ホロ  オリ   作:raian sinra

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**【第39話】 暴かれる絶対防壁の過去と、三つの記憶のピース**

### Scene 1:午後3時00分・巨大スタジオの休憩時間

東京都内某所、カバー株式会社が貸し切っている超大型ダンススタジオ。

年末に控えたホロライブの全体ライブに向けた合同リハーサルは、中盤の休憩時間を迎えていた。鏡張りの広大なフロアには、数十人のタレントたちが床に座り込んだり、ヨガマットの上でストレッチをしたり、ケータリングのドリンクを片手に談笑したりしている。

その集団の中心で、大空スバルがペットボトルの水を飲み干し、ふと天井を仰いで言った。

「……ねぇ、みんな。ふと思ったんスけど」

「なんだいスバル、急に改まって」

隣で白上フブキが、タオルで汗を拭きながら聞き返す。

「いやさ。今日のリハも、チーフが裏で全部のトラッキングと音響の調整やってくれてるじゃないスか。あの人、マジで機械みたいに正確だし、どんなトラブルが起きても顔色一つ変えないし、私たちがどんだけちょっかい出しても『静電気が起きる』ってノータイムで弾き返すじゃないスか」

スバルの言葉に、周りにいたホロメンたち――宝鐘マリン、さくらみこ、白銀ノエル、雪花ラミィなどが「ウンウン」と激しく頷く。

「そうよぉ! 船長がこないだ『チーフの膝で休ませて♡』って言ったら、『俺の膝の耐荷重は精密機器を置くためのもので、お前の体重を支える構造にはなっていない』って、体重までディスられたんだから!」

マリンが唇を尖らせて抗議する。

「ノエルもこないだ、差し入れの牛丼持ってったら『カロリー計算がバグってる』って怒られたよぉ……食べてくれたけど」

ノエルがしょんぼりとする。

「それでね」スバルは声を潜め、ニヤリと笑った。

「あんな完璧で隙のないチーフにも、絶対に『子供の頃』があったはずじゃないスか。鼻水垂らして泣いたり、ゲームに負けて癇癪起こしたり……そういう『普通の男の子』だった時期が、絶対にあるはずッスよね!?」

その言葉に、ホロメンたちの目が一斉にキラリーン!と輝いた。

「た、確かに……! あのチーフがランドセル背負って半ズボン履いてる姿とか……想像しただけでヤバいにぇ!」

みこが興奮気味に身を乗り出す。

「でも、チーフの過去なんて誰も知らないわよね。いつも仕事の話しかしないし、プライベートは謎に包まれてるし……」

ラミィが首を傾げる。

「甘いワね、ラミィ」

マリンが、フッと悪人ヅラ(海賊の顔)を浮かべ、フロアのあちこちで休んでいる『特定の三人』を指差した。

「私たちには、あの鉄壁の男の『過去』を掘り起こせる、最強の情報源(スパイ)が三人いるじゃないの!!」

マリンの指差した先。

一人目は、新グループReGLOSSのメンバーであり、春樹を「パパ」と呼んで憚らない母方の親戚の娘・**音乃瀬奏**。

二人目は、サキュバスの顔の裏で、春樹を「春樹にぃ」と慕う父方の親戚・**癒月ちょこ**。

そして三人目は、ホロライブの始まりから彼と苦楽を共にし、彼を「春樹くん」と呼ぶ絶対的な幼馴染・**ときのそら**。

「おぉぉぉーっ!!」

ホロメンたちが、一斉に歓声を上げた。

「奏ちゃん! ちょこ先生! そら先輩! ちょっとこっち来てほしいッス!!」

スバルの号令により、謎の呼び出しを受けた三人は、顔を見合わせながらスタジオの中心へと集められたのだった。

### Scene 2:奏の記憶・魔改造されるおもちゃのピアノ

「えっ? パパの子供の頃の話?」

パイプ椅子に座らされた奏は、目をパチパチと瞬きさせた。

彼女の周りには、スバル、マリン、ぼたん、ポルカといった野次馬ホロメンたちが、体育座りで円陣を組み、目をキラキラさせて話の続きを待っている。

「そうよ! 奏ちゃんはチーフのこと『パパ』って呼んでるくらいなんだから、昔のチーフの秘密、なんか知ってるでしょ!? 泣き虫だったとか、おねしょしてたとか!」

マリンが鼻息を荒くして問い詰める。

「うーん……私にとってのパパは、物心ついた時からずっとあの『無愛想だけど優しいパパ』だったからなぁ。おねしょの話は知らないよ? だって私が3歳の時、パパはもう高校生か大学生くらいだったし」

