ニチアサみたいな魔法少女のいる世界観なのに明らかに設定を間違えたモンスターパニック物に出てきそうな怪生物がログインしてきた話   作:二度見屋

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映画「ライフ」を見て思いついたネタ。
魔法少女が出てくるのは第5話から。
SF要素強め。


第1話

事の始まりは、ごくありふれた平凡な実験からだった。

 

とある大学の付属研究施設。

 

薄暗い実験室で、白衣を着た若い研究員が、密閉されたガラス製シャーレの中にある小型の培養槽を退屈そうに見つめていた。

 

培養槽の中には、微温湯のような粘性のある液体が満たされており、そこにはごく一般的な原核生物のコロニーが漂っていた。

 

細胞内に明確な核膜を持たず、ミトコンドリアや葉緑体のような高度な細胞内小器官も持たない、極めて原始的なバクテリアのモデル生物である。

 

彼がやろうとしている実験の目的は単純なものだ。

 

このありふれたバクテリアに対し、放射線を一定時間照射し、そのDNAの二重鎖切断と、その後の修復プロセス──非相同末端結合や、相同組換え修復の挙動を観察する。

 

放射線耐性菌のメカニズム解明の糸口を探る。という名目ではあるものの、過去に世界中の研究者が何回も繰り返してきたであろう、基礎研究の退屈なトレースに過ぎない。

 

研究員がコンソールのボタンを押すと、照射装置から微量のガンマ線が培養槽に向けて放たれた。

 

目に見えない高エネルギーの電磁波は、培養液の中を漂うバクテリアたちを無差別に貫いた。

 

ガンマ線は細胞内の水分子を電離させてヒドロキシラジカルなどの強力な活性酸素種を大量に発生させ、それが細胞質を拡散して、生命の根幹である剥き出しのDNA鎖を化学的に攻撃し、物理的に引き裂いた。

 

塩基配列はズタズタに分断され、生命活動を維持するためのメッセンジャーRNAの転写、そしてリボソームにおけるタンパク質合成が完全に停止する。

 

バクテリアの99%は、細胞膜の浸透圧を維持するポンプ機能を喪失して破裂するか、タンパク質の凝集によって細胞質を維持できずに次々と死滅し、その内容物を液中に撒き散らしていった。

 

想定通りの現象である。

 

研究員は小さくあくびを噛み殺し、記録用のタブレットに「サンプルの大部分が死滅。残存個体群におけるDNA修復タンパク質RecAの活性化プロセスを継続観察」と打ち込んだ。

 

「ふぁ……。修復プロセスの進行を確認するのは一時間後でいいか。少し休憩室で仮眠をとろう」

 

研究員は首の骨を鳴らしながら立ち上がり、実験室の重い扉を開けて廊下へと出て行った。

 

 

彼が席を外した、およそ一時間の空白。

 

 

空調の低い駆動音だけが響く静寂に包まれた実験室の、極小の宇宙の中では、天文学的な確率の悪魔がひっそりと産声を上げていた。

 

培養液の底に沈みかけた無数の死骸の中で、一つの細胞が生き残っていた。

 

その細胞もまた、ガンマ線と活性酸素によってDNAの螺旋を数十箇所にわたって致命的に切断されていた。

 

通常であれば、修復タンパク質が限界を超えて枯渇し、そのまま修復不能なエラーを起こして細胞死に至るはずだった。

 

だが、切断されたDNAの断片が強引に再結合しようとするその時、地球の生命史において、かつて発生したことのない、一つの異常な突然変異のスイッチが入ってしまった。

 

放射線による直接的な塩基の置換と欠失が奇跡的な配列を生み出し、本来DNAの修復を担うはずの酵素群が、狂気的な機能不全――いや、機能の「裏返り」を起こしたのだ。

 

それは、自らのゲノムをランダムに切断する「エンドヌクレアーゼ(制限酵素)」と、デタラメな配列のまま強引に繋ぎ合わせる「DNAリガーゼ」の暴走であった。

 

さらに、ゲノム上の位置を自由に移動する「トランスポゾン」の転移抑制機構が完全に崩壊。結果としてその細胞は、「自身のDNA鎖を能動的に切り刻み、デタラメな配列に再結合させ続ける」という、自殺行為に等しい形質を獲得してしまったのである。

 

通常、生物の突然変異とは世代交代――すなわち細胞分裂の際のDNAポリメラーゼのミスコピーによってのみ生じる。

 

しかしその単細胞生物は、分裂の時を待つことなく、今まさに生きているその瞬間に、自らの設計図を無作為に変異させる能力を獲得してしまったのだ。

 

その単細胞生物は、通常のバクテリアと同じ極めて緩やかな速度で、最初の細胞分裂のプロセスに入ろうとしていた。

 

