ハズレスキル『クリティカルヒット』は最強です ※ただしギャンブル好きに限る ~借金まみれのクズは違法探索者で成り上がる~ 作:鏑木カヅキ
「1000万」
ドーラが面倒くさそうに手のひらを見せてきた。
街中を駆け回りようやく見つけたというのに事情を話した途端にこれだ。
完全にぼったくられている。
この守銭奴メスガキめ!
金がそんなに大事か!? 大事だな!
「さ、さすがに1000万は無理だ。金がないから儲け話を聞きに来たんだぞ!」
「だったらこの話はなし。こっちは教える義理なんてないし。ってかこの街でそんな都合のいい話があると思う?」
ぐうの音も出ずに俺は沈黙を返す。
ちらっと俺たちを一瞥するとドーラは興味なさそうに顔をそむけた。
「借金上限ギリギリって感じだね。次の返済で破綻するから焦って情報集めてるってとこ? ずいぶんと悠長なことだね。危機感、足らないんじゃないの?」
いちいち図星を突いてくる。何も言い返せない。
「あの! どうにかできませんか? 身勝手なことを言っていることはわかっています。でも他に頼れる人がいなくて……1000万も払っちゃったら二人とも借金上限に達してしまいますし」
「一攫千金の儲け話なんてのが安く売られるわけないだろ。儲けられるなら、自分でやるなり、誰かにやらせりゃいいんだからさ。文句あるなら裏ギルドの討伐クエストでもやったら? まあ、低レベルのあんたらじゃそもそも見つける前に殺されるだろうけどさ」
「じゃあ条件付きでどうですか!? 例えば……このお話で得られた分の何割かをドーラさんにお譲りするとか! ドーラさんのお願いを聞くとか!」
「ふん、まあそこのおっさんよりはマシな提案か」
ドーラが呆れるように俺を見ていた。
ヒマリちゃんの方が交渉事は向いているのかもしれない。いや、間違いなく向いてる。俺はコミュニケーション能力皆無だし、頭もあまり良くないからな……。
ドーラは思案顔を浮かべる。ヒマリちゃんの提案が効いたのだろうか。
「……もう少ししたらリングに大規模討伐の緊急クエストが配布される。通常のクエストや討伐クエストよりもさらに報酬は良いし、競争率も高い。つまり早い者勝ちってこと」
緊急クエスト。表世界にも同じ名前のクエストは存在している。
可及的速やかに解決すべきクエストで、通常クエストに比べて報酬が高い上に、探索者ランクも上がりやすいらしい。
「でも俺たちじゃ、討伐クエストは達成できないだろ。低レベルじゃ、敵モンスターを倒せないんだし」
「そうでもない。今回の討伐クエストは他のクエストと毛色が違うからね」
一体どういうことか聞こうとした瞬間。
けたたましいアラーム音がリングから響き渡った。
俺とヒマリちゃん、ドーラは一斉にリングのホログラムを表示する。
●緊急クエスト
○対象モンスター討伐クエスト:討伐対象 ミミック
○制限時間:48時間
○報酬額:3000万円
○クエスト内容:下層の街中でミミックを目撃したという情報が入った。ミミックはあらゆる物質、生物に変化することができるモンスターだ。
街中、あるいはダンジョンに逃げ込んだミミックを見つけて討伐しろ。
なお、ミミックは死に際に財宝を吐き出すことがあるが、すべて討伐者のものとしてよい。
マジか。ドーラの言う通り本当に緊急クエストが配布された。
この獣人娘、俺が思っている以上に優秀なのかもしれない。
