京都校の先輩に人の常識無いんですか?   作:lambdazero

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常識って無いんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前。五条悟の言ってた一年だな? 好きな女のタイプは何だ」

「出会って早々何すか」

 それはこの奇妙な界隈に来て早々に問われた質問だった。

 黒髪ショートにメガネに、渡された黒い制服。

 先日、よくわからない目隠しの野郎に拉致されて、意味も分からず新幹線の切符を渡され、連行された先で待っていた巨漢の先輩。

 デカいなこの人、と思って見上げて挨拶しようとしたらこれだった。

「五条悟から何も聞いてないのか?」

「ええ。俺は何でも……呪術師? とかいう仕事をしろって言われて。えと、高専ですか? 東京の方は今立て込んでて請け負えないから京都に行けって押しつけられたんですよね。専門用語もわからん素人にあの……五条とかいう人は何しろって言うのかと思ったらこれです」

「……」

 メガネの位置を直す彼、七尾連太郎は答えた。

 事情を前提として聞いてない。

 こっちは幽霊みたいなモノが見えるって言う理由だけで、突然スカウトと言えば聞こえが良いが実際は天涯孤独故の脅迫をされて、此処に来た。

「お前、身内は?」

「あー……一応バレるんで言いますけど、もう有名な事件に巻き込まれて死んでるんですよ。三年前にあった新宿の立てこもり事件、知ってます?」

 三年前に起きた新宿の立てこもり事件。

 強盗殺人の類だ。

 アレも聞いたら呪詛師? とかいう連中の仕業だったらしい。

 その被害者が連太郎の家族だった。

「俺が初めて上京して行こうとした高田ちゃんのライブを台無しにしたあの事件か。知っているぞ」

「いや高田ちゃんって誰よ」

 誰だか知らない名前を言われる。

 巨漢の先輩は言う。気の毒だったなと。

「もう、慣れました。死人は早々生き返らない」

 自嘲を込めて呟く。そう、死人は生き返らない。

 影法師は、有り得ても。

「……で、好きな女のタイプは?」

「そこに戻るのかよ」

 折角事情を聞こうと思ったのに。

 振り出しに戻って、呆れる連太郎。

「女の趣味はそいつの全てが詰まっている。つまらない奴はつまらん」

「スゲえ偏見だなおい」

「お前はどうだ、一年」

 辛辣なツッコミを無視して腕組みする先輩。

 どうしても言えと。逆に聞く。

「先輩、俺の前世が実は伝承に残る程のクソ坊主で俺はその転生者って言われてその女の子の事、信じます?」

「前世? 呪術的に解釈すると……まぁ、有り得んこともない。それがどうした?」

「マジか」

 呪術的に有り得んのか。

 って事は?

「俺って結局クソ坊主かよ。うわー……終わった」

 嘘発見器よろしくの保証付き。

 クソ坊主の転生者とか転生間違えてんだろう。

「なんだ、その女に言われてるのか?」

「ええ、まあ。あ、何なら喚びます? 控えているんで」

「……喚ぶ?」

 こっちもよくわからないのだが。

 何か、幽霊見える頃になったその三年前くらいから、この不可解な現象が起きていた。

『――来い、清姫』

 そう、名を呼ぶ。

 すると、足元から紋章が浮かび上がった。

「ん!? 召喚術か!?」

 一歩下がって身構える先輩。

 輝く紋章が広がり、そこからゆっくり立ち上がるように出て来たのは……。

「……わかりましたか、マスター? 安珍様であると、本場の呪術師が言うのです。これでわたくしが嘘を言ってないという証明。つまり、約束を。責任を……取って下さいね?」

 淡いミントのような色合いのロングヘア。

 病んでる目付きでこっちを見る。

 綺麗な和装の女の子が出て来て早々言い切った。

「お前そう言って俺に何年付き纏ってんだよ。生得なんとかって言うんだろ? そもそももうお前生身じゃん」

「受肉に近くはありますね」

「で? サーヴァントだから年齢無し。突き詰め、合法と仰ると?」

「違いますか? 愛の前に法などどうでも良いのです」

「あるわボケ! 誰が喜んでロリコンのレッテル張られたい!」

「わたくし、童女ではありませんが……?」

「アウトだよ!」

 ……出て来たのが答えだ、と唖然とする先輩に言う。

 好きな女のタイプの前に、アウトの相手に求婚されてるんです。

 こいつが前から勝手に出て来ては要らない私物をパクっていた犯人。

「ほう……面白い術式だな。で、お前清姫と言ったか。ならばそこの一年は転生後の安珍と言いたいわけだ」

 ニヤリと笑う先輩に驚く連太郎。清姫を知っている?

