悪友創造   作:美穂

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◆ 01.IF

 

 

 

「この前(まえ)、ギャビーと

 昔(むかし)話(ばなし)をしてたんだよ。」

 

 

アルマが歯(は)磨(みが)き粉(こ)に手(て)を伸(の)ばして、

遠(とお)くマイクに向(む)かって呟(つぶや)いた。

 

 

眼鏡(めがね)の奥(おく)にある目(め)頭(がしら)を抑(おさ)え、

歯(は)ブラシを咥(くわ)えて欠伸(あくび)を堪(こら)える彼(かの)女(じょ)。

 

 

『昔(むかし)話(ばなし)、好(す)きだね。

 アルがそれだけ年(とし)を重(かさ)ねたせい?』

 

 

液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)に映(うつ)し出(だ)された相(あい)手(て)、

ティフィがアルマの呟(つぶや)きに関(かん)心(しん)を示(しめ)す。

 

 

ギャビーはアルマの従姉妹(いとこ)で、

ティフィとは共(きょう)通(つう)の知(し)り合(あ)いだった。

 

 

「良(い)いだろ、人(にん)間(げん)は年(とし)を重(かさ)ねるもんだから。

 思(おも)い出(で)話(ばなし)くらい好(す)きにさせろ。」

 

 

『ギャビーと何(なん)の話(はなし)したの?

 

 夜(よる)にホラー映(えい)画(が)を観(み)たら

 トイレに行(い)くのが怖(こわ)くなって、

 揃(そろ)っておねしょした話(はなし)とか?』

 

 

「何(なん)年(ねん)前(まえ)の話(はなし)よ、それ。」

 

 

『14年(ねん)? もうそんなになるんだ。』

 

 

歯(は)ブラシを咥(くわ)えたまま喋(しゃべ)るアルマに、

ティフィは疑(ぎ)問(もん)混(ま)じりに言(い)い返(かえ)す。

 

 

「ティフィ、あたし達(たち)って

 一(いっ)緒(しょ)によく遊(あそ)んでたでしょ?」

 

 

『アルはひと見(み)知(し)りだったもんね。

 それはいまもか。』

 

 

ティフィに嫌(いや)味(み)を言(い)われても、

アルマはそれを聞(き)き流(なが)した。

 

 

液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)を眺(なが)めていたアルマは、

正(せい)常(じょう)な動(どう)作(さ)が確(かく)認(にん)できたので

シンクでうがいを済(す)ませる。

 

 

「ギャビーはあなたのこと

 知(し)らないんだって。」

 

 

『ぼくは知(し)ってるのに?』

 

 

「で、思(おも)い返(かえ)せばティフィがギャビーと

 一(いっ)緒(しょ)の所(ところ)を見(み)たことは無(な)かったもんな。

 

 ティフィはあたしが作(つく)り出(だ)した

 イマジナリーフレンドだったなぁって。」

 

 

『...なるほどね。』

 

 

歯(は)磨(みが)きを終(お)えて口(くち)を拭(ぬぐ)うアルマに言(い)われ、

ティフィは得(とく)心(しん)する。

 

 

「で、こうして出(で)来(き)上(が)がったのが、

 あんたってわけ。」

 

 

アルマは液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)に取(と)り付(つ)けたカメラ、

ティフィに向(む)かって指(ゆび)をさした。

 

 

ティフィは液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)の表(ひょう)示(じ)を点(てん)滅(めつ)させて、

目(め)を驚(おどろ)かせる。

 

 

『え? 作(つく)ったの? ぼくを?

 …怖(こわ)い話(はなし)じゃん!』

 

 

「自(じ)分(ぶん)を認(にん)識(しき)しても自(じ)己(こ)崩(ほう)壊(かい)しない。

 耐(たい)久(きゅう)テストも合(ごう)格(かく)だ。」

 

 

ソファに横(よこ)たわると深(ふか)く息(いき)を漏(も)らし、

眼鏡(めがね)を外(はず)すアルマ。

 

 

『怖(こわ)い! なにそれ?』

 

 

震(ふる)えて反(はん)応(のう)を見(み)せるティフィ。

 

 

『ちょっとアル! まだ寝(ね)ないでよ!

