個性『天の聖杯』!!??   作:マガラナイ

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訓練を終えて

 

 ガチャリとモニター室の扉を開けて、俺たち三人はモニター室に戻った。

 

「皆さん、お待たせしました」

 

 ホムラがふわりと微笑むと、待ってましたとばかりに上鳴と峰田が飛び出してきた。

 

「ホムラちゃあぁん! 無傷でよかったぁぁぁ!」

 

「西里ィ! オイラたちの女神に傷一つつけさせなかったことだけは評価してやる! だがなァ……」

 

「よくも俺たちの女神にバリアなんて負担のかかる技を使わせやがったな!? もしホムラちゃんに何かあったらどうするつもりだったんだ!!」

 

 二人は俺の胸ぐら……はホムラが近くにいて掴めないため、俺の目の前でギリギリと歯を鳴らして威嚇してきた。

 

「い、いや、あれはホムラが咄嗟に前に出てくれて……」

 

「言い訳すんな! オイラたちの女神を盾にするなんて、男の風上にも置けねえぜ! ……ホムラちゃん、本当に怪我がなくてよかった!」

 

「ふふっ、心配してくれてありがとうございます、お二人とも。でも、玲空もずっと私を守ってくれましたから」

 

 ホムラが聖母のような微笑みを向けると、二人はまたしても「ぐはぁっ!」と胸を押さえて尊死していた。こいつら、本当に何なんだ。

 

 そんな中、その和やかな(?)空気を切り裂くような、ヒリつく視線が二つあった。

 

 一つは、爆豪。

 腕を組み、壁に寄りかかったまま、親の仇でも見るかのような凶悪な眼で俺を睨みつけている。手元でパチパチとはぜる爆破の火花が、彼の苛立ちの深さを物語っていた。

 

 そしてもう一つは、先ほどまで戦っていた轟だ。

 その冷徹なオッドアイが、俺と、その隣に立つホムラを静かに射抜いている。

 

「さて! 今回のMVPは、ヒーローチームの皆だ。誰か、理由は分かるかな?」

 

 オールマイトが明るい声で前に出て、クラス全体に問いかける。

 すると、スッと真っ直ぐに手が挙がる。八百万さんだ。彼女は悔しさを滲ませながらも、冷静に分析を口にした。

 

「ヒーローチームの、判断力ですわ。私たちヴィラン側は、西里さんの高火力を封じるために水と氷で制圧を試みました。ですが……」

 

 八百万さんは一度言葉を切り、俺とホムラ、そして切島を見つめた。

 

「西里さんとホムラさんは、あの炎と防壁で、轟さんの猛攻を凌ぎ切りました。それに、建物を倒壊させない為に、力をコントロールされていたように思われます。

そして切島さんは、轟さんの攻撃が止んだ瞬間にご自身の『硬化』を活かして前に突撃し、自らの役割である核の回収を全うされた。3人の誰の判断が欠けても、あのような決着には至らなかったはずですわ」

 

「その通り!!」

 

 オールマイトがビシッと親指を立てる。

 

「西里少年とホムラ少女の攻防一体の陣形! そして、それに甘えることなく自ら道を切り拓いた切島少年! さらに、ヒーロー側は、周囲への被害を極力減らしている。素晴らしい戦いだった!」

 

「おおおっ……! 男気、認められたぜ!!」

 

 切島が嬉しそうにガッツポーズを取る。

 

「轟少年は強力な個性に頼りすぎて大雑把になってしまった点、八百万少女は未知の力に対する次の一手が遅れた点が反省点だな! だが、二人とも事前の対策や着眼点は見事だったぞ!」

 

「……はい。まだまだ、私の想定と柔軟性が甘かったですわ」

 

 八百万さんが悔しそうに俯き、轟は無言で鋭い視線を逸らした。

 

「それと西里少年、ホムラ少女! 君たちはもう理解してる思うが、今後もその規格外の火力に味方や要救助者を巻き込まないためにも、周囲の状況把握の徹底と、それに合わせた力のコントロールをすることを忘れずに!」

