転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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10「第五階層」

 

 今日も今日とて『死霊の楽園』に来たわけだが、今回行くのは初見の領域『第五階層』だ。

 

 魔法陣から第五階層の【女神像(セーブポイント)】にワープして少し進んでいると、第一階層からずっと似たような景色だった暗い荒野の中に建造物が見えてきた。

 

「城……か……?」

 

 小高い丘の上に『三つの城』が見えた。

 一つは西洋風の白い石で造られた豪勢な城。

 一つは中国っぽい城壁と一体化したような三国志にでてきそうな宮殿。

 一つはオレンジっぽい色の砂岩や石灰岩で造られた古代エジプトにでもありそうな城。

 

 時代も国もバラバラな城が中央で一体化している。

 ダンジョンなんていう異空間に、人が文明と共に造り出したそれらが乱雑に置かれている光景は歪と言う他ない。

 

 けど、『死霊の楽園:第五階層』の情報なんてネットを調べて一件もまともな情報を見つけられなかった。

 

 自分で中に入ってどういう場所か確かめるしかない。

 

 三つの城にはそれぞれに入り口があった。特別どれを選ぶ理由もないのでなんとなく西洋風の城に入ることにした。

 

 内装も想像通りというか白を基調にところどころに金色の宝飾がされた豪華な造りだ。

 そこら辺に掛けられている絵画の一枚でも持ち帰ればそれなりの額になりそうだけど、ダンジョン内の物質は『魔獣からドロップした素材』と『宝物(アイテム)』以外は基本的に持ち出そうとすると、魔獣が倒された時のように霧になって消滅する。

 

 城に入り少し進めば広い部屋に出た。

 その広間の俺たちが入って来た以外の扉が一斉に開き、『そいつら』は「キキキキキ」という金属を擦らせたような音を響かせながら現れる。

 

 騎士だ。西洋風の全身鎧に身を纏った騎士たち。

 しかし、その騎士たちが身に纏う鎧の装飾には一貫性がまるでない。

 黒い鎧。白い鎧。青も赤も緑も黄色のヤツもいる。

 それに、施された意匠や紋章もバラバラだ。

 片手剣、盾、大剣、曲剣、槍、武器も色々だ。

 

「囲まれておるな。それと気を付けろ、足音が軽すぎる……」

 

 足音が軽い……? どういう意味だ?

 

「けど、いつも通りだ。爺ちゃんは自分の判断で行動してくれ、極美は隠れながら敵の数を減らしてくれ。二人ともヤバそうだったら送還する」

「了解した」

「カカ……」

 

 俺の指示に二人共小さく頷く。

 

「そんじゃあ始めるか。【敵視(タウント)】」

 

 俺のスキルの発動を合図にしたように、爺ちゃんが【亜空鞘(ソードインベントリ)】から刀を抜きながら、扉の一つに向かって突撃していく。

 極美もスキルを発動したらしく、存在が希薄になっていく。

 

 俺も爺ちゃんに造ってもらった籠手を装着し、掌を敵の群れに向ける。

 

「【雷撃(ライトニング)】」

 

 その詠唱と共に放たれたイカズチを引き金に、騎士たちが一斉に走り出す。

 

「【闘気(バトルオーラ)】」

 

 身体能力を強化し、

 

「【俊足(ステップ)】」

 

 敵の懐に潜り込み、

 

「【鉄拳(アイアンフィスト)】!」

 

 硬質化して威力を上げた拳を叩き込む。

 籠手がある分硬質化の恩恵は減ったが、それでも自分の拳に帰ってくるダメージはかなり軽減できる。

 

 俺のストレートパンチを鳩尾に食らった騎士は、そのまま後ろに控えていた騎士たちを跳ね除けながら壁まで飛んでいった。

 

「スキルの併用にも慣れてきた。どうよ、中々痛いだろ?」

 

 魔獣から返事はない。

 人型なのに喋る機能はないのか、それとも知能が足りていないのか。

 

 まぁ別に返事をして欲しかったわけじゃない。

 

 そのまま他の騎士も吹っ飛ばしてやろうと拳を握り込むと、ぶっ飛ばした騎士の姿が目に入った。

 

「は?」

 

 全身鎧が兜や胸当てや籠手やブーツなど、パーツごとにバラバラになって床に転がっていた。

 だがしかし、どこにも『中身』がない。それどころかバラバラになったパーツがポルターガイストみたいに独りでに動き出し、元の形に戻っていく。

 

「やはり、そういうことか……」

 

 そんな爺ちゃんの呟きが、遠くから耳に入った。

 チラリとそちらを向けば、兜が落ちた騎士が爺ちゃんと斬撃を交えている。

 その兜の中には人間の頭どころか、なにも入っていなかった。

 

「リビングアーマー……ってヤツか?」

 

 俺のスマホの検索履歴は、スケルトンやゾンビやらアンデッドに関するもので六割方埋め尽くされている。

 その関連でアンデッド系モンスターの記事がよく出てくる。

 

 その中に『リビングアーマー』ってモンスターの情報もあった。

 

