「深浦、何寝ているんだ」
……またか。
「深浦」
うるさいな。
「深浦さん、木元先生怒っててヤバいって」
そんな小声で言わなくても分かるって。寝かせろよ。
こっちは3時に寝たんだから眠いんだ。
問題なら適当に言って、寝る前に答えるから。
「深浦ッ!」
「……ねむい」
「お前、いっつも授業中寝てて恥ずかしくないのか?!」
「提出物もテストも、全部やってるでしょ」
「そういう問題じゃないんだ!」
あ、練習問題の時間か。
因数分解、(x+1)(x+2)(x+3)(x+4)-3か。
「(x²+5x+3)(x²+5x+7)」
「あ”?」
「それの答え」
……一応、計算過程書いとこ。
一昨日は途中式書けって突っ込まれたから。
私は眠い目をこすりながら、タッチペンを取って電子黒板に書いていく。
やっぱ1時越えたらやばいな。
宿題瞬殺してからシルフの調査してるけど、シルフが意味不明過ぎて亀みたいにのろのろ進むしかないんよ。
何だよアレ、大学の図書館誰でも入れるからミリオタが借りる様な分厚いの借りてって調べ捲ったけど何でプラズマジェット推進が付いて無いんだよ。
ガチャガチャカプセルみたいなコックピットしてるし、なんでヘッドマウントディスプレイ無しで操縦するようになってんだよ。
でも、触って分かった事はある。
ガチャガチャカプセルみたいなコックピットは、内壁が全部モニターになってた。
まだ起動はしてないけど、多分機体のどっかに色々カメラとかセンサーが付いてて、CG処理みたいな感じで合成画像を見せてんだ。
……座席は外されてたけど。
「これでいい?」
「……フンッ!」
あ、良さそう。
木元いい加減に諦めてくれんかね、一応これでも課題とか試験は90超えてんのよ。
だからさ、気に入らないから不当に下げるなんてこと、するなよ?
授業態度?
知るかよ。
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「シルフ。アンタってホント何なの?」
[当機は観測器であり、モビルスーツ、ガンダム・シルフです]
「18メートルでコックピットのある観測器ねぇ。じゃあシルフ、アンタは何?」
[本機、ガンダム・シルフの中枢として存在する戦闘知性体です]
「……汎用AIって感じでもないんだよねぇ。受け答えがポータブルAIよりスムーズだし」
あ、ポータブルAIってのは、1家に1台レベルで普及しているAIで、ホームセクレタリー的な事ができるやつ。
親戚の家にもついてるけど、こんなに受け答えスムーズにはいかないし。
……やっぱ購買のパン美味いわ。
[栄養バランスの偏りが懸念されます]
「アンタに栄養の概念ないだろ」
[栄養でしたら、言語学習時の経験値や情操教育など、私にもありますが]
「たんぱく質脂質ビタミンじゃない……」
[分かってて言っています]
見た?
だからシルフは相当ヤバい。
ポータブルAIとかはジョーク言わないし、そもそも能動的……自分から考えて会話するなんて頻繁には起こらない。
色々調べたけど、能動的に喋るのは数字とかで表現できるデータが豊富で、それを解析した結果を話すときとかなんだけど……
「戦闘知性体がジョークって……ほぼ人間じゃん」
[その証明はできません。あなたは、自分が人間であると物理的に証明できますか?]
「できないよなぁ……それするなら頭蓋骨開いて脳みそ見せろって事だから。あ、今夜左腕見るから。高所作業車よろしく」
[旧シュワブが保有していた高所作業車を掌握して、お待ちしております]
動けないシルフだけど、こうして私の端末通して会話ができている。
精度がバカみたいに高いのはさっき話したっけ、じゃあ次、シルフというソフトウェア部分(戦闘知性体だけど)が生きてるから、大抵のものを掌握できる。
オフラインのものまでどうやって掌握してんだよと1回突っ込みいれたけど、良い感じにはぐらかされた。
だから、私なりにアタリを付けてるけど、これがまぁとんでもない。
でも、今の日本でもクソみたいに頑張ればできると思う。
ナノマシンって聞いた事ある?
極小の機械、赤血球と同じくらいのサイズで血流にのれるくらい軽いロボット。
既にナノマシン医療が私らみたいな一般人でも受けられる(それでも車買えるくらいに高い、保険万歳)ようになってるけど、多分……それを飛ばしてる。
風に乗せて拡散してるって?
