「ということなんだね?」
[流石に肉眼を誤魔化すことは厳しいかと。脳に侵入して偽映像を見せることは流石に不可能です。ナノマシン自体、生体に入れることを今は想定していません]
グロいグロいグロい。
あと言い方、ナノマシン自体を新しく設計して作れば医療用として使えるかもってことじゃん。
多分ナノクォーツからちょっとずつ吐き出してる感じだと思うけど、相当ヤバいから。
あ、今は持ってく物を積み込んでる。
慣性軽減とか配分とかでコックピットは1G、多くても1.5Gになるようにしてくれたから、バックパックに追加でナノマシンで造ったコンテナとかコックピットの下あたりに詰め込んでる。
自慢のエアリアルバイクもバラしてコンテナ行き、ちょっとお休みだ。
貯金は口座に残してても意味ないし、あるだけ引き出した。
国内じゃ外貨交換もクソも無いから日本円は持ってかずに物にしておく。
買える物は全部買う。
保存食、工具、薬、予備部品。
とにかく詰める。
詰めて、詰めて、詰め込む。
出発時期は1か月以内。
海上哨戒艦艇の交代タイミングへ被らないよう動く事になった。
当たり前だけど、見張り交代中は一瞬監視が薄くなる。
交代役が移動して、現場引継ぎして、ようやく帰投。
その僅かな隙間を抜ける。
[戦略自衛隊によるUUV引き上げが完了したとの事です]
「お、出た」
今は9月。
夏休みも終わったのに、まだ普通に暑い。
流石に学校を休み続ける訳にもいかないから渋々通ってるけど……まぁ、そろそろおさらばだ。
「解析の方は?」
[状況が状況ですので、沖縄本島外への移送が決定したようです]
「どこ?」
[馬毛島です]
「あー……」
納得した、本土へ持ち込むには危険。
でも沖縄へ置き続けるのも危険ってことで、離島の島に隔離する。
実に戦略自衛隊らしい判断だった。
それに米軍がいた頃は共同で使ってたレベルでデカい基地で、ホントに例えとか誇張抜きで島丸ごと基地になってる。
[解析結果についてですが、恐らく通常の通信では行われないかと]
「ヤバい事が分かっても盗み聞きはできないか」
[はい。ですが、那覇基地側へ情報が降りる可能性があります]
「つまり?」
[可能な範囲で傍受します]
……ここでツッコミ入れない私も相当麻痺って来たな。
_____________
本島の基地を除けば最大の防衛拠点である馬毛島は、当初は主滑走路と横風用滑走路が目立つ基地だったが、竣工から長く経過した22世紀では陸海空戦略自衛隊にとっても重要な拠点となっていた。
訓練区域として空けられていた南側の土地と海域を海上自衛隊駐屯地とし、島の地下の開発も同時に着手、本土では出来ない研究開発施設としての側面も獲得した結果、シーパワーの強化を絶えず求められる日本の重要な拠点となっていた。
そこに、1隻のUUVが運び込まれた。
謎の座礁を引き起こし、海域全体へ異常な音響妨害を発生させていた機体。
UUVは厳重封鎖の上で搬入され、地下深部の解析施設へ移送された。
そして分解調査開始から4時間後。
解析班は、最初の異常報告を上げる事となる。
戦略自衛隊那覇基地
「どういうことですか大臣!? この件から手を引けと言うのですか!?」
伊坂は思わず声を荒げた。
モニター越しの本城は、疲れ切った顔で沈黙している。
『……手を引けという事だ』
「ですが!」
『仲原総理からの指示だ。この件は、もうどうにもならん』
通信越しでも分かるほど、大臣の声は重かった。
『すまない。だが、一旦ストップだ。上の説得は続けるが、防衛出動が起こるかもしれん。那覇の予備機を借りられるようにする。備えて欲しい』
通信が切れる。
静まり返った指揮室で、伊坂はしばらく動かなかった。
調査中止___それなのに、戦闘準備だけは進む。
「……何を隠してる」
しかし、長い付き合い同士、分かる。