だがこの情報自体はドーラに聞くまでもなく、自然に俺たちが得られたはずだ。つまり金を払うほどの価値はない。
「言いたいことはわかるよ。この情報には価値がない。先に教えたのは情報の信憑性をわからせるためだから。で、ここから本題。あんたらあたしとパーティ組まない?」
「え? パーティ? 仲間になるってことですか!?」
ヒマリちゃんがわかりやすいほど驚いた。
この提案は確かに想像していなかった。
「そ。あたし、情報の売買以外にも探索者も多少やってんだよね。クラスはアタッカーで、裏探索者ランクはブロンズ。回避系の前衛だね。レベルは6」
ドーラの腰にはナイフが何本か下げられている。
小柄ながら堂々とした態度や無駄のない動きには確かに探索者としての経験がにじみ出ている。ドーラが戦えるというのは事実だろう。
「……どうして俺たちとパーティを組もうと思ったんだ? おまえならいくらでも伝手がありそうじゃないか?」
「まあね。実力者とも顔見知りではある。ただこの街の人間は信用できない奴らばかりだから。絶対にもめるし、途中で裏切られる可能性が高い。そんなことを考えながらクエストなんてできゃしないだろ? だからあんたたちを選んだ。街に来て日が浅いし、そっちのお花畑は裏切るなんてことはしなさそうだし」
ドーラに指をさされるとヒマリちゃんは「私ですか?」と言わんばかりに目を見開いていた。ドーラは意外に、ヒマリちゃんのことを理解しているらしい。
まあ、彼女ほど純粋で優しい子はあまりいないだろう。俺も見たことがない。
俺たちにもメリットは多い。パーティが三人になれば連携も増えるし、難易度が高いダンジョンに挑めるからだ。
「ミミックはランクDダンジョンにいるらしい。さすがにあたし一人じゃ骨が折れそうだけど、ダンジョンのランクや相手がミミックということを考えるとそこまで強い連中も必要ない。ってことであんたたちに白羽の矢が立ったってわけ。運がよかったね。もちろん、情報料は必要ないよ。このクエストを達成するために協力してくれればね」
言っていることは筋が通っている気がする。
だが利用しようとしている気もする。
相手はこの街に染まり切っている情報屋だ。信用する方が難しい。
少し考えてみよう。
まずミミックに関して。元の姿は宝箱の形をしているモンスターだが、あらゆる生物や物質に変化できるらしい。強さはレベル5が三人いれば勝てる程度だが、存在自体が珍しく、そして異常に素早い。変化もできる分、見つけて狩るのは困難を極める。
だが、倒したら報酬は大きい。
経験値はそれほど多くはないが、ミミックは宝石や貴金属、硬貨などを持っている可能性があるからだ。
だからミミックを見つけたら、探索者は血眼になって探すのだ。
それに加えてクエスト報酬は3000万。
一人1000万もあればかなり楽になる。
ランクDダンジョンはレベル5付近が三人いればなんとかなる程度の難易度だ。
ただしボスを倒すにはレベルも人数も足りてないが。
同レベル帯の仲間一人とミミックの居所の情報を得られる。
確かに美味しい。
ドーラと手を組むメリットは大きすぎる。
しかも情報は無料だ。
だからこそ怪しい。
美味しい話には裏がある。
それは表の世界でも同じだった。
それに騙されて俺たちはここにいるのだ。
だが他に手があるだろうか?
伝手もないし、あてもない。このままだらだら二十日間を過ごしてゲームオーバーになるのか?