 歴史の中でも民間伝承、精々地方の昔話のような知名度なのに。

「呪術的に間違いでは無いのでは?」

「さぁな? 俺はこう見えて世界の歴史にも詳しいぞ清姫。焼き殺す前に自分の行いを振り返れ」

 振り返って聞く清姫に、先輩は不敵に言う。

 イラッとしたのか、目元が陰って持ってきた扇子を広げて口元を隠す清姫。

「……なるほど。わたくしをお知りのようで。落ち度がわたくしにあると言いたいわけですね、この殿方は」

「言い寄る前に自分の年齢と相手の立場を慮る事を理解しろ。坊主が子供に手を出せる訳が無かろうが。お前の時代もお前は立派に違法だよ」

「焼く。もう我慢なりません。焼き殺します!」

 怒らせた。大きく息を吸い込む清姫。

 こいつそういえば……!

「止めんかアホ!」

 慌てて後ろから頭を小突く。

 ぼふっ、と彼女の口から小火が出た。

 清姫は何故か口から火炎放射を出来るので、怪獣みたいな危険な幼女である。

「何をするのですマスター!?」

「こっちが聞きたいわ! 正論言われてキレるの止めろって言ったよな俺!」

「くっ!?」

 初期から知らぬ間に出てきてきたストーカー行為を踏まえて言う。

 止めろ。幽霊以外に攻撃するな。

 あいては人だ。傷害で捕まるぞ。

「おいおい、呪術師に法律がまかり通ると思うなよ一年」

 呆れたように指摘する先輩。

 この界隈は腐敗は当たり前。

 汚職やらの隠蔽などの行為は日常茶飯事。

 そもそも、警察と呪術師は溝がある。

 こちら側は、専門家。向こうの治外法権。

「えぇ……。どうなってんだよこの界隈。国家としておかしくねえか?」

「本来、一般人には秘匿されるのが呪術師だ。俺達の活動範囲は言わば裏稼業。お前、俺と同じ非術者の生まれか?」

「すいません、専門用語わからねえッス」

 意味がわからない連太郎に清姫が言う。

 昔から居る、呪霊という悪霊を退治する専門家。

 世界の裏側で。術者とは呪術師のこと。

 呪術師は家系で一子相伝の術式を大切にする。

 血筋と伝統を良しとする、血統主義。

「詳しいな。生前から呪術師は居たのか?」

「ええ、まあ。呪術師は今よりももっと数も多く、かつ活動も活発でよく勝手に殺し合いをしていたと記憶していますが。わたくしの知る限り、呪術師というのは生前も今も判断基準が人として、常識的に狂っているという認識ですねぇ」

「お前が言うか……?」

 流石清姫。日本の昔をよく知る。

 連太郎にも分かりやすく言おう。

 エクソシスト、みたいなもんだと。

「悪魔払いとかそう言うのか」

「西洋の魔物は残念ながら、呪霊には入らんな。呪霊を幽霊と言ってる時点でお前は非術者の家系、一般人だとはわかった。では肝心のこの術式はなんだ? そしてお前……この呪力の総量は、良い呪霊の餌だぞ。海のようだ」

 先輩は問う。術式の開示。

 逆にこっちが聞きたい。これは生得領域なるモノで先天的らしいとしかあの目隠しは言ってなかった。

「ええと、俺の術式? って言うのはグラウンドオーダーって言う術式らしいです。主に歴史的に言えば、日本なら式神の定義になる、とか」

「グラウンドオーダー……。式神と言うが、生身の人間を生み出す術式は珍しいな。相当悪燃費だろうに」

「らしいですね。俺も無意識でずっと使ってた……って言うか、勝手に此奴らが出て来ては俺の周囲を守ってくれていたようで。この三年、幽霊……じゃない、呪霊か。そいつらに襲われることも無く生きてきました」