国土を守る事を芯に据えたもの同士、本城は「本能的にヤバいと感じた為備えさせようとしている」のだ。
ならば本城を信じよう。
「至急、予備機の準備に取り掛かる。態勢3……いや、2が出るかもしれん。覚悟を決めろ」
________
名護市
何か、空気が変わった気がする。
那覇基地だけじゃない。
周辺基地でも機体の待機状態が続き、哨戒機の飛行数も増えていた。
明らかに、戦略自衛隊側が警戒態勢へ移行している。
でも、私達には何が起きているのか分からない。
多分、原因は馬毛島の解析。
けど、その情報は那覇基地側にすら降りてきていないらしい。
つまり、相当上で止められてる。
「……嫌な感じ」
備えようにも、何に備えればいいのかが分からなかった。
[現状の情報から推測を立てますが、UUVの座礁のキッカケとなった攻撃方法が判明したのかと]
「魚雷、爆雷での攻撃じゃない、操作ミスで沈んだって感じでもない。じゃあ海流?」
[海上保安庁、及び気象庁が採集する海流情報を参照した結果、潜水艦が操舵困難に陥るレベルの海流の発生は確認されていません]
「……じゃあ何?」
沈黙、その沈黙が妙に重かった。
[不明です]
不明、情報が無い、推測だけでは辿り着けない。
電子情報でのやり取りを閉じられた以上、盗み聞きはできない。
……ちょっとヤバくなってきたかも。
でも、確かなのはシルフも分からないと言っているから「明らかにシルフ絡みではない」事だ。
そこだけは逆に安心材料だった。
……昼休み終わり、午後の授業行こ。
「起立、礼、着席」
寝ようかと思ったけど、そうも言ってられない。
授業用PCにシルフ入れて他事調べても問題ないようにしてもらって、調べられる事は調べていった。
軍関係じゃなくて、スレッドサイトとかを。
スレタイ:ムラクモが普段よりたくさん出てるんじゃがヤバいんかね?
1:名無しのミリ太郎 2120/9/12 13:30:57 ID:CQAg1X5Yv
また中国か?
2:名無しのミリ太郎 2120/9/12 13:31:12 ID:b3dbgpF7c
演習にしては数多くね?
3:名無しのミリ太郎 2120/9/12 13:31:29 ID:mFzcGUEkB
昨日那覇でムラクモ3機飛んでたぞ
5:名無しのミリ太郎 2120/9/12 13:31:46 ID:jA5+Vkrln
親父が港関係だけど、なんか海保もピリついてるって
8:名無しのミリ太郎 2120/9/12 13:32:02 ID:dnVoTONmz
戦争とかやめてくれよ……
(ヤバいってことは、もうネットで広まってる)
逆に少し安心した。
少なくとも、露骨な言論統制は入っていない。
情報はちゃんと広がってるから皆、なるべく気にしないようにはしてるけど、“何かヤバい”事だけは理解してる感じだ。
ただ、本島側――九州とか本州辺りは少し温度差があった。
那覇の騒ぎは聞いてるけも、「まぁ沖縄だし」「自分たちは大丈夫」みたいな空気がある。
……平和ボケって、こういうのを言うんだろうか。
「――あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつる事に候」
教壇の教師が、ゆっくり現代語訳を書く。
“失敗は、もう安全だと思った時に起こる”
「つまり兼好法師は、“危険そのものより油断が怖い”って言ってるんですねー」
今は古文の授業。
徒然草の第109段で、危険そのものより、油断が怖いという話。
……悪趣味っていうか、今の状況に妙に合いすぎていた。
教室の後ろでは誰かが欠伸してるし、前の席は普通に寝かけてる。
窓の外では、まだ夏の熱が残った空気が揺れていた。
平和そのものだ。
だからこそ。
[纏]
視界端、授業用PCの隅へ小さく通知が出た。
[自衛隊海上監視網に大規模な異常を確認]
「……え?」
思わず漏れた声に、前の席が振り返る。
その瞬間。
ブゥゥゥゥゥ――――ッ!!
