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」

 

 フルアーマーのスーツを着た飯田の質問に、オールマイトは「いいや! 今回は一歩先の屋内対人戦闘訓練さ!」と答える。

 

 ルールはシンプル。

 二人一組のペアを作り、『ヴィラン組(核兵器の防衛)』と『ヒーロー組(核兵器の回収、もしくは敵の制圧)』に分かれて屋内での実戦形式の訓練を行うというものだ。

 オールマイトが用意した抽選箱から、次々とペアのアルファベットが引かれていく。

 

「おっしゃ、俺はBチームだ! 西里、よろしくな!」

 

「マジか、切島と同じか! お互い接近戦メインだし、よろしく頼むな」

 

「はい、切島さん。玲空共々、よろしくお願いしますね」

 

 ホムラがおしとやかに一礼すると、切島は「うおっ、なんか眩しい……! 漢として気が引き締まるぜ!」と拳を握りしめた。

 

 

 順調にチーム分けが決まっていく中。俺はふと冷たい殺気を感じて振り返った。

 

「……勘違いすんなよ、西里」

 

「そうそう。昨日の放課後は、ホムラちゃんへのダメージを考えて見逃しただけだ。お前のことは、一ッッッッミリも許してねえからな!!」

 

 壁際から怨み節を呟きながら睨みつけてきたのは、上鳴と峰田だった。

 

「もし訓練でオイラたちと当たったら、ホムラちゃんには絶対に傷一つつけねえように、お前だけピンポイントに『もぎもぎ』くっつけまくってやるからな……!」

 

「俺もだ! お前だけを確実に黒焦げにする精密射撃を極めてやる! ──って、そしたらホムラちゃんまで黒焦げにしちまうじゃねーか!?」

 

「お前ら、どんだけ俺に殺意向けてんだよ……」

 

 理不尽な怨念に俺が冷や汗を流していると、隣でホムラが「ふふっ、お二人とも玲空に負けないくらい元気ですね」と、全く状況を理解していない聖母の微笑みを浮かべていた。その笑顔を見た二人が再び「ぐはぁっ!」と胸を押さえて崩れ落ちたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 やがて、オールマイトの号令と共に第一試合が始まった。

 

 ヒーロー組は、緑谷出久と麗日お茶子。

 ヴィラン組は、爆豪勝己と飯田天哉。

 俺たちはモニター室から、建物内に設置された定点カメラの映像を通して彼らの戦いを見守ることになった。

 

『第一試合……START!!!』

 

 開始早々、画面越しでも伝わってくるほどの異常な緊張感が走った。

 建物に潜入した緑谷たちを、爆豪が単独で奇襲したのだ。個性把握テストの時もそうだったが、爆豪の緑谷に対する執着と怒りは、ただの幼馴染の喧嘩というレベルを明らかに逸脱していた。

 

「すげえ……緑谷、爆豪の動きを完全に読んで躱してる」

 

「でも、爆豪のやつマジで殺す気じゃねえか……!? あれ危ねえって!」

 

 切島が息を呑む中、戦闘は激化していく。

 爆豪の圧倒的な戦闘センスと破壊力に対し、緑谷は個性を使わずに必死に食らいついていた。いや、使わないんじゃない。テストの時と同じく、使えば自分自身が壊れてしまうから、使えないんだ。

 だが、追い詰められた緑谷は、ついにその右腕を振りかぶった。

 彼が狙ったのは、目の前の爆豪ではなく──建物の上だった。

 

 凄まじい風圧が建物内を駆け抜け、何層もの天井と床が一瞬にして吹き飛ばされる。その破壊に乗じて、上の階にいた麗日が核兵器のオブジェに飛びつき、確保した。

 

『ヒーローチーム……WIN!!!』

 

 オールマイトの終了を告げる声が響く。

 だが、モニターに映し出された勝者の姿は、あまりにも痛々しかった。

 緑谷の右腕は、自身の個性の反動でドス黒く変色し、完全に折れ曲がっていたのだ。

 

「……自分の身をあんなにボロボロにしてまで、勝つための道を作ったのか」

 

 俺はモニターを見つめながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 あの緑谷の、ヒーローとしての異常なまでの執念と自己犠牲。それは、かつて無個性だった俺が必死に焦がれ、しかしじっちゃんにたしなめられた危うさそのものだった。

 

「緑谷さん……。あの自己犠牲の精神は、少し悲しいくらいに強いですね」

 

 ホムラも胸の前で手を組み、心配そうに眉をひそめている。

 

「ああ。だけど、あれがアイツの『戦』のやり方なんだ。……すげえよ、アイツは」

 

 圧倒的な個性の力を見せつけた爆豪。

 そして、身を削ってでも勝利を掴み取った緑谷。

 この雄英高校には、バケモノみたいな覚悟を持った奴らがひしめき合っている。

 俺も、生半可な気持ちじゃすぐに置いていかれる。

 

 

 

 

 

「次! 第2試合の対戦カードは……コレ!」

 

 オールマイトが引いたクジには、ヒーロー『B』、ヴィラン『I』の文字が。

 

「……よし! 次は俺たちの番だな、西里!」

 

 切島が両拳を打ち合わせ、気合いの入った声で俺の肩を叩く。

 

「ああ。対戦相手は……八百万さんと、轟か」

 

 雄英の推薦入学組2人──間違いなく、クラス最上位の強敵だ。

 俺の視線に気づいたのか、少し離れた場所に立つ轟が、静かにこちらを振り返った。そのオッドアイの瞳は、氷のように冷たく見える。

 

「あんなアツい戦い見せられちゃ、男として燃えねぇわけにはいかねえ! 行こうぜ、西里、ホムラさん!」

 

 切島の言葉に、俺とホムラは視線を交わして深く頷き合い、俺たちを待ち受けるB棟へと向けて歩き出した。

 

 

 





前回の個性把握テストの感想にて、相澤先生の指摘が的外れという意見をいただきました。それについて、こちらで補足説明させていただきます。(見ない人はスキップで構いません)

「……確かに圧倒的な火力だが。お前、その女との間に繋がっている光の帯……それが切れたり、距離が離れたりしたら、お前自身はどう戦うつもりだ?」
「どんなに強い剣でも、振るう者が弱ければただの鉄屑だ。分断された時の対策がないなら、お前のその力は、実戦ではただのデカい的でしかないぞ」

こちらの指摘に対し、戦闘能力が個性に依存していると言うなら、全く同じ問題を抱えている常闇にも言わないといけない。急に個性を使えなくなったらどうする、と言う話ならクラスメイト全員に言わないといけないという指摘をいただきました。


まず前提として、ホムラは玲空とどれだけ離れていても存在を保てます。それがダークシャドウと違う点です。
そのため、他の個性と違い、玲空とホムラは物理的な『分断』(ホムラが敵に捕まるなど)という独自の弱点を抱えていることになります。しかし、戦闘においてホムラがいないと能力を発揮できないため、玲空にとってのホムラは『相棒』であると同時に『最大の弱点』でもあります。

相澤先生が伝えたかったのは、ホムラが手元からなくなった瞬間、何もできない人間になるなということです。
絶対に分断されないように立ち回るのは大前提ですが、それでも引き離されてしまった時、玲空本人が自身の技で生き残り、ホムラを助けに行けるような『個性に頼らない強さ』を身につけろということです。

また、相澤先生から見てもホムラは『個性』というより、『人間』に見えています。相澤先生なりの優しさとして、この先玲空とホムラが悲惨な事にならない為に、あえて玲空にこのような厳しい言い方になりました。



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