ハズレスキル『クリティカルヒット』は最強です ※ただしギャンブル好きに限る ~借金まみれのクズは違法探索者で成り上がる~ 作:鏑木カヅキ
森の中を探索して数分後。
モンスターを前に俺は短剣を手に身構えた。
一メートルくらいの角の生えた巨大なウサギ。
ニードルラビットと呼ばれるゴブリンと並ぶレベルで弱い雑魚モンスターだ。
見た目はちょっと可愛いが凶暴で危険な生物である。
「な、なんだか柔らかそうな見た目してますね」
「油断は禁物だ。あいつは亜人じゃない。モンスターだから……うお!?」
会話の最中にニードルラビットが突進してきた。
ぎりぎりで回避すると、背中に冷や汗をかく。
頭部にそびえたつ一角で俺たちを貫くつもりらしい。やはり見た目に騙されてはいけない。あいつは俺たちを殺す気だ。
「俺が前に出る! ヒマリちゃんはタイミング見てから攻撃してくれ!」
「わ、わかりました!」
ニードルラビットが旋回のためにまごまごしている間に距離を詰める。
奴の足は短い。直進の速度はかなりのものだが、方向転換には時間がかかる。足を止めた時に攻撃すれば簡単に倒せるはずだ。
若い時に読んだモンスター図鑑の内容を思い出しながら、俺は疾走する。
「うおらっ!」
気合一閃。
ニードルラビットへと跳躍すると、そのまま短剣を振り下ろした。
ガッという鈍い音と共に手が痺れる。
思った以上の硬度だ。体重をかけての攻撃だったのに数センチ程度の傷しか与えられない。
「キュィィ!」
ニードルラビットが怒号を発しながら角を振り回す。
俺は咄嗟に短剣で防御しつつ、飛び退いた。
簡単に倒せるって情報はなんだったんだよ。あの図鑑、嘘情報を載せてたのか? それとも俺の攻撃力が低すぎるっていうのかよ!
やはりクリティカルヒットを出すしかない。
いやむしろそのために戦闘してるまである。
あの快感を思い出すと思わず頬が緩むほどだ。
そうだ。むしろ一撃で倒せなくてよかったのだ。
「さぁて! 初当たりは何回転で取れるかな!」
俺は意気揚々とニードルラビットに特攻。
最初に考えていた戦略なんて無視し、頭の中はモンスターを攻撃したいという欲求で満たされてしまう。
攻撃を回さなければ大当たりは来ない。
パチンコと違って金はいらない。
無料で何回転でも回せるのだ。
ただ死ぬかもしれないってリスクがあるだけだ。
「タダなんだ! 無限に回してやるからな!」
俺は理性を手放してニードルラビットを数度切り裂く。
だがジャンプ攻撃に比べると威力が低く、浅い傷を残すことしかできない。
痛みに反応して暴れまわるニードルラビット。
暴れモードの時は距離を取る。そして終わった瞬間、再び攻撃。それを何度も繰り返した。
だが、まだクリティカルヒットは発動しない。
総攻撃回数はまだ20回。
朝一、1000円回しただけで当たるなんてことは稀だ。
気長に行くしかない。
俺はヒマリちゃんに振り返る。
「ううっ、ど、どうすれば……」
めちゃくちゃおろおろしてる。
彼女は弓を引いているが、いまだ一度も放てていない。
察するに俺が前衛で戦っているため、タイミングを掴めないんだろう。
そりゃそうだ。仲間の後方から攻撃するなんて、一歩ミスすれば仲間に当たってしまうのだから。
遠距離攻撃は精緻な技術と度胸が必要だ。
「ヒマリちゃん! 俺が敵から距離を取った時は3秒待つ! その時に攻撃してくれ!」
「が、頑張ります!」
前向きな返答だ。
その声に励まされたのか闘争欲求が増していく。
ニードルラビットに接近、そして攻撃。奴は角を振り回すが、俺はその動きを冷静に見極めていく。
オークに比べれば可愛いものだ。
暴れモード中は距離を取るため、後方へ跳躍。
「今だ!」
地面に着地したと同時に俺は叫んだ。
弦を引き絞る音が聞こえた数瞬後、空を切り裂くような鋭い音が俺のすぐ横を通る。
「ピィア!」
甲高い悲鳴がニードルラビットから生まれた。
ニードルラビットの腹部に矢が突き刺さっている。見事命中したらしい。
「やった!」
嬉しそうな声が後方から聞こえると俺は跳ねるようにその場から駆け出す。
「ナイス! ヒマリちゃん!」
俺の声にも喜色が滲んでいた。
痛苦に苦しむニードルラビットは俺の接近に気付かない。
「当たりを引けッ!」
俺は気合と共に短剣を振り下ろす。
ズババ! ブルルルル! キュインキュイン! キンキンキン!
