凍てつく愛は終焉を拒む   作:白騎士

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26/06/16 加筆修正


プロローグ

 

 熱い──それが最初に感じた感覚だった。

 焼け付くような熱気。肺に入り込む、焦げ臭い空気。

 

 ゆっくりと目を開けると、空が燃えていた。

 反射的に起き上がった。視線は空へと向ける。

 

 赤く、赤く、赤く、夜の暗闇を赤く染め上げる。

 まるで巨大な炎が雲の裏側で燃え続けてるような、不気味な色。

 

 無意識に腰に手を伸ばす。

 

 拳銃、予備弾倉、短剣。全てある。

 身体の確認──異常なし。

 

 周囲を見渡す。

 

 崩れたビル。

 砕けた道路。

 折れ曲がった街灯。

 横転した車両。

 空気は火災の影響で焦げ臭い。

 

 見知らぬ街。見覚えのない街道。初めて見る文化形態。かつては賑わいを見せたであろう街並みの残骸がここにはあった。

()()()()──そう、表すのが正しいだろう。

 

 災害現場とも戦場とも捉えることはできるかもしれない。たが、これは違う。()()()()()()()。人を、営みを、文明そのものを否定するかのような、そんな執念のようなものによる蹂躙の果てに残った亡骸。

 

「不快だな」

 

 軍服に身を包んだ白髪の男は眉を顰めながら呟き、最後の記憶を辿る。

 

 思い出せない。

 敵の襲撃か。

 事故か。

 拉致か、あるいは転移か。

 

 自分でも馬鹿げた推測だ。だが現状、それしか説明がつかない。

 これまでの記憶はある。だが、目覚める直前の記憶だけが曖昧だ。分かることはただ一つ。ここが危険だということだけ。

 

 通信機は通じない。現在地は不明。孤立状態。身体、武装は無事だが、補給は見込みがない。情報が少ない上に不安要素が多すぎる。

 

「補給部隊を率いる長がこのザマとはな」

 

 カタリ

 

 音がした。反射的に振り返る。が、何もいない──いや、()()

 視界の端。瓦礫の向こう。人影に似た()()()が。

 

 骨、人型の骸兵が立っていた。赤い眼光を灯しながら。

 

「…………」

 

 驚きはない。似たような存在を数多く見てきた。()()も、その一端に過ぎない。骸兵はカタカタと震えながら剣を握り、こちらを眺めている。

 

 脅威度確認──低級。

 

 お互い動きはない。ただ、静かに空気が流れる。

 

 パチリ

 

 周囲の火の一角が弾けたその時、骸兵が剣を振り上げた瞬間──乾いた音が響く。

 

 銃声。

 

 膝から崩れ落ちる骸兵。その頭蓋は穴が開き、地面に落ちた瞬間砕けた。骸兵の動きがない事を確認した後、構えていた拳銃を下ろす。

 

「……ロスト、ではないのか」

 

()()()()()、そう感じた。確証はない。ただ、漠然とした感覚だけがあった。近づき調べようとすると骸兵が霧散して消えた。

 

 と同時に感じる視線。振り返ると新たな骸兵がいる。再び骸兵に向けて構える──が引き金を引けなかった。

 

 倒壊したビルの影から。横転した車輌の中から。砕けたアスファルトに出来た穴から。取り囲むように周囲から湧き出てくる骸兵。

 

 その数──百と十数

 

 周囲を取り囲んだ骸兵が震える。1体、また1体と。破壊と火の海の中で木魂する骸兵から発せられる()()は、中心の人物を嘲笑う鳴き声にも聞こえる。

 

「……少し多いな」

 

 拳銃を構え直す。

 残弾の確認。

 周囲の遮蔽物の把握。

 退路確認。

 

「退路なし」

 

 なら、突破すればいい。

 

 まるで魔窟に迷い込んだ状況にも関わらず、男は微塵も恐怖を感じていなかった。軍人らしく冷静に分析しているようにも見えるが、どこか()()()()()()()

 

 骸兵が一斉に襲いかかる。初弾、最も近い1体の頭部を破壊。次弾で2体目の膝を破壊。3体目、脊椎を撃ち抜く。

 

