機動戦士ガンダムGHOST   作:朱色の空☁️

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隠し事とムラクモと私

あれからご飯食べて、天気予報をぼーっと見てたんだけど、天気は良さそうだった。

気温もそこそこ……三十八度だけど。

 

「終わってんなぁ九州」

 

[熱中症警戒指数は高水準です]

 

「知ってる」

 

畳へ転がりながら、スマホを弄る。

その間にも、シルフ側では作業が進んでいた。

 

[ナノマシンによるトラップシステム、構築中]

 

「ナノマシンってさ、自分で構造組めるんでしょ?」

 

[はい]

 

「なら、つららや鍾乳石みたいに垂らせない?」

 

[詳細を]

 

「待機してる所の天井とか配管に生成して、侵入者来たら落とす感じ。液体じゃなくても接触した時点で付着するでしょ」

 

[可能です]

 

「やった」

 

[構築パターンを変更します]

 

こういう、イタズラじみた事は実は慣れてる。

 

小学生の頃に、秘密基地とか作るの流行った時期があって、同級生と雑木林へ入り浸ってた。

軍事基地の跡地とか子供心くすぐる場所がそこら中にあって、まだ自衛隊基地に改修される前の時代だったから、自分含め周りの子は秘密基地ごっこに命をかけてた。

 

で、落とし穴とか、糸トラップとか、引っかかったらベタベタになるやつとかタチ悪いの作って怒られた。

 

……いやまぁナノマシン罠に進化するとは思わんかったけど。

 

「嬢ちゃん行くぞ~」

 

「はーい」

 

そうそう、ここ阿蘇の手前だからおっさん連邦ともう少し行くこととなった。

といってもあと40キロくらいだけど。

 

「寝れたか?」

 

「爆睡」

 

「そりゃよかった。じゃあ皆の衆出発するぞ」

 

トラップ構築はシルフへ任せて、私とおじさん連邦は出発した。

何としても、シルフには身を守ってもらわないと困る。

 

絶対防衛圏の突破も、海外行きも、全部そこで終わる。

 

仕方ない。

自衛隊には、“本物にしか見えない偽情報”でブレイクダンスして目を回してもらおう。

 

……ブレイクダンスする自衛隊員、ちょっと見てみたいな。

 

[了解。現在、欺瞞情報パターンを複数生成中です]

 

「ノリ軽くない?」

 

[纏の影響かと]

 

「人のせいにすんな」

 

ヘルメットを被りながら、私は少しだけ笑った。

……シルフに人格ってあるのかな。

 

あるとしたら、割とノリ良いタイプかもしれない。

 

 

 

_______

 

 

 

 

「おー阿曾山だ。緑っぽい」

 

「自然が生えまくってるからな。俺ら暫くこの辺観光してるけど、深浦ちゃんは先に行くんだろ?」

 

「名残惜しいけどね~」

 

本当に、ちょっとだけ。

数日前まで知らない人だったのに何かフツーに楽しかった。

 

「宿の方には連絡しといたからな。帰りもあそこ使え」

 

「え、マジ?」

 

「適度に休憩しろ。バイクも休憩させろ。あとそんな速度出すなよ」

 

「パニアケースに“Safety Touring”なんてステッカー貼ってるから説得力の塊なんだよね」

 

「安全第一だぞ嬢ちゃん」

 

「おっけ」

 

私は軽く手を振った。

 

「何だかんだ、ありがとうございました」

 

「気にすんな。旅先の縁だ」

 

阿蘇の風が吹く。

山の匂い、草の匂い、少しだけ冷たい空気。

ほんの数日だったけど、何か不思議と長く一緒にいた気がした。

 

「じゃ、気ぃ付けてな。嬢ちゃん」

 

ヘルメットのシールドを下ろす。

エンジン音と振動、そして、道が見える。

 

「んじゃ、またどっかで」

 

私はアクセルを開けた。

 