ヒマリちゃんを見ると、彼女は真剣な顔で頷いた。
彼女も現状を理解している。やるしかない。
「わかった。手を組もう」
「そうこなくっちゃね」
「最初に決めておくけどな、報酬はすべて三等分だ! 貢献したとか、情報を出したとかそういうので分配率を変えるのはなし! 揉めるのはごめんだからな。それでいいか?」
「もちろん。それでいいよ」
ドーラは少しだけ口角を上げる。
彼女の笑顔は初めて見た。まあ、愛想笑いだろうけどさ。
そんなドーラに対してヒマリちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「これからよろしくおねがいしますね、ドーラさん」
笑顔の花を咲かせつつ、両手を差し出すヒマリちゃん。
こんなに、強制力がないのに抗えない握手があるだろうか。
「あ、ああ、よろしく」
ドーラは少し戸惑いを見せると、ヒマリちゃんの手を握った。
ヒマリちゃんは嬉しそうにニコニコしていた。
ドーラは居心地悪そうに視線を逸らしていた。
ピーン。
俺の脳裏に電流が走る。
ははーん、ドーラはヒマリちゃんが苦手なのか。
なるほどなるほど、これはいつか使えるかもしれないな。
覚えておこう。そう思いながら、俺は密かにほくそ笑むのだった。
●□●□●□
「探せ! 3000万だぞ、3000万!」
「どこだよミミック!」
「今、ミミックっぽいのいなかったか!?」
街中は探索者で溢れていた。どいつもこいつも目を血走らせながらミミックを探している。
「目立たないようについてきて。アレのことは話すんじゃないよ」
ドーラに言われて、俺とヒマリちゃんは緊張しながら頷く。
屈強な探索者たちが怒号を発しながら駆け回る姿を背に、俺たちは街外れの方へと向かった。
徐々に人気がなくなり、廃墟が増えだす。たまに誰かとすれ違うが、こちらに興味がないのか視線を向けても来ない。
下層の中央街には俺たちが泊っている宿がある。そこから徒歩十分ほどのところだ。
すぐ目の前に下層の外壁である絶壁が見えた。
街の端っこ辺りらしい。
ここら辺に来るのは初めてだ。ドーラからもらった地図には描かれていなかったからな。
「閑散としているな。それに建物が老朽化してるみたいだけど」
「そりゃそうさ。街外れは最初期に現れたダンジョンが集まってるからね。すでに攻略済みばかり。探索者は新しいダンジョンに入る連中が多いし、わざわざ街外れまで来やしない。探索者が来ないなら商売人も離れる。必然的に人が減るってわけさ」
「新しいダンジョンの方へ行くのはどうしてなんですか? 攻略済みでも素材とか宝とかはあるんですよね?」
ヒマリちゃんが小さく手を上げる。
彼女はよく質問をするが、不思議と嫌な気はしない。
素直だからか、あるいは彼女の人徳なのか。的確な内容だからかもしれない。
「探索者ってのはただ金儲けのために探索してるわけじゃない。新鮮さ、刺激、成長、狩猟、そういった要素を楽しんでる連中も多い。おんなじダンジョンばかりじゃ飽きるし、そもそも利便性が良くない。それにアルフヘイムにいる連中は社会不適合な人間ばかりだから怠惰で、まともな連中は少ない。つまりここまで来るのが面倒ってこと。ま、単純に知り尽くされてるからそれほど旨味を感じないってのもあるけどね」
わかる。
俺も同じ立場なら昔のダンジョンにあまり興味はなかっただろう。
もちろん、新人の時は選択肢に入れるだろうが、すぐに足は遠のくと思う。
「悪党連中は中央に蔓延ってる。だからここら一帯は治安がいい。かと言って活気はない。やる気をなくした、仕事がない、自然に死を待つ、そんな連中ばかりだからさ。ここはいわばアルフヘイムの墓場って感じだね」
「……墓場」
ヒマリちゃんが小さく呟いた。
実際、近場に集団墓地が見えた。
このダンジョンで死んだ人間はあそこに埋められるのだろうか。
陰気な雰囲気を感じつつも、俺たちはドーラの後に続く。
到着したのは小さな空き地だった。
人っ子一人おらず、ゲートギミックの横には小さな看板が置かれている。
かすれた文字で『D1』と書かれていた。
ゲート横の小屋はボロボロで人がいる様子はない。ダンジョン管理人さえいないらしい。
「ここにミミックがいる。じゃあ、行くよ」
ドーラはゲートギミックに手をかざす。
空間が歪み、ゲートが現れた。
見えたのは中世欧州を思わせる城だった。どうやら建造物タイプらしい。
俺たちはゲートの中へと入る。
絶対にミミックを見つけて、二人の借金を返すんだ!