機動戦士ガンダムGHOST   作:朱色の空☁️

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九州とバイクと私

アラームなんてかけてないのに、何で鳴らしてんのよ……。

 

「うるさい」

 

[心外ですね。起こしてあげたというのに]

 

「……頼んでない。でもおはよ。今どの辺?」

 

まだ眠い頭のまま、毛布代わりの上着をどかす。

 

フェリー特有の低いエンジン振動。

少し蒸した空気。

 

どうやらちゃんと寝落ちしてたらしい。

 

[残り2時間で鹿児島へ到着します。天候は晴れ。気温37度、湿度61%]

 

「うわ」

 

[午後0時付近で最高気温41度へ到達する予報です]

 

「終わってんな」

 

寝起き一発目に聞く気温じゃない。

路面でベーコンエッグが焼けるわコレ。

 

「外出自粛令とかは?」

 

[現時点では発令されていません]

 

「“現時点では”ねぇ……」

 

私は顔をしかめながら体を起こした。

 

窓の向こうは快晴、青空、海、夏休み。

——なのに気温41度。

 

「これ絶対バイク乗る気温じゃないって」

 

[纏は乗る予定ですが]

 

「うるさい」

 

_______________

 

 

「あ、おっさん達いた。ルブリスウルのおじさんいる~?」

 

フェリーの車両甲板を覗き込むと、

昨日話してた楽しいおっさん達がまたダベってた。

 

そろそろ入港だから準備してんだ、私もそうだけど。

 

「あー? お、エアリアルの嬢ちゃん」

 

「その呼び方定着してんの?」

 

「分かりやすいだろ。白青カラーでエアリアルとか」

 

「否定できん」

 

車両甲板は既にざわついていた。

ライダー達が荷物を固定し直したり、ヘルメット抱えて談笑したりしてる。

 

フェリー特有の、金属と潮風混ざった匂い。

まぁー嫌いじゃない。

 

「嬢ちゃん福岡まで行くんだったか?」

 

「そ。大学見学」

 

「17で九州縦断かぁ……元気だねぇ」

 

「割と勢い」

 

「若い頃は勢い大事だぞ」

 

ルブリスウルのおじさん――青緑のゴッツいツアラー乗り――が笑いながら工具箱を閉じた。

 

「おじさん達は?」

 

「俺らは熊本。阿蘇回って宮崎行って宇和島からフェリーで渡って愛媛」

 

「メチャクチャ走ってるじゃん。ていうか途中まで一緒に行っていい? 通り道だから」

 

「お、お一人様増えちまったな」

 

「女子高生引率ツーリングじゃん」

 

「字面がヤベぇ。白バイに追っかけられたくないなぁ」

 

おっさん達が笑う。

車両甲板の空気は緩くて、エンジン停止中の静けさと入港前独特のソワソワ感は嫌いじゃない。

 

「まぁ途中までなら全然いいぞ。嬢ちゃん単独だと何かあった時怖ぇし」

 

「やった~」

 

「ただし飛ばすなよ~?」

 

「むしろそっちが飛ばしそう」

 

「失礼な」

 

絶対飛ばす。

こういうツアラー乗りのおっさん、大体巡航速度おかしい。

 

「阿蘇って今涼しいの?」

 

「標高あるから下界よりゃマシだな」

 

「下 界」

 

「鹿児島市内41度予報だぞ?」

 

「終 わ っ て る」

 

ヘルメット抱えながらげんなりする。

フェリーの壁面スピーカーから、下船案内が流れ始めた。

周囲では次々と車両に電源が入り、モーター音が響き始める。

 

私もエアリアルの電源を入れる。

——ブゥン。

 

黒いカウル部分に、淡くメーカーロゴが浮かび上がった。

 

「お、やっぱそれカッコイイな」

 

「でしょ?」

 

ちょっと嬉しい。

その時、近くに停まっていた配送ドローンが一瞬だけ変な挙動をした。

 

「あれ?」

 

作業員が端末を見ながら首を傾げる。

 

『通信同期エラー』

 

赤文字が表示されていた。

 