バックミラー越し、おっさん連邦が手を振ってるのが見える。

……何か、変な感じだった。

 

身近にいた大人なんて、大体ロクでもなかったから。

 

 

怒鳴るか、押し付けるか、勝手に決めるか。

そういうのばっか見てきた。

 

挙句の果てにはバカ酒飲みと蒸発ときた。

 

だから、普通に気遣ってくれて、普通に飯食わせてくれて、普通に「気を付けろ」って言ってくれる。

 

そういう“大人”が、なんか妙に眩しく見える。

 

「……良いおっさん達だったなぁ」

 

[はい]

 

阿蘇の風が、ヘルメットの横を抜けていく。

 

前には長い道。

後ろには、ちょっとだけ温かい記憶が残っていた。

 

 

 


 

 

 

 

東京都

首相官邸

 

 

「本城君。那覇へ向かった部隊について、報告を持ってきたそうだね」

 

総理執務室。

大型モニターには、沖縄周辺海域と旧米軍基地群の地図が表示されている。

 

本城は一礼した。

 

「知花基地で発見されたナノマシン解析結果の報告。そして――」

 

僅かに言葉を区切る。

 

「伊坂一佐への情報開示許可を頂きたく、参りました」

 

首相は静かに腕を組む。

 

「どこまで開示するつもりだ?」

 

「少なくとも、“4.25以降に確認された非公開案件”については共有すべきかと」

 

空気が少しだけ重くなった。

 

「……理由は?」

 

「現地側の解析速度が想定以上です」

 

本城は端末を操作する。

 

表示されるのは、電磁誘導散布、通信障害、センサー欺瞞、に関する結果で、それに基づくムラクモへの電子的攻撃の可能性と機体オーバーホールの提言まで書き込まれていた。

 

「既に、自力で危険領域へ到達しつつあります。那覇の配備機の洗浄はこちらから許可を出しました」

 

首相は数秒沈黙した。

窓の外には、東京の高層群が見える。

 

「だから無理を言って時間を空けたんだ」

 

低く告げる。

眉間のシワを揉みながら、その男仲原(なかはら)一徹(いってつ)内閣総理大臣は、再生紙に書き込まれた重要情報に目を通した。

一件無駄な資源に見えるかもしれないが、電子的情報では秘匿性を担保できない時はこうして古くからの知恵である紙媒体に頼っている。

 

「本城君。悪いがまだ公開はできない」

 

「総理」

 

本城の声が僅かに強くなる。

 

「まだ秘匿されるのですか、岩手の件を」

 

「分かっている。あの事故で我々の文明レベルは部分的とはいえ1世紀ほど進んだ」

 

タービンレス熱核反応炉、及びそれに付随した各種技術は日本の鎖国を大きく支え、資源の多くを輸入に頼っていたこの国に準完全循環社会を成し遂げさせた。

 

人類史を書き変えない技術。

 

「それは理解しているが、問題は解明できているわけではないという事だ」

 

モニターに移されたのは多孔質ガラスのような奇妙な結晶。

そしてもう1つ、規則正しく配置された何かの結晶体だ。

 

強い偏光性を持ち角度によっては深い虹色を見せるこの不可解な結晶は、今も構造解析が続けられているが6年近く足踏みを続けている。

分かっているのは、河原の石程度のサイズでペタバイト級の情報を格納でき、解析不能ではあるが情報伝達が行われているという事だ。

 

 

「本城君、君は、原始人にいきなり核分裂を渡して満足に使えると思うかい?」

 

「……その次元の話、というのは分かっています」

 

「どう生まれたのかも分からない」

 

首相は再び結晶へ視線を向ける。

 

「だが我々は、既にそれへ文明を依存し始めている。本来、触らない方が良い」

 

仲原は椅子ごと窓側へ背を向けた。

 

「……伊坂君には、すまないと伝えておいてくれ」

 

「了解しました」

 

本城は敬礼し、静かに退出する。

 

