**【第33話】 秘密結社の侵略計画と、絶対防壁のシステム管理者(インフラエンジニア)**
### Scene 1:午前2時30分・地下要塞への侵入者と、ポンコツプレゼン
カバー株式会社の最深部、第1テクニカル・コントロールルーム。
無数のサーバーラックが放つ青白いLEDの光と、低い冷却ファンの唸り声が響くこの部屋は、ホロライブの全システムを統括するチーフ・テクニカル・プロデューサー、■■春樹にとっての「難攻不落の要塞」である。
しかし今夜、その要塞の防音扉が、けたたましいアラート音と共に電子ロックを強制解除された。
『ドガァァァンッ!!』
「刮目せよ、愚民ども! 秘密結社holoX、総帥のラプラス・ダークネス様が、この地下中枢を制圧しにやってきたぞ!!」
扉を蹴り開け、特大の角と袖の余った黒いコートを揺らして現れたのは、ホロライブ6期生(秘密結社holoX)の総帥、**ラプラス・ダークネス**だった。
そしてその背後から、ぞろぞろと個性的な四人のメンバーが雪崩れ込んでくる。
「もー、総帥! 会社のセキュリティシステムを物理的にハッキング(ドアの配線をショート)して開けるのはやりすぎですって!」
白衣を翻し、ピンク色の髪を揺らす頭脳派(?)研究者、**博衣こより**。
「そうだよ総帥〜、チーフ怒らせたら明日の配信の回線切られちゃうかも〜?」
ゆったりとしたオーバーサイズのパーカーに身を包み、シャチのフードを被った掃除屋、**沙花叉クロヱ**。
「ご、ご迷惑をおかけして申し訳ないでござる、チーフ殿! 拙者たちが止めたのでござるが……!」
刀を腰に差した(スタジオ用プロップ)、金髪碧眼の清純派用心棒、**風真いろは**。
「はぁ……まったく。チーフ、深夜に騒がしくして本当に申し訳ないわ。ほら、総帥、ちゃんと挨拶して」
最後に現れたのは、赤いレザージャケットと網タイツという大人の色気を漂わせる女幹部、**鷹嶺ルイ**だった。彼女の手には、紙袋(夜食の差し入れ)が握られている。
ホロライブ6期生。秘密結社holoX。
デビュー直後から凄まじい勢いでホロライブの生態系を侵略している、嵐のような五人組だ。
「……お前ら」
春樹は、メインモニターから一切視線を外さず、キーボードを叩き続けたまま冷たく言い放った。
「ここはカバーのインフラの心臓部だ。部外者(秘密結社)が勝手に入ってきていい場所じゃない」
「フハハハ! 貴様の言うことなど聞く耳持たん! 我らholoXは、今日こそ貴様のその『天才的な技術力』を奪い取り、世界征服のシステムに組み込んでやるのだ!」
ラプラスが春樹のデスクの横に立ち、胸を張ってふんぞり返る。
「奪う? 俺の技術を?」
春樹がピタッとタイピングの手を止め、椅子を回転させてラプラスを見下ろした。
「左様! こより、例のモノを見せてやれ!」
「はいっ、総帥! チーフ、これを見てください!」
こよりが前に進み出て、タブレットの画面を春樹の顔の前に突き出した。
「次回のholoX全体3Dライブ用の、こより特製・新兵器(演出)の設計図です! 名付けて『ホロックス・ウルトラ・ギャラクティカ・侵略ビーム』!! 3DスタジオのAR空間を完全にジャックして、地球全体が紫色に染まる特大のレーザーを宇宙から照射するんです!」
こよりが目をキラキラさせて語る。
春樹はタブレットの画面(エフェクトのパラメーター構成表)を2秒ほど見つめ、深く、とても深い溜息をついた。
「……博衣」
「はいっ! 天才的な発想にひれ伏しましたか!?」
「お前、この『地球全体を紫色に染める』エフェクト、ポストプロセスのカラーグレーディング(LUT)を全ピクセルに対してリアルタイムで適用しようとしてるな? しかも、ビームの光源計算(レイ・マーチング)のステップ数を『9999』に設定している」