低い警報音が、校内全体へ響き渡った。
人間の本能に訴えかけるような不気味な音、防災とかの授業で聞いたくらいの不快感マックスの警報音が響いている。
それも学校だけじゃない、名護市全体に響いているように聞こえる。
それに応えるように、通知を切ってた筈のスマホが一斉に喚き始めて、画面に見た事ないレベルの警告文が表示された。
「国民保護に関する情報……?!」
Jアラートだ。
間違いない、これを出すレベルって事は、他国か、それとももっと別の何かに攻め込まれてる。
その瞬間、教室が完全に崩れた。
「は!? ミサイル!?」
「ちょ、マジ!?」
「避難ってどこ!?」
教師が慌てて教卓の端末を操作するけど、画面は読み込みのまま固まっていた。
[回線輻輳を確認。割り込みをかけ、纏の端末は優先的に通信可能となるように調整します]
シルフの声だけが妙に冷静だった。
シルフの独断も今はそれでいいけど、攻め込んできたやつの正体が知りたい。
……仕方ない。
「シルフ! 陸海空の監視網を使って敵の正体を調べて!」
[ですが今からとなると、侵入に時間がかかります。強硬手段はとれますが、ログが残る可能性があります]
「気にするな! やれ!」
一瞬の沈黙が生まれ、シルフが決断した。
[了解。全リソースの20%を使用し、監視網への強制接続を開始します]
バレてしまった。
この場で指示を出したから思いっきり聞かれたし、教室の目が一斉にこっちを向いてる。
でも、おさらばまで秒読みだけど見殺しにできる程に心は終わってないんだ。
「深浦、何をしたんだ?」
「説明は大分端折るけど、ヤバいのが来てる。別の国じゃない、もっとヤバいやつ」
教室が静まり返った。
もうこれで、私の退路は無いから、下がっても無理。
もう進むしかない。
[監視網への侵入成功。軍事衛星からの衛星画像を受信。表示します]
画面に映った瞬間、息が止まった。
来た……敵の正体は――
「これ、人類の兵器なのか……?」
結晶のような何か、多分ナノクォーツっぽいものが、装甲を造って、生き物みたいな兵器になってる。
光を反射してギラギラ光ってて、いろんな姿をしてる。
皆揃って虫みたいな見た目をしてるけど、洋上にいるクソデカイのは水族館のエイみたいだ。
幅広くて、砲台っほいのが沢山付いてて……空母なのか?
そして――止められそうにない。
「冗談だと言ってよ……他国からの侵攻の方がまだ嬉しい」
[衛星画像解析を継続]
シルフの声は変わらず冷静だった。
[対象は沖縄県北西部海面上を高速移動中。形態はともかく、組織的な行動を取っています]
「は?」
教室の誰かが息を呑む。
組織的な行動____その単語だけで、空気が凍った。
「計画的侵攻というの?!」
[人間が介在している可能性は低いです。ナノクォーツ類似素材をメインとして機動兵器を造ること自体が想定外のため、もっと別の組織か人外の可能性も考えるべきかと]
机の上の教科書が微かに震え、窓の外の街灯が揺れる。
誰も声を出せず、全員がスクリーンを凝視する。
空気は重く、息を吸うのも怖くなるような緊張に包まれた。
「……これ、止められるのか……?」
誰かの小さな呟きが、静まり返った教室に吸い込まれるように消えた。
止められる?
あれが、止められるのか?
