ハズレスキル『クリティカルヒット』は最強です ※ただしギャンブル好きに限る ~借金まみれのクズは違法探索者で成り上がる~   作:鏑木カヅキ

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クズ男、ワクワクが止まらなくなる

「ドーラさん! 素敵な名前ですね! これからよろしくお願いします!」

 

 綺麗なお辞儀をするヒマリちゃんに、ドーラと名乗った獣人少女は明らかに戸惑っていた。

 ドーラは後頭部を搔いて嘆息した。

 ……あれ? 取らないの?

 情報料。名前は無料とか?

 そう思ったのも束の間、ドーラは足を止め、再び嘆息するとなぜか踵を返す。

 

「道、間違った」

 

 スタスタと俺たちの横を素通りし、今来た道を戻っていくドーラ。

 俺とヒマリちゃんは目を見合わせ、首を傾げる。

 再びドーラが足を止めると俺たちのところまで戻ってきた。

 

「下層の簡単な地図を売ってあげる。それと最低限のルール教えてあげる。追加で50万払ってくれるだけでいいよ。払う?」

 

 ドーラは不機嫌そうにしながら早口で話した。

 最初に出会った時のビジネス感は薄れている。

 なんというか人間と話している感覚になった。

 それはドーラの表情に変化があったからだろう。

 

「あ、ああ払うよ」

 

 俺はなぜか何の疑いもなく承諾していた。

 俺がリングから50万を払うとドーラは再び前を歩き始める。

 

「地図のタブが増えてるからそこから見て。データは渡せるからそっちの……『お花畑』に渡したらいいよ」

「お、お花畑……?」

 

 ヒマリちゃんがきょとんとしている。

 言い得て妙だ。

 俺は何も反応せず、ヒマリちゃんに地図データを渡した。

 

 中身は最低限の地図という感じだ。

 下層の大通り付近と少し入った路地まではある程度明瞭に描いているが、それ以外は不鮮明だ。

 とはいえ大きな店や施設の名前まで入っているので、かなりありがたい。

 

「地図に書いてない場所は入ったらダメ。そこは組織外の連中が蔓延ってる。ルールを守らないヤバい奴らが多いから気を付けて。基本的に表向きは暴力団、マフィア、カルテルとかが仕切っているから、大騒ぎを起こせば処理されるんだ。だから大抵の奴らは軽犯罪くらいまでしかしないようにしてる。ただたまにイカれた奴もいるから絶対じゃない」

 

 歩きながらつらつらと説明するドーラ。

 俺は言葉を必死で記憶した。彼女が言っていることは真実な気がする。

 

「もうすぐ夜になるけど出歩いたらダメ。やばい奴らが動き出す時間だからね。宿にいれば基本は安心。護衛もいるし、宿は組織の傘下だから大抵の奴は手を出せない。もしも誰かに襲われたら指に気を付けて。指ごと切り落とされてリングが奪われることがある。リングは簡単に外せないからね」

 

 リングが抜けるか試してみたが、ドーラの言う通り外れなかった。

 これも表のリングとは違う部分だ。

 

「それとあんたら裏探索者として入ってきた口だろ? ダンジョンに行く前に裏探索ギルドに行きな。裏探索者の登録してから説明を聞くこと。下層ダンジョンの場所は地図に記載してる。武器防具や道具は適当な露店で買っちゃダメ。比較的良心的な店は地図に書いてある店だけだからそこに行って。以上。はい、着いた」

 

 ドーラが足を止めて振り返る。

 目の前には木造の三階建ての家屋があった。

 家賃2万くらいの東京郊外にありそうなアパートと言ったらいいだろうか。

 いや、それよりも古くてボロいな。

 

 アパートの前には数人の大男たちが立っており、こちらをギロッと睨んできた。

 九頭竜の舎弟たちに似ている。怖い。ヤクザかな。

 

「護衛の人たち。怒らせちゃダメだよ。あの人たちも強いけど、背後にいる奴らはもっとヤバいから」

 

 俺は勢いよく何度も頷いた。当然である。怖い人たちを怒らせるはずがない。

 

「何か知りたいことがあったら次会った時にまた聞きな。じゃ」

「ありがとうございました!」

 

 ヒマリちゃんの礼を聞く前にドーラは一瞬で姿を消した。

 素早い。彼女も探索者なのだろうか。

 

「親切な人に会えてよかったですね!」

「そ、そうかなぁ」

 

 確かに色々教えてくれた。地図もくれた。

 だが考えてみてほしい。

 100万である。

 宿の場所もさっきの場所から徒歩十分以内の場所だった。

 案内と情報と地図で100万。

 情報は大事だということはわかるが100万だ。

 吐きそう。

 まあ、俺が払ったのは50万だけどさ。

 とにかく中へ入ろう。

 ここにいても護衛の人たちに睨まれ続けるだけだ。怖いって。

 

 玄関のドアを開けると目の前に受付があった。

 そこには高齢の女性が座っている。

 意地が悪そうな顔をしていて、こちらを品定めするように睨んでいた。

 

「あ、あの泊まりたいんですが」

「…………一泊一人10万」

 

 たっっっっか! 高級ホテルかここ!?