「最近多いんだよなぁ、これ」

 

「港の電波混線じゃね?」

 

「かもなー」

 

そんな会話が聞こえる。

私は何となくスマホを確認した。

アンテナ表示が一瞬だけ乱れすぐ元に戻った。

 

[周辺通信環境の不安定化を確認]

 

「アンタ何かしてないよね?」

 

[していません]

 

「本当?」

 

[本当です]

 

微妙に信用ならんけど、今はそれどころじゃない。

フェリーが完全に接岸し、前方ゲートがゆっくり開き始める。

夏の熱気が、車両甲板の奥まで流れ込んできた。

 

「うわ、暑っ」

 

「ようこそ九州本土へ」

 

「帰りたくなってきた」

 

「まだ沖縄県民なんだよなぁ嬢ちゃん」

 

「……ちゃーんならんさ(どうしようもない)

 

どうしようもないなコレ。

走ってたら多少はマシになるか……。

 

 

_______

 

 

 

おっさん達……訂正、アンダー40紳士バイク同盟は、多分今まで見た中で一番いいおっさん達だ。

 

絶対飛ばすタイプだと思った。

こういうゴツいツアラー乗り、大体巡航速度おかしいし。

 

でも実際は全然そんな事なくて、流れに合わせて六十キロ前後でのんびり走るし、休憩も多い。

 

というか慣れてる?

経験の厚みが違うっていうか、過去に飛ばし過ぎて何かヤバい状況やらかしたのか、全体的に安全第一感が凄い。

 

ていうかバンシィ(これもレアなバイク)のパニアケース(バイクのリアシートの後ろか左右に付ける収納ケース。欲しい)に、

 

『Safety Touring!』

 

って書かれたステッカー貼ってあるし、いや説得力の塊かよって思わず笑った。

しかもよく見たら、バイアランC(他のバイクから色々部品移植したらしい)の方に『無事故継続ゥ!』とかいうステッカーまで貼ってある。

 

あと道の駅に止まれば、バイクに寄ってきた子供を追い払うどころか……

 

「おら坊主乗ってみるか?」

 

とか言って普通に跨らせる……白バイ隊員みたいな事してる。

 

「うわ、すげー!」

 

「写真撮るぞー」

 

「将来はライダーか?」

 

親も親で普通に笑ってるし。

平和か? 不穏な影チラつく航海との差が凄くて何か凄い(語彙が消えた)

 

「嬢ちゃんも昔こういうの憧れた?」

 

「いや別に」

 

「即答」

 

「でもまぁ……嫌いじゃない」

 

エアリアルの隣で、子供が目を輝かせながらバイクを見ている。

なんかこういうの見ると、旅も悪くないなって思う。

 

……海外でもこういうのできるかな?

 

「乗る?」

 

「のりたーい!」

 

「よいこらしょっと。写真撮るよーぴーす」

 

パシャリ。

おっさんに倣って写真撮影たーいむ。

何だろ、紳士バイク同盟のと違ってヒロイックな色してるからなかなかに人気だ。

 

「譲ちゃん人気だな~」

 

「あんまこーゆーの慣れてないですけど、最後くらいいいかなーって」

 

「最後?」

 

「この後割と忙しくなるんで、普通に乗ってられるか微妙なんです」

 

「進学?」

 

「とはもっと別なんですけどね……そういえば、おじさん達って海外で走ったことあるんですか?」

 

「無い」

 

「無い」

 

「無いなぁー」

 

「あるぞ」

 

1番年長のリーダー格のおっさん(40くらい)が手を上げた……

えっ!?

あるの?! ていうかどうやって?

 

「まだ鎖国の前だからな。若気の至りで船便で台湾経由でタイ行ったんよ。もう15年も前だな」

 

「どうだった?」

 

「食い気味だな、そんな興味あるのか。そりゃ空気は違うし景色も違う、行く価値大有りだったぜ。ただな、変な雰囲気はあった」

 

変な雰囲気?

