ホロ  オリ   作:raian sinra

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**【第43話】 ホロライブ事変『娘戦争(ドーター・ウォーズ)』と、過労死寸前のビッグダディ**

### Scene 1:午前11時00分・勃発するパパ争奪戦(JSTとWIBの衝突)

カバー株式会社、地下第1テクニカル・コントロールルーム。

その日、チーフ・テクニカル・プロデューサーの■■春樹は、度重なる機材の不調と戦っていた。より正確に言えば、機材の不調ではなく、**『機材の周囲で巻き起こる局地的なハリケーン』**と戦っていたのである。

「パパ!! 私が先にパパの隣の椅子に座ってたんだよ!! こっち来て!!」

「No!! Papa is mine! KoboがPapaの膝の上に座るの! 奏、どいて!!」

春樹のメインコンソールの左右で、凄まじい火花が散っていた。

金色の髪を逆立てて怒っているのは、ReGLOSSの音楽の天才にして、春樹の母方の従兄弟の娘・**音乃瀬奏**。

青い髪を振り乱して抗議しているのは、日本滞在中のホロライブID3期生、雨のシャーマン・**こぼ・かなえる**。

「あのねぇ! 私はパパの『本当の親戚』なんだよ! オムツだって替えてもらったし、昔からずっとパパの娘なの!」

奏が「血縁」という最強のカードを振りかざしてマウントを取る。

「It doesn't matter!(関係ない!) KoboはIDの娘だもん! PapaはKoboのこと甘やかしてくれるし、Koboのエフェクト直してくれたし! 奏はもうデカいじゃん! Koboの方が小さいからPapaの膝にフィットするの!」

こぼが「小柄なクソガキ(Bocil)」という物理的なアドバンテージを主張する。

「……お前ら」

二人の間に挟まれ、春樹は限界まで眉間にシワを寄せていた。

「ここは保育園じゃない。カバー株式会社のインフラ中枢だ。俺は今、夜の大型コラボ配信に向けて、各スタジオのオーディオ・ルーティングとネットワークの負荷分散(ロードバランシング)を設定している。……お前らが喚くたびに、俺の集中力とサーバーの寿命が削れるんだが」

「「でもパパがどっちの娘かハッキリさせないから!!」」

奏とこぼが、見事なユニゾンで春樹に詰め寄った。

「俺は誰のパパでもない。ただのエンジニアだ」

春樹は冷たく言い放ち、キーボードを叩き続けた。

「奏、お前は血は繋がっているが親戚のガキだ。こぼ、お前は海の向こうから来たタレントだ。どっちも等しく『仕事の邪魔』だ。さっさとスタジオに戻ってボイトレでもしてこい」

しかし、春樹のその言葉は、火に油を注ぐ結果にしかならなかった。

「うぅ……っ。パパの冷血! 鬼! ハードディスク野郎!!」

「Papa is so cold!! Ice block!!(パパ冷たすぎ!! 氷の塊!!)」

二人は泣き真似をしながら、今度は左右から春樹の腕にしがみついた。

「おい、引っ張るな! トラックパッドの操作がブレる!」

これが、のちにホロライブの歴史において『娘戦争(ドーター・ウォーズ)』と語り継がれる大乱闘の、始まりの合図だった。

### Scene 2:増殖する『娘』たちと、玉座の占拠

「んなぁ〜、なんだか騒がしいのらねぇ〜」

防音扉が開き、ふわりとしたピンク色のドレスを揺らして現れたのは、お菓子の国の姫・**姫森ルーナ**だった。

彼女は、春樹の腕にぶら下がっている奏とこぼを見て、不思議そうに首を傾げた。

「おや、奏ちゃんとこぼちゃん、チーフパパの取り合いなのら? ダメなのらよ。チーフパパの本当の『バブみ娘』は、このルーナ姫なのら」

「「えっ!?」」

奏とこぼが、一斉にルーナを振り向く。

ルーナは、独特ののんびりとした歩調で春樹のデスクに近づくと、春樹の背後からひょっこりと顔を出した。

「ルーナはね、エレクトーンの配信の時、いつもチーフパパに音の調整してもらってるのら。チーフパパはルーナの演奏が世界一綺麗に聴こえるように、徹夜で魔法をかけてくれるのらよ。……だから、ルーナが一番の娘なのら」

