最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
『藤崎詩織は、伝説の木の下に立つ』は、藤崎詩織という「選ばれる側」に置かれやすいヒロインを、最後には自分から選び、自分から言葉を届けるところまで連れていく物語として書きました。
今回は、一言で言うなら「藤崎詩織リベンジ編」でした。
『藤崎詩織は、伝説の木の外に立つ』、『館林見晴は、伝説の木まで歩いていく』では、詩織さんは伝説の木の下に立つ側ではなく、伝説の木の外側に立つ側でした。
誰かが勇気を出して言葉を届ける場面を、少し離れた場所から見ている。
声にならない祝福を落として、それでも藤崎詩織として崩れずに立つ。
あれはあれで、詩織さんの美しさであり、強さでもありました。
ただ、その一方で、やはり「藤崎詩織を一度、伝説の木の下に立たせたい」という思いもありました。
しかも、ただ原作通りに“伝説の木にもっとも近いヒロインだから告白する”のではなく、一度外側に立った詩織さんだからこそ、自分の弱さ、狡さ、傲慢さ、選ばれたい気持ち、外側に立つことへの恐怖を全部見たうえで、それでも自分から歩いていく形にしたかった。
そのために今回使ったのが、ペルソナ的な「シャドウ」の構造です。
この作品のシャドウ詩織こと藤崎詩織の影は、単なる悪役でも、倒すべき敵でもありません。
むしろ、詩織さんが見ないふりをしてきた自分自身です。
選ばれる側にいた自分。
伝説の木に似合うと言われることに慣れていた自分。
悠真が来るかもしれないと思いながら、自分からは踏み込まなかった自分。
そして何より、伝説の木の外側に立つ自分をどうしても認められなかった自分。
その全部を、シャドウ詩織という形で外に出しました。
藤崎詩織は、ある意味で最初から完成されたラスボスヒロインです。
成績優秀、容姿端麗、運動もできる、周囲から信頼される。
そして伝説の木といえば藤崎詩織、というくらい物語の中心にいる存在です。
だからこそ、そのまま告白させるだけでは、どうしても「選ばれるべきヒロインが、最後に正しく告白した」になってしまう。
今回やりたかったのは、それではありませんでした。
ラスボスヒロインである藤崎詩織が、自分の中にある“選ばれる側にいた自分”を認めたうえで、そこから降りて、自分の足で伝説の木の下まで歩く。
そして、待つのではなく、選ばれるのでもなく、自分が選ぶために告白する。
ここが今回の核です。
本作における詩織の影は、倒すべき敵ではありません。
藤崎詩織が「これは私ではない」と置いてきた感情です。
待っていた私。
選ばれたかった私。
聞けたのに聞かなかった私。
外側に立つ自分を認めたくなかった私。
こうした感情は、決して綺麗なものだけではありません。
ずるさもあるし、怖さもあるし、弱さもあります。
でも、それをなかったことにしたままでは、詩織は本当の意味で自分から選ぶことができない。
だから、今回の認知世界と詩織の影は、ラスボスヒロインである藤崎詩織が「自分から告白するヒロイン」になるために必要な仕掛けでした。
影を倒して終わりではない。
影に言わせて終わりでもない。
影を置いていくのでもない。
待っていた自分も、選ばれたかった自分も、外側に立つ自分も、なかったことにはしない。
でも、言葉を届けるのは影ではなく、藤崎詩織本人。
その形にしたかったのです。
一方で、悠真もまた、ただ詩織に告白される相手役ではありません。
彼は彼で、藤崎詩織を見上げていました。
詩織本人を見ていたつもりで、どこかで「藤崎詩織に届いた自分」を見ていた。
努力は本物です。
詩織に近づきたい気持ちも本物です。
けれど、その中に「彼女に選ばれた自分を見たい」という未熟さも混じっていた。
その未熟さを悠真自身が認めることで、彼もまた、理想の藤崎詩織ではなく、現実の詩織を見る側へ進みます。
今回の伝説の木は、奇跡を起こす装置ではありません。
条件が揃ったから結ばれる場所でもありません。
むしろ、届いた言葉も、届かなかった言葉も、外側に立った痛みも記録している場所として扱いました。
そのうえで最終的に詩織さんは、伝説の木に選ばれたからではなく、自分がそこへ歩いてきたから、そこで言葉を届けます。
「私は、あなたが好きです」
この一言は、原作的にはとてもシンプルな告白です。
でも、この作品ではそこに至るまでに、詩織さんが自分の影を見て、外側に立つ自分を知って、選ばれたい自分を認めて、それでも待つ側では終わらないと決める過程を積みました。
だからこそ、この告白は「伝説だから言う」のではなく、「私が言いたいから言う」になったと思います。
また、悠真側も単なる攻略主人公にはしませんでした。
彼もまた、藤崎詩織を見ていたようで、実は「藤崎詩織に届いた自分」を見ていた。
詩織に選ばれれば、自分の三年間が肯定されると思っていた。
その危うさを認めたうえで、最後には「伝説の木の下に似合う藤崎詩織」ではなく、「今、怖さも弱さも抱えて自分から歩いてきた詩織」を見る。
ここでようやく、二人は“攻略する側/攻略される側”ではなく、互いに一人の人間として向き合えたのだと思います。
この物語は、告白して終わりではありません。
詩織は、これからも待ってしまうかもしれない。
悠真は、これからも詩織を見上げてしまうかもしれない。
二人とも、すぐに完璧な関係にはなれない。
けれど、これからは聞く。
言う。
聞けなかったことを、少しずつ聞いていく。
言えなかったことを、少しずつ言っていく。
その関係として、最後は伝説の木の下から日常へ戻しました。
伝説の木は特別な場所です。
でも、二人の関係は、特別な場所だけで完結してはいけない。
教室へ戻り、友人たちと写真を撮り、校舎を歩き、帰り道へ進む。
そういう日常の中に、伝説の木の下で選んだ言葉を持っていく。
それが、この作品のラストでした。
藤崎詩織は、伝説の木の下に立つ。
けれどそれは、誰かに選ばれるためだけの場所ではありません。
彼女が自分から選び、自分から言葉を届け、そこから歩き出す場所です。
これまで伝説の木の外側に立たせてきた詩織さんを、今度こそ彼女自身の足で伝説の木の下に立たせる。
そして、そこで待つのではなく、自分から告げさせる。
そのリベンジを書けたことは、作者としてとても大きな意味がありました。
ここまで読んでくださった方に、少しでも藤崎詩織が自分から歩き、自分から選び、自分の言葉で告げる姿を感じていただけたなら嬉しいです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。