小気味いい音と手に伝わる振動、斬撃の気持ちよさ、甲高い人工的な電子音が脳内に響き渡る。
クリティカルヒット(大当たり)だ!
ニードルラビットは吹き飛び、地面を転がった後、ぴくぴくと痙攣していたがやがて動かなくなった。
倒したらしい。
319分の1を50回転以内に当てたわけだ。
今日はかなりヒキが良いぞ!
でもオークを倒した時と違って、演出がかなり弱かったような。
気持ちいいのは間違いないんだけど、オークの時が大当たりなら、ニードルラビットの時は小当たりみたいな感じというか。
もしかしたら敵によってクリティカルヒットの感覚が変わるのか?
だとしたらオーク戦で得た快感は、ボスクラスと戦わないと得られないってこと?
いや、まあ、気持ちよかったよ?
でも、オーク戦で感じたあの脳みそが弾けそうなほどの快感には到底及ばないっていうか。
贅沢なことはわかっている。
しかしドーパミンに魅了された俺にとってはやはり足りない。
脳汁の量が!
とはいえ戦いを無事終えたことは嬉しい。かなり良い感じで勝てたしな。
「や、やりましたね!」
「やったな!」
俺はヒマリちゃんとハイタッチする。互いに笑顔でやり遂げたことを喜んだ。
オーク戦は逃げ回るばかりだったから、まともな戦闘は今回が初めてだった。
連携もできていたし、ちゃんとしたパーティ戦になっていた気がする。
楽しかった。
ニードルラビットの体から光の粒子があふれ出し、俺とヒマリちゃんの体に吸収された。
「これが魔素……経験値ですか。まだレベルアップはしないんですね」
「ボスクラスなら1レベルくらいは上がりそうだけどな。ニードルラビットは雑魚モンスターだから。ヒマリちゃんが2レベルに上がるには、今回の戦闘の感じだとあと10匹くらいは倒せないとダメかな」
「なるほど……あれ? でも敵を倒した時ってどうやって経験値を分配しているでしょう? 倒したのはシンさんですし……攻撃を当てた私にも経験値は入りましたけど」
俺はニードルラビットの角を短剣で切り取りながら答えた。
「討伐時の貢献度によって経験値の分配率は変わるんだ。今回だと俺が8割でヒマリちゃんが2割くらいかな。俺は先頭でタンク、つまり敵の注意を引き付けながらダメージをある程度与えつつ、とどめを刺したから多めだと思う。もっと経験値が欲しいなら一人で倒すとか、戦闘でもっと貢献する必要が出てくる」
ヒマリちゃんは俺の横で膝に手を当てて中腰になりながら、作業風景を興味深そうに見ている。
「もしかして、攻撃だけが貢献度に関わるわけじゃないんですか?」
「鋭いな。例えば後方で仲間の回復したり、敵の動きを阻害したり、ただ挑発したり煽ったりするだけでも貢献することになる。ただ、毎回同じ分配率じゃない。個体差があるらしい。なぜ明確に分配されるのかという理由は定かじゃないけど、一説では『モンスターの恨み度』だとも言われてる。敵を怒らせれば怒らせるほど、憎まれれば憎まれるほど経験値分配率高かったんだとさ」
「う、恨み度……なんだか怖いですね」
「まあ、モンスターも生き物ではあるからね。感情があるってことだろうさ。よし、取れた!」
ようやくニードルラビットの角を切り取れた。数十センチもある、状態もかなり良い。
ふむ、これならそれなりに高く売れそうだ。
俺は角をバックパックに入れた。先端部分は入りきらないのでチャックの間から飛び出ている。
おお、ここまでの一連の流れ、なんか探索者らしくないか!?
