ニチアサみたいな魔法少女のいる世界観なのに明らかに設定を間違えたモンスターパニック物に出てきそうな怪生物がログインしてきた話   作:二度見屋

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第17話

A地区の崩落現場。山のように積み重なる瓦礫の前に一筋の赤い光が舞い降りた。

 

真紅のドレス姿へと変身を遂げた炎の魔法少女、アキである。

 

「待たせたわね!」

 

アキが声をかけると、崩れかけたコンクリート塀の陰から、青いドレスを纏った氷の魔法少女、マリナが姿を現した。彼女もまた、相棒の到着を待つ間に戦闘態勢へと変身を済ませていた。

 

「来るのが遅いわよ。ターゲットはこの地下よ」

「仕方ないっすよ! 警衛隊の目を盗んで飛んでくるのは結構骨が折れるんすから!」

 

アキの肩に浮かぶ赤い妖精・イオが、上下に明滅しながら不満げに弁明する。

 

「言い訳はよろしいかと。二人とも、警戒を怠ってはいけませんよ」

 

マリナの肩に浮かぶ青い妖精・レミが、お淑やかながらも厳しい口調でたしなめた。

 

マリナは手にした結晶を模したステッキで、瓦礫の山を静かに指し示した。

 

アキはその視線の先を追い、周囲に広がる異様な光景に息を呑んだ。

 

瓦礫の隙間から、まるで太い樹木の幹のような円柱状の組織が何本も天に向かって不気味に伸びていた。その先端には巨大な膜が広がり、真昼の太陽光を浴びて微かに脈打っている。

 

「なによこれ……植物? それにしては気持ち悪すぎるわ」

「ええ。魔力は感じないけれど、明らかに自然の物じゃない。おそらく、あの白い怪物が作り出したか、あるいは……」

「親玉であるカグヤの能力、ってわけね」

 

アキはステッキを強く握り直した。

 

「気をつけてくださいね。ここからは完全に敵のテリトリーです。どんな罠があるか分かりませんよ」

「分かってるわ、レミ。でも、街を壊してあんな化け物を従えてる奴を、このまま放置するわけにはいかない」

 

アキの瞳に、揺るぎない正義の炎が灯る。

 

二人は、太い幹のような組織が伸びている中心部へと向かった。

 

そこには、ポッカリと暗闇へ続く大穴が空いていた。どうやらここが、地下へと続く唯一の出入り口のようだ。

 

二人は互いに頷き合うと、音を立てずにその穴から真っ直ぐに地下空間へと飛び降りた。

 

ふわりと着地した先は、コンクリートや鉄骨の無機質な空間ではなく、淡い光が照らし出す、広大な部屋だった。

 

壁や床の質感は硬質なキチン質やケラチン質で構成されており、ホテルのスイートルームのレイアウトに酷似しているが、足裏からは微かな体温のような熱が伝わってくる。

 

「……ねえ、この部屋」

「ええ……壁も床も、微かに脈打ってる。この部屋自体が、生きてるわね」

 

まるで巨大な生物の胃袋の中に降り立ったような悪寒を覚えながら、二人は部屋の中央に視線を向けた。

 

しなやかな筋繊維で編み上げられたような、純白の体毛に覆われたベッド。

 

その上で、黒いワンピースを身に纏った幼い少女がゴロゴロと寝転がっていた。

 

そして少女の傍らには、追跡のターゲットである白亜の装甲を持つ怪物が、微動だにせず直立している。

 

「見つけたわよ。……カグヤ!」

 

アキがステッキを突きつけ、凛とした声で部屋中に響き渡るように声を上げた。

 

マリナも即座に横に並び、いつでも魔法を放てるよう冷気を練り上げる。

 

彼女はパンフレットらしき紙切れを片手に、退屈そうにそれを眺めていたが、侵入者の気配に気づくと、面倒くさそうに上半身を起こした。

 

「……なんじゃ。またうっとおしいやつらが来たのう」

 

カグヤは寝起きの目を擦りながら、アキとマリナを交互に見て、大きなあくびを噛み殺した。

 

アキがステッキを構え、声を張り上げた。

 

「悪魔の親玉カグヤ! この街をめちゃくちゃにした罪、ここで償ってもらうわ!」

「悪魔の親玉ぁ?」

 

カグヤは小首を傾げ、それから心底どうでもよさそうに鼻をほじった。

 