こよりの耳が、ピクッと動いた。
「えっ? は、はい。だって、その方がビームが綺麗に、高解像度で描写できるかなって……」
「バカかお前は!!」
春樹の怒号が、コントロールルームに響き渡った。
「レイ・マーチングのステップ数を9999にして、4K解像度で出力したらどうなるか計算してみろ! フレームレートが0.01FPSに落ちて、配信画面が完全にフリーズする! それどころか、第3クラスターのGPUサーバーが熱暴走を起こして物理的に燃え上がるぞ!! 会社を物理的に侵略(破壊)する気か!!」
「ひぃっ!? も、燃える!?」
こよりが涙目になって後ずさる。
「だいたい、全体の色調を変えるなら、スクリーンスペースのシェーダーで環境光(アンビエントライト)のRGB値をブレンドすれば一瞬で終わる話だ! なんでわざわざ一番重い演算方法を選んだ! ぽんこよ(ポンコツ)にも程があるだろ!」
完全なるデータと物理演算の理詰めによる、圧倒的な論破。
ホロライブの頭脳(自称)であるこよりは、春樹の天才的なエンジニアリングの前に、一瞬にして撃沈した。
「うぅ……っ。こ、こよりは、総帥のために一番凄いビームを作りたくて……ぐすっ」
「泣くな。コードは泣いても軽くならない。タブレット貸せ、俺がシェーダーを書き直してやる」
春樹はこよりからタブレットをひったくり、凄まじい速度でソースコードの最適化を始めた。
「フ、フハハハ……! さすが貴様だな、チーフ。こよりの罠(ポンコツ)を瞬時に見抜くとは……!」
ラプラスが焦ったように腕を組んで強がるが、春樹はタブレットから目を離さずに言い返した。
「お前もだ、ラプラス。今日の夕方の収録の時、マントを翻すアクションが大きすぎてトラッキングの赤外線マーカーが隠れてただろ。次回からマントの裏側に補助マーカーを増設するから、大人しくスーツの採寸に来い」
「なっ!? 吾輩のマントに細工をするだと!? 貴様、総帥に向かって……!」
「文句があるならマントを脱げ。俺はエンジニアとして、トラッキングが飛ぶのが一番許せないんだ」
「うぐぐ……っ」
ラプラスもまた、春樹の絶対的な「裏方の正論」の前に沈黙した。
### Scene 2:オカン幹部の差し入れと、大人の裏方トーク
「あーあ。だから言ったでしょ、チーフに無茶な要求は通らないって。総帥もこよりも、大人しくしときなよー」
クロヱが、呆れたように言いながら、部屋の隅にある仮眠用ソファにドカッと座り込んだ。
「クロヱ殿、ここはチーフ殿の仕事場でおじゃる! ソファに寝転がっては迷惑でござるよ!」
いろはが慌ててクロヱを引っ張って起こそうとする。
「いいよ、いろはちゃん〜。ちょっと休むだけだし〜。チーフ、お風呂入ってないからって怒らないでね〜?」
「風呂に入れ。機材にホコリと皮脂の匂いがつく」
「辛辣ぅ〜!!」
わちゃわちゃと騒ぐ秘密結社のメンバーたち。
その中で、鷹嶺ルイだけが静かに春樹のデスクの横に立ち、持っていた紙袋をそっと置いた。
「はい、チーフ。いつもうちの子たちが迷惑かけてごめんなさいね。これ、夜食の差し入れ。今日は『自家製ローストビーフのサンドイッチ』と、疲れ目に効くベリーのスムージーよ」
「……ルイか。助かる」
春樹はタブレットのコード修正を終え、データ転送のプログレスバーを走らせながら、ルイの差し入れを受け取った。
「うちの総帥と研究者が、また何か無茶なシステムを要求したんでしょ?」
ルイが、困ったような、けれど愛情に満ちたオカンの笑みを浮かべる。
「あいつらの考えることは、常にサーバーの限界を突破しようとする。エンターテインメントとしては正解だが、システムとしてはテロだ。……だが、まあ。あの『突き抜けたアホさ』が、お前らholoXの強みだからな」
春樹がサンドイッチを頬張ると、ルイはフフッと笑った。
