転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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17「天凛銃」

 

「俺は斑鳩彩人、こちらこそよろしく。それで、スーパーエリートさまはどうしてこんな不人気ダンジョンに来られたんですか?」

 

 俺なんにもしてないよな? なんて街で警察を見かけた時みたいなことを思いながらそう質問すると天城代鳴(あまぎよな)はあまり大きくはない胸を張りながら答える。

 

「当然、お仕事よ」

「仕事って、ダンジョンの結界の維持?」

「えぇ、こういう人気がないところは魔力濃度が上がるからモンスターを間引いて調整する必要があるの」

「そうなんすね、じゃあ頑張ってください」

 

 別にこの死霊の楽園が俺だけのプライベートダンジョンだなんて思っていたわけじゃないし、他にも人が来るのは当然のことだ。

 俺は特に仲間を探しているわけでもないし、挨拶程度は交わすがそれ以上に関わる理由もない。

 

「ちょっと待って」

 

 肩を掴まれた。

 

「なんすか?」

「手伝って」

「……なんで?」

「あなた用と私用に理由は二つ。このダンジョンに詳しそうだから。私がいれば今より稼げるよ」

「嫌っす。じゃ」

「ちょっと待ってって」

 

 そう言った彼女が俺の肩を掴む力が強くなる。

 

「私は国家所属の探索者で、私の任務は国の意向なの。この国に住む以上、あなたにはそれに協力する義務があるわ」

 

 滅茶苦茶言いやがるなこいつ……

 そりゃ警察官に事情聴取されたら答えるくらいの協力はするさ。

 けどこいつが言ってるのは、民間人を事件現場に突入させるレベルの『協力』だ。

 そんなの認められるわけがない。

 

「アホらし。俺もそれなりに忙しいから」

「いいの? 一応、悪事を働いている探索者の逮捕権限とかそれを捜査する権限とかあるんだけど」

「だからなんだよ?」

「あなたが悪いことしてるって上に報告されたくないでしょ?」

 

 ふざけんな、公務員が脅迫してんじゃねぇぞ。

 バレたら懲戒解雇待ったなしだろ。

 

 でも、もし本当にそんなことをされたらかなり面倒なことになる。

 

 確実に俺は調べられる。

 そしたら固有スキルがバレる。

 そしたら面倒なことになるのは想像に難くない。

 

 こいつの言ってることは九割九分ハッタリだが、こいつが滅茶苦茶なアホである可能性が一分(1%)でもあるなら下手に断れない。

 

「あのさ、あんたおいくつ?」

「え? なんでそんなこと聞くの? 一応十七だけど、すごいでしょ。高校生でダンジョン管理委員会にスカウトされる人なんて超稀なんだから」

 

 ヤバい……すっごいバカっぽい……

 さっきの脅迫紛いのことも、高校生ってことを考えるとなんにも考えてないだけんじゃないかと思えてくる。

 いや、別に高校生をバカにしているわけじゃないが、この子はダンジョン管理委員会に所属してそんなに日が経ってるように見えない。

 

「わかったよ。でも今日は死んでデスペナ中だから明日からでもいいか?」

「そういえばさっき『死んだぁ』とか言ってたけど本当だったんだ。それは悪い時に声かけちゃったわね。今日はちゃんと休んでね」

 

 え、優しいとこもあるんかい。

 

「私のノルマは一カ月以内だから一週間後とかでもいいわよ?」

「ありがとう。けど大丈夫、明日からでいい」

 

 面倒事は早く終わらせるに限る。

 

「そう、悪いけどお願いね」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 翌日。俺のデスペナの関係で午後二時に俺は『死霊の楽園』の魔法陣の前にやって来た。すると、すでに彼女はその場所で待っていた。

 時間丁度に来た俺より先にいるとは、思ったより律儀なんだろうか。

 

「悪い、待たせたか?」

「ううん、私も今来たところだから。それじゃあ行くわよ」

「あぁ、第一階層からでいいんだよな?」

「えぇ、私はここに来たことないから」

「オッケ」

 

 俺たちは魔法陣の中へ入り、『第一階層』と念じると同時に視界が切り替わる。

 いつも通りの薄暗い荒野だ。

 

「暗っ……」

「まぁ、アンデッドが出るダンジョンだからな」

「やっぱ出るんだ……」

「なんだ幽霊が怖いのか?」

「そ、そんなわけないでしょ!」

「あ、スケルトンだ」

「うひん!」

 