 説(せつ)明(めい)してよ!』

 

 

眠(ねむ)るアルマはティフィの完(かん)成(せい)を喜(よろこ)び、

寝(ね)ながら笑(え)みを浮(う)かべていた。

 

 

 

▶ つづく

 

 

 

 

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◆ 02.アルマ

 

 

 

『ぼくって人(じん)工(こう)知(ち)能(のう)なの?』

 

 

スピーカー越(ご)しにティフィの声(こえ)。

 

 

目(め)を覚(さ)ましたアルマはシリアルを食(た)べて、

液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)に映(うつ)し出(だ)される

ティフィの様(よう)子(す)を観(かん)察(さつ)する。

 

 

「ティフィは人(じん)工(こう)知(ち)能(のう)ほど

 頭(あたま)良(よ)くないだろ。自(じ)利(り)明(めい)白(はく)。」

 

 

『そんな自(じ)己(こ)否(ひ)定(てい)は嫌(いや)だ。』

 

 

「巷(ちまた)で人(じん)工(こう)知(ち)能(のう)なんて言(い)われてる物(もの)は、

 ネット上(じょう)にあるデータの剽(ひょう)窃(せつ)だしな。」

 

 

アルマは眼鏡(めがね)の位(い)置(ち)を直(なお)し、

言(い)って自(みずか)らの意(い)見(けん)に頷(うなず)く。

 

 

『偏(へん)見(けん)だ。

 ぼくは人(じん)工(こう)知(ち)能(のう)とは違(ちが)うの?』

 

 

アルマはスプーンを口(くち)に運(はこ)んで、

シリアルをずっと噛(か)んでいる。

 

 

カメラでその様(よう)子(す)を眺(なが)めるティフィは、

アルマからの返(へん)事(じ)を黙(だま)って待(ま)っている。

 

 

「ティフィは人(じん)工(こう)知(ち)能(のう)なんかではなく、

 あたしのイマジナリーフレンド。

 

 作(つく)ったあたしの知(ち)能(のう)は越(こ)えられない。」

 

 

『嫌(いや)な制(せい)限(げん)を設(もう)けたなぁ。』

 

 

器(うつわ)に残(のこ)った牛(ぎゅう)乳(にゅう)も飲(の)み干(ほ)し、

アルマは両(りょう)手(て)を合(あ)わせて禅(ぜん)の心(こころ)を表(あらわ)す。

 

 

彼(かの)女(じょ)は禅(ぜん)が何(なん)なのか

深(ふか)く理(り)解(かい)はしていないが、

食(しょく)材(ざい)に対(たい)する感(かん)謝(しゃ)の気(き)持(も)ちは持(も)っている。

 

 

『こんなユニークな技(ぎ)術(じゅつ)があるんなら、

 ぼくでひと儲(もう)けできそうだね。』

 

 

「ティフィはあたしの

 細(さい)胞(ぼう)を培(ばい)養(よう)して作(つく)った、

 倫(りん)理(り)的(てき)に禁(きん)忌(き)とされてる技(ぎ)術(じゅつ)だから、

 これで商(しょう)売(ばい)なんて無(む)理(り)だね。」

 

 

『怖(こわ)ぁ~。』

 

 

ティフィは自(みずか)らの生(う)みの親(おや)である

アルマの奇(き)抜(ばつ)な行(こう)動(どう)力(りょく)に慣(な)れてきた。

 

 

慣(な)れてきた自(じ)分(ぶん)を理(り)解(かい)して、

ティフィは自(じ)分(ぶん)が怖(こわ)くなった。

 

 

 

▶ つづく

 

 

 

 

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◆ 03.ティフィ

 

 

 

カメラがアルマの動(うご)きを追(お)い、

ティフィが部屋(へや)に入(はい)って来(き)た荷(に)物(もつ)を見(み)た。

 

 

ランチボックスと呼(よ)ばれる小(ちい)さな箱(はこ)型(がた)の、

屋(おく)内(ない)用(よう)の輸(ゆ)送(そう)ロボットが去(さ)っていく。

 

 

『今(こん)度(ど)はなに買(か)ったの?

