「……へっ?」
誰かが言う。
そして。
「はぁ!?」
爆発した。
「抜けたぞ!?」
「盾、意味ねえじゃねえか!」
「今どうやった!?」
「なんかよ、ぐにゃ!って!!」
大騒ぎになる。
男はゆっくり後ろを振り返る。トウジはすでに男の斜め後方で、剣をダランと下げ立っている。
理解が追いつかない。
「……てめえ」
トウジを見る目に笑いはない。
明確に警戒する目になっている。
オルドが笑う。
「見た目で判断するなって、こったな」
周囲がざわめく。
さっきまでの空気が完全に変わる。
トウジはまだ困った顔のままだ。
「えっと……これで、働けますか?」
一瞬、回りの全員が呆気にとられる。
誰かが吹き出した。
「ぶははっ!」
「いいじゃねえか!」
「面白え!」
「入れろ入れろ!」
笑いが広がる。
敵意は消えていた。
興味に変わっている。
焚き火が弾ける。
オルドは肩をすくめた。
「まあ、こんなもんだ」
トウジはよく分からないまま頷いた。
「おい、もう一回やれ!」
「次は俺だ!」
「いやオレだ! 今の、もう一回見せろ!」
円が崩れない。むしろ人が集まってきて騒ぎが広がる。
別の男が前に出る。
双剣。
軽い足取り。
「じゃ次は、俺様の番な。さっきの、偶然じゃねえよな?」
にやりと笑う。
完全にやる気だ。
トウジは少し困った顔をする。
「えっと……」
「ほら構えなっ!」
「よっしゃやれやれ! 逃げんなよ~!」
回りにひしめく観衆の熱が上がる。
いよいよ、始まろうとする、そのとき。
「――おいおい、元気だなあ」
場違いな声が落ちた。軽い。拍子抜けするくらい。
だが。
空気が止まった。
円の外側に、ひとり立っている男。
丸腰でしかも平服。場違いも甚だしい。
威圧はない。なのに、誰も近づかない。
「新人いびりはほどほどにしとけって、何回言えば覚えるんです?」
頭をかきながら、ゆっくり歩いてくる。
その動きだけで、円が自然に割れる。
「……なんだよ、いいとこだったのによ」
その声がしたほうへ、チラリと目線を流して。
「ここで騒ぎを起こすなってるでしょ。うちはただでさえ睨まれてるんだからさ」
軽く言う。
軽いのに、誰も逆らわない。
双剣の男も舌打ちして下がる。
男は円の中に入ると、トウジをちらっと見る。
それだけで十分だったらしい。
「へえ」
短く笑う。
オルドが手を挙げた。
「よう」
「お、まだ死んでなかったか」
「そっちこそな」
周囲がざわつく。
距離が近い。
トウジが首を傾げる。
「知り合いですか?」
「腐れ縁だ」
オルドが即答する。
「
さらっと言う。
トウジが一瞬止まる。
「え」 支部長をまじまじと見る。「え?」
「一応はないでしょう」
オルドの戯言を軽く流して、トウジを見る。
気軽な顔のまま。
だが、目だけが違う。
足元、重心、手元――一瞬で見て、終わる。
「……あー、なるほど」
納得したように頷く。
オルドが笑う。
「分かるだろ」
「分かる分かる。めんどくさいやつだこれ」
さらっと言う。褒めているのか貶しているのか分からない。
また周囲がざわつく。
トウジはとりあえず頭を下げた。
「トウジです。仕事を探してて……」
「うん、見てた、見てた」
軽く手を振る。
「さっきのいいじゃん。あれ」
ヘラリと笑いながら、さらに軽い口調。
だが、周囲がその言葉にさらにざわつく。
「ここでやるのはもったいないねぇ」
ぽつりと言う。
「
あっさり。
「ちゃんとした試験、そっちでやるから」
「え、今じゃなくて?」
トウジが聞く。
支部長は肩をすくめる。
「いや~、やってもいいけどさ」
周囲をちらっと見る。
ニヤッと笑う。
「こいつら、たぶん壊れるでしょ?」
「……マジか?!」
「鬼があんなに楽しそうに……」
「やべぇ……やべぇ……」
ざわつきが、広がる。
全員が、半分本気で嫌がっている。
支部長はそれを見ながら楽しそうに笑う。
オルドが肩をすくめる。
最初っからこうなることはわかっていたようだった。
支部長はトウジに向き直る。
「来る気ある?」
軽い問い。
「あります」
即答した。
「ん」
支部長はくるっと背を向ける。
「じゃ、
手をひらひら振る。
「はいはーい、ほらほら輪解いて~。騒いじゃダメよ~」
道が自然に空き、その中を飄々とした様子で去っていく。
残された空気が、じわっと戻る。
「……なんかやべぇもん見たなぁ」
「ずりぃぞ」
「いきなり
ざわめき。
悔しさと、妙な納得。
トウジはまだよく分かっていない顔だった。
「えっと……行けばいいんですかね?」
オルドが笑う。
「行くしかねえだろが」
焚き火が弾ける。
夜が少しだけ賑やかになる。