 よくわからない悲鳴を上げて天城は俺の後ろに隠れた。

 

「おい、お前仕事するんじゃねぇのか」

「無理無理無理、学校の人体模型ですら夜に見るのは無理!」

 

 なにしに来たんだこいつ……

 まぁいい。間引くだけなら俺でもできる。

 

 【闘気(バトルオーラ)】を纏い、【鉄拳(アイアンフィスト)】で拳を固め、【俊足(ステップ)】で接近して頭を殴ると一撃でスケルトンの顔面は粉砕された。

 

 このダンジョンに来たばかりの時は結構死闘を繰り広げたものだが、今となってはただの雑魚だな。

 

「おい、倒したぞ。というかその調子で本当に仕事できるのか?」

「もっと怖くないヤツはいないの……!?」

「えぇっと……ゾンビ?」

「キモイ、無理」

「ミイラ?」

「怖い、無理!」

「キョンシー?」

「なんかオカルティックだから無理!」

「あとはリビングアーマーとか」

「え、それいけそう」

 

 あぁ、それはいけるんだ。

 まぁ鎧が勝手に動いてるだけで死体感ないしな。

 

「おぉ、じゃあ第五階層まで行かないとな」

「第五……あなた結構進んでるのね……まぁ魔力濃度を下げるなら強い奴を倒した方が数が少なくて済むしいっか」

「その魔力濃度ってヤツが基準を下回ってるかはどうやって判断するんだ?」

「魔力測定器を使うわ。ダンジョン管理委員会の基本装備よ」

 

 そう言って彼女が胸ポケットから取り出したのは眉間の部分に青い水晶がついた眼鏡だった。

 

「今このダンジョンの魔力濃度は71万4000E(エーテル)くらい。これが100万になったらダンジョンの結界が崩れてモンスターが出てくる。だから一年に一回くらいの頻度で委員会から探索者が派遣されて30万くらいになるまでモンスターを間引くの。けど不人気ダンジョンにしてはあんまり魔力濃度が高くないわね」

「じゃあ後何匹倒せばいいんだ?」

「さっきのスケルトンの魔力値は10くらいだったわ。だからえっと、あのスケルトン換算だと四万体くらい?」

 

 え、嘘……

 一カ月で? 絶対無理だろ。

 

 ってことは、やっぱりもっと強い奴を倒す必要があるな。

 

「よし、サクサク次の階層に行こう」

「うん、私をそのリビングアーマーとやらがいるところまで案内することを許可するわ」

 

 なんなんこいつ……

 

 

 第二階層。敵はスケルトンソルジャー、メイジ、ドッグ。

 今となってはこいつらも雑魚の範疇だ。以前にここを攻略していた時とは手札の量がまるで違う。

 

 それに視野もかなり広がっているから俯瞰して戦況を観察できる。

 敵の攻撃は当たらない。俺の攻撃は一方的に当たる。負ける要素は皆無だ。

 

「お前高校生だろ? なんで仕事なんかしてんだよ?」

「特別だから。特別な人間には特別な役割があるのよ」

「なんだよそれ、じゃあお前の役割ってなんなの?」

「人の命を沢山護ること」

「ガキが調子乗ってんじゃねぇよ」

「ガキじゃないし、調子乗ってないし、事実だし」

「だとしても俺はお前に護って欲しいなんて一ミリも思わない」

 

 第三階層、『剣聖骸骨(サムライレヴナント)』。

 動きのパターンはほとんど全部覚えてる。

 天城の手前、召喚系のスキルを使う気はない。近接戦闘系と見た目にあんまり現れないタイプのクラススキルだけを使って俺の固有スキルがバレないようにするためだ。

 

 多少苦戦はしたが、【減速の刻印(スロウマーク)】で相手の動きを遅くして【加速の刻印(アクセルマーク)】で俺の速度を速めることで以前よりはかなり楽に倒せた。

 

 肩がちょっと斬られたが【回魔(ヒール)】は使わない。

 服の袖を破って適当に止血しておく。帰る時までは持つだろう。

 

「肩、大丈夫?」

「心配すんな。今のヤツの魔力値どんくらい?」

「えっと、200だね」

 

 一気にスケルトンの二十倍かよ……

 それでもノルマ達成には二千体か……結構骨が折れる仕事だな。いや、折る仕事か……

 

「けどそんなにビビっててモンスターと戦えるのか? アンデッド系じゃなくても結構グロいシーンあるだろ。それは怖くないのか?」

「グロい? 別にそんなことないけど?」

「……え?」

 

 第四階層。敵はゾンビ。さすがにちょっと強いな。数も多い。

 爺ちゃんか極美を出すか?