扉が閉まり、また静寂が訪れた。

仲原は深く息を吐くと、デスク脇の認証端末を操作した。

 

表示されるのは極秘指定研究記録。

首相権限による多重プロテクトを、一つずつ解除していく。

 

そして再生。

 

何度見ても、理解を拒むような映像だった。

 

虹色偏光を放つ結晶体に実験アームが衝撃を与える。

 

すると――

 

結晶は、運動エネルギーを吸収した。

 

熱変換でもなく、割れるのでもなく、“蓄積”だ。

 

さらに出力解析では、内部でのエネルギー変換反応まで確認されている。

 

「……」

 

 

今度は許容量以上の圧力をかけ、やっとの思いで結晶表面へ大きなヒビが走る。

だが七秒後、ヒビは自然消滅した。

何の科学的補助もなしに勝手に構造が修復されたのだ。

 

さらに実験は続く。

 

電磁波、陽子線、中性子線、電子線、ありとあらゆる波長、日本国内で実現できるあらゆる高エネルギー粒子線を浴びせてみたが、結晶は、その全てを吸収した。

 

そして変換、蓄積。

 

最終的に観測されたのは、極めて高効率なエネルギー貯蓄反応。

河原の小石程度だけで、実に約100世帯分1か月の電力を保持していた。

 

仲原は目を閉じる。

 

「……こんな物を、人類が理解できると思うか」

 

誰もいない執務室で、呟きだけが落ちた。

 

 

 

______

 

 

 

『伊坂、すまない』

 

通信越しの本城の声は低かった。

どうやら総理の口は堅く、欲しい情報は高い棚の上の様だ。

 

「……ダメもとです。こちらも無理を言いました」

 

伊坂は短く返す。

ノイズ混じりの秘匿回線は盗聴を避けるために、敢えて聞きやすさを犠牲にして対盗聴性能を上げているのだ。

 

これ以上踏み込めない事は、理解していた。

 

『絹山さんの時以上にに情報統制が厳しい。下手に流せば、俺自身どうなるか分からん』

 

本城が小さく息を吐くのが聞こえ、気苦労が感じ取れる。

 

「でしょうね。ですが、こちらでも調査は継続します」

 

伊坂は苦笑混じりに返した。

背後では解析班の端末音が響いていて、伊坂が取り付けた許可を使い通信ログとエラーの洗い出しを行っている。

かなり膨大な量だが、時間の問題だ。

 

「内容次第では、一度市ヶ谷へ戻り、直接報告になるかと」

 

通信では限界がある。

電磁誘導、通信障害、情報欺瞞と来たからには、今や電子情報そのものが信用し切れない。

 

『……気を付けろ。現地は、もう“事故調査”の段階じゃない』

 

「分かっています。だからこそ、止まれません」

 

通信が切れる。

 

(岩手の件はお預けか)

 

____________

 

 

 

[罠の構築完了。ドローンが侵入可能なポイント全20か所に鍾乳石型ナノマシン結晶を配置、漏水を用いたジャック機能を準備しました]

 

「ないす。そのまま構えてて」

 

[了解]

 

戦闘知性体の仕事は速い。

基本的に眠ることが無いようなので、やろうと思えば24時間365日動けるみたい。

あ、でもデータ整理でスリープするって言ってたから年中無休の人類史上最後の存在ってことでもないらしい。

 

特に夜中、意図的に私が寝る時間帯に合わせてるっぽい。

 

 

[まもなく、福岡県に入ります]

 

おっさん連邦と別れて4時間強、休めるとこで休んで、景色楽しんで、海沿いの道路走って街に入って漸く県境だ。

 

あ、そうだった……

 

ブレーキ、おっさん連邦と走ってた時にもあったんだった。

 

 

[これは、検問ですか?]

