個性『天の聖杯』!!??   作:マガラナイ

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委員長

 

 戦闘訓練翌日のホームルーム。

 教卓の前に立つ相澤先生は、いつも通り気怠げな声で告げた。

 

「急で悪いが、今日はお前らに……学級委員長を決めてもらう」

 

「「「(ようやくまともな学校っぽい行事来たーー!!)」」」

 

 その瞬間、教室の空気が爆発した。

 

「はいはいはい! 俺やりたいっス!」

「私もやりたーい!」

「「ホムラちゃんを委員長にして、毎日俺(オイラ)たちを癒してもらう規則を作る!!」」

 

「おいお前ら、どさくさに紛れてホムラを巻き込むな」

 

 俺は欲望丸出しの上鳴と峰田にツッコミを入れたが、クラスの熱気は収まらない。ヒーロー科において委員長というポジションは、トップヒーローを目指す上で自分をアピールできる絶好の機会なのだ。

 

「みんな、静粛に!!」

 

 その喧騒を切り裂いたのは、飯田のよく通る声だった。

 

「多大な責任を伴う役職……! これはやりたい者がやるのではなく、周囲の信頼を集める者が就くべきだ! 民主主義に則り、ここは投票で決めるべきだと提案する!」

 

「いや、まだ出会って数日なのに信頼も何もないだろ……」と誰かがツッコんだが、結局、飯田の提案通り無記名の投票が行われることになった。

 

「玲空は誰に入れるんですか?」

 

 俺と机をくっつけて席に座っている(雄英側が用意してくれた)ホムラが、少し小さな声で尋ねてくる。

 

「んー、そうだな……」

 

 俺は少し悩んだ末、白紙の紙に『飯田天哉』と書き込んだ。昨日の戦闘訓練で見せた緑谷の自己犠牲と執念も凄かったが、クラスをまとめる責任者としては、やはり生真面目な飯田が一番適任だと思ったからだ。

 そして、黒板に開票結果が次々と書き出されていく。

 

 

 

 緑谷出久  3票

 八百万百  2票

 ・

 ・

 ・

 ホムラ   2票

 

 

 

 

「……おい」

 

 俺は黒板の隅に書かれた文字を見て、こめかみに青筋を立てて振り返った。

 俺の斜め後ろの席で、上鳴と峰田が「チッ、あと一歩で俺(オイラ)たちの女神がトップに君臨できたのに……!」と本気で悔しがっている。

 

「誰だ、個性に投票したバカは」

 

 相澤先生が冷たい視線で教室を見渡した。

 

「西里の個性が副委員長になった場合、実質的に西里が権力を握ることになる。よって、この2票は無効票だ」

 

「先生、権力って……! 俺は別に裏でクラスを牛耳ろうなんて企んでませんからね!?」

 

 慌てて否定する俺の横で、当のホムラ本人はふわりと微笑みながら峰田たちの方を向いた。

 

「ふふっ。私に投票してくれたお二人さん、ありがとうございます。でも、私は玲空のサポートをするだけで手一杯ですから」

 

 胸の前で手を合わせ、女神のような優しさで微笑みかけられた瞬間。

 

「「ああっ、尊い……!!」」

 

 峰田と上鳴は胸を押さえて謎の涙を流し、そのまま机に突っ伏して昇天してしまった。こいつら、本当にブレないな。

 

「というわけで、委員長は緑谷、副委員長は八百万だ」

 

「ぼ、ぼぼぼ僕が!? ほ、本当に!?」

 

「無効票のせいでなんだか締まりませんわね……」

 

 ガクガクと震えながら教卓の前に立つ緑谷と、少し不完全燃焼気味にため息をつく八百万。

 こうして、色んな意味で波乱含みの委員長決めは幕を閉じたのだった。

 

 

 ***

 

 

 そして、待ちに待った昼休み。

 

「おっし、飯だ飯!」

 

 切島が嬉しそうに俺の席までやってきた。

 

「西里、ホムラさん! 一緒に学食行こうぜ!」

 

「おう、行く行く」

「はい、喜んで」

 

 俺が席を立つと、ひょっこりと二人の女子が近づいてきた。

 

「あ、西里くん! 私たちも一緒に食べていい?」

 

