まずは、名護から那覇までバイクで飛ばす。
那覇からはフェリーが出ているからそれにバイクごと乗っけて鹿児島まで移動。
着いたら適度に休みながら(そうしないとシルフがうるさい)福岡までバイク移動して、オープンキャンパス前日に着くようにする。
まー大体こんな感じでしょ。
「夏休みは九州縦断して福岡大学に行く、結構壮大じゃん」
[その目的は操縦系ですね]
「福岡大学の中に、MS工学学科とか言うのがある。それ目当てで進学するって見せかけておくわ。本当は操縦系が欲しいだけだけど、図書館とかならあるかも。無いならマジで米軍系を無理矢理付けてみようかな」
[将来はよろしいのですか?]
「別に。シルフ治して外国だね」
[……]
「シルフ?」
[操縦システムの件は、修復事項の中でも最優先事項です。良い収穫を期待します]
「ん? アンタも行くけど」
[しかし、機体の起動がまだ成功していない現状では……]
「何のために私の端末でおしゃべりしてんのよ」
[……失念していました]
流石に分かんないこと多いから、世話焼き知性体の手も借りるわ。
流石に2本の操縦桿とペダルオンリーで人間の10倍もデカいMSががっしがっし動くわけがないから、ある程度児童にしてるはずだけど、どうしても仕組みが分からない。
ネットとか学校では出回らない情報だからね、専門的なとこならあるかもって事。
「んじゃ帰る」
[ここで就寝しない方がいいので、最良かと]
「まだそのネタ擦るのかよ? 悪かったって」
______
日本国
東京 市ヶ谷
防衛省
100年経ったらその景色が様変わりする。
というわけではなく、古いアニメの想像上の未来は幻想だと片付けられた。
革新的な技術でユートピアになってるというわけでもなく、ディストピアになってるというわけでもない。
強いて言えば、鎖国政策下でもあらゆるモノが回るようにチューンされてるくらいだ。
あらゆるモノのリサイクルが徹底され、資源のロスを徹底的に抑えた準完全循環社会。
それが今の日本だ。
非接触充電が道路に敷き詰められ車両は永続的な航続距離を獲得し、融合炉が生み出すエネルギーは神の火とも言えよう。
過去に謳われたカーボンニュートラルを実現したこの国の首都は、今は冷たく見える。
そんな見えない壁に覆われた国、それが日本だ。
「戦略自衛隊第6機甲師団第2連隊連隊長
この日、市ヶ谷に呼び出された伊坂は、とある男にあっていた。
本城は秘書に外で控えているように伝えると、この部屋は2人のみとなった。
「かけたまえ」
「はっ、失礼いたします」
「富士からここまで長かっただろう。私の地元……狭山のだ」
「頂きます」
着席した伊坂に本城は地元の___埼玉の狭山の緑茶を出した。
準完全循環社会の波の中で生産量が減り、今ではワインやウイスキーといった国産酒と同等の希少性を持っている。
伊坂はもう本城との付き合いも長い。
これが出されたということは、厄介事だなと身構えた。
重厚なコクと香味が口の中を通り抜けると、伊坂は身構えた。
「本城大臣」
「伊坂、この準完全循環社会がどうできたかは、お前も知っていると思う」
「燃料輸入が必要な火力と核分裂系原発を取り止め、メタンハイドレートと融合炉に切り替えたこと。そして北海道と東北地方北部の大規模耕作地への改良等、挙げればキリがありません」
「そうだ、キリがない。そのキリがない政策を推し進めた絹本さんは第2次政権後に責任を取って辞任して、今は仲原さんが引き継いでる」
話が見えない。
厄介事だと身構えていたが、これではただ世間話を聞かされに来たのかと錯覚しそうだ。
「絹本さんらが実行した国家存続計画、50年前に策定されたそれは決定的なピースが抜けていたが、2108年にタービンを使わない核融合炉技術が生み出され実現可能となった」
「それが、今回の厄介事ですか?」
「……伊坂、俺とお前が親しくなけりゃしょっぴいてるぞ」
本城はため息を付き、来客用ソファの向かいに座った。
渡されたタブレットには生体認証機能が追加されており、限られたものしか見られない仕様となっていた。
「大っぴらに動かせん。第2連隊から中隊分腕利きを連れて、沖縄に飛んでもらいたい。……指示書はその中だ」
生体認証をクリアするとタブレットは起動し、詳細な資料後が目に飛び込んできた。
「ナノマシン、ですか?」
