転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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18「脳髄の感触」

 

 セカイの声いわく、あの門番の正式名称は『首無し騎兵(デュラハーン)』というらしい。

 有する力は極めてシンプル。大量のマナを含んだ武具によって裏付けされた一撃必殺の攻撃力と鉄壁の防御力。

 

 武器を持つ敵に対して俺は常に間合いの不利を背負う。

 首無し騎兵(デュラハーン)相手でもそれは同様で、体格でも負けている以上俺が攻撃しようと近付けば相手の方が先に攻撃のモーションに入る。

 

 速度や技術でも有利が取れない以上、その間合いの差を埋める方法は今の俺には『相打ち』しか存在しない。

 だが、馬もデカくて本体には手が届かないし、馬を殴ろうにも鎧を掻い潜って打撃を当てるのは難しい。

 

 強靭、頑強。

 

 そんな純粋な暴力を押し付けられるように俺は殺された。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 まぁ時間稼ぎはできたか。

 爺ちゃんの召喚範囲は俺から二百メートルくらいだが、城から出られりゃ天城一人でも【女神像(セーブポイント)】まで辿り着けるだろう。

 

 なんて思っていると、魔法陣が輝きを放ちその中に天城の姿が現れる。

 

「お、帰って来れたみたいだな」

「うん……ありがと……」

 

 モンスターの脅威が消えたことで多少冷静になったのだろう。

 さっきまでの錯乱した雰囲気はなく、天城は小さく頭を下げた。

 

「まぁ気にすんな。けど俺死んじまったからまたペナルティ付いちまった。明日は夕方からでもいいか?」

「え、は? ちょっと待って、連日死んだクセにダンジョンに入ろうとしてるの? ていうか案内は済んだんだしあなたが私に付いてくる理由はもうないよ?」

 

 たしかにリビングアーマーが相手なら天城一人でも間引きはできるだろう。

 

「お前、リビングアーマーを相手にしてる時もすげぇビビッてるように見えたけど、一人で行けるのか?」

「ビビってない……」

「そっか。俺の勘違いだったらいいや、じゃあ明日からは別々に……」

「けど、ついて来たいならついて来てもいいよ。魔石くらいはあげるし」

「お前いつまで上から目線なんだよ」

「なによ? 歳でマウント取ろうっての? おじさんって呼ぶわよ」

「それは嫌だけど……じゃあ天城は探索者になってどれくらい経つんだよ?」

「今度は職歴でマウント? まぁいいけど、えっと一年くらいかな? ちなみにダンジョン管理委員会に入ったのは一カ月前くらい。どう、すごいでしょ?」

 

 にしても、実際すごいな。

 一年で国内最強の探索者集団にスカウトされるんだから、伸びしろを含めた採用だとしても優秀であることに間違いはない。

 実際、一定以下のモンスター相手なら無双の強さだった。

 

 それに一年もやってて死亡(ロスト)なしっていうのも俺からすれば考えられない。

 そろそろ俺のデススコア三百に到達しそうな勢いなのに……

 バカにされそうだから黙ってよ。

 

「そういや、俺のクラスやスキルのこと聞かないのか?」

「聞かないわよ。探索者ってそこまで親しくない人のスキルとかクラスなんて普通聞かないものでしょ? まぁ固有スキルに秘密がありそうだとは思ってるけど」

「そうか、助かる」

「いいよ」

 

 実はこいつ口と発想が終わってるだけで普通に良い奴なのかもしれん。

 ちょっとなにも考えてなさそうなところがあるが、それも愛嬌と言えないことも……まぁ、なくはない……

 

「じゃあ明日は今と同じ時間……えっと、六時集合でいいか?」

「わかった」

「じゃあ俺帰るわ」

「待って、一つ聞いてもいい?」

「ん?」

「……私ってさ、探索者向いてないと思う?」

 

 少し俯きながら天城はそんな問いを投げかけてくる。

 首無し騎兵(デュラハーン)相手になにもできず、一人だけ逃げたことを気にしてるんだろうか。

 首無し騎兵(デュラハーン)になにもできなかったのは俺も同じだし、一人逃げられただけでも上々だと思うんだけどな。

 

「知らね。向いてるからやるわけでも、向いてないからやめるわけでもないだろ。お前の好きな場所で好きなことをすればいい。俺も受け売りだが、それが『人生』ってモンらしいぞ」

 

 だから俺もこうして好きに生きてる。

 人と関わる必要もなく、ダンジョンの攻略に没頭できる時間はそれまでの人生に比べればずっと気楽だ。

 

