墓場から(プロローグ)
二人の少女が道端で深く抱擁を交わしていた。
一方は仰向けで、もう一方がそれに覆い被さるようにして抱きしめ合う。
覆い被さっている少女は熱狂したように理性を欠いたまま、相手の首元に噛み付いた。
それだけで容易く首は裂かれ、真っ赤な柘榴の実を連想させる血泡がぷつぷつと唇と首の境界に溢れ出る。
首を噛まれた少女は狂乱し取り乱す訳でも無く、ただ空虚な表情で空を見上げながら、相手の頭蓋に何度も拳をうちつける。
腕が振り降ろされる度に、頭蓋は凹み潰れていき、空気の抜けたボールのように原型を保たなくなっていく。
二人の少女はとっくのとうに死んでいた。
それでも尚、少女たちは迫られているかのように殺し合う。
首から溢れた血泡は、徐々に大きくなったかと思えば、直ぐに
潰れた頭蓋から外界へと開放された脳細胞は、相手の顔にぽたぽたと零れ落ちつつある。
こんな光景は、今この島では何ら珍しいことではなかった。
誰も彼もが死んでいた。
嘆く暇もなく、怒る暇もなく、悼む暇もなく。
皆が死に蹂躙され、その一団に加わった。
死体は独りでに歩き出し、死後の自由を謳歌した。
街角も山奥も学校も、何一つ区別なく、逃げ場などある筈もなく死に征服された。
そこでは死者が生者を喰らっていたし、死者同士も喰らいあっていた。
草の根を掻き分けて見つけた生きた赤子も、生前は家族として愛した犬猫も、長年愛し合った老夫婦同士であっても、眼前に現れた悉くに歯牙を突きたてた。
既に死んでいるのに、生きるため栄養を渇望するケダモノが如く、無差別に食らいついては血肉を摂取することに躍起になっている。
街の片端からは火の手が上がり、自らが焼かれていることに気付きもせず、火炎に包まれた死者同士が喰らいあう。
身を焦がしながら喰らいあって、そのうち形を保てなくなるほど燃焼が進んでから、ようやく己が死者だったことを思い出したかのように活動を停止する。
地獄だった。
この世のどこかに地獄があるのなら、それは地の底にではなくここにあった。
希望などなかった。願いも祈りも何もかも無かった。
ただただ、死と血肉が無造作に無遠慮に散乱していた。
小高い丘の上で少年が立ち尽くしていた。
彼だけは他の住民とは異なり、意志なき死者の一団に加わっていなかった。
幸運なことに、歩く死体達はそれぞれが
そんな、なんてことない些細な理由から少年は
だが、それも時間の問題だ。いずれは必ず少年の元まで死者たちは辿り着く。
無力な少年には何もできることは無い。
ただただこの最低な現実を網膜に焼き付けながら、いずれ死体に引き裂かれるのを待ち続けるしかない。