ハズレスキル『クリティカルヒット』は最強です ※ただしギャンブル好きに限る ~借金まみれのクズは違法探索者で成り上がる~   作:鏑木カヅキ

7 / 7
クズ男、賭けに出る

「お、俺が時間を稼ぐ! ヒマリちゃんはその瓦礫の隙間から逃げるんだ!」

 

 俺の叫びを聞いてもヒマリちゃんは動き出さない。

 いや、動けないんだ。

 恐怖のせいか小刻みに体が震えており、足がまともに動かないらしい。

 時間を稼がないと!

 

「こっちだ! こっちに来い!」

 

 俺は短剣片手にオークに向かって叫びながら、走り出す。

 位置関係は奥からオーク、俺とヒマリちゃん、入口という配置。

 俺はヒマリちゃんから離れつつ、オークとも距離を取るように斜め方向に移動した。

 

「グオオオォ!」

 

 オークは目を血走らせながら俺に向かって来た。

 奴が一歩地面を踏みしめるごとに振動が俺まで届いた。

 あんな奴とまともに戦えるはずがない。

 仮にまともな武器を持っていても、俺はレベル1のスキルを持たない一般人。

 オークに勝てる道理はない。

 俺の目的はヒマリちゃんが逃げるまでの時間稼ぎだ。

 倒す必要はない。

 

 幸いにしてボス部屋は楕円形の形をしており、走り回るには十分な空間がある。

 だが遮蔽物がない分、相手から逃げるには向いてない構造だ。

 そのせいで数秒走っただけでオークに追いつかれてしまう。

 このまま壁沿いに走っても、オークが追走してくればすぐに捕まるだろう。

 だが無策ってわけじゃない。

 壁を背にして振り返ると、オークが拳を振りかぶっている姿が目に入る。

 

「グルゥオ!」

 

 ごぉ。

 巨岩のような拳がまっすぐ俺へと向かう。

 異常な速度、異常な圧力を前に俺は怖気を抱く。

 恐怖を噛み殺し、一気に姿勢を低くして思いっきり前に飛んだ。

 

 強風が舞う。

 オークのパンチとすれ違う。

 着地、前転、視界は元に戻る。

 

 後方で地響きが聞こえる。

 壁や天井から石礫が落ちてくる。

 オークのパンチが後ろの壁に突き刺さったのだろう。

 俺はそれを無視して全力で前に走った。

 

「む、無傷か。運が良かった……っ!」

 

 命を懸けた行動。

 日常生活では味わえない……いや、味わってはいけないスリル。

 嘔吐感と異常な興奮状態。

 

 パチンコで当たらないと生活できないなんてレベルの危険度じゃない。

 失敗すれば死ぬ。

 ぐちゃぐちゃに体が潰されて、一瞬で命を落とすのだ。

 

「ぐちゃぐちゃだけは勘弁だ……っ!」

 

 オークは怒りのままに俺へと向かってきている。俺は必死で走った。

 部屋のやや中央寄りに疾走する中、視界の隅にヒマリちゃんの姿が見えた。

 出口へと走って向かっている。

 いいぞ、その調子だ!

 どうやら恐怖心を拭い動き出したらしい。強い子だ。

 

 窮地は脱していない。

 オークは俺を追い続けている。

 だがまっすぐ走ればすぐに再び追いつかれる。

 

 俺は姿勢を低くしてブレーキをかける。

 強引に体幹を使い態勢を整える。

 減速だ。

 

 オークは俺の動きを予測できなかったようだ。

 だが、僅かに遅れて俺へと手を伸ばした。

 回避できる速度だ。

 俺はさらに姿勢を低くして――。

 

「がっ!?」

 

 回避できなかった。

 オークの指が俺の脇腹を掠める。

 ざりっという気味の悪い音が鼓膜まで響いた。

 

 小指だ。

 それが触れただけで激しい痛みが走った。

 折れたかもしれない。

 

 体が思ったように動かず、バランスを崩したのだ。

 運動不足が祟ったらしい。

 地面を転がる。

 痛みを誤魔化しつつ立ち上がろうとする。

 

「ぐっ……!」

 

 だが痺れるような鋭い疼痛が生まれ、俺は思わずうずくまった。

 

「立て……立てよ……甲斐シン……ッ!」

 

 でなければ殺されるぞ。

 顔を上げる。

 全身が粟立つ。

 オークは俺を見ていない。

 奴の視線の先にはヒマリちゃんがいた。

 