……一般人じゃどうしようもない。
でも、MSがあるなら話は別だ。
[那覇基地より、ムラクモ1個中隊12機の発進を確認]
「シルフ! お前は1人でも動けるんだろ!?」
[可能ですが、その後の行動はあまり推奨できません]
「そこまで心終わってない! 校庭に飛ばせ! 私のとこまで飛んでこい!」
[命令を受諾]
教室の空気が止まった。
その瞬間、遠く、地鳴りみたいな低音が響いた。
[ガンダム・シルフ。起動シーケンススタート。主機熱核融合炉のスターター接続。プラズマ生成開始]
完全に想定外です。
夜中を狙った絶対防空圏の突破のスケジュールを全て消去し、戦闘行動への移行を宣言するとは。
しかし、纏という人間の精神を精査すれば、こうなることもあり得たかもしれません。
纏は、親に恵まれませんでした。
ですが、それが原因で人嫌いになったという訳でもありません。
恐らく、福岡までの旅とは別に、何度もツーリングで“まともな大人”と関わった影響でしょう。
困っている相手を放置しない。
見捨てるという選択肢を、最後まで選び切れない。
それが、深浦纏という人間です。
故に、当機は現在、全隠密行動を破棄。
戦闘行動へ移行します。
[主機起動を確認。ライフル生成まで4秒]
ナノマシン散布、急速形成を開始し、当機に保存されていた情報を基にライフルを生成します。
コックピットでの作業とは異なり、周囲に人がいない為大量のナノマシンを散布した形成を実行します。
精密な移動を実行しない分形成は実に容易であり、直ぐに完成しました。
[纏の現在位置を確認。ガンダム・シルフ、発進します]
生成したライフルを構える。
照準補正、出力調整。
そして、発砲。
轟音と共に天井が爆ぜて溶けたコンクリート片が雨のように崩落し、封鎖されていた地下ドックへ巨大な縦穴が穿たれると、空が見えます。
その瞬間、私の演算に少しのノイズが走ります。
……これが空、十一年間閉ざされていた外界ですか。
『シルフ!』
[シルフ、行きます]
変換を開始、電力を斥力に変換、鉛直方向への指向性を付与。
浮上、全システム異常無し。
目標、12541m先、沖縄県立名護第2高等学校グラウンド。
飛行開始します。
__________
「Jアラート発令。沖縄県全域に対し緊急安全確保を発信」
「那覇基地、知花基地、及び稼動可能な機体は迎撃に向かわせろ」
沖縄から遠く離れた首相官邸の地下深く、危機管理センターには既に閣僚の半数以上が集まり、正体不明の敵影の解析と関係各所への連絡が行われていた。
「那覇基地からの上空観測機、敵影を捕捉しました」
「首相入られます!」
「皆、そのまま作業を続けてくれ」
仲原は作業の手を止め礼をするのを手で制し、秘書官から受け取ったタブレットの資料にざっと目を通し状況を読み込んだ。
「岩手の反応は?」
「ありません。共鳴が起こるモノかと思いましたが、全くの無反応です」
「やはり機能停止状態か。監視を続行、些細な異変も見逃すな」
「大臣! シュワブより異常なエネルギー反応!」
「拡大しろ! モニターに出せ!」
「モビルスーツ……米軍の置き土産というのかッ!?」
「映像解析来ました! ムラクモとほぼ同等のサイズで、機体内部に核反応があります!!」
「どっちだ!?」
「融合反応です。信じられない……MSに熱核反応炉なんて……」
「例の機体がシュワブより移動を開始! 予測進路……県立名護第2高等学校です!」
「避難はどうなってる?!」
「自衛隊の指示に基づき近隣のシェルターへの避難を開始していますが、衛星画像では1人がグラウンドに残っています! 機体の画像出ます!」
それは、白銀のMSだった。
一対の背部バインダーは妖精の羽のように光を屈折させ、V字型ブレードアンテナは触覚にも戦士にも見える。
その手にはライフルらしき物と盾らしき物____未知の武装が握られ、その体躯は兵器らしくない柔らかな曲線で構成されている。
そうだ、日本という国家はアレを見た事がある。
「ガンダム……ッ!」
