監察官のちょっと奇妙な冒険 作:プロメイア推しの人
妄想エンジェルのやつね。
「リンさん、お久しぶりです~」
「フラマじゃん!久しぶり~!!」
「っていうか、この前の事件でフラマは大丈夫だった?」
「あぁ全然っす!何が起こってたかは知らないんすけどね」
「知らない?結構おっきな事件じゃなかった?」
「俺、軟禁されてたんで」
「な、軟禁!?」
「ハッキングされたらやばいんで。しゃあなしっす。シーシィアに付いてってたら、俺が狙われてたかもしれないですし」
「そっか……大変だったね」
「シャットダウンモードとやらを、初めてやったんですけど、それ使ったらすぐでしたけどね」
「あ、そうだ。おすすめの映画あります?俺が前好きって言った感じの」
「あ~和風みたいなジャンルだよね」
「ちょっと待ってね!調べてくる」
今日の俺は、Random Playっていうビデオ屋に来ている。
ここの店長さんとは、邪兎屋の時からお世話になってて、俺もこうしてたまにビデオを借りに来る。
一応この世界にも雅さんが使ってるように刀があったり、畳があったり。
昔の日本的な文化もある。それを題材にした映画はやっぱり俺のお気に入り。
一時期は俺が日本で見た作品をこっちで出せば億万長者……なんて考えた事もあったけど。
郷に入っては郷に従え、だ。こっちの作品も面白いのばっかだし。
「お、落ち着いて………ふ、フラマ………」
「何かありました?」
「今、ルミナススクエアの映画館でさ!フラマが好きそうな映画が上映されてて………」
「お~!ほんとっすか!!」
「そ、それで………その………」
「じゃあ、リンさん一緒に行きません?暇だったらでいいですけど」
「う、うん!それじゃ行こ行こ!!」
□
「ンナ、ンナナ!!(リン!凄い頑張った!!)」
「そうだね。18ちゃん。リンにしては勇気を出したと思う」
「ンナ~(まだまだ長そう~)」
□
上映中、フラマはずっと楽しそうだった。
もちろん、声を出して騒ぐ訳ではない。
けれど、良い構図が出るたびに目が輝き、殺陣の場面ではほんの少しだけ前のめりになる。
それが、子供っぽくて思わず微笑んでしまった。
リンは、スクリーンよりも隣の横顔を見てしまう瞬間が何度かあった。
映画そのものは、静かな作品だった。
刀を失った浪人が、流れ着いた村で小さな家族に助けられ、やがてその村を守るためにもう一度刀を取る。
派手な爆発も、過剰な台詞もない。
ただ、誰かを守る理由が少しずつ積み重なっていく映画だった。
中盤。
浪人が、村の親子と囲炉裏を囲む場面があった。
母親が不器用に握った飯を差し出し、父親が「遠慮せず食え」と笑う。
子供は浪人の刀を怖がりながらも、少しずつ隣に座るようになる。
何でもない場面だった。
戦いもない。
重要な秘密が明かされる訳でもない。
ただ、誰かが誰かにご飯をよそい、温かい場所へ招き入れるだけの場面。
その時、隣のフラマがふっと静かになった。
リンは最初、映画に集中しているのだと思った。
けれど、違った。
スクリーンの光に照らされたフラマの頬を、涙が一筋だけ伝っていた。
「……フラマ?」
小さく声をかける。
フラマは、少し遅れて瞬きをした。
自分でも泣いていることに気づいていなかったように、慌てて袖で目元を拭う。
「わ、すみません。なんか、変に来ちゃいました」
声はいつもの明るさを保とうとしていた。
でも、少しだけ掠れていた。
リンは映画の音に紛れるくらいの声で聞く。
「大丈夫?」
フラマは、スクリーンを見たまま小さく笑った。
「大丈夫っす。ほんと、大丈夫なんですけど……今の場面、ちょっと両親を思い出しちゃって」
「昔、うちもあんな感じで、飯の時だけ妙に賑やかだったんですよ」
リンは何も言わなかった。
相槌だけで急かしたくなかった。
フラマは涙を拭って、少し照れたように続ける。
