監察官のちょっと奇妙な冒険   作:プロメイア推しの人

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やっとこさ始まりますよ。メインストーリーが。



私がキタァ!!(メインストーリー始まるだけ)

ver2.6でのフラマ君。

 

 

「新しい仕事っすか?」

 

「いや、君は向かわない方がいいだろう」

 

「え?なんでっすか?シーシィア行ってるんですよね?」

 

「今回の事件。知能構造体が深く関わっている。君がいくら特(・)殊(・)とはいえ、万が一ハッキングでもされたら被害は測りしれない」

 

「な~るほど………確かに」

 

「よって、君の身体を拘束させてもらう」

 

「はい?」

 

「必要な処置だ。許してくれ」

 

「あぁ………うっす。どうぞ」

 

「………意外に素直に従うんだな」

 

「いやまぁ、俺の力で皆が傷つくなんてごめんなので。そんなんいったら腹切りますわ」

 

「君はどこまでいっても君だな」

 

「……?はい!」

 

 

 

ん?黄金の日に外出できなかったこと?

全然悔しくなんてないが?

もしかしたら女性との出会いがあるかな、なんて思っていなかったが?

なんか後でリンさんに聞いたら、妄想エンジェルの初ライブ行ってたらしいけど?

全然?悲しくなんてないが?

瞬が、俺の事を案じてくれたのが嬉しすぎてちょっと泣いてなんてないが?

しかもリンさん曰く妄想エンジェルの皆に認知されてたらしいけど全然悔しくなんてないが?

 

 

 

□

 

 

 

 

「ホロウ・ザ・ヒーローにご参加いただきありがとうございます!!」

 

「うっす」

 

「それでは、こちらに諸々の参加者様の情報をご記入いただき、参加料をお支払い頂いたら、参加完了です!エントリーも同時に出来ますので!」

 

「なるほど。あざます」

 

セヴェリアンさんの指示で来たけども、そんなにこれやばい大会か?

いやまぁ無保険だしだいぶやばいか。

ア〇ラック黙ってないぞおい。

 

「はい!登録が完了しました!それでは、こちらのエーテリアスカードをお受け取りください!」

 

そこからもろもろ何か色んな説明を受け。

 

「うっわこの音動機かっこよ~」

 

景品の方をちらりと見ると、銀色に眩い音動機が。

まじシルバーチャリオッ〇。色がえぐい。

 

「君も(・)、この音動機が気になってるの?」

 

すると、隣の翼が生えてる………でっか。

おおっと危ない。俺は紳士だ。

紳士たるもの、そういった感情すらも封じ込めなければいけない。

 

「そっすね~かっこよくないすか?」

 

「かっこいい………初めて聞く感想だね」

 

「なら、そういうお姉さんの感想は?」

 

「う~ん………そうだね~そう聞かれると難しいかも」

「強いて言うなら、神秘的………かな?」

 

「あぁ~分かります。言葉に上手くできないっすけど、こうふわ~って感じが」

 

「お、分かっちゃうか~君とは仲良くできそう」

「あぁ、そうそう。私の名前はラミル。この大会に参加するの」

「まずは自己紹介するべきだったね………失敗失敗」

 

「大丈夫っすよ。そんな形式角張った大会じゃないですし」

「俺の名前はフラマって言います。フラでもフラマでも好きな呼び方で」

 

「じゃあ、よろしくフラマ。大会で会ったら、よろしくね」

 

「こちらこそ。でもラミルさんみたいな人とは戦いたくないっすね~」

 

「なんでか聞いてもいい?」

 

「え、だってラミルさんめ(・)ち(・)ゃ(・)く(・)ち(・)ゃ(・)強(・)い(・)で(・)し(・)ょ(・)?」

 

「へぇ~…………」

 

ピピピピ

 

「あ、すみません。上司から連絡来ちゃったんで、また」

 

「うん。また大会でね」

 

ラミルさんと手を振りながら、電話に出る。

………めっちゃ揺れて「すみません。何でもないっす。許してください」

 

『一体、何の話だ………?』

 

 

 

 

□

 

 

 

 

「おい阿保シーシィア」

 

「はいぃ………」

 

「自分が何したか分かってるか?」

 