 連太郎は答えた。

 グラウンドオーダー。

 自覚してからと言えども、まだまだ使えない。

 それをここで学ぶらしい。

「お前東京の人間だろ。何故東京の高専に行かない?」

「あの目隠しの人が言うには、現状維持ゴタゴタで手一杯で生徒の受け入れが出来ないらしいです」

「……例の宿儺の復活か。なるほど、総監部が焦って行動しているところにこんな一般人をぶち込むのは危険だな」

 季節は初夏。

 本来なら都内の高専に通うはずが諸事情で却下された。

 わざわざ遠方の京都に送られた。

 こっちは都内の高専より落ち着いているから、ゆっくり学べと。

 焦ると連太郎の術式は危険らしい。

「何だっけ? 俺は呪力とかいうのの総量がその……なんか、史上最強の呪術師とほぼ同レベルにまで達しているとかで。代わりに他には何も出来ないって聞きました」

「縛りか。一種の天与呪縛だな」

「だから専門用語止めて下さい。分かんねえんですよ」

 清姫が追いかけて丁寧に説明する。

 縛りというのは先からも後からも条件をつける底上げで、文字通り条件で制限をつける事で対価を得る、そういう感じ。

 連太郎の場合、この海の呪力総量の代償が何も出来ない身体。

 天与呪縛は生まれつき持っている強烈な縛り。

 抵抗できない、絶対的な優先で行われる代償と対価。

「ですのでマスターの事例だとグラウンドオーダーのという術式運用に特化した肉体、という意味かと」

「呪術的には式神使いの境地だ」

「はぁ。ペ○ソナみたいなもんですか?」

「ゲームで言うならそれだな」

 それは凄いことなのか、理解できない。

 清姫はハンデを持った呪術師であり、決して自分では戦えないマスターという立ち位置。

「令呪もあんまり意味ないしな」

「令呪?」

 先輩に言う、聞いた限りの術式の開示。

 グラウンドオーダーは基本的に、常時出せるのが三基、控えという待機状態が二基存在する。

 それぞれが異なる性質を持つ基本が生身の人間で、連太郎はマスターという主従関係の上。

 出て来た相手はサーヴァントと呼ぶ、使い魔。

 歴史に刻まれたあらゆる英雄や神様、魔物などを召喚する術式。

 召喚時は紋章を通して出てくる事が多いが、こっちの意思を無視して顕現も可能。

 一度出てしまえば生身で生活することになる。

 引っ込めることは可能だが抵抗する場合の保険が令呪。

 絶対命令権。これを使えば、サーヴァントは強制的に動かざるを得ない。

 主従関係における切り札と言うことだ。

 サーヴァントは使い魔であり、マスターは連太郎。

 そういう術式。

「サーヴァント……使い魔という時点で異質だな。式神なら術式の道具だ。だが使い魔は自我がある」

「ですね。サーヴァントは式神より生きてます。生きている以上、殺されれば死にますし、一定時間喚べなくなるペナルティもあります」

「十種影法術と違って死んでも蘇るのか」

「? 何すかそれ?」

 また専門用語。清姫も知らない。

 気にするなと言って、先を促す先輩。

「で、俺は呪術師ってのに全く知識が無いんで術式の使い方もわかりません。喚べば来る、喚ばなくても来る。出入りは自由です」

「おい、博打過ぎるぞ一年」

 不意に先輩が言う。

 出入りは自由というのは、聞いている限り歴史の様々な英雄や神様、果てや魔物まで喚ぶのではあれば。

 最悪、自分のサーヴァントに殺される可能性がある。

 無抵抗に。縛りで制限をつけろと言うが。

「しませんよ。だって、相手俺より格上ですもん。合意してくれません。あ、あと俺の術式は座って言う特殊な場所で皆普段居るんですけど。そこで揉めているのがいつものことなんで、殺されはしないと思いますよ。殺す前にストッパーが誰か来るっていう設定みたいで」