 声の主は、宙に浮いた制服をパタパタさせている葉隠ちゃんだ。その後ろには、少し遠慮がちに立っている耳郎さんの姿もあった。

 

「もちろん。切島とホムラもいいか?」

 

「おう! 大人数の方が飯は美味えからな!」

「はい、大歓迎です!」

 

 俺たち五人は連れ立って、教室を出た。

 賑やかな廊下を歩き出しながら、耳郎さんが指にイヤホンジャックをくるくると巻きつけ、少し照れくさそうに口を開いた。

 

「あのさ、西里くん」

 

「ん? どうした、耳郎さん」

 

「入試の時は、本当にありがとね。……でも、いつまでも『くん』付けってのもアレだし、もしよかったら、これからは呼び捨てでいい? ウチのことも、『さん』付けしなくていいから」

 

 上目遣いで視線を逸らす耳郎さん。入試の時に助けた恩義からか、彼女はずっと少し硬い喋り方をしていたのだ。

 

「勿論だ。じゃあ、改めてよろしくな、耳郎」

 

 俺が笑って返すと、耳郎は「……ん。よろしく、西里」と、微かに頬を緩めた。

 

 

 

 

 学食に着くと、すでに多くの生徒でごった返していた。

 切島、耳郎、葉隠ちゃんがそれぞれランチラッシュの絶品メニューを購入して席につく中、俺はカバンから持参した包みを取り出した。

 

「ん? 西里、お前学食の飯買わなかったのか?」

 

「ああ。俺は弁当があるからさ」

 

 そう言って包みを解き、弁当箱のフタを開ける。

 その瞬間、周囲にふわっと出汁と醤油のいい香りが漂った。

 

「いやすごっ!?」

「「「うおおおおっ!?」」」

 

 耳郎、切島、それとたまたま(?)隣のテーブルに座っていた上鳴と峰田が目をひん剥いて身を乗り出した。

 弁当箱の中には、彩り豊かな卵焼き、タコさんウインナー、完璧な照りを見せるハンバーグに、隙間なく綺麗に詰められた副菜の数々が輝いていた。まるで高級料亭か、料理雑誌の表紙から飛び出してきたかのような完璧な仕上がりだ。

 

「なんだそのクソ美味そうな弁当!! 西里、お前料理得意なのか!?」

 

「いや、俺じゃないよ。これ、ホムラが作ってくれたんだ」

 

 俺が横を見ると、ホムラが「お口に合うといいんですけど」と誇らしげに微笑んでいた。

 

「ホムラさんの料理、すっごく美味しいんだよ!」

 

 葉隠ちゃんが胸を張って、自慢げに言葉を続ける。

 

「中学の時、西里くんの家で一緒に勉強会した時にクッキー焼いてくれたんだけど、もうお店で売れるレベルだったんだから!」

 

「へええ! すげえなホムラさん! 戦えて料理も美味いなんて、最高じゃねえか!」

 

 切島が目を輝かせる。だが、耳郎がふと不思議そうな顔をして、自身のイヤホンジャックを揺らした。

 

「そういえばさ。ホムラさんって、未だに信じらんないけど一応西里の『個性』なんだよね? 人間と同じように、普通にご飯とか食べるの?」

 

 その疑問に、ホムラは自分用の少し小さめの弁当箱を開けながら、ふわりと微笑んで答えた。

 

「ええ、食べますよ。私は大気中のエーテルからエネルギーを補給できるので、生命維持のために『食べなければいけない』というわけではないんです。でも、人間と同じように味覚はありますし、何より……美味しいものを食べると、幸せな気持ちになりますから」

 

「なるほどな! 腹を満たすためじゃなくて、心を満たすために食べるってことか!」

 

「はい。それに、玲空と一緒に美味しいものを食べると、私たちの『キズナ』も深まって、個性の出力が上がるんです。……ね、玲空」

 

 言うが早いか、ホムラは自分の弁当箱から見事な卵焼きを箸でつまみ、俺の口元へと差し出してきた。

 

「さぁ、玲空。あーん、してください」

 

「ちょっ、ホムラ!? みんな見てるから! 自分で食えるって!」

 

「ふふっ、遠慮しないで。玲空に食べてもらうために作ったんですから。はい、あーん」

 