 いや、さっきの傷で【傷至戦蛮(ダメイジングパワー)】が発動してる。ゾンビの動きは読みやすいし、これならギリ行けるか?

 

 ゾンビの数が増える以上の速度でゾンビを殴り倒していく。

 溢れる血を浴びて服と身体が汚れていくが、気にしている暇なんてあるはずもない。

 俺はただ殴って倒して先へ進む。

 

「うわっ……ちょっとキモイから近づかないでね。っていうかなんか吐きそう」

「は? お前マジで普段どうやって戦ってんだよ」

「どうって普通よ普通。バーンってやってドカーンって感じ」

「意味がわからん」

 

 そんな会話をしながらダンジョン内を歩くこと三時間ほど。

 やっと第五階層に到着した。

 

「あの城の一つの西洋風のところにリビングアーマーは出る」

「へぇ、そうなんだ。案内してくれてありがと。じゃあもう帰っていいよ」

「いや……本当に大丈夫か?」

「なにが?」

「ビビりな女子高生が倒せる敵じゃないと思うぞ」

「ビビりじゃないし」

 

 別に心配なんかする必要はない。

 探索者がダンジョンの外に戻されるだけで、死ぬことはない。

 けど、あの程度の戦いで「吐きそう」なんて言いだすヤツがリビングアーマーと戦えるとはとてもじゃないが思えなかった。

 

「俺も付いてくよ」

「まぁ好きにして」

 

 俺と天城は西洋風の城の中へ入っていく。

 するとすぐにリビングアーマーは姿を現した。

 

「あれだ」

「うん。雰囲気はちょっと怖いけど、あれならギリ大丈夫そう」

 

 リビングアーマーを前に薄っすらと笑みを浮かべた天城は、己に聞かせるように小さく呟く。

 

「【天凛銃アルソーヴァ】」

 

 いつの間にか、天城の両手に大きめの白い拳銃が握られていた。

 その銃口がリビングアーマーへ向けられる。

 

「おいちょっと待て、リビングアーマーは身体のどこかにある魔法陣を壊さなきゃ倒せな――」

 

 バン! と、銃声が響く。

 けれど火薬の匂いはせず、天城の銃が反動で跳ね上がることもなかった。

 ただ、銃弾は確実にリビングアーマーに命中していた。

 

 白い光がリビングアーマーの胸元に付着している。

 それは徐々に巨大化していき、最終的にリビングアーマーの身体すべてを包む。

 その次の瞬間には、リビングアーマーの肉体は粒子のごとく消え去った。

 

「なんか言った?」

「あ、いや……今なにしたんだ?」

「私の固有スキル【天凛銃アルソーヴァ】は着弾した相手の魔力を吸い取って爆発すんの。その吸収の段階で魔力がゼロになったヤツはああして溶ける。どう? 最強でしょ?」

 

 俺が必死こいてやっと倒せるヤツを、指一本動かすだけで倒しやがったってのかよ……

 

 これがダンジョン管理委員会の実力。

 そりゃスカウトもされるわ……

 もうクラスとか関係ねぇじゃん……

 

「サクサク行くんでしょ? 早く進も」

 

 そう言った天城は鼻歌混じりに先導し始めた。

 出てくるリビングアーマーは引き金を一度引くだけで消滅していく。

 

 見る限り反動もないから命中率はかなり高い。

 二丁拳銃だから外せばもう一丁を撃てばいいだけだし、連射速度も俺がやったことのあるFPSゲームの拳銃と同じくらいだ

 

 それに実弾を撃ってるわけじゃないらしくリロードがない。

 

 無双ってのはこういう状況のことを言うんだろう。

 爺ちゃんでも勝つのは難しそうだ。

 俺の固有スキルも結構強いと思ってたけど、こういう埒外なものもあるんだな。

 調子に乗ってたわけじゃないが、もしかしたら俺の固有スキルはそんなに強いものじゃないのかもしれない。

 

 それにグロ耐性がないことも腑に落ちた。

 今までもこうして溶かすようにモンスターを倒しに来たんだろう。

 それなら血や内臓なんて見なくて済む。

 

 マジでゲームみたいにモンスターが滅されていってる。

 

