監察官のちょっと奇妙な冒険   作:プロメイア推しの人

7 / 8
南宮羽ぅぅぅぅぅ!!!!!
貴様の過去編はどこにあるんだぁぁぁぁぁ!!
背中の傷はどうしたぁぁぁぁぁ!!!



推しからの認知ほど嬉しいものはない(なおファンは気づいてない模様)

「ゆ、羽………ほんとに出すんか?」

 

「当たり前でしょちなっちゃん!今日から活動開始なんだから!」

 

「うぅ………私もなんだか緊張してきちゃった………」

 

三人の小さな天使が、一つのパソコンを争うように眺めていた。

 

「それじゃ!投っ稿!」

 

黒髪の天使、南宮羽がエンターキーを打ち鳴らし、ついに彼女達の初回動画がネットの海に放たれた。

 

「ほ、ほんまに大丈夫なんか!?うちなんか変なミスなんてしてへん!?」

 

「わたしも音程間違えちゃったりしてないかな!?」

 

アップロードされたのは、千夏が作曲を手がけ、三人で踊り歌った初めての曲。

それらの価値を世界が、今この瞬間から査定する。

その事実に、アリアと千夏は冷や汗が止まらない。

 

 

ピコン

 

 

三人が固唾を飲んで、パソコンを見守る中。

一つの電子音が鳴った。

 

「お、キタキタ!」

 

羽はそれを喜々として開こうとし。

 

「アンチコメとかやないよな!?」

 

千夏はいらぬ心配を抱き。

 

「だ、大丈夫だよちなっちゃん!」

 

アリアはそれを宥めつつ、千夏の言葉に不安を抱きながら。

 

彼女達は、初めて届いたコメントを開いた。

 

《初投稿おめでとうございます!曲、すごく良かったです。妄想エンジェルって名前もかっこいい。応援します!ファン第一号、名乗っていいですか?》

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

三人は、しばらく画面を見つめたまま動かなかった。

アンチコメントではなかった。

馬鹿にする言葉でも、冷やかしでもない。初めて届いた、外からの声。

 

「ふぁ、ファン……?」

 

千夏が、震える声で呟いた。

 

「第一号……って、うちらの……?」

 

「そう、だよね……」

 

アリアも画面を見つめたまま、そっと胸元に手を当てる。

 

「わたしたちのこと、応援するって……」

 

「ほら!」

 

羽が、二人の肩をぐいっと抱き寄せる。

 

「言ったでしょ!妄想エンジェルは絶対いけるって!」

 

「羽、手ぇ震えてるで」

 

「震えてない!」

 

「震えとる」

 

「武者震いだよ!」

 

「コメント一個で武者震いするリーダー、ちょっと嫌やなぁ……」

 

「ちなっちゃん!」

 

千夏はそう言いながらも、画面から目を離せなかった。

曲、すごく良かった。

その一文だけで、胸の奥がじんわり熱くなる。

 

自分の作った曲が。

三人で何度も練習した歌が。

誰かに届いた。

それが、まだ信じられなかった。

 

「へ、返信せな……!」

 

千夏が慌ててキーボードに手を伸ばす。

けれど、すぐに指が止まった。

 

「……な、なんて返したらええん?」

 

「えっと……ありがとうございます、かな?」

 

「それだけやと冷たくない!?でも長すぎたら重いやろ!?初コメに重すぎる女三人とか思われへん!?」

 

「思われないよ、ちなっちゃん……たぶん」

 

「たぶん!?」

 

「落ち着いて、二人とも」

 

羽が咳払いを一つする。

 

「ここはリーダーの僕が、妄想エンジェルらしく、ばしっと返すから」

 

「羽、さっきからずっとエンターキーの上に指置いとるけど大丈夫なん?」

 

「押さないから!」

 

「ほんまに?」

 

「押さないってば!」

 

結局、三人で画面に顔を寄せ合いながら、一文字ずつ確かめるように返信を打った。

 

《ありがとうございます!初めてのコメント、とっても嬉しいです。これからよろしくお願いします、ファン第一号さん!》

 

エンターキーを押し込む。

たったそれだけなのに、三人は同時に息を止めた。

まるで、デビューライブの幕が上がったように。

 

「……送っちゃった」

 