「ああ。知花基地のメインサーバから採取されたものだ。自己増殖が効くタイプで色々削ってどんどん増える。サンプルは電磁制御で浮かせて真空状態で保管されてる」
「……海外、じゃなさそうですね」
「あんなのが作れる国が今あるわけないだろ。金属粒子と同等のサイズ、解析した限りだと、CPU、メモリ、ハードディスク、マニピュレーターまで備えてる。この粒子1粒でコンピュータが成立してしまってる」
「散布元は?」
「分からん。どこから制御されてるのか、スタンドアローンなのかも分からん。だが制御範囲は沖縄がすっぽり覆えるだろうというのが、解析班の話だ」
「その発信元を探せってのが、任務ですか」
「そうだ。腕利き、そうだな……化学学校の出を連れていくと良い。第6に何人かいるだろ、時代が進んで対ナノハザードの講義もあるくらいだし、使えると思うぞ」
その後、近況を伝え合うと本来の階級へと戻り、伊坂は退室した。
(ナノマシンによる知花基地への不正アクセス、人知を超えたナノマシン、キナ臭くなってきた)
本城は本城で眉間のシワが増えていた。
政権交代で内閣を編成し直したが続投する事になり、日々日本領海を侵略する「敵」への対処に追われている。
お互い、守るモノが増えると大変な物だ。
_________
夏休みになった!
バッテリーよし、足回りよし!
シルフの位置情報誤魔化しよし!(誤魔化す必要はそんなにないけど)
スロットルを回せ!
発進! 目標、福岡!!
という事で、名護の親戚の家飛び出してバイクで発進。
担任に推薦状書いてって言って、見学の予約申し込みして、何だかんだ色々やって夏休みに突入した。
念の為シュワブの痕跡(生活感あるドックとか)消してきたけど、シルフは流石に動かせないから隠しようもない。
だから思い切ってある日に徹夜してシルフのセンサー系を復旧させた。
これならシュワブに近づく
あ、でもこれは最後の手段。
見た事も聞いた事も無い技術でどう扱っていいのか半分手探りだから下手したら人死にが出る。
だから、車両とかはノータッチでな。
[了解です]
よし。
シルフは基本私の言う事を聞いてくれる。
私が助言聞いてるからってのもあるか……これ私が自由奔放過ぎて助言無視ガールだったらシルフも同じようになるんかね。
[端末の加速度センサーと同期、現在時速50㎞……]
「アンタさ、私が暴走族かと思った?」
[極僅かな可能性ですが]
「割と多めに見積もってそう。あ、信号」
私のバイク、外装は白ベースで青が差し色に入ってるお気に入りでさ、ちょい古いモデルだけど電源入れた時にカウルの黒い部分にメーカーロゴが浮かび上がるのが良いんよ。
ブゥン……って。
あ、あとバラバラに分解できるし配線が全部仕舞われてるからガチな話車に積み込んで組み立ててブッ飛ばせる。
「嬢ちゃんイイの乗ってんじゃん」
「いぇーい。17でーす」
……わ、嬉し。
ぶぉん~
気づいたら、ちょっと吹かしてた。
「若いね~ていうか身長高いし」
「あー170あったから。あ、青なりましたよ~」
って感じで、信号でバイク乗りに会ったりするとこういう会話になる。
女子なのに身長高いねーとかまだ17なんだーってのは慣れ切ってるけど、バイクいいねーって言われるのが割と嬉しい。
こーやってバイク乗り回してると色々景色も見えるから、まとまった休みとかある時はぶんぶん乗り回してる。
海沿いの道路だから、視界の端にずっと青が居座ってる。
こういうとこ走ってると、なんか全部どうでもよくなるんだよな。
こうして見るとさ、私って同い年の中で結構アグレッシブなんだよな~。
17で170で大きめリュック背負って九州縦断ツーリングしようとしてる……いや、冷静に考えておかしいよな。
17で九州縦断って。
[該当者一名]
「分かってるって」
[訂正:かなり該当しています]
「うるさい」
……端末をアルミで包んでリュックに放り込もうかな。
[警告。上空に不明電波を感知]
「は?」
[民間周波数ではありません。自衛隊が使用するUAVに使用されている特殊周波数です]
「ちょっそんなんどこで知ったの?!」
[沖縄県那覇市にある航空自衛隊那覇基地のメインサーバーにお邪魔して、学習させていただきました]
「はぁ!? バレるじゃんそんなことしたら!?」
[私のオーバーテクノロジーは解析する事ができません]
……マジ?