「姫森、勝手に捏造するな。あれはMIDIの位相ズレを補正するシステムを組んだだけで……」

春樹が訂正しようとしたが、その言葉は新たな乱入者にかき消された。

「フハハハ!! 貴様ら、何をくだらん争いをしているのだ!!」

巨大な角を揺らし、オーバーサイズの袖をバタバタと振り回しながら雪崩れ込んできたのは、秘密結社holoXの総帥・**ラプラス・ダークネス**だった。

「チーフの玉座(ゲーミングチェア)の膝の上は、このラプラス・ダークネス様の指定席だと決まっている!! 貴様らのような自称・娘どもに譲る気など毛頭ないわ!!」

ラプラスは、奏とこぼの隙を突き、凄まじいスピードで春樹の膝の間に潜り込もうとした。

「あっ! ズルい! 私のパパなのに!」

「No!! Geta way!!(どいて!)」

「んなぁ〜、ルーナも抱っこしてほしいのら〜」

「……お前ら、いい加減にしろ!! 俺の膝はキャパオーバーだ!!」

奏、こぼ、ルーナ、ラプラス。

四人の「娘(自称含む)」たちが、春樹のデスク周辺でキャットファイト(という名のじゃれ合い)を繰り広げ始めた。

「パパの娘は私だ!」「吾輩の玉座だ!」「ルーナが一番なのら!」

コントロールルームの人口密度と騒音レベルは、限界を突破していた。

春樹は、サーバーの物理的防衛のために、両腕を広げてコンソールを死守する姿勢を取らざるを得なくなった。

### Scene 3:ママ(正妻)候補たちの介入と、思惑の交錯

この騒動は、当然ながら地下室の中だけで収まるはずがなかった。

「チーフの部屋で、娘たちがパパ争奪戦をしている」という情報は、社内チャット(ホロメン専用板)を通じて、瞬く間に全ホロメンへと拡散されていたのである。

『バァァァンッ!!』

「そこまでよ、子羊ちゃんたち!!」

扉を蹴り破るような勢いで乱入してきたのは、赤い海賊コートを羽織った**宝鐘マリン**だった。

その後ろには、**癒月ちょこ**、そして**大神ミオ**が続いている。

「マ、マリン先輩!? ちょこ先輩にミオ先輩まで!」

奏が驚いて動きを止める。

「ふふん。あんたたち、チーフの娘になりたいからって、そんな野蛮な争いをしてちゃダメワヨ」

マリンが、バサッとコートを翻し、大人の余裕(ドヤ顔)を浮かべた。

「あのね。お父さん(パパ)がいるなら、必然的にそこには『お母さん(ママ)』が必要になるでしょう? 娘がいっぱいいるなら、それをまとめる優秀なママが、チーフの隣に立たなきゃいけないのヨ!」

「……はぁ?」

春樹が、絶望的な声を出した。

「そうよ。そして、そのママの座に一番近いのは、やっぱり古くからチーフの胃袋を掴んでいる、この癒月ちょこってわけ」

ちょこが、自信満々にサキュバススマイルを浮かべ、手作りの弁当箱が入った紙袋を掲げる。

「春樹にぃ。子育てには体力がいるでしょ? 私の特製スタミナ弁当、後で食べさせてあげるわね♡」

「ちょ、ちょっと待つワ! 船長だって母性なら負けてないワヨ!!」

マリンが対抗して身を乗り出す。

「こぼちゃん! 奏ちゃん! 船長がママになってあげるから、チーフのパンツの色と、好きな女性のタイプをこっそり教えなさい! 後でお小遣いあげるから!!」

マリンは、露骨に「子供を買収して外堀を埋める」という最悪の作戦に出た。

「えぇ〜……。でも、うちは奏ちゃんとこぼちゃんにお弁当作ってあげたことあるし……オカン枠なら、うちの方が適任なんじゃないかなぁ……」

ミオが、少し控えめに、しかし確かな「オカンとしての自負」を持って名乗りを上げる。

「んなぁ……ママがいっぱい増えたのら。チーフパパ、一夫多妻制なのら?」

ルーナが首を傾げる。

「吾輩のママは総帥の母上だけで十分だ! 貴様らのような女狐どもに、吾輩の玉座は渡さん!」

ラプラスがキャンキャンと吠える。

「違う! 私のママは世界に一人だけだし、パパの奥さんになる人は私がオーディションして決めるの!!」

奏が、なぜか「娘兼、姑」のような立ち位置でマリンたちに立ちはだかった。

娘たちによる「私が一番の娘だ」論争に、大人組による「私がパパの妻(ママ)にふさわしい」論争が乗っかり。

コントロールルームは、もはやスラップスティック・コメディの舞台、あるいは昼ドラの修羅場と化していた。

(……終わった。俺の今日の業務は、完全に崩壊した)

