ハズレスキル『クリティカルヒット』は最強です ※ただしギャンブル好きに限る ~借金まみれのクズは違法探索者で成り上がる~ 作:鏑木カヅキ
ゴーレムの拳のヒビに向かって、カウンターを繰り出した。
ギャギャギャギャギャ!
耳をつんざくほどの斬撃音。
ギュイイイイイイイン!
膨大な力の集約。
ドゴオオオオオ!
爆発。明滅。そして腕ごと弾け飛ぶゴーレム。
ピュオオォォォォ!
暴風が生まれ、周囲を埋め尽くす。
キュインキュインキュイン!
そこかしこに虹色と金色のエフェクトが生まれる。
パラパラパラパラ!
バラバラになったゴーレムの体から金色の粒子が生まれる。
ヒュウゥ、デレデレデレデレ!
そしてレベルアップ音が響き渡った。
【クリティカルヒット発動】。
【777倍のダメージ】。
「ゴオオオオオォーーーッ!」
ゴーレムの腕部から胸部にかけて弾け飛ぶ。
そして無数の岩と化してしまった。
ゴーレムの体から魔素が生まれ、俺とドーラとヒマリちゃんにも吸収された。
「倒した……のか……?」
一瞬の出来事だった。
まさか本当に一度の攻撃でクリティカルヒットが発動するとは思わなかった。
呆気に取られていた俺だったが、すぐに喜びが込みあがってくる。
「やった……やったぞ! やったぞ! ヒマリちゃん! ドーラ!」
俺は仲間に振り返る。
ヒマリちゃんはその場に座り込んだ。
ドーラは気絶したままだった。
俺はすぐに彼女たちに駆け寄る。
ドーラの状態を確認するが、呼吸はしているし外傷はない。恐らく気絶しているだけだろう。
「ヒマリちゃん、大丈夫か?」
「は、はい……あはは……すみません、なんだか体に力が入らなくて」
「スキルを使ったからだろうな。ステータスリングで確認してみたらどうだ?」
ヒマリちゃんがリングを操作して、ホログラムを表示した。
○スキル:『不幸の女神(エリス)の加護』
①不幸な出来事を経験するごとに『不幸数値』が増える。能動的に不幸を経験することでは増えない。
②不幸数値を消費して、対象に不幸な状態を付与することができる。消費量や相手との距離、不幸の発現形状によって不幸の度合いは変わる。
③不幸発現形状は【周囲に振りまく霧状】【対象に刻印する紋章状】【不幸そのものを凝縮した固形状】などがある。上記は不幸の効果順に並んでいる。下に行くほど効果が強い。それぞれの効果は対象者から別の対象者へと伝播する。
〇パッシブスキル 『不幸体質』
不幸な目に会いやすくなる。
〇スキル習得条件 上限値まで不幸数値を溜める。
俺の予想通り、不幸に関連するスキルだったようだ。
これは珍しいスキルだ。俺もそれなりにスキルのことは知っているが見たことないタイプだな。
加護系だけでもかなりレアでしかも強いスキルだが、名称や特徴を考慮するともしかしたら特殊系(ユニーク)スキルと言ってもいいかもしれない。
……SSS級スキルとかだったりして。
「あ、あれ? ドーラさん?」
ヒマリちゃんの声に我に返った。
ヒマリちゃんが指さす先にはいつの間にか宝箱の前に立っているドーラがいた。
あいつ、気絶してたんじゃないのか?
「ドーラ! 何してんだ!? ミミックに殺されるぞ!」
言い終えた後、嫌な予感がした。
俺は咄嗟にドーラのもとへと駆け出す。
と。
「悪いね」
ドーラが振り向いて、苦笑とも嘲笑ともとれる笑みを浮かべた。
そして次の瞬間。
ずももっ。
ドーラの顔が何倍にも巨大化した。
「は?」
「え?」
俺とヒマリちゃんは呆気に取られて足を止めた。
ドーラは巨大な顔のまま、宝箱から取り出した宝石を食べた。
「はぐはぐはぐはぐ! うまうまうままままま!」
豪華な食事を咀嚼するようによだれを垂らしながら夢中で宝石を食べていた。
あまりの事態に俺とヒマリちゃんはまったく動けない。
しばらくするとドーラは手を止めた。
「はふぅ。美味かった! ごちそうさま。げぷっ」
ドーラは満面の笑みを浮かべつつ、顔を元の大きさに戻した。
何が起こっているのかわからなかった。
だが僅かに冷静になった俺の頭に記憶がよみがえる。
ミミックの特性の一つ。
それは『ミミックは宝石や金品などを咀嚼し、体内に保持する』という内容だった。
それゆえ討伐後は財宝を吐き出すことがあるのだと。
「ほ、宝石を食べちゃいましたよ!? お腹壊しちゃいますよ、ドーラさん!」
見当違いのことを言っているヒマリちゃんを気にせず、俺はわなわなと震えながらドーラを指さした。
「お、おまえもしかして」
「そうさ! あたしこそがミミックだったのさ!」
ドーンという効果音が聞こえなそうなほど、堂々と、そしてはっきりと言い放った。
嘘だろ。ドーラがミミック?