[周囲のネット端末を用い、現代の日本の技術力についておおよその推測を立てた結果、金属粒子レベルのコンピュータを解析できる程に技術力は発達していません]
それ私の端末じゃありませんかシルフさん?
[いえ、この端末ではなく、周辺の電子機器に一斉に接続して拝借しました]
「ヤ・バ・い・か・ら!! 知りたい事あるなら逐一言いなさい勝手にナノマシン禁止!!」
[(´・ω・`)]
「誤魔化すなッ!」
[UAVの制御元を確認。戦略自衛隊那覇基地、航空自衛隊と敷地を共有しているようです]
顔文字からの落差でシンとなった。
——風の音だけがやけに大きい。
どういうこと? シルフ奪取で国が動いてるの?
「シルフ、バレずにできる自信あるなら、自衛隊とかの通信聞いていいから」
[先程の禁止令は?]
「事情が変わった。シルフ捕られるのは私も嫌だし、身を守ること考えないと」
遊びで住むラインなんかとっくに超えてるし、国も動いてる。
シルフがシュワブにいるってのがバレてるかは分かんないけど、緊張感は持った方がよさそう。
私はさらに吹かして、フェリー乗り場に急いだ。
____________
こういうフェリーって前にも乗ったけど、バイクとか車とかはあらかじめ申請しておかないと積み込めない。
抜かりなく、申請済みだ。
「初めて見る車種だけど、どこ製?」
「シンセーのエアリアル。車検に引っかからない程度にカスタムしてある」
「ほー、いいセンスしてるじゃねぇか。ブゥンもカッコイイじゃん」
「でしょ~」
「あー!! ルブリスの後継だよねそれ!!」
「え?! 知ってる人いた!!」
「反応速度高くて人選ぶけど、ハマるとめっちゃ素直なんだよな。あ、ルブリス系乗ってるよ~」
「ウル? ソーン?」
「ウル。コレな」
端末差し出されて覗き込む。
青緑で無骨な外装、ちょっと大きめのバイク、道の人はツアラーっていうタイプのヤツ。
電源入れた瞬間、ロゴが“ブゥンッ”て浮かび上がるやつ。
「うわ、これ現物初めて見たかも……イイなそれ」
「重いけどねー。まあその分安定するけど」
「分かる。あれ下手に踏み込むと持ってかれるよね」
「そうそう、“思ったより動くな”からの“速っ”で死ぬやつ」
「あるあるすぎる」
横でおっさんが笑う。
「なんだそれ、乗り物の話してんのか戦争してんのか分かんねぇな」
「だ い た い 合 っ て る」
「あ、おじさんこれ見たことある?」
お返しだ。
私のツーリング写真フォルダを食らえ。
エウロ社ソロモンシリーズ8番目、悪魔のバイクだ!
「うおおおおバルバトス!!」
「メーカーロゴが焼き印みたいになってんのが味なんだよなぁ。で、同好会で走った時にさ。キャリバーン見つけたんよ」
「は?」
思わず声出た。
キャリバーン、あの白いバケモノが?