「チーフは本当に、言葉はキツいけど、タレントのこと一番よく見てくれてるわよね。……ルイ友(リスナー)たちも『チーフが裏にいるから安心だ』って言ってるわ」
鷹嶺ルイ。
彼女はholoXの女幹部として、そして実質的な「オカン(まとめ役)」として、暴走しがちなメンバーたちを常に後ろから支えている。
スケジュール管理から、メンタルケア、企画の進行まで。彼女の負担は計り知れない。
春樹は、ルイのそういう「裏方気質」な部分を、同じ管理者として高く評価していた。
「……お前も、あまり一人で抱え込むなよ、ルイ」
春樹は、スムージーを飲みながら、声を潜めて言った。
「俺は機材のログしか見れないが、お前が裏でどれだけあいつらのフォローに回ってるかくらいは分かる。……お前が倒れたら、holoXという組織は物理的にも精神的にも崩壊するぞ」
ルイの目が、少しだけ見開かれた。
そして、嬉しそうに目を細め、春樹にだけ聞こえる声で囁き返した。
「……ありがとう、チーフ。でも大丈夫よ。私には、いざという時に頼れる『カバーの裏番長(ビッグダディ)』がいるからね」
「俺はエンジニアだ。メンタルケアは専門外だ」
「あら、そう? じゃあ、このサンドイッチ、没収しようかしら?」
「……美味しくいただきます」
大人の余裕で春樹をからかうルイ。
二人の間には、同じ「手のかかる子供たちを抱える保護者」としての、確かな連帯感(同盟)が存在していた。
### Scene 3:総帥の威厳と、特等席(ビッグダディの膝の上)
「ちょっとルイ!! 貴様、吾輩を差し置いてチーフと何をイチャイチャしているのだ!!」
ラプラスが、二人の間に割って入ってきた。
「別にイチャイチャなんてしてないわよ、総帥。チーフに技術的な相談をしてただけ」
「嘘だ! 貴様ら、大人の空気感を出して吾輩を子供扱いしたな! 吾輩は秘密結社の総帥だぞ!!」
ラプラスは頬を膨らませ、春樹を睨みつけた。
「おいチーフ! 貴様のその偉そうな態度、気に食わん! 今から吾輩がその『メインコンソール』を占拠して、カバーのシステムをholoX色に染め上げてやる!」
ラプラスが、春樹の座っている高級ゲーミングチェアに突撃してきた。
春樹はため息をつき、「やめろ、お前がキーボードをデタラメに叩いたら……」と制止しようとしたが、ラプラスの動きは予想以上に素早かった。
『ぴょんっ』
ラプラスは、春樹を押しのけるのではなく、春樹とデスクの間の僅かな隙間に潜り込み――あろうことか、**春樹の膝の上にすっぽりと座り込んだ**のである。
「「「「えっ」」」」
ルイ、こより、クロヱ、いろはの4人が、一斉に固まった。
「ふ、フハハハ!! どうだチーフ! 貴様の玉座(ゲーミングチェア)は、このラプラス・ダークネス様が半分制圧したぞ!!」
ラプラスは、春樹の膝の上でドヤ顔を決めている。
「……おい。総帥」
春樹は、自分の膝の上にすっぽりと収まった、小柄な角の生えた少女を見下ろした。
「なんだ! 降参するか!?」
「お前、自分が今、どんな体勢になってるか分かってるか」
春樹は、ラプラスの頭の後ろに腕を回し、まるで「小さな子供を抱っこする」ような体勢で、キーボードに手を伸ばした。
「ひゃっ!?」
ラプラスの背中に春樹の胸が当たり、春樹の腕の中に完全にホールドされる形になる。
「な、なななな何をする貴様!! 離れろ!!」
「お前が勝手に俺の膝に座ってきたんだろうが。俺はコンソールを打たなきゃならない。お前がどかないなら、このまま仕事をするだけだ」
春樹は、膝の上のラプラスを完全に『クッション』か『ぬいぐるみ』のように扱い、彼女の頭越しにメインモニターのコードを打ち込み始めた。カタカタと軽快な打鍵音が響く。
「うぅ……っ。お、重い……! 貴様の腕が邪魔で動けん……!」
ラプラスが春樹の腕の中でじたばたと暴れるが、春樹の体幹はブレない。