「ガアアアア!」

 

 咆哮。同時に疾走。

 轟音と共に向かったのはヒマリちゃんのもと。

 

「え?」

 

 瓦礫をどけようとしていたヒマリちゃんが振り返る。

 

「逃げろ!」

 

 俺が叫ぶとヒマリちゃんは慌てて走り出す。

 目を見開き、恐怖に怯えた様子が遠くからも見えた。

 

「くそっ!」

 

 俺は痛みを無視して地を蹴る。だが間に合うはずもない

 

「グルゥオ!」

 

 オークが腕を叩きつけた。

 重低音。砂礫。振動。

 それがほぼ同時に生まれ、俺は愕然とする。

 

「ヒマリちゃんッッ!!」

 

 俺が叫ぶと同時に、ヒマリちゃんの体が宙を舞っていた。

 俺は咄嗟にヒマリちゃんへと走り出す。

 

 間に合え!

 

 ヒマリちゃんが落下し始める中、俺は着地点を予想して地面を滑り両手を広げた。

 落下する前に俺はヒマリちゃんの体を受け止める。

 重みを全力で支えた。

 我ながら上手くいったのが信じられなかった。

 

「ぐっ……!」

 

 脇腹に鋭い痛みが走る。

 俺はそれを無視して、腕に力を込めた。

 

「大丈夫か!?」

 

 返事はない。気を失っているらしい。

 だが傷は浅いようだ。擦り傷や小さな痣はあったが、致命傷は免れている。

 運がいい子だ。

 

 すぐに周囲を見回すと壁際に窪みがあった。

 俺はヒマリちゃんをそこに隠すと、すぐにオークへと向き直った。

 奴は自分の攻撃で生まれた土埃の中できょろきょろと辺りを見回している。

 ヒマリちゃんが吹き飛んだことに気付いていないらしい。

 オークの頭は悪い。それが功を奏したのだろう。

 だがそれだけだ。

 

 状況は最悪。

 ヒマリちゃんは気を失っている。

 逃げる手段はない。

 勝てる算段もない。

 現状の勝率は0%だ。

 

「……いや、ある……あいつに勝てるルートが」

 

 たった一つだけ。

 か細い可能性が。

 三メートルを超える巨躯のモンスターを。

 スキルもない、アラサーのおっさんが倒す。

 

「はっ……馬鹿か俺は」

 

 自嘲を抑えきれない。

 あるいは諦観か。

 馬鹿か。無理に決まってるだろ。

 そう思う……でも。

 俺は短剣を手にして、オークに向かった。

 たった一つの可能性。

 

 それは『スキル』だ。

 俺がオークとの戦闘でスキルを習得すれば勝てるかもしれない。

 だが、探索者志望者の時、俺は散々スキルを習得できるように色々なことを試した。

 現存する各スキルの習得条件はある程度は情報として広まっている。

 加護系、回復系、攻撃系、防御系、弱体強化系、属性系、生産系など。

 それぞれの前例のあるスキルの習得条件を試した。

 

 あらゆる武器を素振りしたり、スパーリングをしたり、攻撃を受けたり、色々なものを作ってみたり、人と関わったり、あらゆる情報を調べたりした。

 だが俺はスキルを習得できなかった。

 スキルの素質がないと思うに十分な理由だ。

 

 だが明確な条件がわからない中、スキルの素質が絶対にないとも言い切れない。

 もしも俺に素質があるとしても覚醒する確率は非常に低いと考えられる。

 パチスロでフリーズを出すよりも、宝くじで一等を当てるよりも。

 

「ギャンブル依存の俺にはおあつらえ向きの状況だな、おい」

 

 賭けるのは俺とヒマリちゃんの命。

 仮にスキル覚醒を引けたとしてもそのスキルがオークを倒せるものだとは限らない。

 猶予は俺の実力と体力を鑑みれば精々が数分ってとこか。

 可能性はある。

 ゼロじゃない。

 だったら賭けるだけの価値がある。

 

 今までは金しか賭けなかったが、今回は俺のすべてを賭ける。

 俺の命を賭けて、スキルを引き当ててみせる!

 

「うおおおおおーーーーーッッ!!」

 

 俺は感情を吐き出すように咆哮する。

 オークが俺の声に気付き、振り向いた。

 俺は奴の動きを気にせず、疾走すると錆びた短剣をオークの足に突き刺した。 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。