転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:ゆかに
それが神だったのか、悪魔だったのか、はたまた宇宙人か異世界人か、まったく誰もわからなかった。
ただ、全人類は一様にその時その瞬間、自分の最もよく知る言語でそれの声を聞いた。
――条件を達成しました。
――世界は次のヴァージョンに移行します。
――人類種は『固有スキル』と『クラス』を成長させ、ダンジョンを攻略してください。
最初はそんな言葉を真に受けるものはいなかったが、世界中様々な場所でダンジョンが現れ始めるとその言葉に信憑性を感じる者は多くなっていた。
その言葉には決して強制力はなかったが、しかし人類はその言葉通りに行動する他なくなった。
理由は二つ。
第一にダンジョンでは様々な物理的に説明がつかない現象を引き起こす【宝物】が手に入る。それは国力を増強する上で必要不可欠なものになった。
第二にダンジョンにはモンスターが生息するが、それを定期的に狩らなければダンジョンの入り口にある結界が破れ、外に魔物が溢れることになる。
◆
と、死んだ爺ちゃんが教えてくれた。
ダンジョンが発生したのは今から五十年ほど前だ。
今ではダンジョンの存在は普通に浸透している。
けど、文明にはそこまで変化はなかった。
ダンジョンの外では『固有スキル』と呼ばれる一人一つだけの能力を除いて、『クラスの力』や『
固有スキルを使った超能力犯罪は多少増えたが、警察も固有スキルを持っているわけだから法治国家としての基盤が崩れることはなかった。
それに、ダンジョンでは『死』が存在しない。
死んでも入り口に戻されるだけだ。
装備や道具が全部ロストするが肌着は残る。
だから、十五歳以上であれば誰でもダンジョンに入れるし、バイト気分でダンジョンに行く学生も沢山いる。今ではダンジョン内の動画や生放送までされている。
そんなダンジョンの一つ『死霊の楽園』に俺はやって来ていた。
理由……ってほどのものがあるわけじゃない。
ただ、両親は子供の頃に事故で死に、爺ちゃんも死んだけど多少の遺産があるから一人暮らしに難はなかったけど、大学で初めてできた彼女に浮気されて別れられて、でもその浮気相手が悪い男で元カノが借金背負わされて、それを俺が代わりに払ったら遺産がほぼなくなって、その助けた元カノは何故かその悪い男のところに帰っていったから。
なんか、爺ちゃんに申し訳ないし、自分の馬鹿さ加減も許せないし、生んでくれた両親に顔向けできなくて……
まぁ、色々あって後ろ暗い気持ちが爆発して……多分、自暴自棄ってヤツになってるんだろう。
なんか打ち込めるものが欲しかった。そんな理由だ。
「さて、誰かぶっ殺してくれよな」
なんて呟きながら巨大な魔法陣の中に入る。
周囲が光ったと思ったら、すでにダンジョンの中に入っていた。
薄暗い湿地帯。枯れ木がいくつも生えているけど、葉はないから見晴らしは割といい。
事前に調べた限りここには『悪霊系』の魔獣が多く出てくるらしい。
その代表的なのが……
「カカカカカカカカカカカカカカカ」
と、骨の軋む音を鳴らしながら土の中よりそれは這い出てくる。
白骨のモンスター。【スケルトン】。
装備はない。理由は金がないからだ。
固有スキルはない。それは魔獣を一匹以上倒さないと得られない力だ。
クラスはない。初めてレベルアップした時にクラスは選択できるらしい。レベルアップは魔獣を倒すともらえる経験値が溜まって起こるらしいけど、スケルトンの場合は三匹倒せば最初のレベルアップは行われるらしい。それ以降は必要な経験値はレベルアップするごとに増えていくのだとか。
まぁ、結論を言えば、今の俺には拳で抗う以外の戦闘方法は存在しない。
格闘技。やってない。YouTyubeにあった護身術チャンネルの見様見真似ができたらいいなって感じ。
そういや、あの浮気相手の男、一回会ったけど格闘技やってるとか言ってたな。何故か一発殴られたけど、その時はビビッて動けなかった。それを見て元カノは笑ってた気がする。
あぁ、なんかネガティブすぎてなんでもできるような気がしてきた。
「カカカカカカカ」
「素人のステゴロだ。でもお前皮と肉ねぇから俺の方が強ぇだろ」
少なくともこのダンジョンの浅いところに出てくるスケルトンは武器とかを持ってる訳じゃない。
条件は俺と五分。いや俺以下。
「砕いて畑に撒いて肥料にしてやんよ」
なんて言いながら殴りかかった。
カウンター気味にスケルトンにぶん殴られたけど、
これなら動ける。
けど
俺も避ける技術とか知らんし、殴り返すしかない。