「プロキシくんに……ご迷惑を………」

 

「他には?」

 

「大会の運営さんに……マジ捜査官アピールを……」

 

「他には?」

 

「エントリーしてないのに……参加できると思って……」

 

「他には?」

 

「参加費を……払ってなくて……」

 

「目白押しだな、おい」

 

シーシィアは床に正座していた。

 

ちなみに俺は腕を組んで仁王立ち。

ちょっと先輩っぽい。

いや、俺はちゃんと先輩なので当然なのだが。

 

「フラマパイセン……足しびれてきたんですけどぉ……」

 

「しびれろ。反省とは足から来るものだ」

 

「何その謎理論!?」

 

「俺も今考えた」

 

「ひどっ!」

 

シーシィアが涙目で見上げてくる。

 

やめろ。

そういう顔をするな。

俺は後輩に甘い。

自覚がある。

だがここで折れたら、またこいつは同じことをする。

 

たぶんする。

絶対する。

なんなら明日する。

 

「そもそもな、シーシィア」

 

「はい……」

 

「大会に出たいなら、普通にエントリーしろ」

 

「だってぇ!あーし捜査官だし!大魔王直属だし!顔パスできるかなって!」

 

「できるわけないだろ。セヴェリアンさんの名前を通行証か何かだと思うな」

 

「でも大魔王の名前出したら、大体の人ちょっと静かになるじゃん!」

 

「それは恐れられてるだけです」

 

「じゃあ顔パスじゃん!」

 

「違うわ」

 

俺の後輩は屁理屈の瞬発力だけは高い。

その能力をもう少し書類とか報告とかに使ってほしい。

 

「で、リンさん達にはちゃんと謝ったのか?」

 

「謝ったしぃ……たぶん許してくれたしぃ……」

 

「たぶん?」

 

「リンちゃんは優しかった。アキラくんは笑顔が怖かった」

 

「そっちの方が多分怒ってる」

 

「ビリーは『まあニコの親分も似たようなもんだしな!』って言ってくれた!」

 

「それはフォローなのか?」

 

邪兎屋基準はたまに分からない。

俺は元邪兎屋だけど、それでも分からない。

姉貴の人生設計とか借金管理とか、もう理解を超えている。

 

「とにかく」

 

俺はシーシィアの前にしゃがむ。

 

「今回はプロキシさんたちが受け入れてくれたから良かったけど、普通に考えたらアウト寄りのアウトだからな」

 

「うぅ……」

 

「監察官とか捜査官とか、肩書きがあるんだから余計にちゃんとしろ。市民に迷惑かけたら、セヴェリアンさんだけじゃなくて俺も怒る」

 

「フラマパイセンも?」

 

「俺も」

 

「……パイセンが怒るのは、ちょっとやだ」

 

シーシィアが小さく呟いた。

 

おっと、そういうのやめろ。

俺は後輩に甘いんだって。

 

「じゃあ次から気をつけろ」

 

「はぁい……」

 

「返事が軽い」

 

「はいっ!」

 

「よろしい」

 

俺が立ち上がると、シーシィアもよろよろと立ち上がった。

 

「足しびれたぁ……」

 

「反省の証だな」

 

「絶対違うし……」

 

「じゃリンさんの方に戻って良いぞ」

 

「……パイセンは?」

 

「俺は自分一人のチームだけど、一応参加してるからな」

「チーミングとか言われても面倒だし、分かれて行動するぞ」

 

「えぇ!?パイセンと一緒に行動できると思ったのに!!」

 

「しゃあなしだろ?セヴェリアンさんから言われたあの白いエーテリアスも、別れて探したほうが早い」

 

「あーし、クソ雑魚なのに!!パイセンは鬼つよなのにぃ!!」

 

「分かった分かった!!治安官の内線で連絡入れろ!!そしたら、すぐ行く!!」

 

「ほんと………?」

 

やめろって。

袖引っ張って、涙目で見上げるな。

俺そういうのに弱いってば。

 

「ほんと。このホロウの大きさなら、三十秒くらいでギリギリだな」

「リンさんに、俺からそんなに離れないように言っといてくれ」

 

「りょうかい!!パイセンもがんば~!!」

 

………自由人というか、我儘というか。

まぁあいつも心の底は良いやつだし。きっと大丈夫だろ。

 

 

 

□

 

 

 

「じゃ、俺も行きますか」

 

シーシィアと別れたあと、俺は一人でホロウの中を歩いていた。

 

大会はすでに始まっている。

周囲では参加者たちがポイントを稼ごうと、あちこちでエーテリアスと戦っている気配がした。

 

いやぁ、皆元気ねぇ。

 

俺?