 数十分歩いても天城の固有スキルの銃弾が切れる様子はなく、一撃一滅で進んでいれば当然に『扉』と『門番』が見えてくる。

 

 そこにいたのは全身が黒い鎧でできた騎士だった。

 しかし他のリビングアーマーと違ってその騎士は座高だけで二メートル近くあり、しかも青白い霊気のようなものを出す鎧を纏った馬に乗っている。

 そして、騎士も馬も共通する特徴を有していた。

 

 そいつらには、首から上が存在しなかった。

 それはまるで伝承に登場する『デュラハン』のような姿をしている。

 

「ひっ」

 

 短く怯えた悲鳴と共に身を震わせながら、天城は反射的にソレに銃口を向け、引き金を引く。

 

 だがしかし、デュラハンは構えた大盾で銃弾を受け止める。

 魔力を吸い切れなかったらしく、消失は発動しない。

 着弾点に発生した白い爆発も、盾を振動させただけに終わる。

 

「だ、大丈夫……私は大丈夫……」

 

 自分に言い聞かせるように震えた声でそう言った天城は、銃を乱射し始めた。

 

 だが、その弾丸の数々は盾に阻まれる。

 デュラハンは銃弾の軌道を完全に見切っているらしく、盾を掻い潜るのは難しそうだ。

 つーか同じところばっか撃ってるから、そもそも天城に狙いを付ける練度が足りないのかもしれない。

 

「おい、天城」

「ちょっと黙ってて、クソ、死ね、死ねよ……!」

 

 デュラハンは徐々にこっちに近付いてきている。

 逃走は無理だろう。

 馬はクソでかいし、俺も天城もあの馬脚を凌ぐ速度で逃げられるとは思えない。

 

「お前、それ以外になんかスキルとかないのか?」

「スキル? ふ、【爆炎翔球(フレアボール)】!」

 

 【魔士(マギ)】系のクラスか……

 爺ちゃんと同じ炎属性だが、爺ちゃんは持ってないスキル。

 ってことは二次職か三次職のスキルだろうな。

 

 天城の頭上に出現したバランスボールくらいの炎の玉がデュラハンに向かって放たれる。

 だが、デュラハンはその一撃を右手で持った長剣によって切り裂いた。

 

 爺ちゃんの魔法攻撃を斬る【魔断(リジェクション)】と似たタイプのスキルか……

 

「そ、そんな……」

「まぁ、モンスター間引くだけなら結構使える能力だし今後もリビングアーマーだけ狩ってればいいんじゃね?」

 

 俺の煽りに返事を返す余力もないらしく、天城はただ銃を撃ち続けている。が、まったく有効打になっているようには見えない。

 

 俺は天城の胸倉を掴み、強制的に顔をこっちに向ける。

 

「おい」

「なに……放して……倒さなきゃ……」

 

 目尻に浮かぶ涙は、年相応の精神を感じさせた。

 そもそもこいつはなんで探索者なんかやってる?

 決まってる、『固有スキル』が破格の性能を持ってるからだ。

 

 今まで全部ワンパンだったなら、アンデッド如きにあの怖がりようなのも納得できる。

 

「お前、今まで何回死んだことある?」

「放してよ……」

「答えろ」

「死んだことなんかないわよ」

「そうか……」

 

 そりゃ怖くて当然だな……

 

「じゃあその記録に傷をつけるわけにはいかないな」

 

 ……他人のために身を粉にするなんて無駄なことだって俺は知ってる。

 誰がいつ裏切るなんてわかったものじゃないし、もしかしたら騙されてるだけかもしれないし、結局他人の真意なんてものは測りようがない。

 

 だからこれも全部俺のためだ。

 俺は俺の固有スキルのヒントを与えることになったとしても、ただ『デュラハン』ってモンスターと戦ってみたいだけ。

 

「【召喚(サモン)】」

「どういう状況じゃ?」

「爺ちゃん、こいつを城の外に出してやってくれ」

「お主はどうする?」

「こいつの足止めしとくよ」

「え、召喚獣? あなた近接戦闘系じゃ……」

「了解した」

 

 問答も心配もなく、爺ちゃんは当たり前のように俺の指示に従い、【飛翔斬撃(アークスラッシュ)】で近くの窓ガラスを割り、天城を抱えてそこから外に出ていく。

 

「女子供泣かせてねぇでさ、俺と勝負してくれよ。それとも脳ミソ付いてねぇから言葉とかわかんねぇか?」

 

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