ヒカ碁の世界で緒方精次となったからには、打倒saiを掲げたい。   作:くま子

10 / 10
第十話 本因坊

 新緑がまぶしい五月に幕を開けた本因坊戦七番勝負は、緒方が初戦を華麗な打ち回しで制したものの、その後は現本因坊・桑原の粘りに苦しめられ、盛夏の中、ついに最終局へともつれ込んでいた。

 老舗ホテルの一室での一局。

 1日目は緒方の封じ手で幕を閉じた。

 夕食へ向かう関係者たちの輪から外れて歩いていた緒方へ、桑原がゆるりと声をかけた。

 

「ところでキミ、封じ手はちゃんと書けたかな?」

「は?」

 

 何の用かと思えば、要は盤外戦術だった。

 緒方にとって、挑戦手合いはこれが初めてだ。しかも、ここまでの六局はすべて桑原が封じている。

 慣れない封じ手で、疲労や迷いから誤った選択をしなかったか──そう揺さぶりをかけに来たのだ。

 

(クソジジイが……)

 

 実は緒方にとって、桑原は忘れ難い相手だった。

 人生2周目を生きているとはいえ、緒方にも慣れないこと、初めてのことは山ほどある。その最たるものが、囲碁のプロ棋士になるということだった。

 その第一歩となる新初段シリーズ。

 緒方を迎え撃ったのは、桑原本因坊だった。

 顔合わせからわずか数分。新しい世界への期待に胸を躍らせていた緒方は、桑原の盤外戦術に見事に呑まれ、縮こまった惨めな碁を打たされることとなった。

 対局後、あれほど情けなさに顔を赤くした一局は、後にも先にもあれきりだ。今でこそプロの洗礼のひとつとして飲み込めているが、当時は随分引きずったものだった。

 

「ふひゃひゃ。不安になってくるじゃろう」

 

 散々煽った末に不敵に笑う桑原に対し、緒方は意外にも静かに笑っていた。

 

(……そういえば、原作でもこんな流れだったか)

 

 いつか見た光景(シーン)

 だが、揺らがないのは既知の展開だからではない。

 

「確かに二択で迷いましたね」

「そうじゃろう」

「ですが問題ありません。どちらに打っても、俺が勝つので」

「……ほぉ」

 

 迷いなく言い切った緒方に、桑原の眉がわずかに跳ねた。

 2人きりの廊下に、ヒリついた空気が流れる。

 

「爺さん。悪いが、その名は必ず貰うぜ」

 

 ガラリと口調を崩した緒方が、悠然と笑う。

 

「俺が、その名でもって迎え討たなきゃならない奴が、上がってくるんでな」

 

 この世界は、原作から随分とずれてしまった。

 それでも、佐為がヒカルのために存在しているのなら、遠からず扇を託して消えるはずだ。

 だがそれは、師弟として最も重要な真剣勝負を交わさぬまま、2人が別れるということでもあった。

 

 その事実に思い至った時、緒方は思わず身震いした。

 もし、自分がタイトル戦に挑む前に塔矢行洋が引退してしまったら。

 間に合わなかったことを、どれほど悔やむだろう。どれほどやりきれない思いを抱くだろう。

 だが、緒方には佐為の喪失を防ぐ術など思い浮かばない。

 それに──たとえ方法があったとしても、実行する気はなかった。

 

 ならば、せめて代役を務めるべきだろう。

 仮にも師を名乗る身であり、佐為に黒星をつけた人間なのだから。

 

 なにより、あれほど本人(・・)と打ち合い、鍛えられておきながら、「獲れませんでした」では男が廃る。

 

「そんなビッグイベントが控えておるなら、老骨に鞭を打たんといかんなぁ」

「ああ。引退後の楽しみにしておいてくれ」

 

 睨み合った両者はそれ以上言葉を交わすことなく、互いに背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 季節は巡り、夜の長さが日ごとに増す9月。

 きらびやかなホテルの大宴会場。就位式の壇上でスポットライトを浴び、允許状を記者たちへ掲げているのは、新本因坊となった緒方だった。

 白紋付に縞袴。紫の羽織紐を合わせたその姿は、恵まれた体格も相まって、威風堂々たる風格を漂わせていた。

 

『なんと麗しい……』

 

 会場の隅で、立食パーティーのローストビーフに目を輝かせる制服姿のヒカルの隣で、佐為がうっとりと壇上を見つめていた。

 

(かっこいいのは認めるけどさ。白い着物って、なんか結婚式みたいじゃね?)