アリアがぽつりと言う。

 

「送ったな……」

 

千夏がごくりと喉を鳴らす。

羽は画面を見つめたまま、少しだけ笑った。

 

「うん。送った」

 

まだ再生数は少ない。

コメントも、今はこの一つだけ。

けれど、三人にはそれだけで十分だった。

 

「……うちらの歌、ちゃんと届いたんやな」

 

「うん」

 

アリアが小さく頷く。

 

「届いたんだね」

 

羽は拳を握った。

 

「だったら、次はもっといいの作ろ。ファン第一号さんが、次も見たいって思ってくれるように!」

 

「……せやな」

 

「うん……!」

 

まだ誰も知らない妄想エンジェル。

けれどその日、三人は初めて知った。

自分たちの声に、返事をしてくれる人がいるのだと。

 

 

 

 

 

 

「うぅ……あかん……全然メロディ出てこぉへん……」

 

千夏はカフェの端の席で、ノートに突っ伏しかけていた。

その時、隣から明るい声が聞こえる。

 

「すみません。そこ、空いてます?」

 

「えっ?あ、はい……どうぞ」

 

顔を上げると、見知らぬ男の人がいた。

どこか軽くて、明るくて。

でも、不思議と嫌な感じはしない人だった。

 

「ありがとうございます。いやぁ、報告書から逃げてたらここに着きまして」

 

「報告書……?」

 

「人類の敵です」

 

「そ、そんな強いもんなんか……?」

 

思わず笑ってしまった。

その人は、千夏のノートを見て目を丸くする。

 

「あ、曲作ってるんすか?」

 

「いや……えと、そんな大層なもんやなくて……」

 

「すご~。俺そういうの全然できないんで、普通に尊敬します」

 

「そ、尊敬なんてそんなん……うちなんて、まだ全然やし……」

 

「全然でも、作ろうとしてる時点ですごいと思いますけどね」

 

千夏の指が止まった。

その言い方が、どこか聞き覚えのある温度だった。

 

軽いのに。

ちゃんと、まっすぐ届いてくる感じが。

 

「……あの」

 

「はい?」

 

「も、もしかして……」

 

そこまで言って、千夏は慌てて首を振った。

 

「な、なんでもない!!」

 

「ん?そっすか」

 

「でも、ちょっとだけ曲が進みそうや!おおきに!」

 

「ならよかったです」

 

その人は、にっと笑った。

 

千夏はノートに視線を落とす。

 

たぶん。

 

いや、きっと。

 

この人が、あのファン第一号さんだ。

 

そんな確信が、千夏の胸には残っていた。

 

 

 

 

千夏がノートに音符を書き足していると、カフェの入口のベルが軽く鳴った。

 

「ちなっちゃーん!」

 

「あ、千夏ちゃん、いた……!」

 

聞き慣れた二つの声に、千夏は顔を上げる。

入口に立っていたのは、アリアと羽だった。

アリアは少し息を弾ませながら手を振っていて、羽はいつものように飄々した顔をしている。

 

「お、友達っすか?」

 

隣に座っていた男の人が、気軽にそう尋ねた。

千夏の心臓が、変な跳ね方をした。

 

「そ、そうや!友達!」

 

千夏は慌てて頷く。

 

「友達!ただの友達や!」

 

「ただのって付けると逆に怪しいっすね」

 

「怪しない!」

 

「ちなっちゃん、何してるの?」

 

羽が千夏の向かいに座りながら、男の人を見る。

 

「こんにちは!ちなっちゃんの知り合い?」

 

「さっき知り合ったばっかやけどな」

 

「どうも。報告書から逃げてきた者です」

 

「報告書から?」

 

アリアがきょとんとする。

 

「人類の敵なんすよ、あれ」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「信じなくてええよ、アリアちゃん。たぶん大げさに言うてるだけや」

 

「いや、大げさじゃないっす。報告書は文明が生み出した怪物です」

 

羽が目を輝かせた。

 

「いいね、その言い方!ちょっと歌詞っぽい!」

 

「え、そうっすか?」

 

「うん! “文明が生み出した怪物”って響き、けっこう強いよ!」

 

「羽、変なとこ拾わんといて」

 