「あー、その勘違いか。……訂正するのも面倒じゃし、好きに呼べばよいわ。……それより、お主ら、妾の安眠を妨げに来ただけならとっとと帰れ。妾は眠いんじゃ」

 

「ふざけないで!」

 

アキが声を荒げるが、カグヤはまるで相手にしない。彼女は壁際に静かに佇んでいた白い装甲の人型へと、気だるげに視線を向けた。

 

「ポチ。そのうるさいのをつまみ出せ」

 

カグヤの言葉に、アキとマリナは身構えた。壁際にいた異形——ポチが、ゆっくりとこちらへ顔を向ける。

 

しかし、ポチはその場から動かなかった。

 

ポチは、カグヤの発した「ポチ」「つまみ出せ」という声を確かに聞いていたが、いまだその意味を完全には解読できていない。

 

「ポチ」という音が自己を指す識別標識であることも、「つまみ出せ」という命令が何を要求しているのかも、まだ統計的な確証を得るには至っていなかった。

 

ポチはただ、眼前の二つの個体を観察していた。

 

赤い外装の個体。これは数千度の熱量で自己の肉体に致命的な損傷を与えた、警戒すべき脅威である。

 

青い外装の個体。こちらも前回遭遇した際には、こちらへ向かって謎の方法で攻撃を仕掛けてきた存在だ。

 

ポチのデータベースにおいて、これらの二足歩行個体は「こちらから攻撃しなければ、大きな音を発しながら離れていく」存在として分類されている。ゆえに、現時点で能動的に接触するのはリスクが高い。ポチは静観を選択した。

 

「来ないっすね……?」

 

イオが訝しげに呟く。

 

「カグヤが命令してるのに、従ってない。あの怪物……やっぱり、ただの悪魔じゃないわね」

「どっちでもいいわ。今のうちに、まとめて片付けるだけよ!」

 

アキがステッキを振りかぶろうとした、その時。マリナがその腕を掴んで制した。

 

「待ちなさい」

「何よ! せっかくのチャンスでしょ!」

「冷静になって。ここで戦うのは悪手よ」

 

マリナは鋭い視線を周囲——脈打つ生体組織の壁へと走らせた。

 

「この部屋自体が、あの怪物の体の一部だとしたら? 私たちは今、敵の体の中にいるのと同じよ。こんな閉鎖空間で、しかも足場も壁も全部敵だなんて状況で戦ったら、何をされるか分からない」

 

アキはハッとして、改めて周囲を見渡した。確かに、ゆっくりと収縮を続ける壁面は、いつ自分たちを押し潰そうと変形してもおかしくない不気味さを孕んでいる。

 

「……それもそうか。でも、じゃあどうするのよ」

「外に引きずり出すのよ」

 

マリナは天井を見上げ、自分たちが入ってきた入り口を冷たく見据えた。

 

「この部屋を破壊すれば、あいつらは嫌でも地上に出てくる。広い場所でなら、私たちの連携も活きる。いくわよ」

 

「了解!」

 

二人は同時に魔力を足元に噴出させ、爆発的な推進力で天井から飛び出した。

 

二人は瓦礫の上の地上へと舞い戻る。夜の帳が下り始めた崩落現場に、月明かりが薄く差し込んでいた。

 

「燃え尽きなさい!」

 

空中に浮かび上がったまま、アキはステッキを地下の穴へと向けた。極限まで圧縮された数千度の火球が、連続して生体ルームの内部へと撃ち込まれる。

 

ドゴォォォォンッ!!

 

爆炎が地下から噴き上がり、赤黒い組織が瞬時に沸騰して蒸発する。生体ルームの壁面が、内側から焼かれて激しく痙攣した。

 

地下深く。

 

突如として肉体を焼かれる強烈なシグナルが、ポチの神経網を貫いた。

 

『攻撃』

 

生体ルームを構成する細胞群が、致死的な熱量によって次々と炭化し、死滅していく。

 

これは明確な破壊事象である。

 

ポチの行動原理が、静観から反撃へと即座に切り替わった。

 

カグヤの命令の意味はまだ分からない。だが、自己の肉体が攻撃されているという事実は、解読を必要としない直接的な脅威だった。

 

人型のポチは、地下の床を蹴り砕き、アキたちが穿った天井の穴から地上へと飛び出した。

 

「来ました!」

 

レミが叫ぶ。

 

月明かりの下、白亜の装甲を纏った異形の巨人が、瓦礫の上に降り立った。黒い複眼と額の眼球が、二つの脅威を正確に捉える。

 

凄まじい衝撃と共に、白亜の装甲を持つ身長二メートルの巨体が地上に降り立つ。

 

「あいつ見かけによらず機敏よ。気をつけて」

「ええ。分かってるわ。……誘い出されたとも知らずに。バカな化け物ね」

 

空中に滞空していたアキが、ニヤリと笑った。

 

アキはステッキを振りかぶり、ポチの頭上から数千度の火球を連続して撃ち下ろす。

 

ドゴォン! ドゴォン!