春樹は、天を仰いだ。

彼が構築した世界最高峰のインフラも、この『感情と欲望のバグ』の前では、一切の無力だった。

### Scene 4:幼馴染の降臨と、絶対防壁の雷

「ちょっとちょっと〜、みんな。春樹くんが困ってるじゃない」

騒乱の最中。

その声は、決して大きくはなかったが、コントロールルームにいた全員の鼓膜に、奇妙なほどの『静寂』をもたらした。

ふわりと、春樹のすぐ横に現れた影。

ホロライブの象徴、0期生の**ときのそら**だった。

彼女は、いつものように穏やかで、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。……が、その背後には、見えない『後光』あるいは『圧倒的正妻のオーラ』が立ち上っていた。

「そ、そら先輩……!」

マリンが、ゴクリと唾を飲み込む。

そらは、騒ぐ娘たち(奏、こぼ、ルーナ、ラプラス)の頭を、順番に優しくポンポンと撫でた。

「みんな、春樹くんのことが大好きなんだよね。分かるよ。春樹くんは、無愛想だけど、誰よりもみんなのこと大切にしてるもんね」

そらの優しい言葉に、娘たちは「う、うん……」「Papa好き……」と大人しくなる。

そして、そらは、マリンとちょこに向き直った。

「マリンちゃん、ちょこちゃん。春樹くんを支えてくれようとする気持ちは嬉しいけど……。春樹くんの体調管理も、胃袋の好みも、全部『昔から私が一番よく知ってる』から。あんまり無理して、お母さんぶらなくても大丈夫だよ? にっこり」

「「ヒッ……!!」」

圧倒的な、建国神話レベルの幼馴染マウント。

「昔から一番よく知っている」という、絶対に覆せない歴史の暴力の前に、マリンとちょこは完全に白旗を揚げるしかなかった。

「……そら」

春樹が、助け舟を出してくれたそらに、小さく感謝の視線を送った。

だが、そらは春樹を見て、ふふっと笑って言った。

「春樹くんも、モテモテで大変だねぇ。……でも、私の春樹くんだから、あんまり他の子に甘い顔しちゃダメだよ?」

(……お前もか!!!)

春樹の胃壁が、限界の悲鳴を上げた。

幼馴染の助け舟は、ただの「最強の包囲網」の完成を意味していたのだ。

娘たち、ママ候補たち、そして幼馴染。

全方位からの好意と我儘の飽和攻撃。

その時だった。

春樹のメインモニターの右端で、小さな警告(アラート)が赤く点滅した。

『Warning: Cluster 3 - CPU Temp Critical(警告:第3クラスター CPU温度異常)』

春樹の表情から、一瞬にして「困り果てた父親」の顔が消え去り、極寒の『システム管理者』の顔が表れた。

「……お前ら」

低く、地を這うような、凄まじい威圧感を伴った声。

部屋にいた全員が、ビクッと肩を震わせ、春樹に注目した。

春樹は、ゆっくりと立ち上がった。

「俺は、お前らがここで騒ぐのは、百歩譲って我慢してやる。俺の服が伸びるのも、静電気が起きるのも、耳元で喚かれるのも、全部許容範囲(マージン)の中だ」

春樹は、赤く点滅するモニターを指差した。

「だがな。お前らがこの部屋で無駄に暴れ回ったせいで、空調の気流(エアフロー)が乱れ、サーバーラックの冷却効率が低下している。……今、夜の大型コラボ配信用のメインサーバーの温度が、限界値に達しかけている」

「「「えっ……」」」

「俺のシステムは、お前らがカメラの前でどれだけ暴れても絶対に落ちないように組んである。だが、物理的なインフラ(ハードウェア)を脅かす真似は……絶対に許さない」

春樹の目が、獲物を狙う鷹のように鋭く細められた。

「娘だの、ママだの、妻だの。……そんな下らない枠組みで、俺の仕事場を乱すな。お前らが俺にとって何なのか、教えてやろうか」

春樹は、部屋にいる全員を、一人ずつ真っ直ぐに見据えた。

「奏。お前は俺のシステムで最高の音を奏でる『アーティスト』だ。

こぼ。お前は海を越えて世界を笑わせる『シャーマン』だ。

ルーナ。お前は唯一無二の音色を持った『姫』だ。

ラプラス。お前はこの箱を侵略する『総帥』だ。

マリン、ちょこ、ミオ。お前らはホロライブを最前線で引っ張る『トップタレント』だ」

春樹は、最後にそらを見た。

「そしてそら。お前は、このホロライブの『原点』だ」

春樹の言葉は、怒りではなかった。

それは、彼が彼女たち一人一人に抱いている、絶対的な「敬意」と「誇り」の証明だった。

「俺にとって、お前らは全員『ホロライブのタレント』だ。それ以上でも、それ以下でもない。……だからこそ、俺はお前ら全員を、俺の持てるすべての技術と、俺の命を削ってでも、平等に、完璧に護り抜く」