 人と関わりたくないわけじゃない。

 けど、人と関わると疲れる。

 

 じゃあなんで俺は明日も一緒に行こうなんて言っちまったのか、自分でもよくわかんねぇ……

 

 なんて考えながら、俺は帰路へ着いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ダンジョン管理委員会の新米の初仕事には、その能力を加味して単独で達成するには少し難易度の高い仕事をさせることになっている。

 

 ダンジョン管理委員会にスカウトされるような才ある人間は、未だ死を経験したことがないなんてことが往々にしてある。

 優秀過ぎる『固有スキル』を持っていれば、それだけで必勝できてしまうのが探索者という業界の常だ。

 しかしそのような幸運だけで昇り詰めた者たちは自分よりも強い相手と相対した時足を竦ませ動けなくなる。

 

 ダンジョンでの死はそんな希薄な精神性を強制的に向上させる。というよりは『慣れ』させる。

 無論、その死に耐えられず辞めていく者も多くいるが、それは最初から才能がなかったということだ。

 一度も死なずに探索者としてのキャリアを終える者などいないのだから。

 

 だが『新人をダンジョンで敢えて殺す』なんて噂が立てば、国が運営する機関として少々聞こえが悪い。

 だから、単独での仕事という体裁を取る。

 

 そのシステムは公然の秘密として、ダンジョン管理委員会に所属する新人以外の全員が理解していた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 天城と出会った翌日。

 俺たちは今日も第五階層にやって来ていた。

 

「そういやリビングアーマーの魔力値ってヤツはどれくらいだったんだ?」

「200~300くらいだね。ちなみに首無し騎兵(デュラハーン)は一体で2000だった」

「いきなり上がりすぎだろ……」

 

 でもそうか、首無し騎兵(デュラハーン)計算なら二百体倒せばノルマを達成できるのか。

 いやけど一カ月でアレを二百は無理だな。

 やっぱリビングアーマーレベルのモンスターをチマチマ倒していくのが一番効率が良さそうだ。

 

「けど私、二日連続でダンジョンに入るのなんて初めて」

「へぇ、今まではどれくらいの頻度だったんだ?」

「週に二日くらいかな?」

 

 案外少ないんだな……

 なんて思いながら進んでいる最中もリビングアーマーがガンガン倒されていく。

 改めて見てもクソ強い固有スキルだ。

 

 経験値効率も死ぬほど良さそうだけど、俺はまったく手出しできてないから経験値は入ってこない。

 これじゃあ本当にお守りだ。まぁ俺から言い出したことだし、時間に追われている身の上でもないからいいけど。

 

 そもそも同行を申し出た『心配』の中には、こいつにはさっさと仕事を終えて帰ってもらいたいという思いもあるわけだしこっちが優先だ。

 

「ねぇ、彩人はどれくらい入ってるの?」

「毎日」

「あんまり面白くない冗談だね」

「そろそろ扉に続く通路が見えてくるから引き返すぞ」

「うん。わかってる」

 

 城の入り口からここまでに出会ったリビングアーマーの数が大体二十五体。

 帰りも同じ数遭遇するとして一周五十体。魔力値換算で15000。下振れを考えても必要な周回数は三十回程度。

 かかる時間は一周で二時間弱。

 

「ノルマ達成までの期間って後何日残ってる?」

「えっと、今日が十月九日で終了予定が十一月三日だから……今日入れて二十七日ね」

「ってことは一日一周と何日か二週すればいけるな」

 

 おぉ、なんか行ける気がしてきたぞ。

 

「え、本気で毎日入るつもりなの?」

「だったら半分休みにして一日二週にするか?」

「まぁそっちの方が無難かな。毎日ダンジョンに来ると気が滅入りそうになるし」

「……そうなのか。じゃあそれで」

 

 いいよ、と言葉に出すより早く、後ろからゴンゴンと一定間隔の音が響く。

 リビングアーマーの足音じゃない。それとは明確に音圧から感じる質量が違う。

 

 振り向けば、そこにいたのは間違いなく首無し騎兵(デュラハーン)だった。

 

「嘘だろ……逃げるぞ!」

「え、なんで動いてるの!?」

 

 一度扉に続く通路の前まで行ったから?

 それとも滞在時間?