 

ポチは着地の姿勢から滑らかに動きを移行させ、瓦礫を蹴り砕きながら火球の雨を回避する。

 

だが、それは魔法少女たちの計算通りの動きだった。

地上で爆発する炎を避けるため、ポチが瓦礫の山を蹴って空中の敵へ向けて大きくジャンプした、その瞬間。

 

「もらったわ!!」

 

死角となる瓦礫の陰に身を潜めていたマリナが、空中に投げ出され回避行動が取れないポチに向けて、ステッキを突き出した。

 

マリナの権能である「氷」の魔力が、絶対零度に近い超低温の波動となって空中のポチを直撃した。

 

パキィィィンッ!!

 

空気を震わせる凍結音。

 

身長二メートルの巨体が、わずか数秒で足先から頭の頂点まで、分厚く強固な白銀の氷に完全に閉じ込められた。

 

悪魔ですら一瞬で行動不能にする、細胞内の水分ごと凍結させる絶対の拘束。

 

氷漬けになったポチの巨体は、空中でピタリと静止し、そのまま重力に従って瓦礫の山へとズシンと落下した。

 

極低温に晒された瞬間、ポチの表面を構成する組織において、致命的な現象が発生していた。

 

細胞質内の水分が急速に凍結し、氷の結晶となって鋭く膨張する。微小な氷の刃が内側から細胞膜をズタズタに引き裂き、表面組織の数億という単位の細胞が一瞬にして破壊され、死滅していく。

 

かつて経験した炎による熱とは全く異なる、分子の運動を強制停止させる「死」のアプローチ。

 

だが、体内の深部に残った細胞群は、即座にこの致死的な環境ストレスに対して、変異を繰り返していた。

 

ポチの体内深部で、生き残った細胞たちが秒単位でデタラメな自己書き換えを繰り返す。

 

ある細胞はミトコンドリアと似た細胞小器官をいくつも増設し、それらを暴走させて熱を出したが、エネルギーを使い果たして凍死した。

 

またある細胞は水分を吐き出し、凍ることがないように適応しようとし、乾燥して死滅した。

 

何百万という細胞がエラーを起こして死に、凄絶な屍の山を築いていく。

 

やがてその無数の試行錯誤の中から、細胞内に『不凍タンパク質』と高濃度のグリセロールを合成する二種の変異細胞が偶然にも誕生した。

 

ポチは即座にそのDNAを持った細胞群を生き残った組織へと散らばらせ、内部から氷を砕くために、爆発的な速度で増殖させようとした。

 

しかし。

 

「燃え尽きなさい!!」

 

ポチの細胞が極低温への「適応」を完了させるのを、魔法少女たちは待ってはくれなかった。

 

氷の塊となって落下したポチに向けて、アキが空中でステッキを振り抜いた。

 

極限まで圧縮された数千度の巨大な火球が、氷漬けのポチの胴体へと一直線に突き刺さる。

 

氷による極低温からの、炎による超高温への急激な温度相転移。

 

ポチの表面組織に付着していた分厚い氷と、破壊された細胞から漏れ出ていた水分が、数千度の熱を浴びて一瞬で沸騰した。

 

液体化のプロセスを飛ばして超高圧の水蒸気へと変化したそれは、密閉された装甲の内部で凄まじい体積膨張を起こす。

 

ドグシャァァァァァンッ!!!