奏が指を折りながら思い出す。

「あ! でも、パパがヤバい人だっていうエピソードならあるよ!」

「おおっ!? 教えて教えて!」

奏は得意げに胸を張った。

「私が4歳くらいの時ね。誕生日プレゼントに、親から『おもちゃのピアノ』をもらったの。プラスチックの鍵盤が20個くらいついてて、押すと『ピョーン』とか『プァーン』って変な電子音が鳴るやつ」

「うんうん、よくある幼児用のやつッスね」

スバルが頷く。

「私、それですっごく楽しく遊んでたんだけど……ある日、パパが家に遊びに来たの。で、私が弾いてるおもちゃのピアノの音を聞いて、パパが急に眉間にシワを寄せて……」

奏は、当時の春樹の顔を真似て、わざとらしく低く渋い声を出した。

「『……おい奏。このピアノ、A4(ラの音)のピッチが440Hzじゃなくて442Hzにズレてる上に、倍音の構成が不規則すぎて和音が濁ってる。こんな劣悪な音響環境で音感を育てたら、絶対音感が狂うぞ』って言い出したの」

「「「……は?」」」

ホロメンたちの顔が引きつる。

「でね! パパったら、私が泣いて止めるのも聞かずに、そのおもちゃのピアノをドライバーでバラバラに分解しちゃったの!」

「えええええ!? 4歳児のオモチャ分解したの!? あの悪魔!!」

ノエルが悲鳴を上げる。

「でも、そこからがパパのすごいところで……。パパ、半田ごてとか謎の基板をカバンから取り出して、おもちゃのピアノの内部に直接ICチップを組み込み始めたの。で、3時間後くらいに『よし、終わった』って言って返してくれたピアノを弾いたら……」

奏は、両手を広げて、劇的なトーンで叫んだ。

「スタインウェイのグランドピアノの音が鳴ったの!!」

「「「嘘でしょォォォォォ!!?」」」

スタジオに、爆笑とツッコミの嵐が巻き起こった。

「しかもね! 鍵盤の横に謎のツマミが増設されてて、それを回すと、パイプオルガンとか、シンセサイザーの超重低音とかが出せるようになってたの! パパが『サンプリング周波数96kHzのハイレゾ音源をフラッシュメモリに焼いておいた。これで心置きなく絶対音感を鍛えろ』ってドヤ顔してた!」

「4歳児に渡すスペックじゃないアル!!」

桃鈴ねねがお腹を抱えて笑い転げる。

「当時から完全に変態エンジニアの片鱗が仕上がってるわね……」

ぼたんが涙を拭いながら感心している。

「それがきっかけで、私、音楽にめっちゃハマっちゃって、今のReGLOSSの私があるんだよね〜。だからパパは、私の音楽のルーツなんだよ!」

奏がえへへと笑う。

「なるほどなぁ……チーフの狂気的な技術力は、身内に対しても容赦なかったってことッスね……」

スバルは呆れつつも、どこか納得したように頷いた。

### Scene 3:ちょこの記憶・不器用な兄貴のサスペンション

「じゃあ次は、ちょこ先生! ちょこ先生は父方の親戚なんだから、もっと昔の、チーフが中学生くらいの頃とか知ってるんじゃないの?」

マリンが、今度はちょこにターゲットを移す。

「えっ、私? ……そうねぇ」

ちょこは、ホロメンたちの注目を浴びて少しだけ顔を赤らめながらも、記憶の糸をたぐり寄せた。

「春樹にぃはね……昔から本当に無愛想で、友達と遊ぶよりも家で機械をいじってる方が好きなタイプだったわ。でも、私が親戚の集まりで退屈してると、いつも何も言わずに外に連れ出してくれたのよ」

ちょこの言葉に、ホロメンたちが「おぉ〜、優しい!」と声を上げる。

「私が小学生で、春樹にぃが中学生くらいの時だったかしら。近所の公園で遊んでて、私が木登りをしようとしたの。でも、足を滑らせて、2メートルくらいの高さから落ちちゃって……」