「あはははは!! 総帥、完全にチーフに『抱っこ』されてるじゃん!! 子供扱いされてるぅ〜!!」
クロヱがお腹を抱えて大爆笑する。
「そ、総帥……! 威厳が……秘密結社の威厳が完全に崩壊しておりますでござる……!」
いろはが顔を真っ赤にして両手で目を覆う。
「チ、チーフ! ずるいです! こよりもチーフの膝の上に座って、直接コードの書き方を教えてもらいたいです!」
なぜかこよりが謎の対抗心を燃やし始める。
「こより、あんたはダメよ。重いからチーフの足が痺れちゃうでしょ」
ルイが冷静にツッコミを入れる。
「重くないもん! こよりはスリムボディだもん!!」
わーわーと大騒ぎになるコントロールルーム。
春樹は、膝の上で「降ろせぇぇぇ!」とジタバタするラプラスを片腕でホールドしたまま、ため息をついた。
「……お前ら。少しは静かにしろ。ここは保育園じゃないんだぞ」
「誰が園児だ!! 吾輩は宇宙を統べる存在だぞ!!」
「はいはい。宇宙を統べるなら、もう少し大人しくしてろ。お前の角が俺の顎に刺さって痛い」
春樹がラプラスの頭をポンッと軽く叩くと、ラプラスは「うぅぅ……」と顔を真っ赤にして、大人しく春樹の腕の中に収まってしまった。
(……なんだこれ。意外と温かくて落ち着くのだ……くっ、チーフめ、恐ろしい精神攻撃(マインドコントロール)を……!)
ラプラスが密かにそんなことを考えているとは露知らず、春樹は作業を続けた。
### Scene 4:6期生のプレッシャーと、ログが証明する『侵略の証』
「……終わったぞ、博衣」
数分後。
春樹はエンターキーを叩き、膝の上のラプラスをヒョイッと持ち上げて隣のパイプ椅子に移動させた。(「扱いが雑なのだ!」とラプラスが抗議したが無視した)。
「お前の書いたクソ重いシェーダーを、完全にオプティマイズ(最適化)した。これで、お前たちの言う『地球を紫色に染める極太レーザー』は、フレームドロップ(遅延)ゼロで、4K解像度で出力できる」
春樹がモニターを切り替えると、そこには、処理が劇的に軽くなり、かつ視覚的にも圧倒的な迫力を持ったレーザーエフェクトのテスト映像が映し出された。
「しゅ、しゅごい……!! こよりが計算した数式の、10倍効率的になってる……!! チーフ、天才です!! ぽんこよ脱却です!!」
こよりがモニターにへばりついて歓喜の声を上げる。
「チーフ殿、凄いでござる! これなら、我らの侵略の恐ろしさを、世界中の民に見せつけられるでござるな!」
いろはも目を輝かせる。
「……なあ、お前ら」
春樹は、はしゃぐ5人に向かって、少しだけ真面目な声を出した。
「お前たちが『地球を侵略する』だの『世界征服』だの言っているのは、ただの設定(ギミック)じゃない。……お前たちは、本気でホロライブという箱を、そしてバーチャルの世界を、自分たちの色に染め上げようと足掻いている。それは、裏でログを見ている俺が一番よく分かっている」
春樹の言葉に、5人はふっと静かになった。
ホロライブ6期生。
彼女たちがデビューした時、ホロライブはすでに巨大な世界的コンテンツとして完成されつつあった。先輩たちは皆、手の届かないような星々(スター)になっており、ファンの目も極度に肥えていた。
その中で、「新しい風」として受け入れられるかどうかのプレッシャーは、想像を絶するものだったはずだ。
「ラプラスの圧倒的なトーク回し。ルイの企画力と統率力。こよりの狂気的な配信頻度と探究心。クロヱの天才的な歌唱力とASMR。いろはのひたむきな努力と身体能力」
春樹は、メインモニターに、彼女たち5人がデビューしてからの『同接推移』『トラフィック量』『スーパーチャットの熱量』をグラフ化したものを表示した。