あとポッケの中の端末が怪しく震えた。

多分、シルフも聞いてるんだ。

 

「タイの軍がさ、異様にピリピリしてたんよ。何かの攻撃に備えてたらしいけど、俺が帰国したあたりから空便も船便も渡航規制かかっちまった」

 

……怪しい。

 

「その後、4.25事件で鎖国と来たもんだ」

 

「あー、成功したクーデターな。歴史の教科書も変わっちまった。22世紀の頭から一向に進んでねぇし地理の内容も変わんねぇ」

 

「何でそんなに詳しいの?」

 

「家庭作って子供生まれりゃ小中高で学校行くだろ? その教科書パラパラ見る機会なんて腐るほどあるわ、エアリアルの譲ちゃん」

 

「呼びにくくない? 深浦、でいいから」

 

「深浦ちゃん、1世代古い大人からの警告だ。政府は海の向こうを隠したがってる。病的なまでにな」

 

……そっか、大人は鎖国前の日本と世界を知ってるんだ。

日本には情報統制がかけられていて、政治家達が都合の悪い情報を腹の底に隠してる。

 

裏金とか不倫とかそういうどーでもいいものじゃなくて、世界の今を隠すなんて明らかにおかしい。

 

じゃあ、何で隠すの?

 

[推測ですが、海外で何かあったのかもしれません。日本は国民保護のために「殻に籠る」事にしたのではないかと]

 

「ん? 何だそりゃ」

 

「えっ!? えーっと、普段の話し相手、ていうか生成AI」

 

おっさん達に見られた……でも端末だけならただの個人AIだからへーきへーき。

実態は戦闘知性体だけど。

 

「ほー、頭イイの使ってんな」

 

「お節介気味だけど、何だかんだ助かってはいる」

 

[(*^^*)]

 

「顔文字wwwww」

 

どこから学んだんよ顔文字なんか。

 

_______

 

 

「……いいの?」

 

「深浦の嬢ちゃんの話も聞きてぇからな。部屋なら気にすんな、1部屋空いてるってよ」

 

紳士バイク同盟――訂正、過去一イイおっさん連合の1人には、 顔なじみの民宿があるらしい。

 

そのままセットで泊めてもらえる事になった。

 

「旅慣れし過ぎでは?」

 

「伊達に全国走ってねぇからな。この歳になると宿の一つや二つ顔馴染み出来るんだよ」

 

「人生の厚みが違う……」

 

阿蘇方面へ向かう夕焼けの道。

前を走る大型ツアラー達のテールランプを見ながら、私は何となく思った。

——知らない場所なのに、今までのどこよりもちょっと安心してるかもしれない。

 

「で、それってどの辺なの?」

 

「あー、阿蘇の手前。そこに顔馴染みのことがある。俺九州メインだからよく泊まるんよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「何畏まっちゃってんだよ。途中で俺らのバイク診てくれたろ?」

 

「あれはまぁ軽整備っていうか……」

 

「いや助かったぞ? 最近ディーラーも予約取れねぇし」

 

ルブリスウルのおじさんが笑いながら、そう言った。

そう、休憩中にこの人達のバイクをちょこちょこ診てた。

タイヤ空気圧。 ブレーキ。 サス設定。 駆動系ログ。

最近のバイクは大体電子制御だから、 端末繋げばある程度状態見れる。

 

まぁーエアリアルがそういうバイクだから。

端末繋ぐ→データ読み取る→異常値っぽい箇所をシルフが出す。→私が見る。

って感じだからそこまで労力かからない。

 

そもそもシルフはガンダムの戦闘知性体だから、当たり前だけどバイクには詳しくない。

ただデータ解析してくれてるだけだから。

 

「嬢ちゃん妙に詳しいよなぁ」

 

「まぁ……昔から機械触るの好きで」

 

実際は、 基地跡でジャンク漁りしてた結果なんだけど。

流石にそれは言わない。

人外未知のナノマシン操るスーパーモビルスーツ直してまーすなんて言えない。

 

「いや普通17でツアラーのサス調整しねぇって」

 

「そんなもん?」

 

「そんなもん」

 