千夏が慌てて突っ込む。

男の人は、羽を見て少し笑った。

 

「もしかして、そっちの子も曲とかやってるんすか?」

 

「まあね~」

 

羽は胸を張る。

 

「僕は歌うし踊るし、あと夢を見る担当だよん」

 

「夢を見る担当」

 

「そう!大事でしょ?」

 

「大事っすね。夢見ないと始まらないですし」

 

「分かってるね、君!」

 

羽が満足げに頷く。

千夏は内心で頭を抱えた。

 

「アリアさんは?」

 

男の人が今度はアリアを見る。

 

「えっ、わ、わたしですか?」

 

「はい。なんか、歌うまそうな雰囲気してるなって」

 

「ええっ!?」

 

アリアの顔が一瞬で赤くなる。

 

「そ、そんなことないです!まだ全然で……!」

 

「いや、声きれいだし。喋ってるだけでも分かりますよ」

 

「き、きれ……」

 

アリアは両手で頬を押さえた。

羽がにやにやする。

 

「アリアちゃん、褒められてるよ」

 

「羽ちゃん……!」

 

「いやぁ、でもほんとに。三人とも何か一緒に作ってそうな空気ありますよね」

 

男の人が何気なく言った。

千夏の肩がびくりと跳ねる。

羽も、アリアも、一瞬だけ動きを止めた。

 

「……そ、そう見える?」

 

羽が探るように聞く。

 

「見えますね。なんか、放課後に秘密基地で作戦会議してそう」

 

「秘密基地!」

 

羽がぱっと笑う。

 

「いいねそれ!僕たちの活動拠点、今日から秘密基地って呼ぼうよ」

 

「羽ちゃん、それはちょっと恥ずかしいかも……」

 

「えー、いいじゃん!」

 

「……活動?」

 

男の人が首を傾げる。

三人は同時に固まった。

千夏は心の中で叫んだ。

 

羽ぅぅぅぅぅぅ!!

 

「か、活動っていうか!」

 

羽が慌てて手を振る。

 

「その、えっと、青春活動!」

 

「青春活動」

 

「そう!青春は活動だから!」

 

「なるほど。深い」

 

「深くないで」

 

千夏が即座に切る。

男の人は特に疑う様子もなく、楽しそうに笑っていた。

気づいていない。

本当に気づいていない。

 

妄想エンジェルの名前も、動画のことも、目の前の三人と結びついていないらしい。

千夏は、ほっとしたような、少しだけ残念なような、不思議な気持ちになった。

 

「でも、いいっすね」

 

男の人が言う。

 

「三人で何かやってるのって、楽しそうで」

 

「楽しいよ!」

 

羽が即答する。

 

「大変だけどね。うまくいくか分からないし、誰にも見てもらえないかもしれないし。でも、三人ならやってみたいって思える」

 

その言葉に、アリアが小さく頷いた。

 

「うん……怖いけど、でも、届いたら嬉しいから」

 

「届いたら?」

 

男の人が聞き返す。

アリアは少しだけ迷ってから、柔らかく笑った。

 

「声とか、気持ちとか。そういうのが、誰かに」

 

男の人は、少しだけ真面目な顔になった。

 

「届きますよ」

 

「え……?」

 

「ちゃんと作ったものって、たぶんちゃんと届くんだと思います。すぐじゃなくても、一人でも。それで十分すごいことじゃないっすか」

 

その言葉に、三人は黙った。

千夏は、画面に表示された初めてのコメントを思い出す。

 

《曲、すごく良かったです。》

 

あの一文と、同じ温度だった。

アリアも、羽も、何かを感じ取ったのかもしれない。

けれど、男の人は何も知らない顔で、アイスコーヒーを一口飲んだ。

 

「いや、俺が偉そうに言うことじゃないんすけどね。俺は作る側じゃなくて、見る側なんで」

 

「見る側……」

 

羽が小さく呟く。

 

「じゃあさ、君はどういうの見たら、また見たいって思う?」

 

「え?」

 

「歌とか、動画とか、そういうの。見てる側の意見、聞きたい」

 

千夏の心臓がまた跳ねた。

 

「んー……」

 

男の人は少し考える。

 

「上手いのも大事だと思うんすけど、それより「この人たち、楽しそうだな」って思ったらまた見たくなりますね」

 