周囲には、放射線で死滅したバクテリアたちの死骸が豊富に漂っている。

 

細胞膜が破綻し、液中に溶け出した大量のアミノ酸、核酸、そして脂質は、新たな細胞を作り出すための絶好のリソースであった。

 

だが、分裂を待つ間にも、細胞の内部では無作為なDNAシャッフルが延々と繰り返される。

 

「環境が変化したからそれに適応する」というような高度な目的意識はない。

 

平時から呼吸をするように、意味もなく手当たり次第に突然変異を繰り返すのだ。

 

DNAの配列が書き換えられるたびに、セントラルドグマのプロセスを経て、全く未知のタンパク質が合成される。

 

疎水性と親水性のアミノ酸残基のバランスが完全に崩れた膜タンパク質が合成され、自らの脂質二重層に巨大な穴を開けて細胞質が漏れ出しかける。

 

その次の瞬間には、不要な毒素タンパク質が大量合成され、正しい立体構造に失敗した不良タンパク質が細胞内で凝集し、自らの代謝経路を物理的に塞ぎかける。

 

さらにそのすぐ後に、長くしなやかな鞭毛を構成するフラジェリンタンパク質を無秩序に生成し、液中を無軌道に泳ぎ回った直後にATPを枯渇させかける。

 

エラーを起こしてはギリギリで死を免れ、修復する間もなくまたデタラメなエラーを起こす。

 

そんな自傷行為のような変異を繰り返す中で、単細胞生物はようやく最初の分裂を終え、二つの個体に分かれた。

 

分かれた単細胞生物たちは、それぞれが「突然変異」の形質を受け継いでいた。彼らもまた、デタラメな自己書き換えを続けながら次の分裂を行う。

 

当然のことながら、生み出された変異体のほとんどは、生命維持に必須な酵素系の遺伝子まで破壊してしまい、致命的なエラーを引き起こして自壊していく。

 

ミクロの世界で絶え間なく繰り広げられる、自らの設計図を破壊し尽くす地獄絵図。

 

しかし、その死の海の中で、偶然にも「細胞分裂のプロセスに関わるシステム」をわずかに効率化する変異を引き当てた個体が誕生した。

 

DNA複製の起点をゲノム上に複数配置することに成功し、複製酵素であるDNAポリメラーゼの反応速度を限界まで高め、分裂にかかる時間を他の個体よりもほんの数パーセントだけ短縮した個体だ。

 

この閉鎖空間において、分裂速度の差は絶対的な生存競争の優劣に直結する。

 

少しでも早く分裂できる個体は、他の個体よりも早く周囲の死骸(リソース)に辿り着き、輸送タンパク質を通じて細胞内にアミノ酸を取り込み、さらに数を増やすことができる。

 

細胞分裂とは、周囲の物質を自らの質量に変換する熱力学的な闘争である。

 

変異、分裂、エラー、死滅。そして死骸の捕食。

 

生き残った「少し分裂が早い個体」が、さらにデタラメな変異を繰り返し、偶然「さらに分裂が早い個体」を生み出す。

 

新世代は旧世代がリソースを食べる前に平らげ、細胞壁の主成分であるペプチドグリカンの合成すらも簡略化し、圧倒的な速度で覇権を塗り替えていく。

 

とはいえ、たった一時間の間に細胞分裂が物理法則を無視した速度に達するわけはない。どれほど酵素の反応速度が最適化されても、分子が拡散し、結合する化学反応の物理的限界を超えることはできない。

 

一時間が経過した時点でも、コロニーの総数はまだ顕微鏡でなければ視認できない微小なスケールに留まっていた。

 

周囲の死骸をいくら取り込もうと、培養槽の液体は、肉眼で見る限り透明なままだ。

 

だが、その限られた個体数、限られた体積の中で行われている「淘汰と適応の密度」は、通常の生物の何百万世代にも匹敵する異常な次元へと到達していた。彼らはただ分裂速度を化学的限界まで引き上げただけではない。

 

「無数の突然変異を乱れ撃ちにし、あらゆる形質のバリエーションをストックし続ける」という、常軌を逸した生存戦略を完全に確立していたのだ。

 

 

一時間後。

 

 

休憩室から戻ってきた研究員は、コーヒーの入った紙コップを机に置き、椅子に深く腰掛けた。

 

タブレットの画面をスワイプして実験機器のステータスを確認し、再び顕微鏡の接眼レンズを覗き込む。

 

「さて、生き残ったのはどれくらいか……な……」

 

レンズを覗き込んだ研究員の口から、言葉が消えた。

彼の視界に飛び込んできたのは、見慣れた大腸菌のような、あるいは枯草菌のような、緩慢に蠢く桿菌の姿ではなかった。

 