 アンデッドの中でも『レイス』に近い実態を持たない種族。『鎧』を操って攻撃してくる。

 俺が知ってるのはそれくらいだ。

 弱点とか、倒し方とかそんなとこまでは調べてない。

 

 ダンジョン内は特別な機器を使わないとネットに繋がらない環境だから、今調べるなんてこともできない。

 

「爺ちゃん! こいつらの弱点どこ!?」

 

 爺ちゃんが獲得しているクラス【槍術士(ランサー)】のレベル10のスキル【急所解析(クリティカルインサイト)】は相手の弱点を見抜く。

 例えば人間に使うと全身が淡く光り、内臓や関節はより強く、脳や心臓、頸動脈なんかの壊れたらマズい部分はさらに強く光るらしい。

 

「鎧の内側のどこかに魔法陣があるようじゃ。おそらくそれが弱点じゃろう」

「魔法陣? それってどれくらいのサイズ? どこかってことは統一されてないの?」

「五百円玉程度じゃな。場所は個体によって異なり、法則性は見当たらん」

 

 ……じゃあ一回バラしてその魔法陣見つけて壊すか消すかしなきゃならないわけかよ。

 

「それと気を付けろ彩人。少なくとも技量の面でお主ではこやつらに勝てぬ」

 

 もう一度【闘気(バトルオーラ)】込みの【俊足(ステップ)】からの【鉄拳(アイアンフィスト)】で近くのリビングアーマーを殴りつけようとすると、俺の攻撃は紙一重で避けられた。

 

 振り下ろされる剣を籠手で受け止め、【俊足(ステップ)】で後ろに跳んで距離を取る。

 

 ……さっきの俺の動きを見て学習された?

 

 ダンジョンのモンスターは成長しない。

 剣聖骸骨(サムライレヴナント)との戦いで俺はそう結論付けたが、これには少し語弊がある。

 

 ダンジョンのモンスターの知識は『リセットされている』というのが正しい。

 剣聖骸骨(サムライレヴナント)との戦いでも一度の戦いで同じ攻撃を続けていれば、相手の捌きは的確になっていった。

 けど、俺が死んでもう一度やってくるとその対応は初見のものに戻っていた。

 

 この騎士共もそれは同じなんだろう。

 一度見せた攻撃は学習される。

 そして、その精度は武術を扱える者ほど顕著になる。

 

 それに……爺ちゃんの方を見れば騎士たちは爺ちゃんと斬り合っている。

 個人技で優れるのは爺ちゃんの方ではあるが、リビングアーマーがスケルトンソルジャーなんか比べ物にならないレベルの剣術を扱っているのは見てればわかる。

 

 だって、種族進化によって身体能力が向上しているはずの爺ちゃんが全然相手の数を減らせていないのだから。

 

 少なくとも、それ相応の武術をこいつらは体得してるってことだ。

 俺とは技量に差があり過ぎる。敵の数も多い。つーかどんどん扉の奥から出て来てるから総数は増え続けてる……

 

 絶望的ってのは、まさにこの状況のことを言うんだろうな……

 

「逃げるか彩人? 儂の【八艘跳び】があればお主を抱えて窓から逃げられるぞ。極美嬢はカードに戻せばよかろう」

「は? なに言ってんだよ爺ちゃん。やっと面白くなってきたところだろうが」

 

 不幸とか絶望ってのは中々忘れられないモノで、それから先の人生ずっと『あの時こうしてればよかった』『俺はなんて馬鹿だったんだ』って悩み続けるんだ。

 

 誰かのせいに、なにかのせいに、もしくは自分のせいにして一生付きまとわれ続ける。

 

 けど、それを解決できる方法が一つだけある。

 

 簡単な話だ。

 

 百円落としたとして、それを不幸だと思ってる時にもし百万円落としたらさ、もう百円落したことなんてどうでもいいだろ?

 

「逃げるわけねぇだろ。俺は、不幸が欲しくてここにいるんだ」

「不幸を忘れるためにさらなる不幸を求めるか……なんの解決にもなっておらん、破滅的な思考回路じゃ。だが、好きに生きよと言ったのは儂だ。それがお主であるのならば、儂は全霊を賭してお主を援護するとしよう」

 

 カッ、と骨の鳴る音が空間に響く。

 同時に騎士たちの足下が凍てつく。

 

 一体を完全に氷結させるのではなく、足だけの氷結に限ることで範囲を拡大した極美の【地昇氷結(アイスロック)】だ。

 

「ふむ、あまり得意ではないが……連携という行為(モノ)をしてみるかのう」

 

 爺ちゃんの姿が掻き消えた。【八艘跳び】を使ってる時の爺ちゃんの動きは線じゃなくて『点』って感じだ。

 まったく軌道が見えなかった。

 

 けれど、足下を凍てつかされたリビングアーマーが爺ちゃんの高速軌道が終わると同時に倒れていく。

 

「【刺突(ピアッサー)】」

 