 

「それと一部屋しか開いてないから相部屋。泊まるかい?」

 

 しかもヒマリちゃんと相部屋!?

 それはまずい。

 女子高生とおっさん二人が同じ部屋に宿泊するなんて無理無理! 怖い!

 何もするつもりなんてないけど、未成年に手を出したとみなされてもおかしくない状況だ。

 人生終わっちゃう!

 それにヒマリちゃんが嫌がるに決まっている。

 おっさんと同じ部屋に泊まるのを好ましく思う女子高生なんてこの世に存在するはずがない!

 それは創作か妄想の世界だけだ!

 

 他に宿はないかと聞きかけて思いとどまる。

 ドーラに貰った地図を見るに他の宿は書いてなかったし、そもそも競合店を教えてくれるとは限らない。

 宿の主人の機嫌を損なったら泊まらせてくれない可能性もある。

 そこまで考えて俺は気付いた。

 ここは表世界とは違う。

 表世界では店と客は対等だが、ここでは店側の方が圧倒的に立場が上なのだと。

 気を付けないと詰むかもしれない。

 

「あ、あの泊まります! 一部屋で大丈夫です!」

 

 驚いて彼女の顔を見ると笑顔で大きく頷いた。

 何も言わず、彼女はリングを宿の主人に見せた。

 俺も慌てて半額を払うためにリングをかざす。

 宿の主人が受付台の上に金属製の鍵を放り投げると、俺たちに興味をなくしたのか新聞を読み始めた。

 どうやらさっさと行けということらしい。

 部屋は202。二階だ。

 

 階段を上る。トイレと風呂は共同のようで廊下の先にあった。

 宿泊部屋まで行き、中に入ると酷いありさまだった。

 以前、動画で某町のドヤと呼ばれる激安宿を見た事があるが、それと同じような感じ。

 清掃は行き届いておらず、汚い布団と木製のフローリングが出迎えてくれた。

 しかも狭い。

 たぶん3畳くらいしかない。

 ここに二人で寝ろって?

 

 一応布団は二枚ある。

 めちゃくちゃ薄いけど。 

 困惑しながら靴を脱いで中に入る。

 扉を閉めると街中の喧騒がわずかに遠のく。

 狭くて汚いが、やっと安心できる空間に来られた。今日は波乱万丈な一日だった。

 

 床に座ると疲れが押し寄せてくる。

 気が抜けたのか、眠気までこみ上げてきた。

 腹も減っている。

 昼から何も食べていないし、水分も摂取していない。

 スマホも財布も何もない。

 借りていた錆びた短剣もオークを倒した時に砕け散ったし。

 

 もう夜だ。

 部屋に備え付けてある時計を見ると19時を回るところだった。

 時間が正確かはわからないがそこまで間違っていなさそうだ。

 ちなみに時計はネジ巻き式だ。

 時間あってるのか、これ。

 

 ダンジョンによっては外の世界と同じように空があり、時間があり、星がある。

 ここは地球と同じような環境と言っていいだろう。

 ヒマリちゃんが座った状態で眠そうに頭を前後に揺らしていた。

 彼女も相当に疲労が溜まっているのだろう。

 

「寝ようか」

「……はい」

 

 俺たちは最後の力を振り絞り、布団を敷くとそのまま布団に入る。

 そのまま意識を手放そうとした時、ヒマリちゃんが俺の方を向いた。

 

「あの、今日は本当にありがとうございました。甲斐さんがいてくれなかったら、私……死んでいたと思います」

「リリの娘を放っておけないからな。なんとなってよかったよ。でも今日はどうにかなったけどこれからどうなるかわからないぞ」

「私、これから頑張ります。甲斐さんの足手まといにならないように、自分にできることを探しますから! だから、その……一緒にいてもいいですか?」

 

 まっすぐ見つめてくるヒマリちゃん。

 リリの面影が顔立ちに、少しだけドギマギしてしまった。

 俺は動揺を誤魔化すように天井を見上げる。

 

「もちろんそれはいいけど……甲斐さんってのはやめてくれ。むず痒いし。シンでいい。敬語もなしで」

「敬語は目上の方なので……でもシンさんって呼ばせてもらいますね」

 

 性格は全く違う。でも見た目と、そして根っこの部分はリリと似ている気がする。

 芯の強いところ、諦めないところ、そして人を勇気づけるところ。

 昔のリリを思い出して、少し胸が締め付けられた。

 

「もう寝よう。明日は街を見回らないとな」

「はい。おやすみなさい、シンさん」

「ああ、おやすみ。ヒマリちゃん」

 

 会話を終えて数分後、ヒマリちゃんから寝息が聞こえ始めた。

 どうやら俺のことを信用してくれているらしい。

 大丈夫? ちょっと簡単に人を信用しすぎじゃない?