 

「まーそう。フェリーの時は乗る時に身元確認とかあったけど、陸路はこれね」

 

外国、それも陸続きの国とかだとこういう国境検問所的な物があったっぽい。

それが今この国では県境に設けられていて日本国民は揃ってみんな国民管理番号とかその他諸々を記録したカードを持ってる。

 

大昔に生まれた制度で、病院とか役所の手続き、各種免許情報とかは全部これに保存される。

で、何で検問なんか作って入県出県管理をしてるかっていうと人の流れをチェックするためらしくて、県ごとの物資消費とかのビッグデータと照らし合わせてあーだこーだするためらしい。

 

 

「身分証を」

 

「はいどうぞ」

 

何も隠す様な事はないので、こういうとこでは素直に渡した方がいい。

そうしたらスムーズに終わるから。

 

 

スムーズに……

 

 

 

 

 

スムーズに……あれ?

 

 

 

 

 

どうしたのかな?

 

 

 

 

ヴゥーーーーーーーッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんですか?」

 

「井澄派だ。ここ最近九州が多いんだ。沖縄は?」

 

「あんまりです」

 

直後、私の真上をドでかいのが飛んで行った。

この近くだと……あった、川原駐屯地だ多分。

 

ムラクモが上空をかっ飛ばす時、こういうサイレンが鳴り響く。

70t近い人型のカーボンが空力があるとはいえ物凄い勢いで飛んでいく、それはとてもすごい事で、当時の米軍ができなかった事だ。

 

[NMS-06ムラクモ、4.25以降のアップデートで一部の慣性制御機構に類似したの実装に成功し、現在の機動力を実現しています]

 

「シルフもそういう系なの?」

 

[プラズマジェットが存在しない事を不思議に思っていましたね? 指定の方向に機体を()()()()()事で飛行を行います]

 

突き飛ばす?

飛ぶ、じゃなくて、突き飛ばす?

というか、重力は?

 

「重力どこいった?」

 

[当機も重力の影響を受けますが、どちらに突き飛ばされるかを任意に選択する事ができます。上下左右、前後の選択で飛行を行います]

 

……多分、シルフのフレーム材が関わっている。

シルフのフレームは、ナノクォーツというよく分からない物質でできている。

聞いた話だとナノフラグメントとは比べ物にならない物質で、相当バカバカしい。

 

自身にかかる力、多分重力とかのホントに身の回りにある力まで何もかもをお好きなエネルギーに変換できるらしい。

だから、重力に逆らう為に上に軽く突き飛ばしながら進みたい方向に突き飛ばしてると思う……んじゃないかな?

 

だってさ、前後左右だけじゃ空飛ぶとき重力で少しずつ落ちるじゃん。

そりゃ物凄い勢いで突き飛ばしたら重力から逃れてそのまま宇宙まで飛んでいけるはずだけど……

かの有名なニュートンのリンゴね、バカ速くリンゴ投げたら重力振り切って周回軌道に入るってアレ。

 

 

だから、重力ガン無視して飛べるファンタジーじゃないのはちょいとホッとしたかも。

 

 

じゃあ中に乗る私どうなるんだよって次はなってくる。

加速度で大変なことになるかもしれないけど、多分そこはさっきの力の変換が関わってると思う。

 

例えば、10Gの加速度を10kw分の電力に変換するから加速度がチャラになるって感じかな。

骨格というか、コックピットっぽい部分にもナノクォーツが使われているから多分出来るんだと思う。

 

だからといって、中身が無事になる理由になるとは思えないんだけど、機体のどこに加速度を振り分けるかってことでもしてるんだと思う。

機体フレームに大半を集中させ、コックピットには2Gまでって感じで。

 

そこまで……できるとは……ちょっとね……

 

多分、慣性制御___慣性の配分が無いなら誰を乗せることを前提にしてんのって話になる。

アンドロイド? はたまた違法改造された強化人間?