未解明にして福音、希望でも絶望でもない何か、真の神の火のキッカケ、日本の体制の持続の源、どのようにも言い表す事ができるが、仲原は、たった一つの最重要機密事項から、この単語「ガンダム」を絞り出した。
「総理、アレが例の……」
「ああ。まさかガンダムタイプがもう1機が存在したとは……」
「総理! あの未知の機体が今回の攻撃のキッカケではないのですか?!」
「いや、あの機体だけは違う」
根拠は無いが、仲原は断言した。
いや、正確には存在する。
だが、その情報は日本国において最上位の秘匿事項だった。
“ガンダム”____それは兵器名称ではない。
日本という国家が、22世紀まで生存する為に封印し続けた、消えない火だ。
しかし、ガンダムは一直線に飛行していた。
迷いなく、誘導もされず、まるで最初から、そこにいる人間を知っていたかのように。
そして、沖縄県立名護第2高等学校グラウンド。
避難の終わった校庭に、たった1人残された学生が、その白銀の巨人を見上げていた。
___________
輻輳がとんでもないことになってるはずのスマホがサクサク動き、どのネットニュースも緊急安全確保の事を喋ってる。
ダメだ、これは地震とか台風とかのレベルじゃない。
もっとヤバい___他国の武力侵攻が可愛く見えるレベルの、生きた災害だ。
『纏、お待たせしました』
スマホからじゃなくて真上から声が降ってきて、見上げるとドでかい影が降ってきた。
太陽背負って洒落た真似をしながらゆっくり降りてきたその姿は、つい1日前までドックでへたり込んでたのとは大違いだ。
「すごい……これが……」
『これが私です。私の、本来の力です』
スラスターも吹いてないのにふわっと着地して___でも60tの何かの塊が降り立つから砂ぼこりが一気に来て思わず顔を守った。
……やっぱ炎も爆音も無いのに飛ぶってすごいな。
『急いでください。既に、日本国政府の偵察衛星が本機と名護第2高等学校を捉えています』
「もうバレてる! 覚悟決めてる!」
『宜しいのですね。この機体は観測器であり、純然な戦闘用MSではありません』
「それでもムラクモより全然強いんだろ!?」
『当機は敵の破壊ではなく、観測を目的として設計されています』
「は?」
『ですが、纏が戦う事を望むのであれば、当機はそれを支援します。その為にライフルの生成も行いました。当機は、纏の精神構造の解析を通し、ここに来ることを命じたタイミングで戦闘になる可能性を感じていました』
「……シルフ、分かってて準備したの?」
『当機は観測器です。観測対象が、貴方でもあったのです』
……何でも分かんのかよ、この観測MSは。
シルフがデカい手を差し出してきたからそれに飛び乗ると、自分でコックピットハッチを開いてそこまで持ち上げた。
『最後の確認です』
「くどい! 覚悟決まってんのに何度もアイドリングストップするな!」
『了解。パイロットスーツ未着用のため、慣性分配を最大に設定』
白銀の指先から、球形コックピットへ。
そこへ足を踏み入れた瞬間。
もう、自分は“普通の女子高生”には戻れないのだと理解した。
いや、教室でシルフ呼び出してとんでもないことやらせた時点で戻れないけど。
取り敢えずクラスのみんなは北東方向に逃げてもらったから、そっち方向に逃げれば大丈夫だろう。
モニターがオフになってる球体コックピットの中心、モリモリに増設した米軍系コックピットシートに座り、操縦桿に手を置き、調べたコマンドをスイッチで弾いて操縦システムを立ち上げた。
「閉めて!」
コックピットがガコンと降りて完全に閉まると、スクリーンに外の景色が投影された。
自分が巨人になったみたいなそんな違和感がするけど、今自分は非現実に乗っているんだ。
自分のイメージがそのまま動きに反映される、まるでシルフが第2の身体になった感じで変な感じだけど、今は「どういうことだ?」と考えてる暇はない。
『インターフェースを人類仕様に調整。完了までに7秒頂きます』
太い線と細い線だけで造られた何か___多分文字か何かを物凄い勢いで日本語に書き換えてる。
人類仕様って事は、やっぱりシルフは人外未知な機体なんだ……。
『調整完了。読めますか?』
「大丈夫!」
操縦桿を自分の方に引いて……ッ!
