ニチアサみたいな魔法少女のいる世界観なのに明らかに設定を間違えたモンスターパニック物に出てきそうな怪生物がログインしてきた話 作:二度見屋
昼下がりの太陽が照らす街中。
平和なはずの大通りは、突如として阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌していた。
「ひぃぃぃッ! た、助けてくれぇっ!」
「嫌ッ、こっちに来ないでぇっ!!」
逃げ惑う群衆がアスファルトの上を我先にと駆け抜け、転倒した者の悲鳴や、乗り捨てられた車のクラクションが街中に木霊する。
彼らの背後に迫るのは、全長五メートルにも及ぶ巨大なムカデの姿をした異形の怪物であった。
幾つもの節分かれした黒光りする甲殻を持ち、数十対の刃のような脚がアスファルトを削りながら、ワサワサと不気味な音を立てて這い進んでくる。
「悪魔」である。
彼らは本来、この世界には存在しない、別世界の存在だった。
何世紀も昔、妖精たちが元いた世界は悪魔に滅ぼされ、なんとか逃げ延びた妖精たちは、次元の壁を越えてこの地球へとやってきた。
だが、それを追うかのように、妖精たちが通った事で次元に空いた「道」を通り、この世界にも姿を現すようになった外来生物。
それを人々は「悪魔」と呼んだ。
悪魔たちは人間の持つ「絶望」や「恐怖」といった負の感情を糧にして生きている。
そのため、彼らの姿は一様に、人間が根源的に忌み嫌う虫や爬虫類など、恐怖の象徴を具現化したようなおぞましい姿をしているのが常だった。
休日の街を歩いていたパーカー姿の少女、アキは、地響きと人々の悲鳴を聞きつけて足を止めていた。
「この嫌な気配……悪魔ね」
彼女の肩にかけられたカバンに隠れるように入っている光の球――妖精が、震えるように明滅しながら答える。
「間違いないっす、アキ! 大通りの方に現れたみたいっす!」
「急ぐわよ!」
アキは人々が逃げてくる方向とは別の方へ走り出し、誰もいない薄暗い路地裏へと飛び込んだ。
周囲に一般人がいないことを確認すると、アキは天高く手を掲げて叫んだ。
「いくわよ! 『プリズマチェンジ』!!」
アキの掛け声と共に、彼女の体が眩い光を放ち、彼女の身体を真昼の星のように包み込んだ。
光の帯がアキのパーカーとデニムを瞬時に光の粒子へと分解し、代わりに真紅の魔力が彼女の肢体を包み込むようにして新たな衣服を編み上げていく。
赤を基調とした煌びやかなフリルのスカート、胸元で結ばれた大きなリボン、そして足元には軽やかな純白のブーツ。最後に、炎を帯びた魔力の奔流が彼女の手の中に収束し、星の意匠が施された美しいステッキへと具現化した。
光が弾け、変身を終えた魔法少女がそこに立っていた。
「認識阻害の魔法もバッチリっすよ!」
「よし、行くわよ!」
アキは足元に魔力の炎を噴出させ、その爆発的な推進力を利用して路地裏から一気に空へと舞い上がった。
「シャァァァァッ!!」
巨大ムカデの悪魔が、逃げ遅れて腰を抜かした一人の青年に狙いを定め、紫色の毒液を滴らせる大顎を振り上げた、その時。
「そこまでよ、気色悪い虫ケラ!」
凛とした少女の声が空から響き渡り、悪魔と青年の間に、一筋の赤い流星が降り立った。
アスファルトが円形にひび割れ、土煙の中から現れたのは、煌びやかなフリルとリボンをあしらった赤いドレスに身を包んだ、一人の魔法少女であった。
「ま、魔法少女だ……!」
「助かった……! 魔法少女が来てくれたぞ!!」
逃げ惑っていた市民たちが足を止め、絶望に染まっていた顔にパッと「希望」の光を宿す。
魔法少女。
それは、悪魔たちから逃れてきた妖精から、その魂を分け与えられることで、魔力という特殊な力を授かった、選ばれし思春期の少女たちである。
妖精は愛や希望といった正の感情を糧として、魔力という未知のエネルギーを産み出すが、元いた四次元の世界と環境の違うこの三次元の異世界では、自らの存在を維持するために魔法を使うだけで精一杯であり、戦う余裕を持たない。
そのため、自分たちと精神構造の近い少女に魂を分け与える事で力を託し、人類と共生する道を選んだのだ。
しかし悪魔の中には、人間並みの知性を持ったタイプも確認されている。魔法少女の身元が奴らにバレれば、その家族や友人にも危険が及んでしまう。
そのため、彼女たちは「プリズマチェンジ」という言葉と共に姿を変え*1、その身分を隠しながらも、人々の希望の象徴として悪魔と戦い続けている。
「ギシィィィッ!!」
獲物を横取りされた巨大ムカデの悪魔が、怒り狂ってアキへと突進してくる。
「単調な攻撃ね!」
アキは一歩も退くことなく、ステッキを正面に構える。
魔法少女たちは妖精から与えられた魔力を使って変身し、その身体能力を飛躍的に向上させるだけでなく、一人につき一種類のみ『権能』と呼ばれる固有の特殊能力に目覚める。
ある者は雷を、ある者は氷を操るように、個々人によって全く性質が異なるその力。
そして、アキに宿った権能は、「炎」
魔力によって顕現した炎が、バスケットボールほどの大きさの火球となって悪魔に突進する。
