転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
周囲はオレンジに近い黄色の砂岩の壁と床と天井に囲まれている。
外は暗闇というほどではないが夕方くらいには光の無い空間だったが、ここ、『死霊の楽園:第五階層:砂岩の宮殿』は等間隔に並べられた燭台の灯りのお陰で視界はかなり利く。
出てくるモンスターは全身を包帯に包まれた死霊。
ミイラと呼ばれるソレらは触れるだけで相手を呪う力を持つ。
が――俺には呪いはもう効かない。
試したが、ミイラの呪いは『ランク3以下』に分類されるらしく、ミイラに触れられて呪いを受けるとマナが回復している感覚があった。
今は爺ちゃんも極美も召喚していない。
呪いに対して耐性を持たない二人じゃ、この領域ではかなり無力だ。
爺ちゃんの種族『ダンピール』はアンデッドに分類はされるが、一応心臓があって動いている。
呪いを貰い過ぎると心臓麻痺で死ぬ。
呪いは刀を伝ってくるから爺ちゃんのスキルじゃ【
後は弓とかもあるが、爺ちゃんは生粋の戦闘狂かつ剣術バカなので、飽きて突っ込むことが何度かあった。
極美はレイスだからそもそも触れられないが、マナを介して呪いを貰っているようだ。
死にはしないが、身体を掠めるたびにどんどん動きが遅くなっていく。
極美は魔法攻撃が弱点だが、どうやら呪いも魔法攻撃の一種に分類されるらしく、俺たちの中で呪いの進行速度が一番速い。
ミイラの中には純粋な魔法攻撃をしてくるヤツもいるから極美が動けなくなったところでそれを食らったら一発で終わりだ。
隠密系のスキルがあると言っても爺ちゃんもいない状況だと少し危険過ぎる。
極美の【
今は三次職の【
だから、この領域は俺一人で突破するしかなくなった。
モンスターカードに入っていたとしても、一度でも【
「さて、俺一人でどこまで行けるか……」
砂岩の城を歩いていれば、ミイラはすぐに現れる。
少なくともミイラはキョンシーと同格の存在。
モンスターカードのランクで言えば『3』に入る敵だろう。
キョンシー相手にも満足に戦えてない俺が、呪いを克服したからと言ってどれだけ戦えるか……
身体強化系のスキルを発動させながら、現れたミイラを観察する。
ミイラは合計で三体。個体ごとに武器が違う。
一体はアンクと呼ばれる十字に近い形状をしたネックレスを手に持っている。それを構えると【
もう一体は本のように開いた二枚一対の石板。
石板をこっちに向けると黒い玉が現れてそれが跳んでくる。呪いの塊みたいなモンで、それに触れても呪いが進行するし、普通に物理的な攻撃力もあるらしく、受けると皮膚が爛れる。
最後の一体は近接攻撃系。武器は個体ごとに異なるが剣や短剣を持ってるヤツが一番多い。目の前にいるヤツも短剣持ちだ。
他にも見た中だと『斧』『盾』『シックルソードと呼ばれる刃が半ばから湾曲した武器』なんかもあった。
極美の話や爺ちゃんの考察を踏まえるに、生前に得意としていた武器を持っているのだろう。
アンクや石板を持っているヤツは、呪術師とか占い師とか文官とかだったりしたんだろうか。
「お前らにも記憶や意識があるのか?」
「~~~~~~」
返答は意味不明で理解不能な呪文。小声すぎてなんて言ってるのか正確にはわからない。けど少なくとも日本語ではなさそうだ。
同時に放たれたのは黒い呪いの球だ。
俺はそれを細かく横にズレて躱す。
爺ちゃんとの修行で一番鍛えられたのは『視野』だ。
動体視力に加えて、意識を一点に捉われ過ぎずに周辺視野で相手の様子を伺う方法を身に着けた。
あらゆる行動には予備動作が存在する。あの呪いの球に関してもそれは同様で、石板をこちらへ向けるような動作をした後、呪文のようなものを小声で呟くことでようやく放たれる。
そして、飛んでくる方向も石板が向けられた方向。
それだけわかっていれば、相手の弾速はプロ野球選手の剛速球くらいだから【
「間違いなく修行は効いてる」
「~~~!」
また意味不明な発音を繰り返しながら、短剣使いのミイラが突っ込んでくる。
その後ろでは後衛二匹が詠唱を始めている。
それもしっかり見えてること自体が成長の証だろう。
「【
拳の硬質化と共に、刺突の形で放たれた短剣を正面から殴りつける。
短剣が俺の拳を傷つけるのに構うことなく振り抜けば、短剣の軌道は逸れたが、俺の拳はミイラの腹に突き刺さった。
しかしミイラもほとんど痛みを感じていないらしく、抱き合うような体勢になった俺の背中に短剣を突き刺してくる。