 

「……はいっ! 肝に銘じます!」

 

「ありがとうございます、オールマイトさん」

 

 俺とホムラは顔を見合わせ、深く頷いた。

 

「それでは、続いて第三試合……行ってみよう!!」

 

 

 

 その後も、クラスメイトたちの白熱した戦闘訓練は続いた。

 全員の試合が終わる頃には、誰もが自分の個性と課題に向き合い、疲労と充実感の入り混じった顔をしていた。

 

「では諸君、お疲れ様!! これにて、本日の屋内対人戦闘訓練は終了だ!!」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

「それじゃあ、私は緑谷少年の様子を見に保健室へ行くのでね! 諸君は着替えて教室へ戻るように!」

 

 そう言い残すと、オールマイトは凄まじいスピードでモニタールームから走り去っていった。

 

「西里!」

 

 オールマイトが去った直後、俺の肩をガシッと力強く掴まれる。振り返ると、そこには顔いっぱいに白い歯を覗かせて笑う切島が立っていた。

 

「今日、マジでサンキューな!! お前とホムラさんがいなかったら、ぜってえあのコンビに勝てなかったわ!」

 

「いや。こちらこそ、切島が最後核に走ってくれて助かった、ありがとな」

 

 俺がそう言うと、切島は一瞬目を見開いた後、嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「へへっ、お互い様ってやつだな! 西里のこと、個性把握テストの時からすげぇ奴だと思ってたけど、今日一緒にチーム組めて本当によかったわ。お前らになら、背中を預けられるって思えた!」

 

 切島はまっすぐな瞳で俺を見据え、言葉を続ける。

 

「西里、それとホムラさんも! ヒーローになるっていう、同じ志持った者同士。友達として──いや、ダチとして、これからよろしく頼むな!」

 

 その言葉に、隣にいたホムラが嬉しそうに胸の前で手を合わせ、優しく目を細めた。

 

「はい! 私たちの方こそ、これからよろしくお願いしますね、切島さん」

 

「おう! こちらこそよろしくな、切島!」

 

 俺たちの言葉を聴き、切島がニカッと笑う。

 

 無個性と蔑まれていた俺が、雄英に入って初めてできた、対等な男の『友達』。

 同じ夢を見て、これからは背中を預け合える仲間ができたんだという確かな実感が、俺の胸の奥をじんわりと熱くさせていた。

 

「引き止めて悪かったな! 教室戻ろうぜ!」

 

「ああ!」

 

 雄英に入ってまだ一日。俺のヒーローへの道は、まだまだ始まったばかり。だが、確実に一歩一歩進んでいる。

 

 俺は、この場所(雄英)で絶対にヒーローになる。

 あの日。血塗れのヒーローに託された、『自分の戦』を戦い抜くために。

 

 

 ***

 

 

 放課後。

 ようやく雄英での一日を終え、カバンを持って教室を出ようとすると、待ち構えていたかのように葉隠ちゃんが隣にピタッと寄ってきた。

 

「お疲れ様、西里くん! 一緒に帰ろ!」

 

「お疲れ、葉隠ちゃん。おう、帰──」

 

「お待ちになって、西里さん!!」

 

 俺が返事をしようとした瞬間、教室の奥から凄まじい勢いで歩み寄ってくる人物がいた。

 八百万さんだ。彼女の瞳は、普段の冷静なお嬢様という雰囲気とは打って変わり、新種の鉱物を発見した研究者のようにギラギラと血走っていた。

 

「や、八百万さん? どうしたんだ、そんなに慌てて」

 

「どうしたも何もありませんわ! 今日の戦闘訓練でのあなたたちの力……! あまりにも物理法則を無視しすぎていて、私、気になってその後の対戦内容が全く頭に入りませんでしたの!」

 

 八百万さんはズイッと身を乗り出し、俺とホムラを交互に見つめながら、まるで機関銃のように質問を浴びせ始めた。

 

「水の中で燃え続ける炎……酸素を必要としない燃焼現象など、自然界の法則を完全に無視しています! 一体どういう仕組みなのですか!? 可燃性の特殊なガスを纏わせている? それともプラズマ化したエネルギーの塊? それとも──」

 

「えっ、あ、いや……」

 

 圧倒的な知識量と熱量で詰め寄られ、俺は完全にフリーズしてしまった。

 化学反応? プラズマ?