でも、やっぱ皮と肉の差だろうか……将棋囲碁チェスサークルの俺でも殴り合いに勝てた。
スケルトンの死体(二重表現っぽいなこれ)が霧みたいに消えていく。
残ったのは魔石とかいう魔獣なら誰でも残す基本ドロップだけ。宝物のエネルギー源になるらしくて、サイズに比例した値段で買い取ってくれるらしい。
爪先程度のサイズだから数百円かな。まぁ、ないよりマシだ。拾っておこう。
――個体名『
――固有スキル【
これは『セカイの声』と呼ばれるものだ。
五十年前の最初の声と同じ、けど全人類に通知されているわけじゃなく、クラスやレベルに関しての通知は当人だけに行われる。
スケルトンを倒したことで固有スキルに目覚めたんだろう。
――【
クソボロボロだけど、あんまり痛みは感じない。
多分アドレナリン出まくってる。
「つーか、殺してくれよ」
ダンジョンで負った怪我は脱出時に全快するらしい。
だから治療費とかはかからん。
けど、気分的にもっと戦いたい気分だ。なんか楽しくなってきた。
「カカカカカカカカカカカカカカカ」
「あははははは」
骨の軋む音と俺の笑う音が、空間に響く。
薄暗い世界と、悪霊というちょっとキモイモンスター。
そのせいでここはあんまり人気がないらしい。ホラー配信したいダンジョンライバーくらいしか来ないスポットなんだとか。
誰に見られる心配もないだろう。
ただ殴り合う。人間という生き物は思ったよりも頑丈らしく、結構な数の殴打を食らっても俺は生きていた。
関節結構外れてるし、肉結構削げてるし、骨一部露出してるし、服ボロボロだし、髪の毛ボサボサだし、血塗れだけど……
「俺はまだ生きてんぞ」
誰に向けた言葉でもない。
強いていえば、世界とか運命とか、そういうくそったれななんかに向けた言葉だ。
――レベルアップしました。
――自動的にクラスが付与されます。
――キャンセルされました。
――固有スキル【
――以下よりクラスを選択してください。
【
セカイの声が返事しやがった。
「つーか【
はぁ、こいつはただの通知機能だ。
俺と対話してくれるわけじゃない。
固有スキルで好きなクラスを選ばせてくれるってんならさっさと選ぶか。
ネット知識的には【
他は知らんけど、その三つ以外の一次職は珍しいらしい。
どうせ選べるならレアなヤツにするか。
「【
――【
――クラススキル【
――以後、戦闘終了時にモンスターカードがドロップすることがあります。
なんだその能力……
全然戦闘で使えなくね?
いや、多分そのカードを【
まぁいいや。
別に無双とかしたくて来たわけじゃない。
ただのストレス発散。痛みって名前の活が欲しかっただけだ。
「カカカカカカカ」
「タイミングいいじゃん」
結局、俺はこの日六匹のスケルトンを倒した。
最終的には両腕が折れて、蹴りで対抗しようとしたけど、足を掴まれて転ばされて、馬乗りになられて殴り続けられた。
スケルトンは軽いから藻掻いていると何度か蹴りが当たってたらしく、六匹目のスケルトンと相打ちという形で俺は死んだ。
意識が戻ると、俺は入る時に使った魔法陣のすぐ横で転がっていた。
どうやら『死に戻り』ってものに成功したらしい。
「怪我……も治ってるな。頭も冷静になってきた。てか、俺さっきまで殺し合いしてたのか……」
自分の手を見ると僅かに震えている。
でも、俺は六匹のスケルトンを倒した。殺したんだ。
なんか……怖いもの無くなってきた気がする。
死ぬと二十四時間経過しないとダンジョンに入れなくなるらしい。
幸い大学がもうすぐ終わるし、就活はする気起きねぇし、ちゃんと出席はしてたから残りの授業全部休んでも単位は取れる。
「明日も来よ」
そう呟いて俺は帰宅することにした。
爺ちゃんの遺産に頼ってばっかりじゃダメだよなって思って借りてる安めのアパート。
でも、その遺産も全部なくなったし……
そういや、スケルトンの魔石拾ったんだったな。
ダンジョンの近くには必ずある換金所に寄ると、一個が百五十円で売却できた。
全部で九百円。まぁ、ないよりマシだな。
それから俺は毎日『死霊の楽園』に通った。
浅いところしか探索はしていない。
というか、ステゴロで戦ってるから深いところに行く前に死ぬ。
それでも一日に五~十体ほど倒すこと二ヵ月。
大学卒業と同時に【召喚士】のクラスレベルが10になった。
一次職は最大レベルが10で、レベル10になると二次職にクラスアップできる。
――条件を達成しました。
――自動的に二次職が付与されます。
――キャンセルされました。
――以下からクラスを選択してください。
一次職【
二次職【
え、一次職にもなれるの?
てか、なんか増えてね?