 

大気を揺るがす猛烈な水蒸気爆発が炸裂した。

 

急激に膨張した凄まじいガス圧に、凍結したポチの肉体は耐えきれなかった。白亜の巨体が無数の肉片となって夜空に四散する。赤黒い飛沫が雨のように瓦礫の上へと降り注いだ。

 

「やったっすね!」

 

イオの喜ぶ声を聞きながらアキが瓦礫の上に着地し、肩で息をする。

 

「これで、あの怪物は……」

 

だが、その言葉が終わるよりも早く。

マリナの表情が凍りついた。

 

「あれは……!」

 

地下へと続く穴。その奥の暗闇から、地響きとともに、二つの巨大な影がせり上がってきた。

 

それは——白亜の装甲を纏った、二体の人型のポチだった。

 

「嘘でしょ……二体!? どこから……!」

 

アキが愕然と後ずさる。

 

地下の生体ルーム。その本体は、アキの最初の火球が撃ち込まれたまさにその瞬間から、新たな人型個体の合成を開始していた。

 

一体が地上で破壊されようとも、即座に補充できるよう、予備の端末を体内で育てていたのだ。

 

爆散した一体と入れ替わるように、二体の新たなポチが瓦礫の上に降り立ち、その複眼を二人の魔法少女へと向ける。

 

「……二体に増えた……これは、まずいかもね……」

 

マリナが冷たい汗を額に滲ませながら、状況を分析した。

 

「しかも、あの個体はどっちも、あの地下の穴から這い上がってきた。あそこが、こいつらを生み出してる供給源……あの脈打つ部屋そのものが、こいつらの大元って可能性が高いわ。だとすれば、いくら表に出てきた個体を倒したところで、あの部屋を潰さない限り、後から後から湧いてくるだけ。と言っても——」

 

マリナは、地下の暗闇を睨みつけた。

 

「あの閉鎖空間に踏み込むのは自殺行為。無策で突っ込むのは危険だわ」

 

アキは悔しげに、二体のポチと地下の穴を交互に睨んだ。せっかく拠点を突き止めたというのに、決定打を欠いている。このまま消耗戦を続ければ、いずれ自分たちの魔力が尽きるだけだ。

 

「……分かったわよ。今日のところは、引くわ」

 

アキが歯噛みしながら吐き捨てた。

 

「でも覚えときなさい! 次は絶対に、あんたもカグヤも、まとめて倒してやるんだから!」

 

二人は魔力を足元に噴出させ、夜空へと飛び上がった。瓦礫の上に取り残された二体のポチは、追撃する素振りも見せず、ただ無言で、遠ざかっていく二つの光をその複眼で見送っていた。

 

脅威が自己の領域から離れていく。これ以上の戦闘は不要なエネルギーの浪費である。二体のポチは静かに踵を返し、再び地下の穴へと潜り込んでいった。

 

地下の生体ルーム。

 

天井に穿たれた大穴から、焼け焦げた夜気と土埃が流れ込んでいた。アキの火球によって炭化した壁面の一部が、今もくすぶるように煙を上げている。

 

「ぬぅ……まったく、騒がしいやつらじゃ」

 

ベッドの上で、カグヤが鬱陶しそうに火球によって大穴の空いた天井を見上げていた。生体ルームの壁が攻撃を受けて激しく痙攣していた間も、彼女はそのベッドの上で微動だにせず、ただ不機嫌そうに寝ていただけだった。

 

降り注ぐ瓦礫の一つすら、彼女の小さな体に触れる寸前で魔力による見えない壁に弾かれ、その身には傷一つ付いていない。

 

「ポチ! お主、何をぼけっとしておる! さっさとこの天井を閉じんか役立たずめ!」

 

戻ってきた二体のポチは、カグヤの怒声を浴びながらも、ただ静かにその場に佇んでいた。

 

ポチの神経網は、いまだ忙しなく稼働を続けていた。

今しがたの戦闘で交わされた、二つの個体——アキとマリナの発した無数の空気の振動。

 

それらの音声パターンを、ポチは余すことなく記録していた。

 

これらの音声は、特定の行動と紐づいている可能性が高い。その相関を統計的に蓄積していけば、いずれこの「音」の体系を解読できるかもしれない。

 

ポチの脳裏で、膨大な音声データが解析テーブルへと書き込まれていく。

 

地上で正義感に燃える二人の魔法少女が、未知の脅威に頭を悩ませているその裏で。

 

理外の怪物は、人類の「言葉」という最後の壁を、静かに、しかし確実に切り崩し始めていた。




ポチくんは「二体敵いるしこっちも二体出しとくか……」くらいのノリで分裂しました。無限湧きではなくてカルシウム量的にあと三体くらいしか同じクオリティの装甲を持った分裂体は出せない。
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