白ベース黄色の差し色、偏光カウルに無駄のないシルエット。
写真越しでも分かる、“公道で走ったらヤバい”やつ。
「うわーシンセーの白いバケモノ……」
「でしょ? あれたぶん、触ったら最後のやつ」
「絶対“動け”って言ったら応えちゃうタイプだわ」
「やめろフラグ立てんな」
「でも乗ってみたくはある」
「分かる」
……さっきまでの違和感とか、どっか行ってた。
こうやって好きな話してると、変に警戒してんのがバカらしくなる。
まあ、ずっと張り詰めてても疲れるし。
こういう時間も、悪くない。
——そのやり取りの最中も、シルフは黙ったままだった。
何か計算でもしてんのか、自衛隊通信聞きまくってるのかは分かんないけど。
[纏、自衛隊の通信内容を解析した結果、一部の部隊が那覇基地に移動したことが判明しました]
「嬢ちゃん、携帯なってるぞ?」
「あ、友達からだ。ごめんなさいちょっと出てきます」
「はいよ~」
あのおっさんたちいい人~
バイク乗りに悪い人はいない、これはマジだ。
「で、解析結果は?」
[防衛省市ヶ谷で指令を受けた戦略自衛隊第6師団第2連隊の一部の部隊が那覇基地に移動、理由はナノマシンの調査です]
「シルフの?」
[それが、採取されたのは知花基地……旧キャンプシールズとの事です。私のナノマシンは那覇基地に向けて散布を行った物であり、位置に差異が生じます]
じゃあ、シルフじゃないもっと別のガンダムがいるってこと?
そのガンダムが、シルフみたいにナノマシン散布して情報収集したのか?
「引き続き監視を継続。少しでもヤバいと思ったら退いて」
[了解です]
更によく分からなくなってきそう。
あ、バッテリー充電しないと。
航続距離眺めだけど、流石に九州縦断できる程の電力はない。
あーあ、エアリアルに融合炉詰んであったらなぁ……
[設計しましょうか?]
「数億度のプラズマ抱えて走れるかよ」
バイクの座面開くとちょっと大きめのバッテリーが顔を出した。
取っ手掴んで引き出して、充電スペースに持っていくと、またさっきのおっさん軍団がいた。
「嬢ちゃんラッキーだな、ケーブル余ってるぜ」
「やったー」
端末で500円払ってフル充電、近頃現金使えるとこがどんどん減ってる。
これは貨幣を作るための金属資源の問題で、準完全循環社会が仕方なく諦めた点だ。
日本って近海でレアアース取れてるけど
電子だから通信切れたらオワタって?
こうやってローカルチップついてる端末で決済してハブ端末が一括で送るって感じだから、仮に通信障害起こってもある程度は大丈夫。(マジで大丈夫って訳じゃないけど)
「どこまで行くんかい?」
「あー福岡。直便あったけど久しぶりに走りたいってのもあったから。夏だからオープンキャンパスへ行こっかなーって訳で」
「オープンキャンパスって事は学生かい?」
「17、あーゆーバイク弄ったりする女っ気ないJKですけどね」
「ヘルメットでよーく見えんかったけど若ぇ頃の家内みたいじゃねぇか」
「そうそう、綺麗どころじゃん」
「褒めても機械油付いたツナギしか出ませんよ?」
「それで十分だろうよなぁ」
「むしろそっちの方が信用できるってもんだ」
「何それ新しい価値観?」
「ガハハ!」
笑いながらケーブル差し込む音が、やけに静かに響いた。
……あれ?
一瞬、端末の画面がバグった。
「……?」
残高表示が、一瞬だけ“ブレた”。
500円、支払い済み。
……のはずなのに、
一瞬だけ“未払い”って表示が出て、すぐ戻った。
「シルフ」
[確認します]
返事が、ほんの一拍遅れた。
[……通信に異常はありません。ローカルチップも正常です]
「……今の見た?」
[はい。しかし記録には残っていません]
「ヤバいって」
記録に残ってない?