俺はさっき言った通り単独行動です。

 

寂しくなんかないが?

チームメンバーいなくても全然平気だが?

一人映画とか一人カラオケとか余裕なタイプだが?

 

……いや、ホロウで一人は普通に危ないな。

良い子は真似しないようにね。マジでキャロットなかったら死んじゃうからね。

 

「さて、と」

 

セヴェリアンさんから言われていた目的は二つ。

 

大会の様子を見ること。

それから、妙なエーテリアスの痕跡を探すこと。

 

白くて、色褪せたエーテリアス。

エーテル活性がゼロだっけか、めっちゃ低いかなんか。忘れた。

 

聞いただけでも嫌な感じがする。

 

「灰色のやつ~羽が刺さってるやつ~」

 

誰にも通じない独り言を呟きながら進んでいると、少し先でエーテリアスが弾け飛んだ。

 

爆音。

砂煙。

そして、聞き覚えのある声。

 

「ライト!そちらへ逃がしてはなりませんわ!」

 

「分かってる」

 

「……ん?」

 

俺は足を速め、崩れた壁の向こうを覗き込んだ。

 

そこにいたのは、見覚えのある二人だった。

 

一人は、ブレトンウッズの荒野が似合う、勝気なお嬢様。

もう一人は、落ち着いた雰囲気のグラサンの男。

 

「ルーシー!ライト!」

 

「っふ、ふ、フラマ!?」

 

ルーシーがこちらを見て、ぱっと顔を明るくした。

その横でライトが少し驚いたように目を細める。

 

「フラマ、お前も参加してたのか」

 

「一応ね。セヴェリアンさんから様子見も兼ねて行ってこいって言われて」

 

「監察官の仕事というやつか」

 

「そうそう。あと景品の音動機がかっこよかったので」

 

「本音が漏れてるぞ」

 

「仕事九割、音動機一割です」

 

「逆じゃないだろうな」

 

「……さあ?」

 

「フラマ?」

 

ルーシーの声が少し低くなった。

 

やめて。

その目は効く。

お嬢様の圧、強い。

 

「冗談です!ちゃんと仕事してます!」

 

「ならよろしいですわ」

 

ルーシーは満足そうに頷いた。

 

うん。

可愛い。

でもちょっと怖い。

そこもまた良し。

 

「ルーシーたちも大会参加?」

 

「ええ。カリュドーンの子の名を広めるいい機会ですもの」

 

「それと賞品目当てだ」

 

ライトが横から淡々と言う。

 

「ライト!」

 

「違うのか?」

 

「……違いませんけれど」

 

素直。

かわいい。

いや、ライトもいる前でかわいいとか口に出したら空気が変な方向にドリフトするので黙っておく。

 

「にしても、ルーシーがこういう大会に出るの、なんか感慨深いな」

 

「どういう意味ですの?」

 

「昔は郊外に行くだけでも大冒険だったじゃん。今はホロウ内の大会に出てるんだから、成長を感じるというか」

 

ルーシーは少しだけ目を丸くした。

それから、ふいっと視線を逸らす。

 

「……あなたにそう言われると、少し照れますわ」

 

「え、なんで?」

 

「なんでもありませんわ!!」

 

「お前は相変わらずだな」

 

「褒めてる?」

 

「諦めてる」

 

「それ前も聞いた気がする」

 

「たぶん何度でも言うことになるだろうな」

 

悲しい。

その時、俺のエーテリアスカードが震えた。

 

最初は運営の通知かと思った。

けれど違う。

 

治安局の内線。

表示された名前は、シーシィア。

 

「ん。どうした、シーシィア」

 

『フラマ先輩!?今どこ!?』

 

声が明らかに焦っている。あとうるさい。

 