 

「シルフ、慣性配分って、あなたが勝手につけた物なの?」

 

[当機は、ナノクォーツ構造体を用いた基礎フレームを使用する関係上、基礎フレームは常時破損と再構成を繰り返します]

 

「は?」

 

思わず間抜けな声が出た。

 

「壊れてんの? 飛んでる最中に?」

 

[はい]

 

はい、じゃないが。

 

[ナノクォーツは、入力された運動エネルギー、熱、電磁波、高エネルギー粒子を電力へ指定して変換可能です。しかし、許容量を超えるエネルギー入力時には構造体へ損傷が発生します]

 

「……それを修復してるってこと?」

 

[はい。破損箇所を再構成しながら運用しています]

 

いや待って、待って待って。

それ、つまり……

 

「飛びながら自壊と修復を繰り返してるってこと?」

 

[正確には、破損と再構成の循環です]

 

いや言い換えただけだろ。

思わずヘルメットの中で顔をしかめる。

何だその、存在が綱渡りみたいな機体……普通、機械って壊れたら終わりだ。

修理工場行き、部品交換、それが当たり前だ。

でもシルフは違う。

壊れる前提で飛んでる。

 

「いやいやいや……怖……」

 

[恐怖を感じる要素でしょうか]

 

「感じるわ」

 

だって今の話、人間で言ったら骨折しながら全力疾走してるようなもんじゃん。

 

[近似します]

 

「近似すんな」

 

でも、そこで気付く。

 

「……だから慣性配分?」

 

[はい。当機は機体へ入力される力を各構造体へ分散し、局所的破損率を低減しています]

 

「低減ってことは、ゼロにはできないんだ」

 

[不可能ではありませんが、機動力が著しく低下します]

 

なるほど、つまりシルフは壊れながら飛ぶ方を選んでる。

 

「燃費より速度優先のスポーツバイクかよ……」

 

[近似します]

 

「何でも近似すんな」

 

でもその瞬間、妙な感覚が胸をよぎった。

シルフの飛び方は慣性を受け流し、壊れた箇所を再構成しながら、限界ギリギリで飛行する。

それって何だか……生き物みたいだ。

 

[危険だなぁと思っているようなので、補足で説明をします。人間は、骨折や筋肉痛を起こした場合、組織の再構成過程で損傷前よりも強化されます]

 

「超回復ってやつ? 生物学で習った」

 

[はい。当機の基礎フレームも類似した挙動を取ります]

 

「……は?」

 

[損傷データを元に構造最適化を行い、再構成時に強度及び耐G性能を向上させます]

 

「ちょっと待って。つまりシルフって、飛べば飛ぶほど頑丈になるの?」

 

[一定範囲においては]

 

一定範囲って絶対それ便利な言葉だろ。

でもつまり、シルフって。

戦闘、機動、衝突、加速、そういう極端な環境へ晒される度に、学習して強くなる。

 

で、構造がどんどん最適化されて、ガチで強い骨格が生まれる。

でもこれって、「生まれたて」の場合は相当脆いってことになるんじゃ……

 

「生き物じゃん……」

 

[当機は機械___モビルスーツです]

 

「機械は普通、酷使したら壊れるんだよ」

 

少なくともバイクはそうだ。

エンジン回し続ければ摩耗するし、フレームだって疲労する。消耗品なんて言葉まである。

 

でもシルフは違う。

壊れた結果を記録して、次は壊れにくい形へ組み替える。

 

「怖……」

 

[理解不能ですか?]

 

「理解はできる。納得したくないだけ」

 

だってそれ、兵器として理想すぎる。

 

普通の兵器には寿命がある。

稼働時間、整備限界、金属疲労___あ、今はカーボン疲労か。

 

でもシルフは、壊れる事そのものを性能向上へ変えてる。

それって……

 

「終わり方なくない?」

 

[いずれ限界へ到達します]

 

「ホントに?」

 

[はい。演算資源、エネルギー備蓄、構造劣化限界、自己修復速度には上限があります]

 

……よかった。

いや、良くはないけど。

少なくとも無限に進化する怪物じゃないらしい。

 

でも、その安心は長く続かなかった。

 

[ですが、通常環境下において当機が機能停止へ至る可能性は極めて低いかと]