そんなことある……いや、あるわけない。
この国の決済システム、ログは命みたいなもんだし。
それを容易にかき消して来たら経済吹っ飛ぶって。
「嬢ちゃん? どうした?」
「あーいや、ちょっと端末バグったっぽい」
「最近多いらしいなぁ、そういうの」
「……多いの?」
「ほら、お偉方も動いてるだろ?なんか調査してるとかでよ。頭痛がどうとか」
「へぇー……」
背中に、変な汗が流れた。
ただのバグにしてはタイミングが良すぎるし、シルフの反応も、ほんの少しだけ鈍かった。
……やばいと思ったら退け、だっけ。
「シルフ」
[はい。警戒は既に実施しています]
「……そっか」
ならいい。
なら――多分、大丈夫。
……多分、今は大丈夫だろ。
[警告 長期運用型UUVの制御周波数を用いた通信を感知]
大丈夫じゃない!!
ていうか……
「UUVって何?」
[直訳すると水中用ドローン、小型無人潜水艇です。何かを探しているのかもしれません]
「それ使うって事は、私は水中で隠れてるって思ってくれてるのかね?」
[いえ、恐らくは……]
ボケを真っ向から否定するって事は……
「
[恐らくは。国も動き始めたということです]
___________
「戦略自衛隊第6師団選抜中隊、伊坂一雅一佐以下12名。那覇基地に現着しました」
「ご苦労、新宮だ。本城さんから話は聞いている。ここは暑いだろう、中へ入ろうか」
互いの敬礼が滑走路上で交わる。
短く、無駄のない動作。
握手を交わした瞬間――
じわりとした熱気がまとわりつく。
カーボンニュートラルが実現されても、
この島の“熱”だけはどうにもならない。
「指示書はこっちにも回ってきてる。UAV、UUV、使える物は何でも使っていいぞっていうのが本城さんの指示だ。だがMSは最後の手段だ」
「了解している。隠密行動を優先する」
歩きながら、伊坂は続けた。
「このナノマシン……上から降りて来た解析情報が、どうにも腑に落ちない」
新宮がタブレットを差し出す。
「見れば分かる」
生体認証を通すと、表示されたのは分解解析データ。
金属粒子サイズで、それぞれが独立した演算機構となっている。
コンピュータに櫃余殃な要素はすべて揃い、ジャムの瓶1瓶程度もあれば戦略兵器となり得るだろう。
「……」
伊坂の眉がわずかに動く。
「論理回路は人類製コンピュータの延長だが……進化の仕方が異常だ。独自に最適化されている。完全な未知ではないが、既知とも言い難い」
「中途半端に“分かる”のが一番気味が悪いな」
「同感だ」
短く言葉を切る。
「知花基地は元米軍基地だ。我々の知らない何かがあっても不思議じゃない。現在、全面調査を進めている」
「放棄基地の方は?」
「やるべきだろうな。だが……」
新宮がわずかに言葉を濁す。
「大っぴらには動けん」
伊坂は頷いた。
「元米軍基地は複数ある。ハンセン、ギンバル、コートニー、マクトリアス、ロウワー・プラザ、サウスプラザ……」
指を滑らせる。
そして、止まる。
「――そして、禁じられた基地のシュワブ」
その名が出た瞬間。
室内の空気が、わずかに重くなった。
モニターに表示された地点を伊坂がペンで叩くと、詳細データが展開される。
名護市の一割を占める、かつての海兵隊拠点。
20平方キロメートルの巨大施設。
2109年、突如として撤退。
「理由は不明。だが――」
新宮が言葉を継ぐ。
「米国は所有権自体を手放していない」
「……つまり」
「触れるな、ということだ。米国が今どうなってるかは不明だが」
伊坂は数秒、無言で画面を見つめた。
そして、ぽつりと呟く。
「だからこそ、だな」
「何?」
「“何かある”」
_____________
[というのが、那覇基地での動向です]
「……ゲロマズ」
自販機のあんパン割と美味いのに。
ていうかこんな時にする話じゃないって。
「シルフ巻き添え食ってるじゃん」
[否定はできません。同系列のナノマシン技術の可能性がありますので]
「できないのかよ……」
フェリーの甲板。
潮風、エンジン音、人のざわめき。
どう考えても――場違いな話題だ。