「えっ!? 危ない!!」

みこが身を乗り出す。

「その時、下で本を読んでた春樹にぃが、本を放り投げて、すっごいスピードで走ってきて……私のことを、間一髪で抱きとめてくれたの」

ちょこは、少しだけ頬を染めながら、懐かしそうに語った。

「キャーーーーッ!! イケメン!!」

「チーフかっこいい!!」

女子校ノリのホロメンたちが大騒ぎする。

「でもね……」

ちょこは、ふぅとため息をついた。

「助けてくれたのはいいんだけど、私が泣きじゃくってるのに、春樹にぃは私の怪我の確認より先に、落ちた木の枝を見上げてこう言ったのよ」

ちょこは、当時の春樹の冷淡な声真似をした。

「『……お前、質量mの物体が高さhから自由落下した時の位置エネルギーを計算したか? あの枝の直径と樹皮の摩擦係数からして、お前の体重(グリップ力)を支えられる限界応力を超えてることは明白だろ。アホか』って」

「「「……最低ッスね(だワ)」」」

ホロメンたちのロマンチックな妄想が、一瞬にしてチリと化した。

「でしょう!? 助けてくれたのに、めっちゃ理詰めで説教されたのよ! しかもその後、私の擦りむいた膝を見て『雑菌の繁殖を防ぐにはエタノール濃度の正確な希釈が必要だ』とか言って、薬局で謎の消毒液を調合して塗りたくられたし!」

ちょこが当時の怒りを思い出したようにプンスカと怒る。

「でも、それだけじゃないのよ」

ちょこは、呆れたような、でもどこか愛おしそうな笑みを浮かべた。

「次の日、春樹にぃが私の家にやってきて、私のスニーカーを勝手に改造し始めたの。『二度と木から落ちないように、靴底に特殊な衝撃吸収サスペンションと、グリップ力を高めるスパイクを仕込んだ』って言って」

「また魔改造かよ!!」

ポルカがツッコミを入れる。

「それで、その靴を履かされたんだけど……サスペンションが強力すぎて、歩くたびに『ビヨーン! ビヨーン!』ってトランポリンみたいに跳ねちゃって、まともに歩けなくなったのよ!!」

「あははははは!!!」

スタジオが再び爆笑の渦に包まれた。

「結局、親に怒られて靴は元に戻されたんだけどね。……春樹にぃは、昔から『誰かが怪我をするのが嫌』っていう感情を、全部『物理的・技術的な解決』でしか表現できない、不器用な人だったのよ」

ちょこの語るエピソードには、春樹に対する深い理解と愛情が込められていた。

「なんだかんだ言って、ちょこ先生、チーフのこと大好きだよねぇ〜」

ラミィがニヤニヤしながら言うと、ちょこは「なっ、そんなんじゃないわよ!」と慌てて顔を逸らした。

### Scene 4:そらの記憶・始まりの調律師と美しい波形

「いやぁ、チーフの変態技術者っぷりは筋金入りってことがよく分かったッスね……」

スバルが涙を拭いながら笑いを収める。

「でも、ここまでは『親戚のお兄ちゃん』としてのエピソードよね。……そら先輩! そら先輩は幼馴染なんだから、もっと、こう……甘酸っぱいとか、チーフの根幹に関わるようなエピソード、ないんですか!?」

マリンが、最後の砦であるときのそらに身を乗り出した。

そらは、少しだけ驚いたように瞬きをして、それから……とても穏やかで、慈愛に満ちた、聖母のような微笑みを浮かべた。

「……甘酸っぱいかは分からないけど。私が知ってる『一番昔の春樹くん』の話、しようか」

ホロメンたちが、ゴクリと唾を飲み込む。

「私と春樹くんが初めて会ったのは、小学校の図工室だったの」

そらは、遠い過去の情景を描き出すように、ゆっくりと語り始めた。

「当時の春樹くんは、クラスでもちょっと浮いてる子でね。休み時間になると、いつも一人で図工室の隅っこで、壊れたラジオとか時計を分解しては組み立てるっていう、まさに『機械オタク』みたいな男の子だったの」

「うわぁ、想像つくワ……」

マリンが頷く。

「私はその頃から歌を歌うのが大好きで、よく誰もいない音楽室や図工室で、こっそり一人で歌ってたの。ある日、いつものように図工室で歌ってたら、部屋の隅でラジオをいじってた春樹くんが、急に立ち上がってこっちに来たの」