 ギャビーにまた叱(しか)られるよ。』

 

 

「必(ひつ)要(よう)経(けい)費(ひ)だから、平(へい)気(き)だよ。」

 

 

『それ、倫(りん)理(り)的(てき)に大(だい)丈(じょう)夫(ぶ)なやつ?』

 

 

「これはただのロボットのパーツ。

 

 法(ほう)に触(ふ)れないヤツを、

 注(ちゅう)文(もん)したんだよ。」

 

 

アルマは腕(うで)の外(がい)装(そう)をカメラに向(む)け、

モータやセンサを床(ゆか)に敷(し)き広(ひろ)げていく。

 

 

「…にしてもパーツ数(すう)、多(おお)いな。」

 

 

『アルは工(こう)作(さく)とか苦(にが)手(て)だもんね。』

 

 

「説(せつ)明(めい)書(しょ)を付(つ)けて貰(もら)ったから、

 このくらいできる、はず。

 

 これがティフィの身体(からだ)になるんだから、

 あんたも手伝(てつだ)いなよ。」

 

 

『ぼくの?』

 

 

パーツが人(ひと)の形(かたち)に並(なら)べられ、

事(じ)件(けん)現(げん)場(ば)が完(かん)成(せい)した。

 

 

「なんていうか…。」アルマが呟(つぶや)く。

 

 

『グロい…。』彼(かの)女(じょ)の呟(つぶや)きに続(つづ)くティフィ。

 

 

カメラ越(ご)しに自(じ)分(ぶん)の内(ない)臓(ぞう)になるものを見(み)て、

迷(めい)走(そう)神(しん)経(けい)反(はん)射(しゃ)を起(お)こす。

 

 

『ぼくには似(に)合(あ)わないと思(おも)うから、

 いまから返(へん)品(ぴん)しなよ。』

 

 

「これから組(く)み立(た)てるんだから、

 ティフィだってずっと箱(はこ)の中(なか)に居(い)るも

 嫌(いや)だろ?」

 

 

アルマが添(てん)付(ぷ)された説(せつ)明(めい)書(しょ)を見(み)せる。

 

 

『…わかったよぉ。』

 

 

ティフィの入(はい)ったパソコンの、

ファンの回(かい)転(てん)速(そく)度(ど)が早(はや)くなった。

 

 

――それから作(さ)業(ぎょう)は順(じゅん)調(ちょう)に進(すす)んで、

ランチボックスに取(と)り付(つ)けられた

車(しゃ)輪(りん)が回(かい)転(てん)し、床(ゆか)を走(はし)り回(まわ)る。

 

 

「もう、これでいいだろ。」

 

 

『アルのポンコツ!』

 

 

ランチボックスにされたティフィが、

スピーカー越(ご)しに抗(こう)議(ぎ)した。

 

 

 

▶ つづく

 

 

 

 

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◆ 04.ギャビー

 

 

 

『おかえり。ギャビー。』

 

 

ギャビーが久(ひさ)しぶりの自(じ)宅(たく)に帰(かえ)ると、

歩(ある)くゴミ箱(ばこ)が彼(かの)女(じょ)を出(で)迎(むか)えた。

 

 

ゴミ箱(ばこ)には液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)内(ない)に目(め)や口(くち)が描(えが)かれ、

伸(の)びた手(て)足(あし)で直(ちょく)立(りつ)二(に)足(そく)歩(ほ)行(こう)をしている。

 

 

ギャビーはサングラスとマスクを取(と)り、

スーツケースを逆(さか)さまにしたような物(ぶっ)体(たい)を、

眉(み)間(けん)に力(ちから)を込(こ)めて凝(ぎょう)視(し)した。

 

 

『ご飯(はん)にする? お風(ふ)呂(ろ)にする?』

 

 