どう見ても獣人系の亜人にしか見えない。コミュニケーションもちゃんと取れていたのに。モンスターが亜人と同様の立ち居振る舞いをしていたっていうのか?
「お、俺たちを騙したな!」
「騙してないさ。ミミックはいただろ? このダンジョンにさ。それに約束は違えてない。最初に言ったでしょ。『報酬を三等分する』ってさ。宝の中身は報酬じゃない。だって誰も手に入れてないからさ! ま、結局、クエストは失敗するから成功報酬はないけどねっ!」
俺たちを馬鹿にするように口角を上げるドーラ。
つまり最初から騙すつもりだったということだ。
「最初に会った時さ、驚いたよ。まさかここまですれていない人間が下層に来るなんてさ。普通はそういう奴らは下層に来るまでに死んじゃうからね。だから思ったのさ、あんたたちみたいな善人で……平和ボケした馬鹿は利用できそうだなってさぁ!!」
「お、おまえ……!」
「あれ? 怒った? 怒ったの? この街じゃ騙される方が馬鹿なんだよ! バカバカバーカ! べろべろべろ!」
心底馬鹿にしたように、ドーラは変顔をしながら舌をべろべろと動かす。
こ、このガキ! バカにしやがって!
「ドーラァァァーーー! 許さないからなぁ!」
「ひゃあ! 怖いよぉ! うはははは!」
ドーラは俺をからかいながら一瞬で扉の前まで移動してしまう。
俊敏性強化のスキルを持っているというのは事実らしい。
こいつモンスターの癖にスキルを持っているってどういうことなんだよ!
「ばいばーい、クズオジさんとお花畑。またどこかで会おうねぇ」
「おまえ、絶対に逃がさないからな! 地の果てまで追いかけてやる!」
「おお、こわっ! 捕まったら何されるかわかったもんじゃないなぁ! 殺される前におさらばしますか! じゃあねぇん! べろべろべろ!」
守銭奴メスガキのドーラはこれでもかというくらいに舌を見せつけた後、さっさと姿を消してしまった。
あいつ、俺がゴーレムを倒すまで気絶したふりしていたんだ。
「くそ! してやられた!」
俺は地面を踏みつけて八つ当たりした。
正直、騙されたことは悔しい。だがそれ以上に、あんな奴を信用していた自分に腹が立つ。
俺は命を賭けてあいつを守ろうとしたっていうのに。
「ドーラさん……」
ヒマリちゃんは悲しそうに目を伏せた。
まだ怒りはあったが、ヒマリちゃんの姿を見ると自然と感情がしぼんでいく。
騙されることも、裏切られることも何度もあった。
これくらい慣れたものだ。
そう思うと、少しだけ冷静さを取り戻す。
それに実入りが何もないわけじゃないはずだ。
バラバラになったゴーレムの体は徐々に粒子となって消え始めている。
モンスターは死後、しばらくすると姿を消失させる。
素材となる部分は採取せずに放置すると消えてしまうので、先に手に入れる必要がある。
ゴーレムの胸部から綺麗な球体が落ちていた。
「あの、それはなんでしょう?」
「ゴーレムの核だ。これを売ればそれなりの金額になると思う」
ゴーレムはボスの中でも比較的レアなタイプだ。
必然的に素材となる核も希少価値が高い。不幸中の幸いって奴だな。
念のため宝箱の中も確認したが、宝石どころか他の財宝もなかった。
すべてドーラに食べられたらしい。
あいつの顔を思い出すと腹が立ってくる。
落ち着け。深呼吸だ。
収穫はゴーレムの核だけか。
道中倒したリビングアーマーは素材を落とさないからな。
「あ、あの! 何か落ちてましたよ!」
ヒマリちゃんが差し出してきたのは護符だった。
羊皮紙のようなものに見たことのない紋章と文字が描かれている。
効果は鑑定しないとわからない。
「レアドロップだぞ、これ! ボスは稀にアイテムを落とすんだ! かなり価値が高いはず!」
「そうなんですか!? 運が良かったですね!」