モンスターとの命を懸けた戦い、素材や宝を手に入れ、そして売って金持ちになる!
ワクワクするじゃないの!
しかも俺にはクリティカルヒットなんていうギャンブル要素まである。
最高すぎるぜ!
昨日までの無職パチンカス生活に比べたら雲泥の差だ!
なんてことを俺は考えていたが、ヒマリちゃんはまだニードルラビットを見下ろしていた。
「あ、あのところで倒したモンスターはどうなるんでしょう?」
「基本的にしばらくすると消える。あるいはボスを倒した後、ダンジョンがリセットされるんだけど、その時にもモンスターは消えたり、再配置される。その時の個体は別の個体、あるいは記憶がなくなった個体だと言われているな」
「ダンジョンがリセットされるというのは?」
「そのままの意味さ。ボスを倒すとダンジョンの出入り口が塞がり閉鎖される。閉鎖されるまでの時間はダンジョンによって違うけど、数時間はあるとされているな。閉鎖後の出入りは不可能だ。そして、しばらくするとダンジョンの入り口が解放される。その時、内部の様子は元通りになる。死んだモンスターもボスも再び現れているし、宝や素材の位置はランダムに変更されるんだ」
「もしも、逃げ遅れた人はどうなるんでしょう?」
「いなくなる。いわゆる未帰還者ってやつだ。実際に何が起こったのかは本人しかわからないな」
「ボスを倒したらすぐに脱出しないといけないんですね……あの、ふと思ったんですけどアルフヘイムもダンジョンですよね? ということはボスがいて、そのボスが倒されたら……」
「このダンジョンは閉鎖されるだろうね。そうなる前にここを脱出しないと俺たちも未帰還者になる。アルフヘイムのボスがどこにいるのかはわからないけど、不安定な状況ってことは間違いない」
ただ、疑問はある。
ボスが死ねばダンジョンの出入口を閉ざされてしまう。だというのにこのダンジョン内には中規模の街が築かれている。
明らかに不安定な場所だというのに、そこまで栄えさせたのはそれだけうま味があるということなのだろう。
だがある程度の保証は必要だ。ボスが誰かに殺されたら終わりなのだから、もしかしたらどこかに監禁しているか、あるいは別の方法で保護しているのだろうか。
まあ、ダンジョンの中にダンジョンがあるっていうだけでかなり特異な環境なんだけどな。
これにも何か理由があるんだろうか。
ヒマリちゃんは少しだけ考え事をしているようだった。色々と思うところがあるのだろう。
「じゃあ行こうか」
「は、はい!」
ヒマリちゃんは我に返るとすぐに返答した。
俺たちに立ち止まっている時間なんてない。
必死に今を生きる。
探索をして借金を返す。
そのために強くなるしかないのだ。
……いや、まあ正直探索を楽しんでいる節はあるんだけども!
いいだろ。別に。どうせやらないといけないなら楽しんだ方がいいに決まってる。探索者になるのは夢だったんだ。スキルを喉から出るほど欲していたんだ。
その両方を叶えた。不本意な経緯だったけど。
だったら楽しもう。
楽しんで楽しんでそれで欲しいものを全部手に入れてやる!
そしてもっとクリティカルヒットを発動させて、あの最高な感覚を味わってやるんだ!