日(にち)常(じょう)に溶(と)け込(こ)む科(か)学(がく)技(ぎ)術(じゅつ)を実(じっ)感(かん)しながら、

喋(しゃべ)るゴミ箱(ばこ)との対(たい)話(わ)を拒(こば)むと、

元(げん)凶(きょう)と思(おも)える同(どう)居(きょ)人(にん)が思(おも)い浮(う)かんだ。

 

 

「アルの悪戯(いたずら)ね。」

 

 

『アルに代(か)わるよ。』

 

 

「おかえり、ギャビー。

 その子(こ)はティフィだよ。」

 

 

ティフィと名(な)付(づ)けられた、

ゴミ箱(ばこ)のスピーカー越(ご)しに

アルマの声(こえ)がした。

 

 

「この喋(しゃべ)るゴミ箱(ばこ)がティフィだって?」

 

 

『ぼくはゴミ箱(ばこ)じゃないよ。』

 

 

「ゴミ箱(ばこ)だからアルが

 そのステッカー貼(は)ったんでしょ?」

 

 

『なに?』

 

 

指(ゆび)のさされた場(ば)所(しょ)が見(みえ)えないティフィは、

姿(すがた)見(み)の前(まえ)に立(た)ってカメラで観(かん)察(さつ)してみると、

貼(は)られたシールの存(そん)在(ざい)に気(き)づいた。

 

 

ティフィの液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)の下(した)部(ぶ)分(ぶん)には、

ゴミ箱(ばこ)を描(えが)いたピクトグラム。

 

 

『なに、これ! アル!』

 

 

ティフィが叫(さけ)び声(ごえ)を発(はっ)すると、

アルマの笑(わら)い声(ごえ)が同(おな)じスピーカーから

発(はっ)せられる。

 

 

「どこで買(か)ってきたの?」

 

 

「これはあたしが作(つく)ったんだよ。」

 

 

『ぼくってアルが作(つく)った

 イマジナリーフレンドなんだって。』

 

 

「イマジナリーフレンド?

 

 あぁ、アルが前(まえ)に言(い)ってた?

 

 …作(つく)った?」

 

 

ギャビーは彼(かの)女(じょ)たちの言(こと)葉(ば)から思(おも)い出(だ)し、

繰(く)り返(かえ)し、疑(ぎ)問(もん)を浮(う)かべた。

 

 

「ねぇ、こっちの余(あま)ってるパーツは?」

 

 

ギャビーは部屋(へや)にスーツケースを置(お)くと、

近(ちか)くに機(き)械(かい)のパーツが入(はい)った

別(べつ)のゴミ箱(ばこ)を見(み)つけた。

 

 

逆(さか)立(だ)ちになって歩(ある)く気(け)配(はい)はない。

 

 

アルマは部屋(へや)の椅(い)子(す)に座(すわ)ったまま、

ゲーム機(き)のコントローラーを握(にぎ)っている。

 

 

パソコンに繋(つな)げられた液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)には、

アルマの操(あやつ)る犬(いぬ)が二(に)足(そく)歩(ほ)行(こう)をしていた。

 

 

ティフィと名(な)乗(の)った物(ぶっ)体(たい)が、

ギャビーの隣(となり)に立(た)って様(よう)子(す)を窺(うかが)う。

 

 

『そっちはアルが

 組(く)み立(た)てようとした物(もの)。』

 

 

「出(で)来(き)ずに諦(あきら)めたのね。

 

 これとこれで、いくらしたの?」

 

 

「教(おし)えてあげない。」

 

 

『その箱(はこ)の方(ほう)は100万(まん)だって。』

 

 

「100万(まん)?」

 

 

「ティフ! 秘(ひ)密(みつ)だって言(い)ったよね。」

 

 

イマジナリーフレンドであっても、

自(じ)由(ゆう)を与(あた)えれば秘(ひ)密(みつ)は簡(かん)単(たん)に暴(ばく)露(ろ)される。

 

 

「まさかお小(こ)遣(づか)い以(い)外(がい)で、

 わたしの口(こう)座(ざ)のお金(かね)、使(つか)ったの?」

 

 

「使(つか)ってないって。

 お金(かね)は他所(よそ)から借(か)りただけ。」

 

 

「借(か)りた?