おっさん達が頷く。

 

「深浦の嬢ちゃん、将来整備側行けるぞ」

 

「えー」

 

「絶対向いてる」

 

「そうかなぁ」

 

正直、 今までそんな事考えた事なかった。

ただ、 壊れてる物直して、 動くようにしてただけだし……でも、まぁ、

 

「助かった」

 

って普通に言われるの、 なんか悪くない。

 

「まぁ、その……役に立ったならよかった」

 

「お、照れてる」

 

「うるさい」

 

 

 

___________

 

 

 

「あーサッパリした」

 

「部屋に個室風呂あるけど良かったのか? その……なんていうかな」

 

「あ、全然平気。銭湯並みの風呂がある民宿なんてなかなかないので」

 

おっさん連邦が視線ずらしてる……ああそうか、JKとバイク旅(実際は付き添いって感じ)はした事ないんだったっけ。

まーいーや、おっさん連邦から下心的なアレは出てないし。

 

「嬢ちゃん警戒心薄くね? 今更感凄いけどおっさんに囲まれてんだぞ」

 

「紳士バイク同盟はセーフ」

 

「誰が命名したんだか」

 

「私」

 

「即答かよ」

 

浴衣姿でグイッと1杯、何でか知らないけど牛乳(にとてもよく似た飲み物)があったので、ふろ上がりの1杯だ。

上手い夕飯食べて、良い風呂入れて、41度でげんなりした割には良い旅できてる気がする。

 

「ねぇ、タイの話まだある?」

 

「もうねぇよ洗いざらいは吐かせたのはそっちだろ。というか、嬢ちゃん海外に行きたいんかい?」

 

「まぁーそんなとこ。絶対防衛圏を超えられれば何とかって感じ」

 

「絶対防衛圏? おい、嬢ちゃんのAI、どういうことだ?」

 

[纏は、今現在飛行可能な機体を修復しています。詳しくは申し上げられません。そして、絶対防衛圏は纏が勝手に命名した物であり、厳密には領海外縁付近を航行中の海上自衛隊艦の警戒ラインの事を指します]

 

「バカそんな言うな。おじさん達も黙ってて」

 

「まぁとやかく言わねぇけどさ、昔そういうチャレンジャーが何人か捕まってるんよ。気ぃ付けな」

 

「マジ?」

 

「元米海兵隊の機体をつぎはぎで修復して飛び出したのがいてな、京都ら辺から日本海越えて中国側に渡ってみようとしたところを、海自に見つかってムラクモに止められた」

 

ムラクモ、戦略自衛隊が保有する次世代型MSだ。

2110年の4.25事件で実践投入され、以降ちょくちょくアプデを挟みながら第1線級を保ってる。

 

そういえば、MS搭載護衛艦__実質空母__がいたな。

 

多分シルフなら大丈夫だと思うけど。

 

「その勇敢な先駆者どうなった?」

 

「知らん。でも撃ち落としたりはしてないだろ。大学出てからチャレンジしろよ。退学程度じゃ済まねぇ」

 

「はーい」

 

適当に返事する。

……ごめんおじさん達、心配してくれてるのは分かる。

でも大学行く気はあんまりない。

オープンキャンパスだって、操縦システム知りたいだけだし。

 

シルフの修復、まだ終わってないから。

 

「さぁー寝た寝た。おっさん連合はこれからノンアルで晩酌だ。絡まれる前に寝ちまいな」

 

おじさま連合の大部屋からほっぽり出されると、私は自分の荷物の置いてある部屋に戻った。

 

窓を開けて、夜風を部屋へ取り込む。

 

「……ぬるい」

 

昔よりマシらしいけど、九州の夏は夜でも暑い。

それに、近頃は虫の声も少なかった。

温暖化の負債だとかで虫の分布も変わったって授業でやったし、普通にテストにも出た。

昔はこの辺でも鈴虫が鳴いてたらしいけど、今は九州側で減少して本州とか東北側へ分布が寄ってるとか何とか。

 

「風情ってやつも北上かぁ」

 

[平均気温上昇の影響と推測されます]