「お前たちのデビューからのデータの伸びは、歴代のどの期生とも違う『異常な角度』を描いている。お前たちは、既存のシステムに乗っかるのではなく、完全に新しい『パラダイム(枠組み)』をこの箱に持ち込んだんだ」
春樹は、立ち上がり、5人の顔を見渡した。
「……お前たちの侵略は、とっくに成功してるんだよ。このカバー株式会社のインフラが、お前たちの熱量(トラフィック)で毎日悲鳴を上げてるのがその証拠だ」
圧倒的なデータによる証明。
それは、どんな精神論よりも強く、彼女たちの心に刺さった。
「チーフ……」
ルイが、目尻を少しだけ潤ませて微笑んだ。
「ありがとう。……私たち、先輩たちみたいになれるかなって、いつも不安だったけど。チーフがデータでそう言ってくれるなら、自信が持てるわ」
「そうだよ! こよりたちの研究と侵略は、間違ってなかったんだよ!」
こよりも、ガッツポーズをして喜ぶ。
「うおー! じゃあ、次はもっと凄いの作っちゃうよ〜? チーフのサーバー、燃やしちゃうくらいに!」
クロヱが悪戯っぽく笑う。
「……それはやめろ。俺の胃に穴が空く」
春樹が顔をしかめると、ラプラスが腕を組んで高笑いをした。
「フハハハ!! 見たかチーフ! これが我らholoXの力だ! 貴様のシステムなど、すぐに時代遅れにしてやる! その時まで、せいぜい我らの足元を支える裏方として、馬車馬のように働くのだな!!」
強がりで、どこまでもクソガキな総帥の言葉。
しかし、その目には、春樹に対する深い信頼と感謝の光が宿っていた。
「……ああ。お前らがどんな無茶な侵略計画を企てようと、俺のシステムがお前らを絶対に落とさない。……せいぜい、世界中を振り回してこい、秘密結社」
春樹が不敵に笑い返すと、5人も最高の笑顔を見せた。
### Scene 5:夜明けの帰還と、終わらない侵略
「さて、と! 目的も果たしたし、明日のライブに備えて帰るわよ、みんな!」
ルイがパンッと手を叩いて号令をかける。
「はーい! チーフ、またねー!」
「チーフ殿、夜遅くまで失礼いたしましたでござる!」
「チーフ、次はこよりもチーフの膝に座る権利を獲得しに来ますからね!」
「……お風呂入ってからまた来るね〜」
わちゃわちゃと騒ぎながら、5人は防音扉の方へと向かっていく。
「おい、ラプラス」
春樹が声をかけると、一番後ろを歩いていたラプラスが振り返った。
「なんだ、名残惜しいのか? どうしてもと言うなら、また膝に座ってやってもいいぞ?」
「違う。お前のコートの襟、裏返ってるぞ。総帥がだらしない格好で帰るな」
春樹が指摘すると、ラプラスは「なっ!?」と顔を真っ赤にして、慌ててコートの襟を直した。
「き、貴様には関係ないのだ! これはファッションだ! ばかチーフ!!」
捨て台詞を吐いて、ラプラスは嵐のように部屋を飛び出していった。
バタン、と防音扉が閉まる。
静寂が戻ったコントロールルーム。
春樹は、ルイが置いていったローストビーフのサンドイッチの残りを口に運びながら、深く息を吐き出した。
「……まったく。次から次へと、システムを破壊しにくる奴らが絶えない会社だ」
しかし、その声に疲労の色はない。
むしろ、新しい技術的課題を与えられたエンジニアの、ゾクゾクするような歓喜が混じっていた。
春樹はキーボードを引き寄せ、先ほどこよりから受け取った『侵略ビーム』のエフェクトシェーダーに、さらなる最適化(オプティマイズ)を施し始めた。
「……地球を紫色に染める、か。なら、大気散乱(レイリー散乱)の演算も組み込んで、よりリアルな『絶望感(エンターテインメント)』を演出してやるか」
天才技術者の夜明けは、まだまだ遠い。
ホロライブという巨大な宇宙を侵略し続ける少女たちと、その宇宙を裏から完全制御し続ける絶対的なシステム管理者。
彼女たちの笑顔と無茶振りが続く限り。
チーフ・■■春樹の組むコードは、無限に進化し続けるのだった。