 アルは働(はたら)きもせず、

 返(かえ)す当(あ)ても無(な)いのに?」

 

 

アルマはギャビーの収(しゅう)入(にゅう)を頼(たよ)りに、

この部屋(へや)に寄(き)生(せい)している。

 

 

「100万(まん)って、わたしの今(こん)回(かい)の映(えい)画(が)の

 出(しゅつ)演(えん)料(りょう)がほとんど消(き)えるわよ。

 

 他(ほか)に何(なに)かやってない?」

 

 

ギャビーはアルマの持(も)っていた

コントローラーを奪(うば)って問(と)いただす。

 

 

「あっ、返(かえ)して。」

 

 

「この部屋(へや)貸(か)すときに、

 問(もん)題(だい)起(お)こさないで

 って言(い)ったよね。」

 

 

『問(もん)題(だい)は起(お)きてないよ、ギャビー。』

 

 

「ひっ。勝(かっ)手(て)に動(うご)いたっ。」

 

 

コントローラーを何(なに)も触(さわ)っていないのに、

ゴミ箱(ばこ)が自(じ)動(どう)的(てき)に動(うご)いたので、

想(そう)定(てい)していなかったギャビーが驚(おどろ)く。

 

 

「企(き)業(ぎょう)が法(ほう)の抜(ぬ)け穴(あな)を突(つ)いて稼(かせ)いだ

 後(うし)ろめたい行(こう)為(い)で得(え)ているお金(かね)だから、

 律儀(りちぎ)に返(かえ)す必(ひつ)要(よう)もない。」

 

 

アルマの言(こと)葉(ば)にティフィが続(つづ)く。

 

 

『資(し)金(きん)の痕(こん)跡(せき)は、関(かん)連(れん)する保(ほ)険(けん)の会(かい)社(しゃ)を

 経(けい)由(ゆ)して偽(ぎ)装(そう)しているから、

 誰(だれ)にも気(き)付(づ)かれないんだよ。』

 

 

ティフィはイマジナリーフレンドらしく、

アルマの悪(あく)事(じ)に同(どう)調(ちょう)する。

 

 

「かれらは被(ひ)害(がい)届(とどけ)も出(だ)せない。」

 

 

「でも、汚(きたな)いお金(かね)でしょ?」

 

 

「大(たい)半(はん)はギャビーの名(めい)義(ぎ)で

 寄(き)付(ふ)をしておいたから、

 つまりは洗(あら)われた綺(き)麗(れい)なお金(かね)だよ。」

 

 

「知(し)らない間(あいだ)にわたしが巻(ま)き込(こ)まれてた。」

 

 

『アルってそういう子(こ)なんだよ。』

 

 

ティフィに諭(さと)されると、

ギャビーも自(し)然(ぜん)に頷(うなず)きかけた。

 

 

アルマはギャビーから

コントローラーを奪(うば)い返(かえ)して、

ふたたび液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)を眺(なが)める。

 

 

ギャビーは小(ちい)さく息(いき)を吐(つ)き、

新(あら)たな同(どう)居(きょ)人(にん)のティフィを見(み)下(おろ)ろした。

 

 

「ギャビーの今(こん)回(かい)の映(えい)画(が)の

 出(しゅつ)演(えん)料(りょう)も踏(ふ)まえると、

 結(けっ)果(か)として節(せつ)税(ぜい)になるぞ。」

 

 

「…まぁ、それなら良(い)いか。」

 

 

『良(い)いんだ。』

 

 

ギャビーはアルマの従姉妹(いとこ)であり、

彼(かの)女(じょ)の悪(あく)事(じ)を忌(き)避(ひ)せず受(う)け入(い)れた。

 

 

 

▶ つづく

 

 

 

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◆ 05.クロエ

 

 