「単独行動中。今ルーシーとライトに会ったところ。そっちは?」

 

『いや知らないし!ていうか、こっち、なんかヤバい!灰色のやつ見た!羽根刺さってるやつ!それと、血の匂いっていうか、殺意っていうか、マジ無理寄りの無理!』

 

「落ち着け。リンさんは?」

 

『いる!プロキシくん、またお人好ししてる!止めても行くって!』

 

「あー……」

 

想像できすぎる。

俺は額に手を当てた。

 

「場所送れ。すぐ向かう」

 

『ほんと!?』

 

「ほんとって言っただろ」

 

『先輩、三十秒って言った!』

 

「努力目標な」

 

『そこは守ってよぉ!』

 

「できるだけ速く行く。リンさんから離れるな。あと、一人で前に出るなよ」

 

『わ、分かった……!』

 

通話が切れる。

すぐに座標が送られてきた。

遠い。でも、無理な距離ではない。

ルーシーが心配そうにこちらを見る。

 

「フラマ、何かありましたの?」

 

「後輩からヘルプ。ちょっとヤバそう」

 

「シーシィアっていう子か?」

 

ライトが聞いてくる。

 

「うん。普段はやかましいけど、根はいい子でな。今かなり怖がってた」

 

「なら、行くべきですわね」

「ここはわたくしたちで問題ありません。あなたは後輩の元へ行ってくださいまし」

 

「助かる」

 

「ただし」

 

ルーシーが一歩近づいてくる。

 

「無茶は禁物ですわ」

 

「大丈夫。俺、頑丈だから」

 

「そういう意味ではありません」

 

最強の真似したら、怒られちった。

 

「ちゃんと戻ってきてくださいまし」

 

「……了解」

 

俺は軽く笑って、親指を立てた。

 

「後輩助けて、ついでに大会の空気も何とかして、戻ってくるわ」

 

「ついでが重いな」

 

「いつものこと」

 

「だろうな」

 

ルーシーは少しだけ不満そうに唇を尖らせた。

 

「本当は……もう少しお話ししたかったですわ」

 

「俺も~」

 

自然にそう答えると、ルーシーの顔が一瞬で赤くなった。

 

「本当に相変わらずだな」

 

「だから何が?」

 

「行け。時間が惜しいんだろ?」

 

「そういやそうだった!」

 

俺は右脚に熱を回す。

内部駆動が唸り、足元の砂がぱらぱらと震えた。

 

「じゃ、また後で!」

 

「ええ。必ずですわ!」

 

「死ぬなよ」

 

「死ぬかよ!」

 

俺を誰だと思ってんの~!フラマさんだぞ!

 

 

 

□

 

 

 

前方から、嫌な気配が強くなる。

 

血の匂い。

 

いや、正確には血そのものじゃない。

もっと嫌なものだ。

 

人を傷つけることに慣れたやつの気配。

誰かが怖がる顔を見て、楽しめるやつの気配。

 

うわぁ。

 

嫌だなぁ。

俺、こういうタイプ本当に苦手。

シンプルに性格が終わってる敵は、会話してても疲れるんだよ。

 

それに、さっきのシーシィアの声。

 

普段なら、

「フラマ先輩ぃ~!助けて助けてマジやばなんですけどぉ~!(俺の裏声)」

くらいの軽さで済ませるやつが、今回は明らかに震えていた。

 

あいつが怖がるほどの相手。

それだけで、俺が向かう理由には十分だった。

あいつも十分強いし。

 

「後輩を怖がらせるやつは、だいたい悪いやつ」

 

裂け目を抜ける。

 

視界が歪み、次の瞬間、開けた空間に出た。

 

そこには、倒れたエーテリアスと参加者の人達。

 

血だらけで、倒れている人達。

 

「ようこそ、オレの屠殺場へ」

 

「ヤ、ヤバイって!逃げなきゃ……!」

 

シーシィアの声が震えている。

 

リンさんも、ビリーも、目の前の男を警戒していた。

 

間に合った。

 

「おい」

 

俺は、そいつの声を遮るように言った。

全員がこちらを見る。

シーシィアの顔が、ぱっとこちらに向いた。

 

「フラマパイセンンン……!!」

 