『何を言うのですヒカル。 あれは武家の白ですよ!』

 

 佐為は興奮したように身を乗り出した。

 

『ご覧なさい、あの御衣の凛とした美しさ! そして胸元の深紫を!なんと粋なことでしょう‼︎まさに、本因坊の家督を継ぐ者にふさわしい、品格と佇まいです』

(テンションたっけぇ……)

 

 佐為は緒方に、並々ならぬ恩義と情を抱いている。

 現役最強と謳われる棋士に引き合わせてもらい、孤独な夜を慰める膨大な棋譜を与えられ、さらには世界中の棋士と打てる環境まで整えられた。

 そして、今世で最も多く盤を挟んだ好敵手でもある。

 今や佐為は、緒方のためなら──死んでいるのだが──命すら惜しまないのではないかと思えるほど傾倒しており、七番勝負が始まってからは、その勝敗に一喜一憂するあまり、余波を受けるヒカルがぐったりする始末だった。

 一局終わるごとに緒方と検討を重ね、自ら桑原の棋風を研究し、勝負の前には必ず緒方の武運を祈る。

 その熱の入りようは、棋院で緒方を見かけた際に、『ふれーふれー、お・が・た!』と、どこで覚えたのか今風の応援をし始め、ヒカルを驚愕に固まらせるほどだった。

 

 アイドルを前にしたファンのようにキャーキャー騒ぐ佐為とは対照的に、ヒカルは手持ち無沙汰に壇上を眺めていた。

 知り合いもほとんどおらず、立食パーティーが始まるまでは暇なのだ。

 

(なんか、『俺の時代だ、文句あるか』って感じだなぁ……)

 

 本人に聞けば、緊張してんだよと返ってくるだけなのだが、その泰然とした印象に、ヒカルには己の師が酷く遠い人のように思えた。

 

 盾の授与など興味のない話題が続き、ヒカルの視線がふらりと逸れる。

 なんとなく目に留まったのは、会場の中でもひときわ注目を集める一団だった。

 塔矢名人と、その門下生たち。

 その中で凛とした佇まいで壇上を見つめるアキラに、ヒカルの胸がチクリと痛んだ。

 

 名人に挨拶に伺った時、アキラはヒカルに一瞥すら投げてよこさなかった。

 若獅子戦の時と、同じだった。

 あの時も、院生など意識するにも値しないとばかりに無視され、1回戦で敗退したこともあり、結局その背を遠くから眺めることしかできなかった。

 

 今一度、壇上へ視線を戻す。

 ヒカルは、まだ一度も緒方と互先で打ったことがない。常に置き石があり、今もなお二子局だ。

 けれども、盤の向こうに座る勝負師としての緒方を、ヒカルは何度も間近で目にしている。

 

(早く、強くなりたい。プロになって、もっともっと強くなって──)

 

 そうすれば、アキラだけでなく、緒方の視線も自分を捉えてくれるのではないだろうか。

 プロ試験開始まで、後数日。

 まだスタートラインにすら立てていない自分を実感しながら、ヒカルは憧れだけではない眼差しを壇上へ向ける。

 そんなヒカルを、佐為だけが静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

467 :検討中の名無しさん

緒方本因坊のブログにおめでとうしに行ったら

とんでもねぇ内容が更新されてやがる

 

469 :検討中の名無しさん

RX-7お前かよwwwwwww

 

470 :検討中の名無しさん

sai、マウス持つのも難しい身の上って……

 

472 :検討中の名無しさん

真っ赤なRX-7乗ってる緒方九段説、正解で草

 

475 :検討中の名無しさん

お前らがネタにし続けた結果
本人から答え合わせ来たぞ

 

476 :検討中の名無しさん

saiおじいちゃん…… (´;ω;`)

 

480 :検討中の名無しさん

急に重い話来てビビった

 

482 :検討中の名無しさん

だからネット対局だけなのか

 