 俺の抵抗も虚しく、抗いがたい聖母の微笑みと、至近距離に迫る圧倒的な胸元の暴力に気圧され、俺はパクッと卵焼きを口に含むことになった。

 完璧な出汁の旨味が口いっぱいに広がる。

 

「……うん、美味い」

 

「よかったです!」

 

「「ぐはぁっ!!(吐血)」」

 

 隣のテーブルで、上鳴と峰田が血涙を流しながらハンカチを噛みちぎって倒れる音が聞こえた。

 

「もーっ! ホムラさん、学校ではイチャイチャ禁止ー!」

 

 葉隠ちゃんが見えない手で俺とホムラの間に割って入ろうとし、耳郎は「ウチら、昼間っから何見せつけられてるんだろ……」と呆れたようにため息をつきながら、白身魚のフライを口に運んでいた。

 

 個性豊かすぎるクラスメイトたちと囲む、昼休み。

 波乱に満ちた日々の中で、こういう賑やかで平和な時間も悪くないなと、俺はホムラの弁当を味わいながらこっそり笑みをこぼした。

 ──その時だった。

 

 ビーーーーッ!! ビーーーーッ!! 

 突如として、鼓膜を破くようなけたたましい警報音がカフェテリア中に鳴り響いた。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

 無機質なアナウンスが流れた瞬間、周囲の空気が一変した。

 

「セキュリティ3って……誰かが雄英の敷地内に侵入したってことか!?」

「ヤバいって! 過去3年で一度もなかったぞ!」

 

 上級生たちの焦った声が引き金となり、カフェテリアにいた何百人もの生徒たちが一斉に出口へと殺到し始めた。

 

「な、なんだ!? ヴィランの襲撃か!?」

 

「みんな、落ち着いて! 押さないで!」

 

 切島が叫び、耳郎が声を張り上げるが、パニック状態に陥った群衆には全く届かない。出口の狭い通路に人が密集し、凄まじい押し合いへし合いになってしまった。

 

「おいおい、なんだよこれ!? 押すなって!」

 

 切島が踏ん張るが、パニック状態の群衆の圧力は尋常ではない。

 

「きゃっ……!」

「痛っ!」

 

 人波に飲まれかけ、葉隠ちゃんと耳郎が悲鳴を上げた。

 特に、葉隠ちゃんは『透明』だ。このままだと、他の生徒に気づかれないまま踏み潰されてしまう。

 

「葉隠ちゃん! 俺の腕に掴まれ! 見えないから絶対に踏まれるぞ!」

 

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 俺は咄嗟に手を伸ばし、見えない葉隠ちゃんの腕をグッと引き寄せた。

 

「耳郎も、俺の後ろに掴まってろ!」

 

「ご、ごめん、助かる……!」

 

 そして、じっちゃんの特訓で培った体幹と筋力をフル稼働させ、押し寄せる人の波に対して全力で踏ん張る。

 

「玲空!」

 

 さらに、ホムラが俺の背中に回り込み、エーテルによる身体強化を施してくれる。

 

「西里、俺も手伝うぜ! 漢として、女の子を押し潰させるわけにはいかねェ!」

 

 切島も硬化した腕で人波を押し留めてくれる。

 だが、状況は悪化する一方だった。怒号と悲鳴が飛び交い、今にも怪我人が出そうな最悪の空気。

 そんな中、ふと窓の外を見た俺は、正門のほうで起きている騒ぎの正体に気がついた。

 

「おい、待てよ……アレ、ただのマスコミじゃないか?」

 

 そう。雄英の強固なゲートを突破して押し寄せていたのは、ヴィランではなく、オールマイトの赴任を嗅ぎつけて殺到したテレビ局の連中だったのだ。

 

「マジか! 取材陣が押し寄せてるだけじゃねーか!」

 

 同じように外の状況に気づいた切島が叫ぶが、パニックの中心にいる生徒たちには聞こえない。誰かが全体に届くような大きな声で、状況を伝えて安心させる必要があった。

 

(みんなパニックで周りが見えてない……! 誰かが大きな声で、状況を伝えないと……!)

