死屍累々   作:峠坂

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オークション(1)

 

 

 メアリー・セレスト号の商業エリアを奥まで進むと、オークションエリアが併設されている。

 時間ごとにジャンル違いの商品が競売にかけられているが、ようやく屍体や魔具といった曰く付きの物品の競売時間が近づいてきた。

 

 オークションエリアに足を踏み入れると、既に人は数多くおり、何とか三人が並んで座れる席を確保する。

 

 席を探している最中、遠目ではあるが先程廊下で出会った男の姿を見つける。

 彼はオークションのことを口にしていたので、ここに来るのも不思議じゃない。

 

「そういえば、魔具かどうかって、どう見極めるんですか?」

 

 オークション開始までの空き時間に、ふと疑問を尋ねる。

 これまで販売されていた商品の数々だって、十分に魔具扱いしたくなるような悍ましい代物だった。

 しかし、彼女の言う魔具とは殺戮を引き起こしかねない魔術の道具であり、人間の屍体程度では魔具扱いされないようである。

 

「屍霊術師としての適性があったり、本人の相性次第では、実物を見ただけで一発でわかるよ。魔具ってのは、それだけ悍ましい魔力が迸っているものなのさ」

 

 要するに、魔力が見えない者は雰囲気から察するしかないのか。

 殺戮兵器の見極め方としては、なんとも雑ではないだろうか。

 魔具だと思って保管していたものが、ただの悪趣味な置物でしかなかったなんて事態も起こりえそうである。

 

「あとは、直接見ずとも背景情報からある程度推察することもできる」

 

「背景情報?」

 

「例えば、何時何処で、誰によって作られたのか。どのような素材によって作られたのか。どのような経緯によって作られたのか。作るために何人犠牲になったのか。作るためにどれだけの血が流れたのか。噂程度でしかないけれど、より冒涜的で怨恨を生む経緯によって作られたほうが、完成する魔具はより強い力を持つといわれている」

 

 その悪趣味さに顔を顰めつつ、雰囲気で感じ取るよりかは遥かに理解がし易い。

 怨恨を集めれば集めるほど、より強力で悍ましい魔力を持ち、凶悪な殺戮兵器と化すのだろう。

 

『レディース・アンド・ジェントルメエェンッ!!会場の皆々様、本日のメインイベントの時刻がやってきましたよぉ!!素晴らしく貴重な屍体も!悍ましく危険な魔具も!よりどりみどりでございますればっ!必ずや皆様のお眼鏡にかなう品が見つかることでしょうっ!!』

 

 暫くして定刻となり、予定通りオークションが開始される。

 女性の司会が賑やかな口調で発声する様子は、屍体や魔具が跋扈するこの船では些か不釣り合いのように思える。

 

『早速、最初の品をご紹介させていただきますっ!こちら人皮装丁(にんぴそうてい)の魔術書でございます!!著者は不明、執筆時期は推定1800年前半となっております。この本の特色は何といっても人皮により装丁され、人の血によって筆記されていることッ!ご興味のある方いらっしゃいますでしょうか、まず1万ドルから!』

 

 次々と参加者が参加し、金額が上がっていく。

 だが、いつまでたっても蒲牢は俄然せずの態度を崩さない。

 

「あの魔術書は狙わないんですか?見るからに曰くつきというか、悍ましい力とかありそうな気がするんですけど」

 

 人の皮を剥いで作成され、血のインクにより執筆された書物など、よからぬ力を溜め込んでいそうなものである。

 そんな懸念を、どこ吹く風とばかりに蒲牢は落ち着いた様子で答える。

 

「いや?必要ないよ。あれは魔具なんかじゃなく、ただの本だよ。ちょっとばかし、素材が特殊なだけさ」

 

「ちょっと……?かなり悍ましい素材だと思いますが」

 

「仮に、人の皮と血のインクで作られた魔術書程度で、凶悪な魔具になっていたのなら、世界中の屍霊術師《ネクロマンサー》がこぞって人間狩りをしているよ。人間なんてどこにでもいるんだから」

 