「悪い。三十秒は無理だった」

 

「遅いし……!」

 

「そこはごめん」

 

俺は軽く手を上げて、シーシィアの前に立った。

 

いつものように、少しだけふざけて。

いつものように、なんでもない顔をして。

 

だって、シーシィアが怖がっているから。

俺まで暗い顔をしたら、余計怖いだろ。

 

「で」

 

俺は目の前の男を見る。

 

「お前か。うちの後輩を怖がらせて、こんなに沢山の人傷つけたの」

 

「そ、そうパイセン!ろ、ロームルってやつ……!」

 

シーシィアが、俺の背中越しに小さく呟く。

 

ロームル。

 

名前すら聞いたことないな。ただの中二病ごじらせ野郎なんじゃねぇの?

 

あとこんなに人傷つけやがって、クソ野郎が。

 

獲物を見る目。

楽しそうな目。

でも、それだけではなかった。

 

ほんの一瞬だけ、その目に別の色が混ざった。

 

驚き。

懐かしさ。

そして、嫌な期待。

 

「……へぇ」

 

ロームルが笑った。

 

「まさか、こんなところで会えるとはな」

 

「あ゙?」

 

「随分と雰囲気が変わったじゃねぇか」

 

「初対面だろが」

 

「初対面?」

 

ロームルは喉の奥で笑った。

 

「ははっ……冗談がうまくなったな」

 

 

「なぁ、隊(・)長(・)……?」

 

 

隊長。

 

その言葉が、空気の中にひそりと落ちた。

 

リンさんが息を呑む。

ビリーが怪訝そうに眉を上げる。

シーシィアが、俺の袖をぎゅっと掴んだ。

 

俺は、少しだけ首を傾げた。

 

「……隊長?」

 

「他に誰がいる」

 

「俺?」

 

「そうだよ」

 

ロームルは刃を肩に担ぐ。

 

「燃える腕。誰かの前に立つ癖。後ろの連中を守る立ち方。間違えるわけねぇだろ」

 

「いや、知らねぇよ」

 

本当に知らない。何言ってんだこいつ。

 

隊長なんて呼ばれた記憶はない。

誰かを率いた記憶もない。

部下とか、仲間とか、命令とか。

そんなものは、俺の中にはない。

 

俺の始まりは、ゴミ捨て場だった。

 

ニコの姉貴に拾われて。

邪兎屋にいて。

六課に行って。

監察官になって。

 

それ以前は、空白だ。

 

ない。

 

ないはずだ。

 

なのに。

 

胸の奥が、ざわついた。

 

腹の中にある炉みたいなものが、低く唸った気がした。

 

視界の端に、赤い光がちらつく。

 

誰かの、叫び声。

 

 

 

――隊長!!!

 

 

 

「……っ」

 

知らない。

 

俺は、知らない。

 

「フラマパイセン?」

 

シーシィアの声で、意識が戻る。

 

彼女が俺の袖を掴んだまま、不安そうにこちらを見上げていた。

 

俺は息を吐く。

 

笑え。

いつも通りに。

 

「大丈夫」

 

そう言って、笑った。

 

「変な呼ばれ方されて、びっくりしただけだ」

 

「ほんと……?」

 

「ほんとほんと。俺が隊長とか無理だろ。報告書すら締切ギリギリまで寝かせる男だぞ」

 

「それは……まあ……」

 

「そこは否定しろ後輩。お前は報告書すら出さないだろ」

 

「今それ言う!?」

 

シーシィアの表情が、少しだけ緩む。

 

よし。

 

今はそれでいい。

 

俺のことは後だ。

昔のことも後。

知らない記憶も後。

 

今は、目の前のクソ野郎が先。

 

ロームルは、そんな俺たちを見て愉快そうに笑っていた。

 

「なるほどな。忘れてんのか」

 

「何をだ」

 

「全部だろ?」

 

その声が、嫌に嬉しそうだった。

 

「いいねぇ。面白くなってきた」

 

「俺は全然面白くねぇ」

 

「思い出せよ、隊長」

 

ロームルが一歩踏み出す。

 

「あんたが何を燃やしてきたのか。誰を率いて、誰を置き去りにしたのか」

 