そらは、胸の前で両手を組んだ。

「春樹くん、無愛想な顔で私にこう言ったの。『……おい。お前の声、なんだそれは』って」

「えっ!? なにそれ、怖いッス!」

スバルが身構える。

「私も怒られるのかなって思ってビクビクしてたら、春樹くんがランドセルから、自分で作ったみたいなゴツゴツした変なマイクを取り出して、私に向けたの。そして、『もう一回、さっきの歌を歌ってみろ』って言ったのよ」

ホロメンたちは、息を呑んでそらの言葉に聞き入っていた。

「言われるがままに歌ったら、春樹くん、そのマイクを謎の機械(オシロスコープみたいなもの)に繋いで、じーっと画面を見てて……。そして、ふぅって息を吐いて、こう言ったの」

そらは、当時の小学生だった春樹の、少し高くて、でも真剣だった声を再現した。

「『……やっぱりだ。お前の声帯から発せられる周波数の揺らぎ(1/fゆらぎ)と、倍音の構成比率。……俺が今まで解析してきたどんな環境音や楽器の音よりも、ノイズがなくて、完璧に美しい波形をしてる』」

「「「………………ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

スタジオ中に、女子たちの黄色い悲鳴と絶叫が木霊した。

マリンは鼻血を出しそうな顔で頭を抱え、スバルは床を転げ回り、ノエルとフレアは尊さに顔を覆っている。

「プロポーズ!!? それ小学生の時に言うセリフ!!? ヤバいヤバいヤバい!!」

「チーフ、天然のタラシだにぇ!! 波形が美しいって、実質『君の声が世界で一番好きだ』って言ってるのと同じじゃないの!!」

みことまつりが興奮して暴れ回る。

ちょこも「は、春樹にぃ……昔からそんなキザなこと言ってたの……!?」とハンカチをギリィッと噛んでいる。

そらは、顔を真っ赤にして騒ぐ後輩たちを見て、クスッと笑った。

「春樹くんにとっては、純粋に『音響工学的なデータ』としての感想だったんだと思うけどね。でも、その日を境に、春樹くんは私のために、もっと綺麗に声を録音できるマイクを作るって言って、毎日のように機材を改良し始めたの」

