「あら、ティフィ。
どうしたの? これからお散歩?」
クロエが他所での仕事を済ませ、
ギャビーの邸宅にまたやってきた。
人型をした2体の
護衛ロボットも連れている。
スーツケースひとつで滞在するには
服や開発機材が足りず、衣装ケースを
運搬ロボットに積み重ねて運ばせる。
『クロ。』
ティフィは口吻を両手で抑えて、
寂しそうな声で言う。
玄関の前に座ったままのティフィ。
『ギャビーに追い出された。』
「ココ様に?」
クロエはここに通う以前から、
女優としてのギャビーを知っている。
そのために、意識しないと
役者名のザ・ココに敬称を付けてしまう。
『ギャビーは躾に厳しい。』
「私が居た時でしたら、
一緒に叱って貰えたのでしょうか。」
『…変な趣味だね。』
ティフィに言われてクロエは微笑した。
「普段はアルマも叱られていますよね。」
『クロは叱られるのが、好きなのか?』
「好きではありませんよ。
私も幼い頃はよく失敗して、
家族に叱られましたよ。
成長してからでは、
固定観念に邪魔されてしまい、
過ちに気付くのは難しいですからね。」
『ぼくが正しいと思ってやったことが、
ギャビーにとっては許せなかったんだ。』
アルマのイマジナリーフレンドだけあって、
ティフィの理解の的確さに
クロエは内心で驚いた。
「ギャビーになにをなされたのですか?」
『アルマに見せたら喜んだのに、
ギャビーには叱られたんだよ。
共|感を得るって難しいんだ。
ギャビーはここの世帯主だから、
従うしかないんだ。』
「優先順位には、
従わなければいけませんね。」
クロエもギャビーに叱られ、
追い出されたときの想像を試みたけれど、
普段の彼女は優しく、想像がつかなかった。
「アルマが喜ぶものってなんでしょう。
まさか中指でも立てました?」
ティフィに取り替えた新しい手ならば、
ハンドサインの真似も可能になった。
挨拶のようなハンドサインであっても、
相手によっては反感を与えてしまう。
『クロも見る?』
ティフィは鼻と顎を覆っていた両手を放し、
まだ味覚を持たない口を薄く開いて見せる。
クロエ自ら作ったティフィの筐体に、
未知の恐怖を感じて身体が強張った。
ティフィの口吻からは、
棘の並んだ虫の脚が見えた。
「ゴッ…。」
▶ つづく
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