置き去り。

 

その言葉だけが、妙に胸に刺さった。

 

何かが、奥で軋む。

 

知らないはずなのに。

覚えていないはずなのに。

 

身体だけが、その言葉に反応している。

 

「フラマ?」

 

リンさんが、心配そうに声をかける。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫っす」

 

俺は右手を構えた。

ガコン、と音が鳴る。

人間の腕に見えていたものが開き、赤い光を漏らす。

 

「今は、昔話してる場合じゃねぇからな」

 

ロームルの目がぎらついた。

 

「いいぜ。それだ。その腕だ」

 

「お前、何か知ってるならさっさと喋れよ」

 

「嫌だね」

 

「あっそ」

 

こういうやつは絶対にすぐ喋らない。

思わせぶりなことだけ言って、人の心に石を投げてくるタイプだ。

嫌な敵キャラランキング上位。

読者人気は出るかもしれないけど、俺は嫌いです。

そもそもこんなに人傷つけやがって。マジでクソだなこいつ。

 

「まあいいや」

 

俺は拳を握る。

 

「半殺しだ、お前は」

 

「はっ。甘くなったな、隊長。昔のあんたは」

 

「知らん」

 

俺は一歩前に出た。

 

「俺は今の俺しか知らない」

 

背中にいるシーシィア。

リンさん。

ビリー。

 

守るべき人がいる。仲間がいる。

それだけで、今は十分だ。

 

「昔の俺が何者か知らないけど」

 

右腕の熱が上がる。

 

「今の俺は、後輩が怖がってたら前に立つ普通の先輩だ」

 

「……パイセン」

 

シーシィアの声が、小さく震えた。

ロームルが笑う。

 

「上等だ」

 

「ビリー、リンさん頼む」

 

「任せろ!」

 

「シーシィア」

 

「は、はいぃ!」

 

「俺の後ろ。出るなよ」

 

「……うん」

 

「返事」

 

「はいっ!」

 

よし。シーシィアの元気が戻ってきた。

 

それでいい。

 

「来いよ、ロームル」

 

俺はロームルを見る。

 

「先に言っとくけど、お前は大会規約違反で終わりだ」

 

「大会規約?」

 

ロームルは鼻で笑った。

 

「そんな紙切れでオレを止める気か?」

 

「思ってない」

 

俺は肩をすくめる。

 

「だから俺が止めんだよ」

 

ロームルが地面を蹴った。

 

速い。

 

刃が一直線に俺の首へ向かう。

 

「隊長ォ!」

 

「その呼び方、慣れねぇな!」

 

俺は右腕で刃を受け止めた。

 

金属音。

火花。

赤熱。

 

刃と装甲が噛み合い、熱が空気を歪ませる。

 

「流石に硬ぇな……!」

 

「これだけが取り柄でね」

 

ロームルが刃を引き、さらに踏み込む。

 

斬撃が速い。

重い。

何より、迷いがない。

 

人を傷つけることに、一切の躊躇がない。

 

やっぱ、こいつクソだ。

 

「っ、と」

 

俺は数撃を受け流しながら、距離を詰める。

 

ここで派手に燃やしすぎると、証拠も地形も選手の皆も吹き飛ぶ。

 

だから抑えねぇとな。

 

「隊長、そんなもんかよ!」

 

「うるせぇ。こっちは非殺傷縛りなんだよ」

 

「甘ぇ!」

 

「よく言われる!」

 

刃が頬をかすめる。

一瞬、視界の端にまた赤い警告灯がちらついた。

 

 

――隊長、命令を。

 

 

誰だ。

 

誰の声だ。

 

お前は、誰だ。

 

「……っ!」

 

「どうした?」

 

ロームルが笑う。

 

「思い出したか?」

 

「うるせぇ」

 

俺は刃を弾いた。

踏み込む。

腹部へ拳を叩き込む。

 

イメージ。卵が、電子レンジで割れないイメージ。

溜めて、放つ。圧縮。

 

「ジェットバーン!!!!」

 

「ぐっ……!」

 

赤い衝撃が走り、ロームルの身体が数メートル吹き飛んだ。

壁に叩きつけられたロームルは、それでも倒れない。

口元を拭い、むしろ笑う。

 