 それを聞き、素直に納得しつつ顔を顰める。

 要するに、その程度のレア度の素材をちょっと使ったぐらいじゃ凶悪な魔具を製作することなど夢のまた夢、ということなのだろう。

 

 

 理解はできるがつくづく不快だ。

 

 

 仮に、人間の屍体が魔具の素材として価値が高かったら、それはそれで人間狩りを嬉々としてやるであろう連中――心底相いれない。

 

『はい! 20万ドルで落札でございますッ!! おめでとうございますぅ!!』

 

 マイクを通した司会の声が、落札完了を知らせる。

 人皮装丁本程度では魔具になるのが難しいことは理解できたが、それでは一体どんな代物ならば魔具足りうるのだろうか。

 

 想像もしたくないが、心の準備だけは目一杯しておかなければならない。

 

 新たに運ばれてきたのは桐の木箱だ。

 どことなく高貴な装飾がなされたそれは、ちょうど観音開きのように開かれて中身が晒される。中にあったのは座禅したミイラのような干からびた屍体。

 

『続いての品はこちら!改雲即身仏でございます!!かつて、世を真に憂い、その身を捧げた改雲というお坊様がおりました。彼は即身仏となり、世の安定と幸福を願ったと言われております。そしてこれは、そんな言い伝えが遺る由緒正しきお寺が借金苦により手放したモノ!!まず、10万ドルから』

 

 先程の装丁本と比べ初期価格は桁違いに上がったが、購入希望者らによって更に続々と金額は上がっていく。

 人の皮と血では大したことがなくても、命を丸ごと捧げた即身仏であるならば相当な魔具になっているのではと思うが、それでも蒲牢は動かない。

 

「人の命を使った即身仏ですよ。あれこそ、強力な魔具になっていませんか?売られた経緯も同情するというか、かなりやるせないですし、相当な怨嗟を持つのでは?」

 

「無理矢理人柱にされて世の中を恨みながらで死んでいったのなら兎も角、宗教指導者が自らの意思で身を捧げたものに、凶悪な魔力など宿りはしないよ。寧ろ、ラッキーアイテムとして購入しても良いくらい縁起がいいんじゃないかな」

 

「即身仏がラッキーアイテム扱い……」

 

 広義では確かにそうなのかもしれない。しかし、なんとも容赦のない評価である。

 そして、自らの意思で捧げた程度では魔具足りえないというのなら、いよいよキナ臭くなってくる。嫌な予感を抱えつつ、次の商品を待つ。

 

 舞台袖から出てくる新たな商品を視界に入れた瞬間、()()()()()()

 動揺する間もなく続けて感じたのは、全身を貫くような圧倒的怖気。

 熱狂していた会場はいつの間にか静まり返り、全員の視線が運ばれている商品に集中する。

 

 キャスター付き台座に載せられて運ばれてきたものは、一つの壺だった。

 大きさは目算で人の頭部ほどであり、簡素な装飾がなされただけのよくある壺に見える。

 安物の陶器壺として路傍で売られていても自然なくらい、あまりにも特徴に乏しい。

 

 にも関わらず、こちらは恐怖で身動きがとれなくなっていた。

 

 頭の片隅にちらつくのは、葉射島を襲ったあの惨劇。

 あの地獄が頭の片隅に湧き出てきて、徐々に増殖していく恐怖により直感的に理解する。これは、あの時のような最悪の地獄を生み出せると。

 

 今にも逃げ出したい衝動に耐えながら、確信する。

 蒲牢に確認するまでもなく、これが件の魔具なのだと。

 

『ふふふ、会場の皆様方もすっごく注目なさってますねぇ!皆様からの熱視線を一身に受けるこの壺こそが、本日の目玉のひとつ!!』

 

 恐怖によるものなのか興奮によるものなのか、会場は静まり返っている。その様子を視認して小気味よく微笑んだ司会者が、意気揚々と魔具の紹介を始める。

 観客は一切の私語を行わずに、一語一句聞き逃さんとして彼女の言葉を傾聴する。

 