 

 

『それ』は、悍ましいほどに蠢いていた。

 

 

 

視野の中央、放射線で死滅した細胞の残骸が漂う空間に、異形の単細胞生物のコロニーが形成されていた。

 

それらは細胞膜の表面からマクロファージの仮足のような無数の微細な突起を伸ばし、周囲の死骸を強引に引き寄せては、食作用(ファゴサイトーシス)に似たプロセスで自身の内部に貪欲に取り込んでいる。

 

取り込んだ端から、通常の原核生物の分裂サイクルを完全に無視した恐ろしい速度で中央からくびれ、二つの個体に分裂していく。

 

さらに研究員の科学的常識を根底から粉砕し、彼を驚愕させたのは、分裂した個体がそれぞれ全く異なる形質を現していることだった。

 

あるものは細胞壁を持たないマイコプラズマのような不定形へと姿を変え、あるものは運動性を獲得して長大な鞭毛を生やし、あるものは硬質な芽胞のような殻を被り、あるものは内部に硫黄粒のような奇妙な結晶体を生成している。

 

平時から行われている突然変異の暴走だ。

 

一個体が分裂のたびに、いや、分裂による世代交代を待たずして、その外見と内部構造を書き換え続けている。

 

「な、なんだこれ……ッ!?」

 

研究員は顕微鏡から顔を上げ、培養槽とモニターを交互に見た。

 

心臓の鼓動が早くなる。コンタミ(雑菌の混入)か?いや、密閉されたガラス製のシャーレの中でそれはあり得ない。

 

実験前の滅菌プロセスは完璧だった。

 

ならば、あの放射線照射によって、サンプルが未知の突然変異体に進化したとでもというのか。

 

地球上のどの文献にも、単一の種がこれほど短時間で多様な形質を同時に発現させ、なおかつコロニーとして存続している例など存在しない。

 

突然変異とは、通常であれば生命システムを破壊する致命的なバグだ。それをこれほどの頻度で起こしながら、なぜ自壊しない。

 

「馬鹿な……。なんだこの細胞周期の短さは。それにこの形態変化のバリエーション……一個体が別の種になっているようにすら見えるぞ。プラスミドの水平伝播などというレベルじゃない、自己のゲノムを内側からリアルタイムに書き換えているのか!?」

 

研究員は震える手で顕微鏡の倍率をさらに上げ、その異様な生命体の生態を食い入るように観察した。

 

細胞が自らの膜を波立たせ、内部のタンパク質構造を瞬時に再構築していく様がはっきりと見える。ある細胞は不要な代謝産物を合成して自滅し、隣の細胞はそれを養分として取り込み、また別の異形へと姿を変える。

 

生存に不適格なエラー個体が次々と死滅していく一方で、それを上回る速度で分裂と変異が繰り返され、生存に有利な形質だけが蓄積され、コロニー全体の活動は留まることを知らない。

 

恐怖よりも先に、純粋な科学的困惑と、そして研究者としての強烈な好奇心が研究員の脳髄を完全に支配した。

 

「未知の突然変異を行うバクテリア……いや、これはもはや現代生物学の常識にすら収まらない。こんなデタラメな自己書き換えをしながら増殖できる生物が実在するなんて」

 

彼は慌ててデスクの上のタブレットを手に取り、顕微鏡のカメラ機能と連動させている高解像度の録画ボタンを押した。

 

この異常な生態を記録に残さなければならない。彼らがどのような生化学的メカニズムでこの無秩序なDNA切断と再結合を制御しているのか。あるいは制御などされておらず、単なる暴走状態が奇跡的な確率で均衡を保っているだけなのか。

 

あの放射線が、生命の設計図にどのようなバグを生み出し、この怪物を産み落としたのか。

 

「このまま観察を続けよう。こいつらがこの限られた培養液の中で、次に何を見せるのか……」

 

研究員は息を呑み、瞬きすら惜しむようにレンズの奥のミクロの狂宴を見つめ続けた。

 

この時、彼はまだ気づいていなかった。自分が観察しているこの微小な細胞の塊が、やがて完全なる特異点へと成長していくことに。

 

ただひたすらに無秩序な変異と増殖を繰り返すその細胞群は、まだ目的も、意志も持たない単なる有機物の暴走に過ぎない。しかし、その底知れぬ生命の奔流は、培養槽という極小の宇宙の枠を静かに、しかし確実に侵食し始めていた。




この小説にはめっちゃ科学的な説明とかが挟まれてますが、ほとんどはAIくんに書いてもらった説明なので、事実と異なる場合があるかもしれません。作者はそんな科学的知識無いので……
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