ないないそれはない、消費がマッハ。
だから、何かの方法を使って指向性……要するに狙った場所に飛ばしてんだと思う。
でも今はある程度の制限があって、シルフが安置されてた旧米軍基地キャンプ・シュワブの範囲内だけに収まってる……だと思うんだけどなぁ。
聞いとこ。
「ごちそーさん、購買に感謝」
授業、行こ。
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「えー、じゃあ続けるぞ。10年前の2110年、自衛隊の一部勢力が発起し、陸・海・空・戦略の統合非正規部隊がクーデターを起こした。これを俗に──」
「4.25事件」
この席日当たりが良いから今日みたいに晴れてると絶好の睡眠ポイントなんだよね。
ていうか2.26事件とか515事件とか大昔にあったけど、もうちょいネーミングセンス無かったのかよ。
……眠い。
「深浦」
「統合非正規部隊が、井澄内閣を潰した。で、クーデター政権って事で第1次絹本政権が立って、クーデター前と後で生活環境が良くなってるから皆受け入れてる。近未来化バンザイ」
ちなみに、井澄内閣を潰したって言ってるけど、その当時の防衛大臣が一部の部隊を国外に逃がしたらしい。
時折起きるサイレンは、その部隊の上陸作戦を食い止めるために今の自衛隊が動いてるかららしいんだけど……
あ、これ高2の歴史の教科書に載ってるやつだから、「あなたは知り過ぎた」とか言われてMSのライフルでドンッ!ってことにはならない。
ちなみに2110年以降、日本の技術水準は結構上がってる。
世界は知らないけど、石油が消え(鎖国下だから仕方ない)、メタンハイドレートとかレアアースの採掘が進んで資源的に豊かになって、北海道と東北の一部を巨大穀倉地帯にしたり、核融合発電(シルフ絡みでちょっと調べたけど、蒸気タービンも使ってなかった。ヤバい)が普及して既に何か所も発電所が立ってたりとか。
鎖国下でここまで成功するとか江戸時代の再来かよ。
でも、そんな寄り道的調べものしたからシルフ解析も進んだけど。
ちょっと後でシルフに聞いとこ、融合炉でも積んでんのって。
吉村だと端末没収される、シルフ入ってんのバレるかもだし。
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授業終わったら部活ってのが学生のお約束的なアレだけど、そういうのは私には合わなかった。
シルフ見つけるまでは立派な帰宅部だけど、今は、図書館の主になってる。
「また読んでんの?」
「まー要るから?」
たまに勉強教えてる子も、この図書館に来たりする。
……シルフに「人とのかかわりをなるべく持つ事を推奨します」って言われたから最初は渋々だったけど、こーゆー物静かなやつにも会えたからまぁいっか。
「何コレ……」
「米軍機のヤツ。古いけど」
「趣味なの?」
「あー言っちゃえばそうかも。将来はそっち進んでもいいかも」
私に将来があるかは知らないけど。
日頃の会話もしないヤバいやつだと思われるのは、流石にダメだし。
「で、科学のどの範囲なの?」
「バレた……」
教科書借りてそのページを開いた、ご丁寧に分かんない部分に折り目付けてたから探すのは簡単だった。
「プロパンの完全燃焼を表す化学反応式?」
「分かんなかった……深浦さん分かる?」
「ケロシンのアレよりはまぁ」
「ケロロ……何?」
「ジェットとかロケット燃料。炭化水素とか考え方がめんどくさかったから」
いけないいけない、JKの口からケロシンなんて石油は出ません。
人工合成のケロシンも結局使わなかったけど、何だかんだ言ってシルフ調べて知識バカみたいに増えたってのもある。
「でプロパン、C3H8。余すことなく全部化合させればいいから、やってることは酸化。取り敢えずプロパンを原子でバラして」
「こ、こう?」
「ん。あとは水と二酸化炭素量産すればいいから、あと頑張れ」
「……できた! C3H8 + 5O2 = 3CO2 + 4H2O!」
「残りは分かるでしょ。見た感じ酸化オンリーだし。じゃ」
「今日はもういいの?」
「借りるやつ見つかったから、鎖国様様だわ」
さっさと退散しよう。
鎖国下だから軍事機密のアレコレもなあなあになってきてるから、実は米軍技術がコンテンツになってきてる。
ミリオタが脳汁吹き出す様なコンテンツだから、近頃のそういうゲームのクオリティも上がってきてるし、イケナイことしてる私的にも助かってる。
だってさ、民間人がよく分からないMS弄ってんだよ?
補導どころか消されるって。
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[……貴方はもう少し羞恥心という物を実装すべきでは?]
「誰もいないじゃん。あ、シルフいるか」
学生服ってホント窮屈でさ、私服で学校通いたかった。
キャンプ・シュワブの跡地が私の実家みたいなもので、実は寝泊まりできるようにある程度整えてしまった。
どうやってここに来てるのかって?
友達んちで勉強会~って言って抜け出してきてんだよ。
で、シュワブの備品のツナギと絶縁グローブ(基地放棄時にそのままにされたもの、セーフ)も何着か拝借して、後色んな工具とか機械とかその他エトセトラも拝借(同じくセーフ)して、1年くらいでリアル秘密基地ができたって事。
そんな秘密基地で、私は制服をばっさばっさと脱いでる。
制服スカートだし、ツナギ切るならいったん脱がないといけないから仕方ないじゃん。
それをこの過保護知性体は呆れボイスで言ってくるし……シルフに性別だって?