484 :検討中の名無しさん

身バレすると周りに迷惑かかるから本名明かさないって
なんか納得したわ

 

488 :検討中の名無しさん

緒方本因坊ブログまとめ

 

・RX-7=緒方本因坊本人でした


・saiの代理人やります


・saiは身体的事情でネット対局のみ


・碁石やマウス持つのも困難


・身バレすると周囲に迷惑かかるので本名等非公開


・今後もWGN継続


・実力者との対局希望


・申し込みは緒方本因坊経由で

 

以上

 

490 :検討中の名無しさん

>>488

有能

 

496 :検討中の名無しさん

five君、マウス操作までしてあげてたのか……

 

497 :検討中の名無しさん

「おじいちゃん、今日は韓国の人来てるよ」

 

503 :検討中の名無しさん

ちょっと泣けてきた

 

505 :検討中の名無しさん

急に家族愛スレになるな

 

508 :検討中の名無しさん

five君、寝たきりのお爺ちゃんの面倒見ながら

囲碁覚えたのか

 

510 :検討中の名無しさん

隣で「そこはコスミじゃ」
とか言われ続ける環境

 

513 :検討中の名無しさん

英才教育すぎる

 

514 :検討中の名無しさん

なんで孫説が確定みたいな流れになってんだよ


 

519 :検討中の名無しさん

>>514

saiはおそらく寝たきりやで

可愛い孫でも妄想しないと、重すぎるやん


 

520 :検討中の名無しさん

世界中から対局申請届いてるだろうな

 

523 :検討中の名無しさん

本因坊の窓口業務想像したら草

 

528 :検討中の名無しさん

「sai先生、本日は韓国の李九段から申し込みが」


「ほう……受けてみるか」

 

530 :検討中の名無しさん

緒方本因坊のせいで、俺の中のsaiが組長に

 

538 :検討中の名無しさん

RX-7=緒方本因坊確定した今
あの観戦拒否対局の価値ヤバくね?

 

541 :検討中の名無しさん

見せろォ!!!!!!


棋譜を見せろォ!!!!!!!!

 

567 :検討中の名無しさん

実力者との対局希望


オラワクワクしてくっぞ

 

572 :検討中の名無しさん

韓国勢絶対申し込むだろこれ

 

576 :検討中の名無しさん

HanRiver来るか?

 

580 :検討中の名無しさん

redstarも絶対来る

 

595 :検討中の名無しさん

でも緒方本因坊が窓口じゃ
下手な奴対局申し込めなくね?

 

597 :検討中の名無しさん

sai先生と打ちたいです!二段です!
とか送れる空気じゃない

 

601 :検討中の名無しさん

実質プロ高段者専門窓口だろこれw

 

602 :検討中の名無しさん

緒方本因坊が選別してるの想像すると怖い

 

606 :検討中の名無しさん

「……君では役不足だ」
とか普通に返ってきそう

 

608 :検討中の名無しさん

誤用発見。役不足警察だ!

 

619 :検討中の名無しさん

>>601

本因坊になってから代理人名乗ったのって
そういうことだろ

 

621 :検討中の名無しさん

タイトル保持者が窓口なら変なの弾けるし

 

622 :検討中の名無しさん

sai側の事情考えるとまあ妥当ではある

 

629 :検討中の名無しさん

タイトルホルダーがマネージャー業すんのか

さすがsai

 

634 :検討中の名無しさん

緒方本因坊「本日の挑戦者はこちらです」

 

636 :検討中の名無しさん

インテリヤクザをアゴで使うsai

やはり組長では?

 

638 :検討中の名無しさん

ポジション的に名人が組長

saiは会長だろ

 

640 :検討中の名無しさん

面接を突破できる気がしない

 

643 :検討中の名無しさん

つまり何も変わらないな

 

644 :検討中の名無しさん

そいや俺らfive君に蹴られてんのか

 

646 :検討中の名無しさん

「おじいちゃん今疲れてるから」
カチッ

 

649 :検討中の名無しさん

地味にfive君権力持ってて草

 

652 :検討中の名無しさん

five君がマウス持ってるとは限らないわけで

 

658 :検討中の名無しさん

saiおじいちゃんと孫のfive君って

緒方ブログ読んでも否定されてなくね?