「痛ってぇ……人の背中プスプスやってんじゃねぇよ」
やっぱ、爺ちゃんみたいに近接攻撃を全部避けるのは無理だな。
けど、ダメージレースは俺が勝つ。
「【
【
別の対象を攻撃するか、誰も攻撃していない状態で五秒立つまで威力(拳に宿ったマナ量)が上がり続ける。
二発目で距離を空け、三発目でもう一度距離を詰める。
基本一発ずつの交換だが、刃物の方が攻撃性は高いし、先に死ぬのは俺だ。
まぁ、【
「ッら!」
殴り付けると共に身体を揺らすミイラの首を掴み、
「必殺、
相手の身体に触れながら【
ちなみに代償に掌が焦げる。
けど、自傷ダメージでも【
感電して動きの止まったミイラを、さらに殴る。
アンク持ちの回復スキルが短剣使いを治しているが、俺の攻撃力は【
飛んでくる呪いの球を避けるより攻撃を優先する。
そもそも呪いは効かないし、硫酸被ったくらいのダメージしかない。
気合でなんとでもなる。
「おらどうしたぁ!? 包帯で肉包んで叩いて焼いてって、俺にステーキでも造らせようとしてんですかぁ!?」
なに言ってんだろ俺。まぁいいや、ちゃんと見るべきものは見えている。
けど今の言葉が引き金になったのか、相手が抱いた恐怖の量に応じて相手の身体能力を下げる【
さすがに第五階層のモンスターということもあって、【
「前衛はいなくなったぞ」
そう言って残り二匹に視線を向けると、石板を持った方の頭上に三十発近い呪いの球が浮遊していた。
「おい、それ全部一気に撃とうとしてる? ちょっと待て、それはさすがにはんそ――」
俺の言葉を待ってくれるはずもなく、石板持ちは一斉に呪いの球をこちらへ向けて放つ。
「【
必死に回避するが、いかんせん数が多い。
全部を完璧に軌道計算して避けるなんて……いや、爺ちゃんの連撃に比べればずっと遅くね?
なんか、いけそうじゃね……?
身体の感覚に身を任せ、考えているというより直観に従うように俺は回避行動を続ける。
「痛っつう……」
一発肩を掠めた、けどそれだけだ。
残りは全部避け切った。
俺すごくね……?
「うげ!?」
と思った瞬間、頭になにか硬いものが直撃した。
ぐわんぐわんする頭を押さえ、揺れる視界の中で敵を見れば、持っていた石板の半分がいつのまにかなくなっていた。
つーか、それが俺の足下に落ちて割れてる。
「お前それ、大事なモンなんじゃねぇのかよ? そもそも魔法使いっぽいタイプだろうがよ。ぶん投げるとか予想外すぎ……」
そう言っている最中にももう一枚がぶん投げられた。
「【
全身を硬質化させるこのスキルは、代わりに移動速度がかなり下がる。
けど石板の攻撃は耐えたぞ。
「もう石板の投擲はねぇし、しかも呪いの球攻撃もなくなるだろ!?」
だけど、そんな俺の言葉を嘲笑うかのように地面に手をついたミイラは、その地面の一部を石板に変化させていく。
「くそが……おかわり自由かよ……」
【
このスキル、一回発動すると解除するのにちょっと間があるのが厄介だ。
結局呪いの球を三発も食らったことで、俺の移動速度はかなり落ちた。
回復する? 無理だ。その前に追加の攻撃が来る。
避ける? 無理だ。頭を打ったせいで平衡感覚がないし、足が呪いの球で爛れてる。
防御しても多少生存時間が伸びるだけ。
「【
防御力向上。そんでもって……
「撃ち合いじゃあ! 【
死ぬまでの間、敵へ向けた掌から俺は雷を発射し続けた。
俺の魔法が命中したのは半分程度だが、相手のコントロールは的確で、しかも俺が動けないことも相まって全弾命中。
アンク持ちの回復もあって、結局倒すには至らなかった。
呪いは克服できたが、単純な戦力で普通に負ける。
今日の討伐数はミイラ一体のみだった。
◆
「クッソ、死んだぁ……」
ダンジョンの入り口の魔法陣の中で俺は大の字に寝そべる。
普通のダンジョンじゃ人がいるからこんなことできないが、ここにはいつも誰もいないし見逃して貰おう。
「あ、お疲れさま。もしかして『死霊の楽園』で活動してる探索者?」
そう言って天井を見上げた俺の視界に顔を覗きこませて来たのは、白い制服を見に纏った赤い髪の年下に見える女だった。
その白い制服と右腕の赤い腕章を俺は知っている。
ダンジョンの結界が破れないようにダンジョン内の魔獣が増えすぎないよう間引く役割を与えられた国家が後ろ盾となる探索者たちであり、事実上の対ダンジョンにおける国家最強戦力。
「ダンジョン管理局……」
「そうよ。私はダンジョン管理局から『死霊の楽園』の結界維持に来たの。
あ、多分こいつクソガキだ……