ないないそれはない。どっちでもないんじゃない?
「高所作業車は?」
[特A00ドック搬入口で待機中]
「音バレしない様に慎重に入れて。EVだからそんなしないと思うけど」
[搬入開始します。アームの動作チェックは完了しているので、速やかに作業に入れます]
「ないす」
何でこんなヤバいとこで過ごしてガンダム弄ってるかって?
それ話すと結構長くなるんだけどなぁ……
まず、シルフはココで再起動したらしい。
シュワブにいた時よりもずっと前の記憶とかが無いらしく、メモリーのどっかに無くしちゃったらしい。
「理解不明な技術入ってるくせに、一部が米軍MSってのもなぁ……アンタ米軍製?」
[不明ですが、状況証拠から考えると、過去の私は米軍による改造を施されたと考えるのが妥当でしょう]
「ま、そのおかげで助かったけど。腕の内部構造が借りてきた本のアレと似てたから」
で、何で私は廃基地でガンダム弄ってるかって?
何だろ、導かれたってやつだと思う。
クソみたいで代わり映えしないこの世界、徹底的な鎖国体制で、私はその分外が見たいなーって気持ちが増長していったんだ。
だから、むしゃくしゃした時は海で叫んでたりした。
今はバイクで行って叫んでる。
免許持ってんだ、元々可愛い物とかよりこういうの好きだし。
あとハンセンへ部品取り行くときに助かる。
公共交通機関は足が付くから自前で移動能力あるのはマジで良いし、バイクの電子機器とか位置情報システムとかはシルフが誤魔化してくれてるから、今はめっちゃ重宝してる。
あとEVだけど音が良いし。
いけね、私のバイクの話はまた今度。
で、導かれたってのだけど、シルフに理由を聞いたけど、「様々な要因から、個人である貴方を選んで呼び寄せた」だってさ。
「そういえばさ、アンタって一点物なの?」
[それはどの様な意味でしょうか?]
「アンタの装甲に彫られた型番、米軍系だったけど001じゃなかったんよ。他にもいんの? それとも忘れた?」
[型式番号から見て、そうあるべきかと]
「他の機体も、アンタみたいに人呼んでんのかもね。スキャンして、焼き切れてたやつは取り換えたから」
左腕はそんなに壊れてなかった
あ、重要な部分が焼き切れてて動かなかっただけ。
でも焼き切れてたって事は、こうなる前は動いてたってことなんだよね。
過電流とかで抵抗とか焼き切ってしまってヒューズとか死んでだと思うから、シルフは間違いなく動いていた機体だ。
「お、動いてる?」
[左手部の稼働を確認。……最初はグー、じゃんけん]
「えっちょま!」
シルフにジャンケンなんて教えたっけ……
咄嗟に出されてグーしか出せず、シルフに負けた。
こんなデカい手に負けるとは……
[勝ちました]
「はいはい負けました。で、これで高所作業車はいらんっぽいね。ナチュラルに左腕丸ごと動かしてるし」
[命綱は付けて下さい]
「分かってる。過保護め」
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「で、コックピットなん?」
[はい]
「そんな資料ないって……明らかにその辺の米軍機のコックピットかっぱらって来て付けても無理だって」
[はだけてますが]
目の前にSFいるけど気にしない気にしない。
どっかで言ったと思うけど、コックピットがものの見事に取り外されてた。
いや、どでかいコンセントの穴っぽいのはあるけど、どこを探してもコックピットが無いなぁってこと。
米軍が何かやったんでしょ、乗れないようにするためにって感じで。
あ、暑いからツナギの上開けてる。
もう7月、夏休みの手前だから、一応は進路を考え始める時期になってくきてんだけど……
進路か……そんなもんないけど
私はシルフを治して動けるようになったら色んなとこを見に行くつもりだ。
世界放浪したいな、こんなクソ狭い世界じゃなくて、鎖国の外の世界を見てみたいんだ。
「本物の操縦席と操縦系のシステムとかどう調べろってんだよ……」
図書室に無いよそんな資料。
無いならもっと他のとこ調べに行くしかないから……那覇の図書館?
ネットとかもだけど、その手のやつはまとめサイトとかばっかりで公式資料がないから……
「大学だな」
貰ってたんだ。
大学見学会の案内とか、いろいろ。
あと担任から推薦状だセルから行きたいとこ言えよって微妙な顔して言われたのも覚えてる。
この際だ、有効活用させてもらおう。
「シルフ、福岡行こ」
[急にどうしたのですか?]
「戦闘知性体には、大学見学会ってのは無縁だよね」
[推測ですが、18歳の大学受験に備えた大学見学会を用い機体制御系を調べる積もりですか?]
「それ以外に何があるってんの? どうせ進学とかせずに海外へGOだから。これ真面目に取り組んでもあんま意味ないんよ」
いざ往かん福岡、待ってろよ。