 行った動作を説明するように、後追いで爺ちゃんは【槍術士(ランサー)】のもう一つのスキルの名前を呟いた。

 

 

 それからの戦闘は、なんつーか、俺が一番カスだった。

 攻撃はまったく当たらないし、俺の回避技術はリビングアーマーの命中精度にまったく追い付いていなかったから一方的に斬られて突かれてなぶられた。

 

 何度も何度も【回魔(ヒール)】のスキルを掛け直し、負った傷を回復させ続けながら【敵視(タウント)】のスキルが切れないように踏ん張るだけ。

 途中でレベルアップしたことで得た【金剛体(アイアンボディ)】は全身を硬質化させ防御力を上げる代わりに速度が落ちるというスキルだった。

 

 それを全力で発動させ、亀みたいに両腕を上げて頭と心臓への攻撃だけはなんとか防ぎ続けた。

 

 

 が――――

 

 

 戦い始めてからどれくらいの時間が経ったのだろう。

 一時間か、二時間か……もしかしたら十分も経っていないのかもしれない。

 

 胸から剣が生えている。

 腹から槍が生えている。

 いくつも、いたるところに……身体が剣山にでもなってるみたいだ。

 

 下を向けば、俺の身体は血で濡れていない場所を探す方が難しい。

 身体にはもう力は入っていないのに、突き刺さったいくつもの武器が俺に倒れることを許さない。

 

「ゴポッ……」

 

 口の中から大量の血が溢れると同時に、俺は思った。

 

 甘えてたんだな……

 爺ちゃんが生き返って結構経つのに……真横にこんな達人がいるのに、俺は技量を磨くことを避けていた。

 

 剣聖骸骨(サムライレヴナント)を倒せる程度にはあるから。

 【転職(クラスチェンジ)】なんてチートスキルがあればそのうち強くなれるから。

 

 ただの言い訳だ。

 強くなるためにできることはなんだってやるべきだった。

 

 その思考を最後に俺は意識を失う。

 

 ダンジョンの外、魔法陣の傍で目覚める。

 

 幸いなことにモンスターカードはロストしていなかった。

 どうやら爺ちゃんも極美も俺より先に死ぬなんてことはなかったらしい。

 けど、せっかく爺ちゃんに造ってもらった籠手、失くしちまった。

 

 そういうことを考える余裕もないくらい一方的にボコられてた。

 

「俺、クソ弱いじゃん……」

 

 極美も爺ちゃんもしっかり自分の役割を熟してくれていた。

 俺だけだ。俺だけが弱かった。

 

 アパートに帰った後、爺ちゃんを召喚した俺は頭を下げて頼み込んだ。

 

「爺ちゃん、俺に体術とか剣術を教えてくれ!」

「まぁよかろう」

 

 爺ちゃんは二つ返事で引き受けてくれた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 バイトを辞めた。

 

 ロストを防ぐ【亜空倉庫(インベントリ)】があれば、死に戻りで生活費くらいは稼げるようになったから。

 

 週のうち四日は爺ちゃんとの修行に充てることになった。

 死霊の楽園の第一階層に赴き、爺ちゃんに体術や剣術を教わることにした。

 周囲は極美が見張ってくれていれば安全だし、ダンジョンから出れば傷も治るから多少の怪我も問題ない。

 

「修行を付けるのは良いが、一つ条件がある」

 

 修行初日、基本的な身体の動かし方を教えてくれた後、【武具作成(クラフトアームズ)】で造った木刀を俺に渡してくれながら爺ちゃんはそう言った。

 

「なに?」

「修練の日の最後は、毎回本気で儂と戦え。スキルもあり、殺すのもあり、武器も真剣」

「いや、俺はいいけど爺ちゃんはダメでしょ。死んだら消えちゃうんだからさ……」

「お主程度の技量ではスキルを用いようとも儂は殺せん。……それに、儂がこの世に感じる心残りは一つしかない」

「心残り?」

「両親を失い、祖父であり育ての親を失い、それからも失って、失って失ってきたと……そう言われて心配せぬジジイなどおるまい。ゆえにこそ、お主が儂を超えてくれるのならば安心できる。儂にとってそれ以上に満足のゆく死はない」

 

 なんだよそれ……

 普段はほとんど喋らないクセに今日はヤケに饒舌じゃねぇか。

 

 けど、だからこそ、それだけ本気なんだってことがわかる。

 その優しい瞳を見ていれば、本心なんだってことがわかる。

 

 

 この世界で、俺を愛してくれるのはあんただけだ。

 

 

 そんなあんたが、爺ちゃんが俺のためにそう決めてくれたなら、俺がダメなんて言えるわけねぇじゃん……

 

「ぶっ殺してあの世に還してやるよ」

「感謝しよう。そして案ずるな、儂はまだ黄泉の国へ戻るつもりはない。なにせ、儂は十年後のお主より強いのだから」

 

 

 修行初日――爺ちゃんの斬撃は、首を刎ねられているにも関わらず痛みはほぼなく、首が落ちてから数秒してからやっと俺は死に戻った。

 

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