転生勇者の再就職   作:三連九

15 / 16
2-8 就活

「……へっ?」

 

 誰かが言う。

 

 そして。

 

「はぁ!?」

 

 爆発した。

 

「抜けたぞ!?」

 

「盾、意味ねえじゃねえか!」

 

「今どうやった!?」

 

「なんかよ、ぐにゃ!って!!」

 

 大騒ぎになる。

 

 男はゆっくり後ろを振り返る。トウジはすでに男の斜め後方で、剣をダランと下げ立っている。

 

 理解が追いつかない。

 

「……てめえ」

 

 トウジを見る目に笑いはない。

 

 明確に警戒する目になっている。

 

 オルドが笑う。

 

「見た目で判断するなって、こったな」

 

 周囲がざわめく。

 

 さっきまでの空気が完全に変わる。

 

 トウジはまだ困った顔のままだ。

 

「えっと……これで、働けますか?」

 

 一瞬、回りの全員が呆気にとられる。

 

 誰かが吹き出した。

 

「ぶははっ!」

 

「いいじゃねえか!」

 

「面白え!」

 

「入れろ入れろ!」

 

 笑いが広がる。

 

 敵意は消えていた。

 

 興味に変わっている。

 

 焚き火が弾ける。

 

 オルドは肩をすくめた。

 

「まあ、こんなもんだ」

 

 トウジはよく分からないまま頷いた。

 

「おい、もう一回やれ!」

 

「次は俺だ!」

 

「いやオレだ! 今の、もう一回見せろ!」

 

 円が崩れない。むしろ人が集まってきて騒ぎが広がる。

 

 別の男が前に出る。

 

 双剣。

 

 軽い足取り。

 

「じゃ次は、俺様の番な。さっきの、偶然じゃねえよな?」

 

 にやりと笑う。

 

 完全にやる気だ。

 

 トウジは少し困った顔をする。

 

「えっと……」

 

「ほら構えなっ!」

 

「よっしゃやれやれ! 逃げんなよ~!」

 

 回りにひしめく観衆の熱が上がる。

 

 いよいよ、始まろうとする、そのとき。

 

「――おいおい、元気だなあ」

 

 場違いな声が落ちた。軽い。拍子抜けするくらい。

 

 だが。

 

 空気が止まった。

 

 円の外側に、ひとり立っている男。

 

 丸腰でしかも平服。場違いも甚だしい。

 

 威圧はない。なのに、誰も近づかない。

 

「新人いびりはほどほどにしとけって、何回言えば覚えるんです?」

 

 頭をかきながら、ゆっくり歩いてくる。

 

 その動きだけで、円が自然に割れる。

 

「……なんだよ、いいとこだったのによ」

 

 その声がしたほうへ、チラリと目線を流して。

 

「ここで騒ぎを起こすなってるでしょ。うちはただでさえ睨まれてるんだからさ」

 

 軽く言う。

 

 軽いのに、誰も逆らわない。

 

 双剣の男も舌打ちして下がる。

 

 男は円の中に入ると、トウジをちらっと見る。

 

 それだけで十分だったらしい。

 

「へえ」

 

 短く笑う。

 

 オルドが手を挙げた。

 

「よう」

 

「お、まだ死んでなかったか」

 

「そっちこそな」

 

 周囲がざわつく。

 

 距離が近い。

 

 トウジが首を傾げる。

 

「知り合いですか?」

 

「腐れ縁だ」

 

 オルドが即答する。

 

冒険者ギルド(ヴァルグラム)王都(フィオル)支部の支部長様。業界じゃ一応有名……か?」

 

 さらっと言う。

 

 トウジが一瞬止まる。

 

「え」 支部長をまじまじと見る。「え?」

 

「一応はないでしょう」

 

 オルドの戯言を軽く流して、トウジを見る。

 

 気軽な顔のまま。

 

 だが、目だけが違う。

 

 足元、重心、手元――一瞬で見て、終わる。

 

「……あー、なるほど」

 

 納得したように頷く。

 

 オルドが笑う。

 

「分かるだろ」

 

「分かる分かる。めんどくさいやつだこれ」

 

 さらっと言う。褒めているのか貶しているのか分からない。

 

 また周囲がざわつく。

 

 トウジはとりあえず頭を下げた。

 

「トウジです。仕事を探してて……」

 

「うん、見てた、見てた」

 

 軽く手を振る。

 

「さっきのいいじゃん。あれ」

 

 ヘラリと笑いながら、さらに軽い口調。

 

 だが、周囲がその言葉にさらにざわつく。

 

「ここでやるのはもったいないねぇ」

 

 ぽつりと言う。

 

王都(フィオル)の支部においで」

 

 あっさり。

 

「ちゃんとした試験、そっちでやるから」

 

「え、今じゃなくて?」

 

 トウジが聞く。

 

 支部長は肩をすくめる。

 

「いや~、やってもいいけどさ」

 

 周囲をちらっと見る。

 

 ニヤッと笑う。

 

「こいつら、たぶん壊れるでしょ?」

 

「……マジか?!」

 

「鬼があんなに楽しそうに……」

 

「やべぇ……やべぇ……」

 

 ざわつきが、広がる。

 

 全員が、半分本気で嫌がっている。

 

 支部長はそれを見ながら楽しそうに笑う。

 

 オルドが肩をすくめる。

 

 最初っからこうなることはわかっていたようだった。

 

 支部長はトウジに向き直る。

 

「来る気ある?」

 

 軽い問い。

 

「あります」

 

 即答した。

 

「ん」

 

 支部長はくるっと背を向ける。

 

「じゃ、王都(フィオル)で」

 

 手をひらひら振る。

 

「はいはーい、ほらほら輪解いて~。騒いじゃダメよ~」

 

 道が自然に空き、その中を飄々とした様子で去っていく。

 

 残された空気が、じわっと戻る。

 

「……なんかやべぇもん見たなぁ」

 

「ずりぃぞ」

 

「いきなり王都(フィオル)送りとかありえんだろう」

 

 ざわめき。

 

 悔しさと、妙な納得。

 

 トウジはまだよく分かっていない顔だった。

 

「えっと……行けばいいんですかね?」

 

 オルドが笑う。

 

「行くしかねえだろが」

 

 焚き火が弾ける。

 

 夜が少しだけ賑やかになる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。