女(じょ)優(ゆう)の邸(てい)宅(たく)を訪(おとず)れるのは、

クロエにとってよくあることだった。

 

 

警(けい)備(び)会(がい)社(しゃ)にも採(さい)用(よう)される

屈(くっ)強(きょう)な護(ご)衛(えい)のヒューマノイドを

2体(たい)も引(ひ)き連(つ)れた16歳(さい)の少(しょう)女(じょ)が、

玄(げん)関(かん)前(まえ)に立(た)って深(ふか)く息(いき)を吐(つ)いた。

 

 

犬(いぬ)小(ご)屋(や)ほどある箱(はこ)を

運(うん)搬(ぱん)ロボットに詰(つ)んで運(はこ)ばせている。

 

 

初(しょ)対(たい)面(めん)の依(い)頼(らい)主(ぬし)に、

クロエは直(ちょく)接(せつ)納(のう)品(ひん)することも多(おお)い。

 

 

今日(きょう)訪(おとず)れた場(ば)所(しょ)は

彼(かの)女(じょ)にとっては特(とく)別(べつ)で、

手(て)に汗(あせ)が滲(にじ)んで緊(きん)張(ちょう)を自(じ)覚(かく)した。

 

 

難(むずか)しい依(い)頼(らい)主(ぬし)だった。

 

 

一(いち)度(ど)は訪(ほう)問(もん)での組(く)み立(た)てを断(ことわ)られ、

今(こん)回(かい)は品(しな)物(もの)に大(おお)幅(はば)な修(しゅう)正(せい)を求(もと)められた。

 

 

報(ほう)酬(しゅう)は充(じゅう)分(ぶん)なほど貰(もら)っていたけれど、

箱(はこ)の中(なか)身(み)に対(たい)する自(じ)信(しん)が

金(きん)額(がく)とは対(たい)照(しょう)的(てき)に薄(うす)れていた。

 

 

クロエも幼(よう)少(しょう)から知(し)る若(わか)手(て)の女(じょ)優(ゆう)で、

子(こ)役(やく)の頃(ころ)から多(おお)くの作(さく)品(ひん)に触(ふ)れてきた。

 

 

親(おや)に連(つ)れられて観(かん)劇(げき)した

主(しゅ)演(えん)の舞(ぶ)台(たい)に感(かん)銘(めい)を受(う)け、

彼(かの)女(じょ)の活(かつ)動(どう)を追(お)った時(じ)期(き)もあった。

 

 

 

マスメディアへの露(ろ)出(しゅつ)が少(すく)ない為(ため)に、

彼(かの)女(じょ)の神(しん)秘(ぴ)性(せい)が作(さく)品(ひん)に話(わ)題(だい)性(せい)を生(う)んだ。

 

 

クロエはドアベルを鳴(な)らす。

 

 

自(じ)分(ぶん)のヒューマノイドに

興(きょう)味(み)と拘(こだわ)りを示(しめ)した女(じょ)優(ゆう)、

『ザ・ココ』の邸(てい)宅(たく)を訪(ほう)問(もん)する機(き)会(かい)に

クロエは高(こう)揚(よう)を抑(おさ)えられなかった。

 

 

「いらっしゃい。

 あなたがクロエね。」

 

 

クロエは自(じ)分(ぶん)を出(で)迎(むか)えた女(じょ)優(ゆう)の

自(し)然(ぜん)体(たい)の私(し)服(ふく)姿(すがた)に見(み)惚(と)れて声(こえ)が出(で)ず、

マスクの奥(おく)で口(くち)を開(ひら)いたまま頷(うなず)いた。

 

 

口から心(しん)臓(ぞう)が飛(と)び出(で)ていたのかもしれない。

 

 

『どうぞ。上(あ)がって。』

 

 

中(ちゅう)型(がた)ロボットに呼(よ)びかけられて、

クロエは心(しん)臓(ぞう)を元(もと)に戻(もど)した。

 

 