 じっちゃんから「勉強? そんなもんは気合いでどうにかせんか!」としか教わってこなかった脳筋の俺に、そんな高等な質問が答えられるわけがない。

 

「……あの、八百万さん」

 

 助け舟を出すように、ホムラがふわりと微笑みながら八百万の前に出た。

 

「私の炎は、可燃物を燃やして起きる一般的な『火』とは少し違うんです。空気中に存在する自然エネルギーを、私の胸にあるこのコアで独自のエネルギーに変換して放出している……『エネルギーの塊』という表現が一番近いかもしれません」

 

「エネルギーそのもの……? それはつまり、酸素などの周囲の環境に依存しない、完全に独立した力ということですか!?」

 

「はい。ですから、水の中でも決して消えませんし、そのエネルギーを圧縮して防壁として使うこともできるんです」

 

「なるほど、未知のエネルギー体の放射……! それならばあの特異な現象にもすべて説明がつきますわ!」

 

 八百万は知的好奇心から興奮したように目を輝かせた。

 

「訓練の際、ホムラさんが展開した防壁は炎の壁ではなく、純粋な『薄黄色の盾』のような姿をしていました。炎使いであるはずのあなたが、なぜ光のような色の盾を張るのか疑問だったのですが……あれは高密度に圧縮されたエネルギーそのものの色だったのですね!」

 

「あ……」

 

「それではホムラさんの力は、その未知のエネルギーを独自の『火』として放出している、ということで間違いないでしょうか?」

 

「……それは──」

 

 論理的な結論を導き出し、確信を持った声で問いかける八百万。しかし、その真っ直ぐな瞳に対し、ホムラは一瞬だけ悲しげに目を伏せ、わずかに言葉を濁した。

 

 そんなやり取りをしていると、不意に俺のブレザーの袖がグイッと強く引っ張られた。

 

「もーっ! ストーップ! ヤオモモ、ストップだよ!」

 

 宙に浮いたカバンが、少し苛立ったように揺れている。

 

「あ、葉隠ちゃん。待たせてごめんな」

 

「ヤオモモ! 西里くんたち困ってるし、私たちこれから一緒に下校するんだから、質問攻めはまた今度にしてね!」

 

 葉隠ちゃんが俺の腕を引っ張って割って入ると、八百万さんはハッとして顔を上げた。

 俺は助かったと安堵する一方で、葉隠ちゃんの口から飛び出した馴れ馴れしいあだ名に思わず目を丸くする。

 

「えっ、ヤオモモ? 葉隠ちゃん、もう八百万さんとそんなに仲良くなったのか……?」

 

「えへへー! 女の子同士のコミュ力を舐めないでよねっ! ほら西里くん、行くよ!」

 

「ああっ、申し訳ありません! わたくしとしたことが、つい熱くなってしまって……。お引き止めしてすみませんでしたわ!」

 

 顔を真っ赤にして何度も頭を下げる八百万さんに「いや、気にするなよ」と苦笑いで返し、ホムラは軽くお辞儀をする。葉隠ちゃんも、ピンと見えない手を大きく振るようにして明るく声をかけた。

 

「気にしないでヤオモモ! それじゃ、また明日ねー!」

 

「ええ、また明日。お気をつけて!」

 

 見送る八百万さんに背を向け、俺は葉隠ちゃんに手を引かれるまま教室を後にした。

 

「まったくもう! 西里くんは隙だらけなんだから! 私がちゃんと見張ってないと、すぐ他の女の子に囲まれちゃう!」

 

「囲まれてたっていうか、尋問されてただけなんだけど……」

 

「だ・か・ら! そうやって油断してるのがダメなの!」

 