確かに運がいい。
道中、不幸だらけだったけど。
ここまで運に左右されるパーティもいないだろう。
俺は幸運に左右され、ヒマリちゃんは不幸に左右されるわけだからな。
「あの……すみませんでした、シンさん。今回もそうですけど、いつも足を引っ張ってしまって。私のせいで、シンさんにご迷惑を……」
「ヒマリちゃん」
「は、はい」
「何度も言うけど俺はクズなんだよ」
「え? そ、そんなことは」
「いや、そんなことあるんだ。俺はクズだ。まともに働いてこなかったし、職歴もひどいもんだ。仕事をクビになって無職だし、ギャンブル依存してる上に借金だらけのクズだ。しかももうすぐ30になるアラサー。君と違って俺は全部、自業自得なんだよ」
ヒマリちゃんは何か言おうとしたが、俺は首を振って彼女の優しさを拒否した。
「ヒマリちゃんと会うまで、俺は自分のことだけ考える人間だった。でも今は少しずつ考えが変わってきた。ヒマリちゃんを守りたいと思ってるんだ」
「……お母さんとの約束だから……ですか?」
「それもある。というか最初はそれだけだった。でも今は……そうだな、キモいって言わないでくれるか?」
「い、言いません」
「なんというか……娘というか、いや、姪? みたいな感じというか。いや! あのな、これは本当に思ってるんだ! なんか言い訳みたいに聞こえるかもしれなけど、仲の良い女性のことをそういう対象と見てないって言い訳で言っているわけじゃなくて! あ、いや仲が良いかどうかは俺が決めることじゃないけど」
自分で言いながら慌ててしまう。
ヒマリちゃんはよくわかっていない感じで小首をかしげた。
ごめんね、俺が汚れているんだね。
「つまり! 俺はヒマリちゃんを大切に思ってるってこと! 俺には何もないからさ。勝手に、なんていうか家族……みたいな感じに思っているっていうか。小さい頃に会ったことがあるから、余計にそう思うのかもしれない。まあ、忘れてたんだけどさ……」
正直、自分の気持ちを理解しているかと言えば、わからない。
俺もこういう気持ちは初めて抱いたからだ。
誰かのために何かしたいなんて思ったのは……若い頃、リリに対して思った時以来かもしれない。
ヒマリちゃんは目を見開いていた。
驚いているのか。それとも困っているのか。
「……だからさ、何が言いたいかっていうと。ヒマリちゃんは足手まといじゃないし、迷惑でもない。今までは、ほら、俺が色々知ってるから助けることが多かったかもしれない。でも今回の戦いはヒマリちゃんがいなかったら俺は死んでた。だから足手まといなんかじゃない。それにヒマリちゃんがいてくれないと心細いしさ。おっさんが何言ってんだって思うだろうけど、君がいてくれるだけで心強いし、なんというか……頑張れるからさ」
思えばここまで自分の気持ちを吐露したことはなかったと思う。
家族にも、友達にも、そしてリリにも。
なぜだろうな。
相手に理解してほしいと強く思っているからかもしれない。
不意に聞こえた嗚咽に俺はぎょっとした。
ヒマリちゃんが泣いていた。
「キモすぎて泣いてるのか!? ご、ごめん!」
「い、いえ! そんな……ぐすっ……そんなこと絶対ないです……嬉しかった……から」
嬉しかった?
こんなゴミクズな俺の言葉が?
変な気分だった。妙にくすぐったくて、気恥ずかしさを感じて、思わずヒマリちゃんから視線をそらしてしまう。
キモすぎるな俺。
わかってるけど、動揺を抑えることはできなかった。
「ありがとうございます、シンさん」
「こちらこそありがとう、ヒマリちゃん」
ヒマリちゃんは涙を拭いながら笑みを浮かべて。
俺は少し気恥ずかしさを感じつつも笑みを浮かべて。
互いへの思いを口にした。
妙に心が温かく感じた。