「飛べ!!」
見えない力場っぽい何かが私をシルフごと押し上げて、一気に上昇を始めた。
成程……ッ人は飛べないから飛ぶイメージができない……ッだから操縦桿必須……ッ!
『現在、外界加速度は5G、コックピット内加速度は1.5G』
でも、本来なら人体が潰れるような加速をしている事だけは理解できた。
慣性の分配で私をグシャッて潰してくる加速度を機体に散らして、私にかかる分をいい塩梅にしてる。
あとは……ッスカイダイビングしてる人……ッじゃない、ムラクモが飛んでる時にしてる動きをイメージして前傾でライフルを構えて、上に突き飛ばす力に加えて前に進む力!
そんな曖昧なイメージを、シルフが補完していくのが何となくわかる。
姿勢バランス、推力の調整、私の視線に合わせて頭部を振る。
自分はただ、“飛びたい”と考えただけなのに。
シルフは、その無茶苦茶な感覚を実際の飛行制御へ変換していた。
アナログな考え方を一気にデジタルに落とし込み、シルフが私を飛ばしてくれている。
シルフの無茶苦茶な能力は散々見て来てるけどここまでとはね……ッ!
両手両足を振って作用反作用で機体を方向転換させると、北西に飛ばした。
エアリアルよりも速い、500か600キロで足元の本島が消えていって、すぐに湾が見えた。
そしてその遥か先、自衛隊の監視網で見たバケモノがいた。
「武器は!?」
『メーザーライフル、発砲可能です。射撃後、再充填に10秒必要です』
実弾じゃない?
メーザーってまず何?
「レーザービームじゃないの?!」
『メーザーとはマイクロ波です。荷電粒子砲とは異なり高出力マイクロ波を収束し、指向性を持たせて照射する兵装です』
「マイクロ波ぁ?!」
思わず変な声が出た。
調理器の加熱機能のアレ!?
いやいやいや、あれを兵器にするとかどういう発想!?
『照射対象内部を直接加熱、及び電子機器への電磁障害を発生させます。通常装甲に対しても有効ですが、内部破壊にも使用可能です』
「待って待って待って、つまり敵を“中から焼く”ってこと!?」
『概ね正解です』
怖っ。
しかも、さらっと言ったけど電磁障害って。
その瞬間、コックピット内の表示が一瞬だけ揺れた。
『現在、発振器を充電中。融合炉出力を兵装系へ優先供給しています』
球体モニター端に、見たこともない出力グラフが跳ね上がる。
紫色のラインと赤い警告表示。
空気が、ジジ……と耳鳴りみたいに震え始めた。
ライフルそのものが発熱しているのか、白銀の銃身表面に薄紫の光が出始めた。
『照射時、周辺電子機器へ軽度の影響が発生する可能性があります』
「軽度で済むの?!」
『保証はできません』
「できないんかい!」
そんなやり取りをしている間にも、海の向こうの“群れ”は近付いてくる。
エイみたいな超大型。
虫みたいに蠢く小型群。
海面そのものが、生きているみたいに波打っていた。
そして次の瞬間。
『敵性個体、高速接近』
「ッ!?」
反射的に引き金を引いた。
ブゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
紫色の帯が夜空へ走る。
ビームじゃない、多分空気そのものが焼けながら裂けていって、衝撃波みたいなのが吹き抜けていって機体が揺れた。
シルフが既に照準補正を終えていたのか、照射は寸分違わず命中したけと次の瞬間、虫型がボコボコと泡立つように崩れ始める。
爆発じゃない。
内部から煮えたみたいに、結晶構造そのものが熔け落ちていく。
「うわっ……」
恐ろしい出力だった。
シルフだから扱える、明らかに人類の技術段階を踏み外した兵器。
しかも実弾じゃなくてバカみたいに強い電磁波――だから弾の速度はほぼ光速。
狙って撃てばほぼ確で当たる。
だからこそ、余計に怖かった。
それが何だか恐ろしくて下に顔を向けてしまったけど、少し後悔した。
真下では、とても信じがたい光景が広がっていた。