「楽しそう……」

 

「はい。あと、無理して完璧に見せるより、ちょっと不安そうでも、それでも頑張ってる感じがある方が応援したくなるというか」

 

アリアが、そっと胸元に手を当てた。

 

「……応援したくなる」

 

「まあ、俺個人の意見ですけど」

 

「ううん」

 

アリアは首を振った。

 

「すごく、嬉しい意見だと……思います」

 

「ならよかったです」

 

男の人は、にっと笑う。

その笑顔を見た瞬間、羽が何か言いかけた。

 

けれど、千夏が机の下でそっと羽の足をつつく。

羽は一瞬だけ千夏を見る。

千夏は小さく首を振った。

 

羽は少しだけ目を丸くして、それから、ふっと笑った。

 

「そっか。じゃあ、楽しそうにやるのが一番だね」

 

「だと思います」

 

「よし!」

 

羽が拳を握る。

 

「ちなっちゃん、アリアちゃん!次のやつ、もっと楽しくしよう!」

 

「ここで作戦会議始めんといて!」

 

「ご、ごめんね……!」

 

アリアが慌てる。

男の人は、そんな三人を見て、声を出して笑った。

 

「仲良いっすね」

 

「まあね!」

 

羽が胸を張る。

 

「僕たち、最強だから!」

 

おや……?いやそんな訳ないか。いいっすね~そういうの」

 

「でしょ?」

 

「はい。なんか、応援したくなります」

 

その一言に、三人はまた黙った。

 

応援したくなる。

 

きっとこの人は知らない。

 

自分がもう、最初に応援してくれた人なのだと。

 

羽は、多分感づいている。アリアは、気づいていないかも。

 

そして本人は、もちろん気づいていない。

 

そのすれ違いが、なんだか少しだけくすぐったかった。

 

「じゃ、俺そろそろ戻ります」

 

男の人が席を立つ。

 

「報告書という怪物と戦わないと」

 

「勝てそう?」

 

羽が聞く。

 

「負け戦っすね」

 

「諦め早いなぁ」

 

千夏が笑う。

 

「でも、さっきよりはちょっと元気出ました。三人見てたら」

 

「え?」

 

アリアが目を瞬かせる。

男の人は軽く手を振った。

 

「なんか、頑張ってる人っていいなって思ったんで。俺も少しだけ頑張ります。ありがとうございました!」

 

そう言って、彼はカフェを出ていった。

 

扉のベルが鳴る。

 

その音が消えてから、羽がゆっくりと口を開いた。

 

「……ねえ、ちなっちゃん」

 

「な、なんや」

 

「あの人、いい人だね」

 

「……せやな」

 

「なんか、不思議だった」

 

アリアがぽつりと言う。

 

「初めてコメントをくれた人の言葉と、少し似てた気がする」

 

千夏は、ノートを見下ろした。

そこには、さっきまでなかったメロディが並んでいる。

 

「……気のせいやない?」

 

そう言った声は、少しだけ震えていた。

 

羽がじっと千夏を見る。

 

「ちなっちゃん?」

 

「なんでもない」

 

千夏はペンを握る。

 

「ただ、次の曲のサビ、決まった気がする」

 

「ほんと!?」

 

羽が身を乗り出す。

 

アリアも目を輝かせた。

 

「どんな感じ?」

 

千夏は、少しだけ笑った。

 

「誰かに届いた声が、またうちらを前に進ませてくれる曲」

 

「……いいね」

 

羽が小さく頷く。

 

「妄想エンジェルっぽいじゃん!」

 

「うん」

 

アリアも微笑む。

 

「きっと、また届くよ」

 

千夏はカフェの窓の外を見た。

もう男の人の姿はない。

けれど、胸の中にはちゃんと残っていた。

 

初めてのコメントも。

さっきの言葉も。

そして、まだ本人が知らないままの、小さな縁も。

 

「せやな」

 

千夏は新しい音符を書き足す。

 

「次も、届かせよ」

 

まだ誰も知らない妄想エンジェル。

 

けれどその日、三人は少しだけ知った。

 

自分たちの声は、きっと誰かを動かせる。

 

そして誰かの声もまた、自分たちを動かしてくれるのだと。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。