 俺が襲うかもって考えなかったのか? 襲わないけど。

 そんな気もさらさらないけど。リリの娘だし。

 

 俺は眠れなかった。

 疲労は限界を超えているのに、なぜか脳は覚醒している。

 理由はわかっている。

 俺はリングを掲げてディスプレイを開く。

 

〇スキル:『クリティカルヒット』

319分の1の確率で攻撃のダメージが777倍になる。

 

 スキルだ。間違いなく俺はスキルを習得している。

 

「くふっ」

 

 思わず気持ち悪い笑みがこぼれた。

 腹の底からこみ上げる喜びを噛みしめる。

 年甲斐もなく左右に転がりたくなる衝動に駆られたがギリギリでやめた。

 

 危ない。

 尊厳を失うところだった。

 若い頃、何年も何年も鍛錬をして、必死でスキルを手に入れようと藻掻いていた。

 だがあの時は結局スキルを習得できず、俺は探索者になる道を諦めてしまった。

 だが何の因果か喉から手が出るほどに求めていたスキルを今は習得している。

 探索者の道を諦めてから十年近く経ってようやく手にしたのだ。

 それも仕方のないことだろう。

 

〇スキル習得条件:クリティカルヒットを発動させる(319分の1を引くまで敵を攻撃する)

 

 なんせ習得条件が特殊すぎる。

 確率系と呼ばれる、スキルの中でも異質なタイプだ。

 はっきり言って、探索者の中ではハズレと呼ばれる類のスキルである。

 確率系は効果が大きいものが少なくないし、レアなスキルだが、なんせ発動条件が確率なためここぞという時に発動できない可能性が高い。

 つまり安定性がなく、ギャンブル要素が強いため嫌われているのだ。

 

 生き死にを懸けた戦いでパチンコする馬鹿はいないからな。

 しかもノリ打ち。

 当然、そんな探索者と組もうという人間も少なく、ソロになりがち。

 ソロでは確率系スキルはより危険性が上がる。

 ゆえに確率系スキルに目覚めた場合、引退する探索者も少なくない。

 

 俺のスキル『クリティカルヒット』はパチンコのミドルタイプと同じ確率で発生するらしい。

 つまり、1000回ハマりなんて頻繁にある確率ってことだ。

 1000回攻撃しても発生しないなら、もうスキルを持っていないのと同じだ。

 だが効果は絶大。

 ダメージ777倍だぞ?

 発動すれば相手は死ぬだろう。オークも一撃だったし。

 

「……俺にぴったりのスキルだな」

 

 思わず声を漏らした。

 ふと今日一日のことを思い出す。

 パチンコ大負けから、強制的に迷宮街へと連れてこられ、ダンジョンを探索させられ、ヒマリちゃんと出会い、何度も死にそうな目に遭い、オークと戦い、そしてスキルに目覚めた。

 こんなことになるなんて昨日までは夢にも思わなかった。

 

 うだつの上がらない人生。

 クソみたいな人生。それがずっと続くと思っていた。

 

 大勢の人間が目の前で死んだ。

 俺たち以外の債務者は全員殺された。

 でも俺とヒマリちゃんは生きている。

 生死を懸け、そして生き残った。

 その結果、100万も稼いだのだ。

 一日で、数時間で100万だ。

 表社会では学歴も経験もない人間は一か月必死に働いても20万程度。

 税金も抜かれるからさらに減る。

 それがダンジョン探索では5倍だ。

 

 金だけじゃない。

 命をベットし、危険な橋を渡り、貴重な宝を手にする。探索という仕事が俺の想像以上にイカれているということを知った。

 ギャンブルは金を賭けて、スリルと金を得る。

 探索は命を賭けて、スリルと金と経験値と実力を得る。

 互いに何種もの脳汁が出るが、探索はギャンブルの比じゃない。

 ギャンブルの何倍、いや何十倍、何百倍もの快感が押し寄せてくるのだ。

 それはもうドッパドパ出る。

 異常なほどに心臓が高鳴り、全身に熱が生まれ、体中が鈍麻していく心地よさを感じる。

 あの感覚を思い出すだけでゾクゾクしてしまう。

 

 ギャンブルなんて目じゃない。

 探索は最高だっ!

 

 ああ、早く明日にならないかな。

 早く探索がしたい。戦闘がしたい。

 またあの快感を得たい。

 

 脳汁(アドレナリン)を、脳汁(ドーパミン)を、脳汁(セロトニン)を、脳汁(オキシトシン)を出したい!

 俺は興奮で寝られなかった。

 まるで翌日の遠足が楽しみな子供のように。

 

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