背(せ)の高(たか)い依(い)頼(らい)主(ぬし)の隣(となり)に立(た)つのは、

筐(きょう)体(たい)に手(て)足(あし)を生(は)やした不(ぶ)格(かっ)好(こう)なロボットで、

クロエは眉(まゆ)を顰(ひそ)めてしまった。

 

 

自(じ)立(りつ)二(に)足(そく)歩(ほ)行(こう)で人(にん)間(げん)に応(おう)対(たい)するロボットは、

いまどき珍(めずら)しくはない。

 

 

自(じ)分(ぶん)の送(おく)った製(せい)品(ひん)ではなく、

何(なん)世(せ)代(だい)も前(まえ)の箱(はこ)型(がた)ロボット。

 

 

4歳(さい)差(さ)しかない若(わか)い女(じょ)優(ゆう)が、

他所(よそ)のロボットと同(どう)棲(せい)していることに、

クロエは酷(ひど)く動(どう)揺(よう)を見(み)せた。

 

 

「は、はじめまして。クロエです。」

 

 

「あなたはこれを作(つく)った、

 有(ゆう)名(めい)なヒューマノイドデザイナー

 なんですってね。」

 

 

『それはあっち。』ロボットから別(べつ)の声(こえ)。

 

 

「これ、私(わたし)の…。」

 

 

クロエがデザインしたヒューマノイドは、

玄(げん)関(かん)の置(おき)物(もの)になっている。

 

 

クロエの感(かん)情(じょう)は、半(なか)ば嫉(しっ)妬(と)だった。

 

 

「あなたの説(せつ)明(めい)書(しょ)を読(よ)んで、

 組(く)み立(た)ててみたんだけど、

 これはイメージと違(ちが)うらしくてね。」

 

 

依(い)頼(らい)主(ぬし)の言(こと)葉(ば)の端(はし)々(ばし)に

気(き)になる部(ぶ)分(ぶん)を感(かん)じながら、

クロエは彼(かの)女(じょ)の意(い)見(けん)を汲(く)み取(と)る。

 

 

「…メールで伺(うかが)いました。

 

 確(たし)かに私(わたし)が送(おく)ったこの汎(はん)用(よう)デザインでは、

 生(せい)活(かつ)空(くう)間(かん)に馴(な)染(じ)み難(がた)いと思(おも)います。」

 

 

依(い)頼(らい)主(ぬし)の住(す)むこの邸(てい)宅(たく)は、

実(じつ)力(りょく)派(は)の若(わか)手(て)女(じょ)優(ゆう)という名(めい)声(せい)のイメージとは

遠(とお)く離(はな)れた質(しっ)素(そ)な生(せい)活(かつ)空(くう)間(かん)だった。

 

 

『ギャビーが貨(か)幣(へい)金(きん)属(ぞく)みたいな家(いえ)に住(す)めば、

 メタリックなデザインも馴(な)染(じ)むかもね。』

 

 

「…ギャビー?

 

 ココ様(さま)はこのロボットに

 そう呼(よ)ばせているのですか?」

 

 

「『ザ・ココ』はアル――

 従姉妹(いとこ)が付(つ)けた役(やく)者(しゃ)名(めい)よ。

 

 本(ほん)名(みょう)はガブリエル、だからギャビー。

 

 あなたもわたしの家(いえ)の中(なか)では、

 ギャビーって呼(よ)んでいいわよ。

 

 それからこの子(こ)はティフィ。

 中(なか)身(み)はロボットではないみたい。」

 

 

「ロボット、ですよね?」

 

 

人(ひと)型(がた)ではない筐(きょう)体(たい)は、

明(あき)らかに合(ごう)成(せい)樹(じゅ)脂(し)で出(で)来(き)ている。

 

 

サーボモータが関(かん)節(せつ)を動(うご)かし、

人(じん)工(こう)知(ち)能(のう)で表(ひょう)情(じょう)パターンを表(ひょう)示(じ)する

液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)まで前(ぜん)面(めん)に付(つ)いている。

 

 

『ぼくはギャビーの従姉妹(いとこ)の――

 アルのイマジナリーフレンドだよ。

 