「禁じられた基地、ねぇ……あの、キラキラしたサンゴみたいなやつとか関係ありそうだし……あれって結晶体なんでしょ?」
[正確には、不活性化したナノマシンの集積によって生まれた非晶質構造体です。ガラスと同様に液体とも個体とも呼べません]
「観察用にキーホルダーにしたけど。ていうか……」
パンをかじりながら、ぼそっと呟く。
「よりにもよってシュワブとか」
[現時点での情報から判断すると、偶然とは考えにくいかと]
「だよねぇ」
「ナノマシン、別個体。しかもやろうと思えば沖縄スッポリで覆うレベル」
[はい]
「で、アンタもナノマシン使ってる」
[はい]
「……」
一瞬、風が止んだ気がした。
「これさ」
私は海の方を見る。
水平線がやたら遠い。
オマケにもう夜だから少し冷えてる、着てきたジャンパー持ってこればよかった。
「“同じ系列”だったら笑えないよね」
[……]
シルフが、黙った。
いつもなら即答するのに。
「おい」
[断定はできません]
「歯切れ悪いじゃん」
[情報が不足しています。自衛隊関連の通信を傍受し収拾は続けています]
「ふーん。でもさ」
空を見上げる。
雲一つない、バカみたいに星空が見える。
天の川まで見えてるから、これ下手したら街灯要らんレベルだ。
「“呼ばれた”って言ってたよね、私」
[はい]
「じゃあさ、もう始まってんじゃないの、それ」
パンの袋をくしゃっと潰す。
[……]
今度は、少しだけ間があった。
[可能性は否定できません]
「だよねー」
軽く笑ってみせるけど、なんか嫌な感じがする。
さっきまで楽しかったはずなのに、胸の奥に引っかかる。
理由は分からないけど、ただ……な。
「……」
「シルフ、流石にまずは人が入って来るって事はないと思う。ドローン忍び込ませてシュワブを見たりすると思う。一応ドックは私物引き払ってるから大丈夫だけど、もし入って来たらどうするかわかる?」
[ドローンにナノマシンを用い映像及び観測情報をダミーに置き換えます。]
「正解」
私は適当にそう返すと、端末のキーホルダーを弄った。
何も知らない時にその破片を使ってキーホルダーを作ったけど、これってそんなにヤバいやつなんか……。
しかも光に透かすと見る角度で色が違って見える。
元素図鑑とかでビスマス見たことある?
四角が段々に重なった結晶ができるけど、それの小さい出来損ないがちらほらくっ付いてる。
「ナノフラグメント、これで何ができるのかなんだけど……」
[かなり限定的ではありますが、熱電変換へ使用可能です]
「熱電変換?」
[熱、及び高エネルギー粒子線を電力へ変換できます]
「え」
私は思わずキーホルダーを見た。
[サイズとの相談になりますが、シュワブに残存するナノフラグメントを全て回収し熱電変換器を構築した場合、名護市一帯の電力需要を賄えるかと]
「マジか?!」
思わず声が裏返った。
って事は、あそこに残ってる崩壊してない分……ざっと200キロくらい集めれば。
「小型発電所どころじゃないじゃん……」
[ナノフラグメントの純度問題を考慮せず計算を行っています。実際の発電量とは誤差が発生します]
「いや誤差の問題かこれ?」
フェリーのエンジン音が低く響く。
私は手の中のキーホルダーを見る。
白化したサンゴみたいな、虹色のガラス片。
——これ。
死んだナノマシンの残骸で、しかも不完全品。
「待って。じゃあ完全版は?」
[ナノクォーツです]
「うわ聞きたくなかった」
[なお、ナノクォーツは当機フレーム材として使用されています]
「アンタ本当に何で動いてんの……」
[熱核反応炉です]
「分かってるって……寝る。日の出になったら起こして」
何か驚き慣れてるはずなのに、ここにきて理解不能宝石の話が来て驚き疲れた。
シルフ、あの機体はマジで……
ナノフラグメントとナノクォーツ、片方はもう解説ストップしたけど、相当おっかない物だ。
フラグメントだけでも有用に使えるからな……案外機体の方じゃなくてこっちを探してるのかも。
熱電変換……何か引っかかるけど、どうせ寝て起きたらなんか気付くでしょ。
お休み、良い夢見よ。