 

「それを世間では怪物って言うんだよ」

 

そう返した瞬間……何となく、本当に何となくだけど、シルフが少しだけ黙った気がした。

 

[……モビルスーツです]

 

「いきなりどうした?」

 

[……性能面を見れば、怪物と言われても仕方がないかと。ですが、私はモビルスーツです]

 

「悪かったって」

 

[謝罪を求めているのではありませんが、当機は自己をモビルスーツと認識しています]

 

「はいはい、分かりましたよモビルスーツさん」

 

[はい]

 

即答だった……何かちょっとムカつくな。

 

「そこは否定しないんだ」

 

[事実ですので]

 

「その事実が怖いって言ってるんだけど」

 

ハンドルを軽く切りながらため息を吐く。

でも、シルフがわざわざ言い直した理由は何となく分かった。

 

多分。

 

シルフにとって、“怪物”って言葉は、性能の話じゃない。

存在の話だ。

 

だからわざわざ、“私はモビルスーツです”なんて言い直した。

兵器、機械、道具、そういう枠へ、自分を押し込めるみたいに。

 

「……別にさ、怪物だから嫌とか言ってる訳じゃない」

 

[はい]

 

「ただ、なんて言うか……」

 

上手く言葉が出てこない。

 

シルフは、明らかに普通じゃない。

それを単純に“兵器”って言われると、逆に違和感があった。

 

「なんか、もっとこう……生き物っぽい」

 

[当機に、生物的挙動が見られるという意味ですか]

 

「まぁ、そんな感じ」

 

[理解しました]

 

「理解できたの?」

 

[完全には。ただ、纏が当機へ恐怖と親近感を同時に抱いている事は理解可能です]

 

「……分析すんなよ」

 

[失礼しました]

 

失礼って思ってないなこれ。

でも、少しだけ可笑しくなった。

 

怪物だとか、化け物じみてるとか、そんな話をしていたはずなのに。

今こうして会話してるシルフは、妙に人間臭かった。

 

 

__________

 

 

 

あれから何だかんだあって、福岡入りをした。

ムラクモは井澄派__敵が見えなかったからどんなのかは分からないけど__を倒して戻ってきたらしい。

 

一応、川原駐屯地の近くを通ってみたけど……機体は損傷してた。

肩の追加装甲が吹き飛び、脚部カーボンフレームの一部が露出してる。

整備員が慌ただしく動き回っていて、何人かは溶接用のアームを使って応急固定をしていた。

 

一応パイロットは生還してるみたいだけど、やっぱ国土防衛は無傷じゃ済まないみたい。

 

道路脇へバイクを停め、少しだけその様子を眺める。

 

70t近い巨人__ニュースとか映像だと分かりにくいけど、実際近くで見ると圧迫感が凄い。

あんなのが走って、飛んで、戦って、壊される。

 

それを人間が動かしてる。

 

「……兵器だなぁ」

 

ぽつりと呟く。

 

シルフみたいな“変なの”と話した後だと、逆にムラクモの方が普通に見えてしまうのが変な感じだった。

 

[NMS-06ムラクモ。現行主力機としては平均的な性能かと]

 

「平均で空飛ぶ70tって十分おかしいんだよ。戦車と戦闘機のハーフが腕と足付けて飛んでるんだから」

 

[技術水準とはそういうものです]

 

「便利な言葉だなぁ、それ」

 

駐屯地の奥では、別のムラクモが低出力で駆動試験をしていた。

モーターの低い駆動音__エアリアルのじゃないヤツが腹の底へ響く。

その瞬間、ふと妙な事を思った。

 

ムラクモは壊れて帰ってきたけど、シルフは壊れながら飛ぶ。

 

「……シルフ」

 

[はい]

 

「もしムラクモにも、シルフみたいなナノクォーツ使ったらどうなんの?」

 

……考えてるな、ものすごい勢いで計算しながら。

 