 

660 :検討中の名無しさん

むしろ補強まである

 

731 :検討中の名無しさん

緒方本因坊って塔矢門下なんだし
名人vs.saiはないんですか

 

736 :検討中の名無しさん

実現したら鯖落ちだな

 

740 :検討中の名無しさん

緒方本因坊なら普通に組めそうなんだが

 

744 :検討中の名無しさん

塔矢名人がネット碁やるイメージ無さすぎる

 

748 :検討中の名無しさん

でもsaiの存在知ってるよな絶対

 

753 :検討中の名無しさん

緒方本因坊、君には期待しているよ

 

758 :検討中の名無しさん

期待と言えば

次から観戦開けてくれるんですよね?

 

762 :検討中の名無しさん

開いてなかったらブログに突撃する奴が出るぞ

オレとか

 

803 :検討中の名無しさん

これからsai見ると安心しそう

 

808 :検討中の名無しさん

生存確認扱いで草

 

812 :検討中の名無しさん

キターの代わりに生存レスですねわかります

 

817 :検討中の名無しさん

(´;ω;`)
長生きしてくれsaiおじいちゃん

 




就位式は時系列的に、第十一話とばして第十二話の途中らへんなんですが、ここに入れると収まりが良いので入れました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【七色弓箭】で征くポックルに転生した男のハンター道(作者:レインボウ)(原作:HUNTER×HUNTER)

唐突に前世の記憶を思い出したポックル。溢れ出した原作知識は無垢な少年を絶望に落とす。迫り来る不運の絶頂、キメラ=アント、ザザンとパイクに作中最強格のネフェルピトーの脳くちゅ、前世の記憶と原作知識を駆使して走り出す少年は今、ハンターの道を選ぶ!▼アンチヘイトは念の為です。


総合評価:5960/評価:8.25/短編:2話/更新日時:2026年03月22日(日) 02:56 小説情報

降谷零のクローンなオリ主とコナン世界(作者:ラムセス_)(原作:名探偵コナン)

組織が作り出したバーボンのクローン生物兵器となってしまった転生オリ主が、儚い勘違いをされながら安室さんと親子になる話。▼※pixivにて投稿済みの物の改稿版


総合評価:4945/評価:8.52/連載:12話/更新日時:2026年06月13日(土) 17:27 小説情報

小城探偵事務所(作者:無月)(原作:金田一少年の事件簿)

コンビニも、ゲームも、風呂もトイレもある。食事だって慣れた物だし、人種だって変わらない。▼けれど、けして安全とは言い難い世界。しかも、転生先は犯人です。▼でも、まずはお礼が言いたい。▼「コナンワールドじゃなくてありがとう! 神様!!」▼同じ推理物なら無差別に殺される可能性があり、銃刀法が欠片も仕事してないあの世界よりは大分マシ。▼なんか物理法則とか、一部化学…


総合評価:6288/評価:8.8/連載:53話/更新日時:2026年06月13日(土) 06:00 小説情報

やめ、僕 プラント√(作者:星乃 望夢)(原作:機動戦士ガンダムSEED)

『やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか』のIf√。▼もしもあの日、アスランと一緒にプラントへと引っ越す路があったのなら、世界はどんな風に変わっていたのか?▼ユーラシア連邦がティエレン教になったり、アズラエルが腹黒ヤクザビジネスマンになったり、オーブが世界最強武装中立国家になったり、イングリットがNTRされたり、カナードがどけ!俺はお兄ちゃんだ…


総合評価:4289/評価:8.52/連載:5話/更新日時:2026年06月10日(水) 09:15 小説情報

ブレイザー・ヴィリー(作者:ヤン・デ・レェ)(原作:BLACK LAGOON)

ひょんなことから『BLACK LAGOON』の世界に転生した男が、危険な女性たちと出逢い関係性を深めながら、悪党としても栄達する話。▼*pixiv様にも同時投稿しております。▼*pixivでリクエストを頂いて、現在進行形で執筆している二次創作です。主人公の名前、背景、外見などについては、リクエスト主様にご提出いただいた設定に基づいております。


総合評価:4791/評価:8.84/連載:5話/更新日時:2026年06月14日(日) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>