 ビシッと見えない指を突きつけるような気配のあと、葉隠ちゃんはジト目を向けているであろうトーンで言葉を続けた。

 

「だいたい西里くん、訓練の時だってヤオモモのことジロジロ見てたでしょ! モニター越しでも、鼻の下伸ばして見惚れてるのバッチリ映ってたんだからね!」

 

「げっ!?」

 

 図星を突かれ、俺は変な声を出してしまった。

 

「あ、あれは不可抗力というか! 目の前にあんな大胆なコスチュームが現れたら、健康な男子高校生としてどうしても視界に入っちゃうっていうか……!」

 

「玲空。あの時、私が脇腹をつねらなかったら、玲空はあと十秒は八百万さんの胸元に釘付けになっていたはずです」

 

「ホ、ホムラ!? 頼むから傷口に塩を塗り込まないでくれ!!」

 

「ほらやっぱりー! エッチ! 西里くんのむっつり!」

 

 ポカポカと見えない手で俺の腕を叩きながら、葉隠ちゃんがぷりぷりと怒る。

 

「むーっ……! 西里くん! 私だって、ヤオモモやホムラさんに負けてないくらいナイスバディなんだからねっ!!」

 

「そ、そうなのか!? 」

 

「あ! 絶対信じてない顔だ! もう、だったら……これならどう……?」

 

 ギュッ、と。

 葉隠ちゃんが俺の右腕を両手で強く抱え込み、自身の体へとポンと押し付けてきた。

 

「ちょっ、葉隠ちゃん!?」

 

 姿は見えない。だが、ブレザーとワイシャツの生地越しからでも、はっきりと伝わってくる『感触』があった。

 細く引き締まったウエストから続くラインと、俺の腕にふわりと押し当てられる、柔らかくも確かな質量。八百万さんやホムラのような一目でわかる規格外のサイズとは違うかもしれないが、その均整の取れたスタイルの良さと、女の子特有の柔らかな曲線美は、密着している腕からこれでもかというほど強烈に主張してくるのだ。

 

(見えないけど……制服越しでも分かるぞ。葉隠ちゃん、めちゃくちゃナイスバディじゃないか……!)

 

 俺の心臓が、先ほどの戦闘訓練とは全く違う理由でドクドクと早鐘を打ち始める。

 

「……ど、どう? わ、私だって、その……ちゃんと、女の子らしい体つき……してるんだからね」

 

 腕に抱きついたまま、上目遣いでもしているのだろうか。葉隠ちゃんの声が急にトーンダウンし、至近距離で甘いシャンプーの香りがふわりと揺れた。

 

(顔は見えないけど、これ絶対、本人が一番照れて顔を真っ赤にしてるパターンだ……!)

 

 俺がどう反応していいか分からず、限界までカチコチに固まって冷や汗を流していると、背後からスッと覗き込む気配がした。

 

「ふふっ。玲空の心拍数と体温が急上昇していますね。葉隠さん、玲空がこれ以上ドキドキすると、感覚を共有している私のほうにも少し影響が……」

 

 背後からのホムラの声を聞いた瞬間、葉隠ちゃんは「ひゃあっ!?」と短い悲鳴を上げて俺の腕から飛び退いた。

 

「ご、ごごごごめんなさいっ!! 私、つい意地張っちゃって……! 西里くんのエッチ! むっつりー!」

 

「いや、抱きついてきたの葉隠ちゃんからだろ!?」

 

「もーっ、知らない!!」

 

 葉隠ちゃんのローファーがバタバタと駆け出し、夕日に染まる廊下を逃げるように走り去っていく。

 

「あ、待てって葉隠ちゃん! 一緒に帰るんじゃなかったのかよ!」

 

 見えない背中を慌てて追いかけながら、俺は深くため息をついた。

 俺の雄英生活は、戦闘訓練よりも、日常の方がよっぽど心臓に悪いかもしれない。

 

 

 






お気に入りめちゃくちゃ増えてるのは嬉しいんですけど、話のクオリティは期待しないでください(批判が怖い)。

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