「普段は俺が何かやらかして怒られてばっかだったんですけど、飯の時だけは父さんが変な話して、母さんが笑って、それで俺もつられて笑って……なんか、そういうの思い出しました」
「映画ってすごいっすね。刀の映画見に来たはずなのに、こういう何でもない場面で刺してくるんすから」
そう言って笑うフラマの横顔は、いつもより少し幼く見えた。
明るくて、素直で、どこか眩しい人。
でも、その明るさの奥に、ちゃんと失くしたものがある。
リンは胸の奥がきゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。
「……そっか」
短く返すのが精一杯だった。
でも、それだけでは足りない気がして、リンは小さな声で続ける。
「フラマがそういう話してくれるの、私は嬉しいよ」
「映画を見て、思い出したものをちゃんと言葉にしてくれるのって……なんか、すごく大事なことだと思うから」
フラマは少しだけ驚いたようにリンを見た。
それから、いつもの明るい笑顔を少しだけ取り戻す。
「リンさん、やっぱ映画見るの上手いっすね。感想だけじゃなくて、人の気持ちまで拾ってくれる感じがする」
「そ、そんな大げさじゃないよ」
「いや、ほんとに。今日、リンさんと来てよかったです。一人だったら、たぶん泣いたの誤魔化して終わってたんで」
その言葉に、リンの心臓が一つ跳ねた。
フラマは何でもないようにスクリーンへ視線を戻す。
本人はきっと、自分がどれだけ真っ直ぐな言葉を投げたか分かっていない。
リンは少しだけ俯いて、手元のポップコーンを見た。
キャラメル味の甘い匂いがする。
けれど、胸の奥はそれよりずっと甘くて、少し痛かった。
「……うん。私も、今日一緒に来られてよかった」
フラマは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、最後までちゃんと見ましょう。これ、絶対ラストも良いやつっすよ」
「ふふっ、切り替え早いね」
「泣いた分、集中力上がりました」
「そういうもの?」
「たぶん!」
明るく言うフラマに、リンもつられて笑った。
スクリーンでは、浪人が静かに刀を取っていた。
けれどリンにとって、その映画で一番印象に残ったのは、きっと戦いの場面ではない。
隣で涙を拭いながら、両親のことを少しだけ話してくれたフラマの声。
その方が、ずっと胸に残る気がした。
□
映画が終わると、フラマはしばらく座席に座ったままだった。
エンドロールの白い文字が、暗いスクリーンをゆっくり流れていく。
「……いや、良かったっすね」
いつもの明るさが戻ってきている。
でも、少しだけ柔らかい声だった。
「殺陣も良かったんですけど、今回は飯の場面が一番刺さりました。ああいう、戦う理由を言葉で説明しないで見せるの、ずるいっすよね」
リンは頷いた。
「うん。私も、あそこ好き。きっとあの場面があるから、最後に刀を取るところがちゃんと重くなるんだと思う」
「分かります。守りたいものを先に見せられてるから、戦う場面がただのアクションじゃなくなるんすよね」
フラマはそう言ってから、少し照れたように笑った。
「あと……さっきは心配かけてすみません」
「心配はしたけど、嫌じゃなかったよ。むしろ、少しだけフラマのことを知れた気がしたから」
リンがそう言うと、フラマは目を丸くした。
それから、ぱっと明るく笑う。
「じゃあ、また映画見に行きましょう。俺、リンさんとなら感想言いやすいですし。次は泣いてもすぐバレますけど」
「バレたら、また大丈夫?って聞くよ」
「それはありがたいっすね。じゃあ安心して泣けます」
「映画館で泣く前提なんだ」
「良い映画なら泣きます!」
フラマは堂々と言った。
リンは笑ってしまった。
明るくて、素直で、少し鈍感で。
でも、人の言葉をちゃんと受け取ってくれる。
その横顔を見ながら、リンは思った。
次も、また誘いたい。
今度は勢いじゃなくて。
ちゃんと、自分の言葉で。