 

「授業みたいな返しやめて」

 

畳へ転がる。

天井のシミをぼーっと眺めながら、私はスマホを弄った。

明日のルートと充電残量、天気、航続距離は問題なさそう。

ここで、充電もできてるから、朝っぱらからフル充電で動ける。

 

……旅してるなぁ、私。

 

端末のアラームをセットして、電源を落とし、キーホルダーに付いているナノフラグメントに触れた。

シルフに初めて会った時、そこら中にこれが生えてた。

絶景図鑑とかで見た事あるかな、辺り一面結晶塗れの洞窟って感じで、ドックもこれの侵食を受けてた。

 

倒壊しない場所見つけて私物置いて拠点にしたけど、まさかあれが全部ナノマシンの死骸の集積とは当時は思いもしなかった。

 

「貴方に何があったの?」

 

独り言、シルフも今はスリープしているはず。

壁越しにおっさんが飲んでるのも分かる。

 

まぁいいや、寝よ。

 

 

 

________________

 

 

 

 

「何か分かったか?」

 

那覇基地。

 

採取されたナノマシンの解析班へ向け、伊坂はそう問いかけた。

 

「例のナノマシンですが、散布に使われたのは風ではないようです」

 

「じゃあ何だっていうんだ」

 

士官は数枚の解析ウィンドウを展開した。

 

「電磁誘導です。より正確には、高周波電磁波による指向性誘導移送」

 

「……電波で飛ばしてるって事か?」

 

「はい」

 

モニター上へシミュレーション映像が表示される。

A地点と直線距離1km先のB地点。

散布元から高指向性電磁波を照射すると、空中へ展開されたナノマシン群は、まるで見えないレールに沿うように移動していった。

 

「風も推進剤もいらないな」

 

「むしろ、大気条件の影響を受けにくい可能性があります。突風とかは流石にダメだと思いますが、そよ風程度で阻害されるようなものではありません」

 

「上が言ってた“沖縄をスッポリ覆える”って話、本当らしいな」

 

伊坂が低く呟く。

士官は次の画面を表示した。

沖縄本島中部にある大量の通信ログ。

 

「問題はここです。これだけ異様な高周波電磁波を使用する以上、周辺通信へ何らかの干渉痕跡が発生する」

 

「基地局側を洗ったのか」

 

「許可がいる部分を除いてですが。沖縄中部管轄の通信ログを取得中です。もし異常発生時間帯と照合できれば――」

 

ここまで来れば、MS乗りの伊坂にも分かった。

 

「散布元と照射ラインを逆算できる、か」

 

「恐らくは」

 

伊坂は腕を組み、数秒だけ考え込む。

 

「許可は俺が取る。しばらくはナノマシン解析に集中してくれ」

 

「了解」

 

近づいてきている。

 

やはり、化学学校出身者の知識を頼るため同行させたのは正解だったようだ。

対ナノハザード講義を受講した自衛隊員はまだ一部に限られている。

だが、ナノマシンという“化学兵器にも似た微小兵器”への対策体系が既に構築され始めている事実は、伊坂にとって素直に喜ばしかった。

 

そこでふと、嫌な考えが頭をよぎる。

 

「……我々の機体に、そのナノマシンが仕込まれている可能性は?」

 

解析士官は即答しなかった。

 

「ゼロとは言えません」

 

数秒置いて、低く答える。

 

「疑うのは自然です。どこまで可能かは不明ですが――」

 

ウィンドウ上へ、推定脅威一覧が表示される。

レーダー欺瞞、通信阻害、操縦補助系撹乱、センサー誤認、電子制御介入、そして、

 

「……乗っ取りも、理論上は可能かと」

 

伊坂は思わず息を吐いた。

 

「小瓶一つとアンテナで戦場が変わるな」

 

誰に言うでもなく呟く。

 

もし、これが兵器として完成されていたなら____MS戦すら、根底から覆る。

 

「無駄骨かもしれんが……」

 

伊坂は端末を閉じた。

 

「那覇配備機のオーバーホールと完全清掃を提言した方がいいな」

 

「賛成です」

 

「基地設備側も洗え。整備ドック、補給ライン、通信設備もだ」

 

「了解」

 

那覇基地の空調音だけが、やけに大きく聞こえていた。

市ヶ谷でもそうだったが、さらにキナ臭さが増してたのを感じ、伊坂は腕を組んだまま深く溜息をついた。

 

(上はこれを何処まで把握してる?)