 

 俺が声を張り上げようとした、その時。

 

「麗日くん!! 俺を浮かせてくれ!!」

 

 人の波の少し先で、ひときわよく通る声が響いた。

 飯田天哉だ。

 彼は同じクラスの麗日さんに頼んで自らの身体を無重力状態にしてもらうと、空中で両脚のエンジンを勢いよく吹かした。

 

「なっ、飯田!?」

 

 驚く俺たちの頭上を、飯田がクルクルと回転しながら飛んでいく。

 そして彼は、出口の上にある非常口の標識のすぐ横の壁に、凄まじい勢いで激突、張り付いたのだ。

 

「皆!! 大丈夫だ!!」

 

 壁に張り付き、まるで自らが非常口の標識そのものになったかのような奇妙なポーズのまま、飯田は腹の底から声を張り上げた。

 

「ただのマスコミだ!! パニックになることはない、ここは雄英だ!! 最高峰の学舎の生徒に恥じない行動をしよう!!」

 

 その堂々たる大音声と、あまりにもインパクトのあるポージングに、パニックに陥っていた生徒たちの動きがピタリと止まる。

 やがて警察が到着し、マスコミが撤退していく様子が窓から見え始めると、ようやく食堂に安堵の空気が戻った。

 

「はぁ……助かった。飯田のやつ、すげぇ機転だったな」

 

 俺が安堵の息を吐きながら体の力を抜くと、腕の中にいた葉隠ちゃんが「ふうぅ……」とへたり込んだ。

 

「ありがと、西里くん。西里くんが引っ張ってくれなかったら、私絶対にぺちゃんこになってたよ……」

 

「無事でよかった。見えないとこういう時、本当に危ないからな」

 

 耳郎も、少しホッとしたように肩の力を抜き、俺の背中を軽く叩いた。

 

「ありがと、西里。やっぱあんた、頼りになるね」

 

 耳郎は、照れ隠しのようにイヤホンジャックを指でくるくると巻きつけながら、小さな笑みをこぼした。

 

「その……入試の時もそうだけどさ。とっさに動けるのって、普通にすごいと思うし」

 

「そ、そうか? 体が勝手に動いただけだよ」

 

 照れ隠しで頭を掻く俺の横で、ホムラが優しく微笑んだ。

 

「玲空は、昔から困っている人を放っておけない性格ですからね。皆さん、お怪我がなくて本当に良かったです」

 

「うん! ホムラさんと切島くんも、ありがとね!」

 

「へへっ! 漢として当然のことをしたまでよ!」

「いえいえ」

 

 平和な日常の一コマに戻った安心感からか、俺たち五人の間に自然と笑いがこぼれた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その後、午後のホームルーム。

 騒ぎもすっかり収まった教室で、教卓の前に立った委員長の緑谷は、少し緊張した面持ちで、しかしはっきりとした声でクラス全員に向かって口を開いた。

 

「ぼ、僕より……飯田くんの方が、委員長にふさわしいと思う!」

 

「緑谷くん……?」

 

「さっきの食堂で、あんな風に皆をかっこよくまとめ上げてた。それに、僕はまだ自分の力も上手くコントロールできないし……クラスを引っ張っていくのは、飯田くんの方が適任だよ」

 

 緑谷のその言葉に、クラス中から次々と賛同の声が上がった。

 

「ああ! さっきの飯田、マジで男らしかったしな!」

「非常口飯田! 適任じゃん!」

 

 切島や上鳴たちが明るく囃し立てる。

 俺も深く頷いた。あのパニックの中で自分の個性を、生徒達の注目を集めるために的確に使い、全員を落ち着かせた飯田の判断力は、間違いなくリーダーのそれだった。

 

「……緑谷くんからそこまで言われ、皆からの推薦とあらば、仕方ない!」

 

 飯田はスッと立ち上がり、ビシッと眼鏡を押し上げながら力強く宣言した。

 

「この飯田天哉、粉骨砕身の覚悟で委員長という大役、務めさせていただきます!!」

 

「「「おおーっ!!(パチパチパチ!)」」」

 

 教室が温かい拍手に包まれる。

 こうして、色々とすったもんだあった1年A組の委員長は、正式に飯田へと引き継がれたのだった。

 

「良いクラスですね、玲空」

 

「ああ。本当にな」

 

 隣で微笑むホムラに頷き、俺はクラスメイトたちを見渡しながら、改めて雄英高校での日々への気合いを入れ直した。

 

 

 

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