「は……ははっ……やっぱりあんただ」

 

「俺は俺だボケ」

 

「そうかい、隊長」

 

「その呼び方やめろ」

 

「いいや、似合ってるぜ」

 

ロームルが立ち上がろうとした、その時。

遠くから複数の足音が近づいてきた。

 

大会審判。

運営スタッフ。

そして、ビリーが連れてきた関係者たち。

 

「ロームル選手!あなたの行為はスポーツマンシップに著しく反しています!」

 

「スポーツマンシップ以前では?」

 

俺が小声で呟くと、背後のシーシィアがこくこく頷いた。

 

「それな~……」

 

お。

 

ちょっとだけいつもの調子が戻っている。

 

よかった。

 

ロームルは舌打ちした。

 

「運営だと?なぜこんなところに」

 

リンさんが胸を張る。

 

「行動ルートを割り出してから、あんたの悪事はずっと外にいるお兄ちゃんに筒抜けだったんだから」

 

ビリーが銃をくるりと回す。

 

「へへっ、スターライトナイトとして当然のことをしたまでだ!」

 

「ただのファンだろ」

 

「細けぇことはいいんだよ、フラマ!」

 

大会審判が声を張り上げる。

 

「やむをえません。ここに、『ホロウ・ザ・ヒーロー』の大会一時中止を宣言します!」

 

周囲がざわつく。

ロームルは、運営に囲まれながらも俺を睨みつけていた。

 

「ツラは覚えたぜ、隊長」

 

「俺は忘れたい」

 

「無理だ。あんたは思い出す」

 

その言葉に、胸の奥がまたざわついた。

ロームルは笑う。

 

「次に会う時が楽しみだな。昔の部下たちも、きっとあんたに会いたがってる」

 

「……」

 

昔の部下。

 

その言葉には、返せなかった。

 

喉の奥で何かが詰まる。

 

知らない。

俺は知らない。

 

でも、身体が否定しきれていない。

 

ロームルは満足そうに口角を上げた。

 

「またな、隊長」

 

そう言い残し、ロームルは運営に囲まれながらその場を後にした。

 

しばらく、誰も何も言わなかった。

 

シーシィアが、恐る恐る俺の袖を引く。

 

「パイセン……?」

 

「ん?」

 

「……大丈夫?」

 

「大丈夫だよ」

 

俺は笑った。

今度は、ちゃんと笑えたと思う。

 

「ちょっと、宿題が増えただけだ」

 

リンさんが心配そうにこちらを見る。

 

「フラマ、隊長って……」

 

「分かんないっす」

 

俺は正直に答えた。

 

「本当に、何も覚えてない」

 

けれど、何もないわけじゃない。

 

胸の奥のざわつき。

一瞬だけ見えた知らない景色。

ロームルの言葉に反応した身体。

 

たぶん、俺の知らない俺がいる。

 

「セヴェリアンさんに報告しますわ」

 

「うん。その方がいいと思う」

 

ビリーさんが、いつもより少しだけ真面目な声で言った。

 

「フラマ。無理すんなよ」

 

「ビリーに言われると、なんか効くなぁ」

 

「なんでだよ!」

 

「元邪兎屋同士だから?」

 

「それは分かるような分からねぇような!」

 

シーシィアが、まだ袖を掴んでいた。

俺はその手を見て、軽く息を吐く。

 

「シーシィア」

 

「な、なに?」

 

「帰るぞ」

 

「……うん」

 

「報告書もあるし」

 

「今それ言う!?」

 

「現実からは逃げられない」

 

「うぅ……帰りたくなくなってきた……」

 

よし。

 

いつもの調子だ。

 

俺は歩き出す。

 

歩幅を少しだけ緩めて。

 

後輩がちゃんとついて来られるように。

 

隊長なんて呼ばれるつもりはない。

 

記憶もない。

 

でも、もし昔の俺が本当に誰かを率いていたのだとしたら。

 

その俺は、何を守って。

 

何を失ったのだろう。

 

そんな考えが、胸の奥で消えずに残っていた。

 

 

 




フラマ君は結構、ロームルに対してブチギレてます。
正義感がフラマ君の根底にはあるので。
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