 

本城から受け取った資料には限りがある。

need to knowは分かっているが、流石に出された資料が少なすぎる。

 

(……市ヶ谷に戻り次第、本城に聞くか)

 

秘匿事項が多く、通信には載せられない。

それに電磁誘導での通信障害が起こるといったが、意図的なインフラ攻撃かそうでないのかもまだ分かっていない。

 

「那覇基地の部隊にも応援要請を出し、3日後に基地の捜索を始める。ハンセン、コートニー、そしてシュワブだ」

 

 

_____________

 

 

 

[おはようございます。いくつか危急の連絡があります]

 

「那覇の動向?」

 

ベッドへ突っ伏したまま、私は片目だけ開ける。

 

[那覇基地で、知花で見つかったナノマシンの解析が進んでいるようです。私が使用するナノマシンと同程度の性能を持ち、電磁誘導での指向性散布も露呈しているかと]

 

「早いな……自衛隊も優秀だ」

 

[私もその点は疑問を覚えました。調査の結果、埼玉県大宮市の陸上自衛隊化学学校に対ナノハザードに関する科目が存在するようです。ナノマシンに対し無知ではないそうです]

 

「うわぁ」

 

思わず顔をしかめる。

おっさん連邦とのんびりしてる裏で、自衛隊側は普通に近づいて来ていた。

 

「それと?」

 

数秒だけ、

シルフが沈黙した。

 

[三日後。シュワブへの捜索が開始されます]

 

「……マジ?」

 

[はい。相手が電磁誘導による指向性散布に気が付いている以上、ドローンへの指向性散布は露呈する可能性があるかと]

 

「だよなぁ……」

 

私はベッドの上で唸った。

 

思ったより早い。

自衛隊、普通に___いや、優秀だ。

さすが鎖国下の日本を守り抜いてる防衛戦力だ。

 

「シルフ。確かドック横、割れた配管から水漏れしてる場所あったよね」

 

[はい]

 

「そこにナノマシン流してトラップって作れる?」

 

[可能です]

 

「おっ即答」

 

[ナノマシンは性質上、一定の耐水性能を有しています。短時間であれば水系統を利用した潜伏・付着行動が可能かと]

 

「帰投ドローン経由で逆汚染狙える?」

 

[理論上は]

 

「うわぁ」

 

思わず変な声が出た。

ていうか私何ナチュラルにゲリラ作戦練ってんのよ。

 

[ジャック後はセンサーの欺瞞と偽映像の送信。ナノフラグメント破片1つ映さないで。できるでしょ。戦闘知性体さん?]

 

[不可能はありません。必要であれば、日本の情報通信インフラを破壊出来ますが]

 

「やるなよ」

 

多分、シルフは本当にできる。

日本の全ての電子的防御__ファイアウォールとかあらゆるもの掻き集めても、シルフは纏めてドカーンって出来るほど強い。

それ程強い能力を何でMSが持ってんのよって思うけど、シルフって、電子戦をするための機体なのかな。

 

 

普通モビルスーツって、もっとこう……撃つとか飛ぶとかじゃない?

 

 

それだとナノフラグメントの事をどう説明するんだよってなるけど、ちょっと説明付かない。

これ、手綱握っとかんとな。

多分、シルフ自身ですらどこまで出来るのか把握しきれてない。

 

日本を電子的に攻め落としてって言ったら勢い余って海の向こうも落としちゃうかもしれない。

ホント、そんな感じだと思う。

 

 

「だからって試すわけにもいかないんだよなぁ……テスト感覚て県1つ落とせとも言えないし」

 

[賢明かと]

 

……着替えよ、ご飯行こ。

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