「セーフティが内蔵されてるのか。なら良いが」

 元々、グラウンドオーダーにはマスターたる連太郎を殺そうとすると同等の誰かがそれを未然に防ぐ装置がある。

 清姫が好き勝手に出てくるのはこの常時出てくる枠を奪っているからだ。

 居座って譲らない。それは良い。

「あ、この際皆出て来て貰うか」

 思い立った連太郎が紹介すると言って先輩に見せる。

 五条悟が言っていた。

 勝手に出てくる以上聞いているので言えば出てくる。

 事実、そうだった。

「あれれ。良いんですか連太郎さん。本当に出て来ても」

 後ろから不意に現れる、人影。

 初夏に合わせて服装を変えた、相棒。

 茶色のボブカット、白い薄手のワンピース。

 麦わら帽子の、スタイルの良い女の子。

「呪術師……なるほど。不平等で不公平。挙げ句に腐敗の巣窟。一度一掃して綺麗にしましょう。マスターもわからないとは言え、この様な世界に彼を置くのは心配です」

 金髪を纏めて三つ編みにして伸ばし、白いバッククロスのキャミソールに黒いロングスカート。

 夏っぽい格好の少女だった。

「紹介します。こっちはシャル。こっちがジャンヌです」

 連太郎に紹介されて礼儀正しく挨拶する二名。

「初めまして! シャルロットと申します。連太郎さんの護衛と身の回りのお世話をしています」

「私はジャンヌと言います。……ええ、知っているとは思いますが」

 シャルロットはニコニコ笑って、ジャンヌは……苦い表情で。

「おい……ジャンヌ? まさかオルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルクか?」

 知ってるのは当然だ。

 聖女、ジャンヌ・ダルク。

 これ程知名度のある女性もそうはいないだろう。

「あー……言われるんですけど。ジャンヌはそこまで堅苦しい訳じゃないですよ。聖女とかそう言うのは抜きでお願いしますわ。俺の良きお姉ちゃんですので」

 この少女は、英雄ジャンヌ・ダルクの影法師。

 今を謳歌する、普通の頑固者で天然の良き姉。

「マスター。私はそんなに姉ムーブしてません。誤解です。ただ、マスターの環境が悪いので改革をですね」

「はいお姉ちゃん、その手の革命起こすの止めてね。ジャンヌが動くと下手すると国が滅ぶから」

「私をインテリの革命家みたいに言うのも止めて下さい。私は勉強も争いも嫌いです」

 聖女と自身を思ったことは無くただの頑固者の善人。

 ただこの助けたいという気持ちが広すぎて責任を負えないレベルでやるので先ず控えてと言っている。

 過去の歴史のような苛烈な性格では無く、素はこれである。

「英雄ジャンヌ・ダルク……か」

「英雄、聖女……。そう呼ばれた自分の人生に後悔はありません。ただ現代にいる以上、法律は守ります。然し言ってダメなら叩いて矯正は必要だと思います」

「物騒だぞ聖女」

 だから止めろという連太郎にお姉ちゃんは聞かない。

「清姫から聞いていましたが、マスターが暮らすにはこの環境は不安しか無いのです」

「気持ちは分かるが、暴力で改善は革命だぞ?」

 叩いて矯正は必要。説法で済むなら良いけど呪術師は常識的に考えておかしいんだろう。

 じゃあ叩く。改善したい。

 ジャンヌのこう言う部分の根っこは連太郎への心配。

 立派なお姉ちゃんムーブであった。

「シャル、ジャンヌどうしよう?」

「連太郎さんの心配が現実にならないことを祈るしか無いですね……」

 シャルロットも清姫もジャンヌの頑固を知っている。

 腐った現実を見たら動こうとする。甘受出来ない。

「ジャンヌ、とりあえず落ち着こう?」

「むぅ……」

 不満げな表情のお姉ちゃん。

 暴力はいけない。法律は守ろう。

「ジャンヌは目的のためなら暴力を振るうタイプです故、呪術師とそう変わらない気もしますね」

 ダメ出しの清姫。豪快に笑う先輩。

「いい。三輪のような感性で、圧倒的多数の仲間を率いるマスター。気に入ったぞ一年……いや、ブラザー。俺は東堂葵。お前を一人前の呪術師にしてやる」

 ついてこいと背を向ける先輩、もとい東堂。

 ……これは、東京で宿儺の騒動の裏で起きていた京都での物語。

 駆け出しの一般人が呪術師を名乗るマスターになる。

 その始まりだ。

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