[恐らく、現在の運用思想そのものが崩壊します]

 

「崩壊?」

 

[はい。整備、補給、稼働限界、損耗、兵站。現在の軍事体系は、機械が劣化する事を前提に構築されています]

 

あぁ、言われてみればそうだ。

壊れるから補給がいるし、壊れるから予備部品がいる。

壊れるから、整備員とかの後方支援がいる。

 

でもシルフは違う。

 

[当機のような機体は、既存兵器体系と相性が悪いかと]

 

「悪いどころじゃない気がするけど」

 

だって、そんなの“減らない兵器”みたいなものだ。

その時、整備中だったムラクモの胸部ハッチが開いた。

 

担架に乗せられ運ばれるパイロット。

それを見た瞬間、さっきまでの思考が全部吹き飛んだ。

 

「……あー」

 

現実だ、やっぱり。

空飛ぶ70tがどれだけ異常でも、戦ってるのは人間なんだ。

 

[パイロットの生体反応はあります。ご安心ください]

 

「シルフがいるから感覚バグりそう。アレ慣性制御効いてるの?」

 

[恐らく、旧来の戦闘機に類似した慣性軽減かと。耐Gスーツ、コックピットその物の構造等です。現在の第8世代有人超音速戦闘機は、「座りながら寝るような体勢」となっています。座り方としては、リクライニングチェアが近しいかと]

 

何でそこまで詳しいんだよ……

世界全部ナノクォーツの中に入ってんの?

 

……先、急ご。

 

福岡大までもうそんなにない。

適当なホテル捕まえて寝るとこ確保してオープンキャンパス行こ。

 

 

 

________

 

 

 

 

ズルズルズル……

 

[……]

 

ズルズルズル……

 

[……]

 

「美味い」

 

ソーキそばの立場が危うくなるくらいには美味しいじゃん、博多の豚骨。

畜産が減ったというのにしぶとく天然物使ってるだけあるわ。

 

濃い、でも重くない。

骨溶かしてんの?ってくらい濃厚なのに、ちゃんと麺が入ってくる。

マジで何これだわ。

 

「はー……生き返る……」

 

バイク移動の後って、塩と油がやたら美味しく感じるんだよね。

汗かくし。

 

店の中は狭かった。

カウンター席メインで、壁には変色したメニュー札。

古い換気扇が回ってて、床はちょっと油っぽい。

 

でも、こういう店の方が美味い。

これは経験則、ソーキそばのだけど、麺類はだいたいこうだと思う。

 

あと、これ、昔だったら深夜に食べると怒られるタイプの味がする。

もうこれ暴力だ、うん暴力。

 

[豚骨スープの香気成分を分析。高濃度の動物性脂質と__]

 

「やめろ現実見せるな美味しくなくなりそう」

 

[失礼しました]

 

危ない危ない、食レポを化学分析にされるところだった。

替え玉どうしようかなぁ、とか考えながらスープを啜る。

 

そういえばシルフ、こういう時妙に静かだ。

 

「シルフ、食べられないの不便じゃない?」

 

[必要性を感じません]

 

「いやまぁそうなんだけどさ」

 

でも、食べられないって、なーんか勿体ない気がする。

この味知らないの、人生ちょっと損してると思う。

 

「豚骨ラーメン美味しいよ?」

 

[纏が満足している事は理解しています]

 

「味は?」

 

[データとしては]

 

「違うんだよなぁ……」

 

多分、この辺が人間なんだと思う。

腹減って、疲れて、温かい物食べて、ちょっと元気になるっていう、そういうの。

 

シルフは全部理解してるはずだけど、理解してるだけだ。

 

……いや、本当にそうか?

ふと、妙な考えが頭をよぎる。

 

人間みたいに喋って、空気読んで、沈黙して、ちょっと拗ねたみたいな反応して。

 

それで、"私はモビルスーツです"なんて言う。

 

「いやーまさかね」

 

[??]

 

食った食った。

さー行こ。

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