春樹は、ドンッ!とデスクを叩いた。

「誰が一番なんてない。お前らがステージの上に立つ限り、俺にとってお前らの優先順位は、全員が『トップタイ(1位)』だ。……俺の覚悟を、下らない家族ごっこで矮小化するな」

圧倒的な、プロフェッショナルとしての矜持。

そして、それは裏を返せば、**「俺はお前たち全員を、等しく愛し、等しく全責任を負っている」**という、世界で一番不器用で、重すぎる愛情表現だった。

部屋は、完全な静寂に包まれた。

「……っ」

奏の目から、ポロリと涙がこぼれた。

「Papa……」

こぼも、鼻をすする。

マリンは顔を真っ赤にして口元を覆い、ちょこは胸を押さえて座り込みそうになっている。

「……もう。チーフってば、怒ってるのに、なんであんなにカッコいいこと言うのよ……反則ワヨ……」

マリンが、震える声で呟いた。

「……分かったら。サーバーが熱暴走する前に、全員ここから出ていけ。俺はクーリングシステムの再起動に入る」

春樹がそう言い放つと。

ホロメンたちは、誰一人文句を言うことなく。

「はいっ!!」と見事な返事をして、一斉にコントロールルームから退去していった。

### Scene 5:鎮火、そして終わらない家族の日常

バタン、と防音扉が閉まる。

「……はぁぁぁぁ」

春樹は、椅子に深く沈み込み、今日一番の、とてつもなく深い溜息を吐き出した。

「……寿命が、3年は縮んだぞ」

春樹はキーボードを引き寄せ、サーバーの冷却ファンの回転数を手動で強制的に引き上げた。

ファンの唸り音が大きくなり、警告の赤いランプが、ゆっくりと緑色に戻っていく。

「ふふっ。お疲れ様、春樹くん」

「……っ!? お前、まだいたのか!」

春樹が驚いて振り返ると、そこには、一人だけ退去せずに残っていた、ときのそらが立っていた。

「だって、私はホロライブの原点だから。原点は、一番近くで春樹くんの頑張りを見てなきゃダメでしょ?」

そらは、悪戯っぽく笑いながら、春樹のデスクにそっと冷たい缶コーヒーを置いた。

「……あのな。お前まで一緒になって俺をからかうな」

春樹が恨めしそうに睨むが、そらは全く動じない。

「からかってないよ。……でも、さっきの春樹くんの言葉、すごく嬉しかった」

そらは、春樹の背中越しに、モニターに映る無数のデータの光を見つめた。

「『全員がトップタイ』。……春樹くんは本当に、ホロライブっていう大きな家族の、最高の大黒柱だね」

「……俺はエンジニアだ。家族ごっこは……」

「はいはい。照れ隠しはいいの」

そらは、春樹の肩をポンと軽く叩いた。

「みんな、春樹くんのこと大好きだからね。これからも、娘たちのお世話と、ママ候補たちのあしらいと……そして、幼馴染の相手。よろしくね、チーフさん」

そらは、とびきりのウインクを残して、今度こそコントロールルームを出て行った。

残された春樹は、冷たい缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲んだ。

苦味と冷たさが、火照った頭を少しだけ冷ましてくれる。

「……大黒柱、か」

春樹は、モニターに映し出された、ホロライブの全タレントのステータスログを見渡した。

どいつもこいつも、手がかかる。我が儘で、うるさくて、予測不能なバグの塊だ。

しかし、その一つ一つのログが、間違いなく世界中の誰かを笑顔にしている。

「……上等だ。束になってかかってこい」

春樹は、不敵な笑みを浮かべ、再びキーボードに指を置いた。

ホロライブという、血の繋がりを超えた、巨大で騒がしい家族。

娘戦争は一時休戦となったが、彼女たちの『パパ(春樹)』への愛と執着が消えることは絶対にない。

天才エンジニアの胃壁が削られる日々は続くが、彼がその手を止めることはない。

彼女たちが、世界で一番輝く笑顔を見せ続ける限り。

彼は今日も、明日も、この地下室で、絶対の防壁を構築し続けるのだった。

 

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