『この壺の名は、屍人蟲甕《しじんおうこ》!!蠱毒と呼ばれる呪術について、会場にいる皆様方のなかには知っているという方も多いのではないでしょうか?一つの壺という閉塞された世界の中に、蟲を百匹閉じ込めて殺し合わせる。最終的に最後まで生き残った蟲は凶悪な呪いを得る――という代物です』

 

 壺の名前と、続けて語られた蟲毒という魔具の説明。

 それらの点と点が結び合わさり、嫌な予感が湧いてくる。

 

「そしてこの壺は、蟲の代わりに人を百人殺し合わせ、勝ち残った者を圧縮して壺に詰めているのですッ!!」

 

 悪い予感が的中し、その悪趣味さに嫌悪する。しかし、同時に理解した。

 それだけの犠牲によって作られたというのなら、この圧倒的怖気も理解できるというものだ。

 そう納得していると、隣に座る蒲牢が眉を顰めながら小声で呟く。

 

「――嘘つき」

 

「――え?」

 

 言葉の意図が分からず困惑していると、こちらを嘲笑うように司会者はケタケタと笑い出す。

 

「なーんて、たった百人犠牲にした程度で、こーんな魔力出ませんよねぇ!()()()()()()()()()()()()!察しの良い方はお気づきでしょう」

 

 続いた言葉に思考が停止する。一つの兵器を作成する為に百人もの犠牲を払ってなお、少なすぎると形容されたことに対して、脳みそが理解を拒んでいる。

 

「これはそんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことで、さらに限界まで濃縮した魔力を生み出すことに成功した代物ッ!!即ち一万人の犠牲により生み出された、最凶の魔具ッ!!」

 

 一万人――葉射島の人口を易々と超える人数が犠牲になって作られた殺戮兵器。

 余りにも途方もない数字にただただ愕然とするしかない。

 

「それでは、こちらの魔具!200万ドルから!」

 

 続々と手が上がり、飛躍的に金額も跳ね上がっていく。そして、徐々に金額の上り幅が停滞していたところに、蒲牢は手を挙げて宣誓するように口を開く。

 

「7000」

 

 そう言った蒲牢の声に、会場の動きは止まる。

 停滞していた上り幅をぶっ壊すような、圧倒的高値に追従するものはいなかった。

 

「おや、他におりませんかぁ!?7000で確定でよろしいですかぁ!?」

 

 司会者の言葉を受けても、動き出そうとする者はいない。司会者はくしゃりと笑って、ガベルの代用とばかりに床を蹴ることで競売確定を周知させる。

 

「はい、!7000万ドルで落札決定ぃ!!おめでとうございまぁす!!」

 

 蒲牢による落札は成功した。

 それにしても、7000万ドルなんて大金をポンと出せるなんて、彼女の裏にいる雇い主とやらは相当な大金持ちらしい。

 

 ただ少し、疑問が生じる、やけにあっさりしているなと。

 是が非でも欲する者たちによって、際限なく値段が上がって手の出しようがなくなる――そんなことは起こらなかった。

 

「なんかやけにあっさりしているというか、てっきりもっと価格が釣り上がるんじゃないかと思っていました」

 

「まあ、大量殺戮を行いたいだけなら魔具は結構コスパが悪いからね。安価な爆弾を大量に用意したりミサイルを購入したりするほうが安上がりになることも多い。それでもなお魔具を求めのは、他組織が手に入れるのを妨害したかったり、殺戮以外が目的だったりする場合さ」

 

「……変なところで現実的ですね。大量殺戮を行いたい――そしてそれを成すための手段は無数にあって、何も法外な金額を出してまで取扱注意の妖しげな魔法の道具に頼りきりになる必要はない、というわけですか」

 

 当たり前ではあっても、それを思考するのが狂ったテロリストもどき達であることを思うと、なんともやるせない。

 費用と効果、利益と不利益、手間と時間。それらを天秤にかけて冷静に判断するだけの能力があってなお、殺戮のための謀《はかりごと》を模索しているなんて救いようがない。

 

『さーて、壺を落札できなかった皆様方も肩を落とす必要はございませんっ!!まだまだ商品は残っておりますのでねぇ!じゃんじゃか落札していってくださいよぉ!!』

 

司会者の声が響く、競売は未だ終わっていない。

 

 

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