そらは、愛おしそうに目を細めた。

「『お前の声は、俺が一番綺麗な状態で記録してやる』って。……それが、私と春樹くんの、そして今の『ホロライブのチーフ』としての始まりなんだよ」

圧倒的な、幼馴染という歴史の重み。

そして、一人の機械オタクの少年が、一人の少女の歌声に出会い、人生の目的を見つけたという、映画のように美しいエピソード。

「……勝てない」

マリンが、灰になったように呟いた。

「ええ……これはもう、正妻の余裕どころか、建国神話レベルの話ッスよ……」

スバルが白旗を上げる。

「えへへー。やっぱりパパは昔からかっこよかったんだね!」

奏だけが、無邪気に拍手をして喜んでいた。

### Scene 5:絶対防壁の帰還と、知られざる照れ隠し

「……おい。お前ら、さっきから何を騒いでる」

突然。

休憩中のスタジオに、低く、冷ややかな、しかし絶対的な安心感を伴う声が響き渡った。

「「「ヒッ!!」」」

ホロメンたちが、一斉に首をすくめる。

スタジオの入り口に立っていたのは、噂の張本人であるチーフ・■■春樹と、バインダーを抱えた友人A(えーちゃん)だった。

春樹は、首にタオルをかけ、いつものように不機嫌そうな(実際は機材の調整で疲労しているだけの)顔で、集まっているホロメンたちを睨みつけた。

「休憩時間はとっくに終わってるぞ。音響(PA)のキャリブレーションと、トラッキングカメラの再同期が完了した。さっさと元のポジションに戻れ」

春樹がパンパンと手を叩く。

「は、はーいッス!!」

「すぐ戻るワヨ!!」

蜘蛛の子を散らすように、ワチャワチャと持ち場に戻っていくタレントたち。

しかし、すれ違いざまに、マリンやスバル、ポルカたちが、春樹の顔を見てニヤニヤと、なんとも言えない生温かい視線を送ってくる。

「……なんだ、あいつら。気持ち悪い顔しやがって」

春樹がいぶかしげに眉をひそめると、Aちゃんが横でクスクスと笑った。

「さあ? きっと、春樹の『カッコいい秘密』を知ってしまったんじゃないですか?」

「は? 意味が分からん」

春樹が首を傾げていると、その前に、そら、ちょこ、奏の三人が歩み寄ってきた。

「パパー! キャリブレーションお疲れ様!」

奏が、いつも通り春樹の腕にギュッと抱きつく。

「おい奏、汗かいてるんだからくっつくな。静電気が……」

「出た! 伝家の宝刀『静電気が起きる』!」

ちょこが、横からからかうように笑う。

「……癒月。お前もなんか変なテンションだな。まさかお前ら、俺の悪口でも言ってたんじゃないだろうな」

春樹がジト目で睨むと、そらがふわりと微笑んで、春樹の前に立った。

「ううん。悪口じゃないよ。ただ……」

そらは、春樹の顔を真っ直ぐに見つめ、あの日の小学生の時のように、少しだけ首を傾げて言った。

「春樹くんが初めて作ってくれたマイクのこと、思い出してたの。……あの時の私の波形、ちゃんと『世界で一番綺麗』だった?」

「っ……!!」

その言葉を聞いた瞬間。

春樹の動きが、完全にフリーズした。

いつもはどんなトラブルにも動じない絶対零度の表情が、みるみるうちに耳の先まで真っ赤に染まっていく。

「お、お前……っ、なんで急にそんな、何十年前の黒歴史を……っ!!」

春樹が、信じられないほど狼狽え、声を裏返して叫んだ。

「あはははは!! 春樹にぃが照れてる!! 超レア!!」

ちょこがお腹を抱えて大爆笑する。

「パパー! 顔真っ赤だよー!!」

奏も指を差してケラケラと笑う。

「うるさい!! 黒歴史だ!! あの頃は俺も音響工学の基礎をかじりたてで、中二病みたいなポエムを吐いてただけだ!! 忘れろ!! 今すぐメモリから消去しろ!!」

カバー株式会社の最終兵器が、かつてないほど取り乱し、必死に弁解を始めている。

その光景を遠くから見ていたホロメンたちも、ついに堪えきれずに大爆笑を巻き起こした。

「チーフ、可愛すぎるだろwwww」

「あの絶対防壁が完全にメルトダウンしてるwww」

スタジオ中が、明るい笑い声と、温かい空気に包まれる。

「……もう、からかうのはこれくらいにしましょうか。春樹が本当にショートしてしまいますから」

Aちゃんが、笑い涙を拭いながら助け舟を出す。

「……A、お前も絶対笑ってたろ。あとでシステム権限のアクセスレベル下げてやるからな」

春樹が真っ赤な顔で恨み言を呟きながら、顔を隠すように背を向けた。

そらは、そんなどこまでも不器用で、誰よりも優しい幼馴染の背中に向かって、優しく語りかけた。

「春樹くん。あの時、私を見つけてくれて、ありがとう。……私、これからもずっと、春樹くんのシステムの中で、一番綺麗な波形を出せるように歌い続けるからね」

春樹は、振り返らなかった。

しかし、彼の肩の力がスッと抜け、右手で前髪を掻き上げるいつもの仕草をした。

「……当たり前だ。俺が組んだ最高のステージだぞ。1デシベルの狂いもなく、完璧に歌い切れ」

それは、照れ隠しの裏に隠された、最高の技術者としての、そして彼女を一番近くで見守り続けてきた男の、絶対的なエールだった。

「うんっ!!」

そらの元気な返事と共に、リハーサル再開のブザーが鳴り響く。

手のかかる親戚の妹と娘、そして絶対的な絆を持つ幼馴染。

彼女たちの語った三つの記憶のピースは、ホロライブという巨大な家族を支える男の、深く、温かい歴史の証明だった。

「さあ、お前ら! 休憩は終わりだ! 音響テスト行くぞ!!」

春樹が再びインカムのスイッチを入れ、指示を飛ばす。

カバー株式会社の地下要塞からやってきた男は、今日も彼女たちの輝きを世界中に届けるため、顔の赤みを無理やり引っ込めて、コンソールと向き合い続けるのだった。

 

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