 敵を倒すためでは無く、道を作るための射撃。戦場で生き残る者の思考。だが、敵が多過ぎた。倒しても倒しても敵が湧き出てくる。やがて接近を許す。

 

 剣が振り下ろされる──回避。返しの肘打ちで体勢を崩し、踏み砕く。奪った剣で隣の骸兵を斬る。流れるような近接。

 

 だが、終わりが見えない。周囲は敵だらけ。それでも男には焦りは見えない。

 

「指揮官個体は見当たらず、統率は低い」

 

 孤立、残弾不足、退路なし──危機的状況。

 独り言のように分析をする。

 掴み掛かろうとする骸兵を蹴り倒し距離を取る。

 

「……ジリ貧だな」

 

 通常なら、恐怖に飲まれる状況。だが、これは男にとっては何度も戦場で経験してきた。何度も死地に立った。置き去りにもされた。だからこそ、彼の中で既に恐怖は制御された感情だった。

 

 骸兵の群れの中心で男は呟く。

 

「1人か……」

 

 悲観ではない。

 確認だった。

 そして続ける──

 

「なら、加減はいらんな」

 

 その一言で、男の纏う空気が変わり、空気までもが軋んだ。

 男の吐く息が()()()()

 周囲の()()()()()()()()

 足元から()()()()

 

 そして世界が震える──

 

 

永久(とわ)であれ、阿摩羅(あまら)(ひつぎ)

不滅(ふめつ)結晶(あい)を我らと示せ──』

 

 

 男が詠うは祝詞。それは祈りであり、永久不滅を願った誓い。炎上する都市の一角を()()()()()()()

 

 赤く染め上げていた炎の熱を失い、一帯を()()()()()()()()

 

 黒と白の世界、まるでそこだけ()()()()()()()()()()、かの様に広がる冬景色があった。

 

 割れたアスファルトには雪が、

 崩れたビルに霜が、

 横転した車両は凍りつき、

 

 骸兵の群れは()()()()へと変わり果てていた──

 

 静寂。ただ静寂だけが残る。炎上都市の僅かな一角に現れた雪原の中心で立つ男は、眼前の骸兵に手を伸ばす。

 

 パキリ

 

 その手が頭蓋に触れる瞬間、亀裂が入り砕ける。それが合図かの様に周囲の骸兵だったものも砕け始め、やがて全てが氷片へと変わり果てた。

 

 月明かりに照らされたそれらは、幻想的な輝きを放つ。

 

 触れることも、掴むこともなかった伸ばされた手を男は見つめていた。

 何を考え、思っているのか、その表情からは何もわからない。

 

 伸ばした手を戻し、男は周囲を見渡した。

 

「敵性存在沈黙──排除完了」

 

 声色からは達成感や喜びの色が見えない。四面楚歌の状況を切り抜けたという安堵さえも。だが僅かに男の白い睫毛が僅かに伏せられた。

 ほんの一瞬だけ伏せられた視線は空へと向かい、やがて燃える都市へと移る。そして雪原を背にし、男は歩み始めた。

 

「先ずはここが何処かを知るのが先か」

 

 ここが何処なのか。何が起きているのか。敵は何なのか。味方は、生存者はいるのか。知らない事が多い、なら知ればいい。情報を集めればいいだけだ。この残骸と化した街から。幸か不幸か、まだ()()()。探せば得られる事はある筈だと──

 

 炎上する都市冬木の中を進む、軍服に身を包む男。

 風が白い外套を翻し、白銀の髪が揺らす。

 周囲の熱気に反するように冷め切った表情のまま。

 

 アイザック・ヴォルティス

 

 この時の彼はまだ知らない。

 その先で出会う事となる少年と少女が、人類最後のマスターとそのデミ・サーヴァントである事。

 

 そして、自分自身もまた、人類史の命運を賭けた旅に関わることを──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また随分と妙なのが紛れ込んでんなぁ」

 




執筆は実に10年ぶり。
かつての書き方を忘れてしまった為に出来は悪いです。
暇つぶし感覚で呼んでください。

主人公は参加させて頂いたTwitter企画「黄昏のエルメリア」の中で創作された「とある帝国」に登場するオリジナルキャラクターです。
生みの親が言うのもアレですが、クソめんどくさい男です。
要介護レベルMAXの問題児。

どうぞよろしくお願いします。
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