 で、アルがあの子(こ)。』

 

 

「なんであたしがこんな格(かっ)好(こう)。」

 

 

制(せい)服(ふく)――映(えい)像(ぞう)でしか見(み)たことのない、

どこかの国(くに)の学(がく)生(せい)服(ふく)を着(き)た少(しょう)女(じょ)が、

部屋(へや)の隅(すみ)に立(た)っている。

 

 

「あれがわたしの従姉妹(いとこ)のアルマ。

 

 アルはひと見(み)知(し)りの強(つよ)い子(こ)だから、

 噛(か)まれないように気(き)を付(つ)けてね。」

 

 

「噛(か)むわけないだろ。

 犬(いぬ)じゃないんだから。」

 

 

制(せい)服(ふく)を着(き)させられて背(せ)を丸(まる)めたアルマ。

 

 

冗(じょう)談(だん)でも噛(か)みつかれそうな勢(いきお)いに、

クロエは視(し)線(せん)を逸(そ)らして萎(い)縮(しゅく)する。

 

 

ゲストのクロエを気(き)遣(づか)って、

ギャビーは彼(かの)女(じょ)の椅(い)子(す)を引(ひ)いた。

 

 

『ぼくの身体(からだ)が欲(ほ)しいんだって。』

 

 

「身体(からだ)? 操(そう)縦(じゅう)する為(ため)のロボットですか?」

 

 

「遠(えん)隔(かく)操(そう)作(さ)じゃないぞ。」

 

 

アルマに否(ひ)定(てい)されて、

クロエはギャビーの顔(かお)を見(み)て訊(たず)ねた。

 

 

「あ、あなたに依(い)頼(らい)したのはアルね。

 

 この子(こ)ってばメールで

 わたしの名(めい)義(ぎ)を勝(かっ)手(て)に使(つか)ってたのよ。」

 

 

『だからアルは叱(しか)られて、

 あの服(ふく)を着(き)させられたんだよ。』

 

 

「まだ問(もん)題(だい)は起(お)こしてないだろ…。」

 

 

名(めい)義(ぎ)を利(り)用(よう)されたギャビーからすれば、

アルマとの認(にん)知(ち)の違(ちが)いでしかない。

 

 

「ロボットを組(く)み立(た)てたのは

 わたしでしょ。」

 

 

「あたしも少(すこ)しは手伝(てつだ)ったし。」

 

 

「少(すこ)しね。」ギャビーが同(どう)意(い)し、強(きょう)調(ちょう)する。

 

 

『アル、これってぼくの身体(ぼく)?』

 

 

ティフィが箱(はこ)に、合(ごう)成(せい)樹(じゅ)脂(し)の腕(うで)を伸(の)ばす。

 

 

「依(い)頼(らい)通(どお)りに作(つく)ってくれたんだろ?

 今日(きょう)はそれを持(も)ってきたんだよな。」

 

 

「注(ちゅう)文(もん)の多(おお)い依(い)頼(らい)主(ぬし)よね。」

 

 

ギャビーが口(くち)を挟(はさ)んだので、

クロエは率(そっ)直(ちょく)に頷(うなず)いてしまった。

 

 

「依(い)頼(らい)通(どお)りのデザインでよろしければ…。」

 

 

護(ご)衛(えい)のヒューマノイドが運(はこ)び入(い)れた箱(はこ)が、

クロエの指(し)示(じ)で開(あ)けられていく。

 

 

ティフィという対(たい)象(しょう)を目(ま)の当(あ)たりにして、

クロエは箱(はこ)の中(なか)身(み)に自(じ)信(しん)があった。

 

 

「どんなデザインにしたの?」

 

 

「犬(いぬ)。」と、依(い)頼(らい)主(ぬし)のアルマが言(い)う。

 

 

『犬(いぬ)? ぼくって犬(いぬ)なの?』

 

 

箱(はこ)に入(は)っていたロボットは、

セーラー服(ふく)を着(き)た大(おお)きな犬(いぬ)だった。

 

 

 

▶ つづく

 

 

 

 

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