しかし、その攻撃を悪魔は巨体をくねらせながら回避すると、アキを包囲するように周囲のビルの壁面を高速で這い回り始めた。
無数の脚がビルの窓ガラスを粉砕し、全方位からの死角を突こうと狙いを定める。
「撹乱か……でも、動きのパターンは読めるわ!」
アキは冷静だった。勝ち気な性格とは裏腹に、彼女は戦闘において常に相手の能力と限界を測りながら動く。
アキはステッキを空へ向けて振り抜き、周囲の空気を一気に加熱して上昇気流を発生させた。同時に、魔力で圧縮した無数の小さな火球を、悪魔が這い回るビルの壁面に向けて散弾のようにバラ撒く。
「ギァァァッ!?」
火球の爆撃を受けた悪魔がバランスを崩し、ビルの壁面から大通りへと落下する。
そこを狙いすましていたかのように、アキは大きく跳躍し、空中でステッキに極限まで魔力を収束させた。
「燃え尽きなさい!!」
アキの放った火炎放射が、一直線に悪魔の巨体を包み込む。
「ギャァァァアアアッ!?」
アキの放った強力な魔力の炎は、悪魔の存在そのものを跡形もなく消し炭へと変えていく。
断末魔の叫びと共に、巨大ムカデの悪魔は黒い炭に燃え尽きた。
「助かった!!」
「ありがとう!!」
大通りに、市民たちの割れんばかりの歓声と拍手が響き渡る。
アキは市民たちに向けて手を振り、ふわりと空へ舞い上がると、人目のつかないビルの屋上へと飛び去っていった。
「ふぅ……一件落着っすね!」
屋上に着地し、煌びやかなドレスから、普段の私服のパーカー姿へと戻ったアキに、妖精が労いの言葉をかける。
「ええ。やっぱり、悪魔はああでなくちゃね。炎がちゃんと効く相手なら、いくらデカくても負ける気はしないわ」
アキはカバンからスポーツドリンクを煽りながら、ホッと息をついた。
先ほどの悪魔との戦いを通して、アキは改めて昨晩遭遇した「あの怪物」の異常性を痛感していた。
魔力を一切持たず、こちらの攻撃を受けながらも体を変化させて防ぎ切り、最後には不気味な白い装甲を作り出した謎の怪物。
悪魔とは何かが根本的に違う、何かの間違いで産み落とされたようなバケモノだった。
「でも、問題はあっちよね……」
アキはスマートフォンを取り出し、ニュースアプリの画面を開いた。
画面には、大々的な速報のテロップと共に、ヘリコプターからの空撮映像が流れていた。
『――昨晩未明、A地区を中心とした範囲で、大規模な建物の崩落が発生しました。ご覧のように、数棟の雑居ビルが壁面を貫通された形で倒壊しており、現場はまるで隕石でも落ちたかのような惨状で、今もまだ周辺区域は立ち入り禁止エリアに指定されています』
ニュースキャスターの緊迫した声が響く。
映像には、アキが昨晩あの怪物と戦い、そして「黒いワンピースの少女」と遭遇したまさにあの裏路地周辺が映し出されていた。
『目撃者の証言によると、倒壊の直前、二足歩行型の悪魔の姿が確認されたとの情報があり、警察はこれらの崩落事故を悪魔による被害と断定し――』
アキはギリッと奥歯を噛み締め、スマートフォンの画面を乱暴に消した。
「あいつら……! 私たちが撤退した後、街を破壊して回ったんだわ!」
アキの脳裏に、偉そうに胸を張っていたあの幼女――カグヤの姿と、あの異形の怪物の姿がフラッシュバックする。
「なんてことっすか……! 魔法少女のあいだで『世界征服を企んでる』って噂になってたあのカグヤってやつ、ついにあんなバケモノを従えて、本格的に街を壊し始めたんすよ!」
妖精もまた、画面の惨状を見てブルブルと震え上がっていた。
アキたちが撤退した後のことは分からない。しかし、あの少女が現れ、その直後に、あのバケモノと共にいた路地一帯のビルがボロボロに破壊されたのだ。
あいつらが徒党を組み、世界征服の第一歩として街を破壊したと考えるのが、彼女たちにとっての論理的な帰結だった。
「許さない……!」
アキは屋上のフェンスを強く握りしめ、眼下に広がる平和を取り戻した街並みを睨みつけた。
「あんな得体の知れない化け物を従えて、街をめちゃくちゃにするなんて。このまま放っておいたら、この街どころか、日本中があいつらのせいでメチャクチャにされちゃうわ」
彼女は炎の魔法少女としての強い使命感と共に、決意の炎をその瞳に宿した。
「カグヤ……。それに、あの訳の分からない化け物。次会った時は、絶対にまとめて仕留めてみせる!!」
少女の強い決意は、正義感と街を守るという純粋な希望に満ちていた。
――しかし、アキは知る由もなかった。
ニュースで報道されていたあの大規模なビルの倒壊が、カグヤによる「世界征服のための武力誇示」や「破壊活動」などという、大層な目的で行われたものではないということを。
妖精は本来、四次元の世界で生きる不老の存在。この三次元の世界だとすぐに消滅してしまう。(人間が漫画の中に押し込められてるようなもん)
それを魔法によって常に無理やり存在を固定してこの世界で生きている。
妖精には繁殖能力もあり、事故などの外的要因以外では基本的に死ぬ事はない。しかし魔法少女に魂を分け与えた後はその人間と同じ程度の寿命となる。