 わからん。ここまで進んで引き返したことも、ここまで長い時間居座ったこともない。

 

 取り敢えず、現実に迫ってくる首無し騎兵(デュラハーン)に太刀打ちする術はないんだから逃げるしかない。

 

「銃で窓割れ!」

「う、うん!」

 

 【魔士(マギ)】系クラスの天城に身体能力は期待できない。

 つーか俺でも直線距離で馬に勝てるとは思えない。

 

 天城の【天凛銃アルソーヴァ】が射貫いた窓から俺たちは外に出る。

 ギリ間に合った。これで撒けたろ。

 

「ね、ねぇ、外出て来てるよ……」

「は? テメェ、城護ってなくていいのかよ盗掘されんぞ」

 

 いや、そもそもこいつを倒さなきゃ扉は開かない。

 それにあの宝玉がなければ扉の先に進んでも意味がない。

 そもそも『護ってる』って考え方が間違ってるのか。

 

「天城、一人で逃げろ。俺が時間を稼ぐ」

 

 昨日戦った経験がある。多少なら動きはわかる。

 時間を稼ぐ程度ならやってやれないことはないだろ。

 

「でもそれじゃあ彩人がまた」

「お前死ぬ覚悟できてないんだろ? 探索者向いてないとか言ってたのも多分それが理由なんだろ? やめるなら死ぬ前にやめとけ、それくらいは俺が付き合ってやる」

「でも……私は人を護るために委員会に入ったから……」

 

 泣きそうな顔でそう言っている間にも、首無し騎兵(デュラハーン)はこっちに近付いて来ている。

 疾走をやめたのは俺たちが逃げるのをやめて追う必要がなくなったからだ。荒野での追いかけっこで俺たちが勝つ未来はない。

 全力疾走よりゆっくり歩いている方が相手の攻撃に対処しやすくて当然。

 

 さすが騎士様、間合いの管理もお上手なことで……

 

 つーか早く逃げろよ。

 

「言ったろ。俺はお前に護られたいなんて一ミリも思ってねぇんだよ。だから、泣いてる女なんか邪魔なだけなんだからさっさと消えろって言ってんだよ!」

「い、嫌だ! 私だって戦える! 【天凛銃(てんりんじゅう)アルソーヴァ】!」

 

 は?

 

 銃を召喚した天城は、首無し騎兵(デュラハーン)に向けて弾丸を乱射しながら突っ込んで行く。

 昨日それは効かねぇって試しただろ。まさかゼロ距離なら効くとでも思ってんのか? それとも別に考えがあるのか?

 

 いや、無理だろ。

 

 首無し騎兵(デュラハーン)が剣を構えている。

 爺ちゃんみたいに相手の動きが見えてるヤツは、その所作に応じて動きを変える。

 だが、天城の疾走はただ我武者羅に突っ込んでるだけでなにか勝機が見えてるようには思えない。

 

 って、分析してる場合じゃねぇ。

 

「間に合え、【俊足(ステップ)】!」

 

 俺に出せる最高速度で天城に追いつき、制服の襟首を掴んで引き寄せる。

 

「ぐえっ!」

 

 天城の身体能力に俺が負ける要素はない。

 俺の腕力が天城の身体を引き寄せると同時に、首無し騎兵(デュラハーン)の剣が天城の胸元を掠めた。

 

 首は断たれてはいない。即死はしていない。けど……

 

「あ、あぁ……うそ、やだ……あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 天城が前に突き出していた両腕の肘から先が斬り落とされた。

 

「ッチ、【召喚(サモン)】!」

 

 召喚した二人に俺はすぐさま指示を出す。

 

「極美、天城を治せ!」

「はい!」

「爺ちゃん、あいつ倒せるか!?」

「無理じゃな。あやつは殭屍導師(マスターキョンシー)と違って斬撃への耐性が高い。有効打を決めるには多少ギャンブルになる。確実に倒せるとは言い切れん」

「時間稼ぎなら?」

「可能じゃ」

「頼む!」

 

 爺ちゃんは首無し騎兵(デュラハーン)の方に向かっていき、俺は極美と共に【回魔(ヒール)】を使って天城の治療に当たる。

 

「お兄様、無理です。胸にかなり深い傷があります……どの順番で傷を塞いでも失血死します」

「黙って治せ……頼む……」

「かしこまりました」

 

 【超回魔(エクストラヒール)】や【回魔(ヒール)】は損傷が激しいほど治癒に時間がかかる。

 【超回魔(エクストラヒール)】なら部位欠損も治せるが、時間がかかるから先に止血のために【回魔(ヒール)】する必要がある。

 けど、それも間に合わないってことなんだろう……

 

「俺のせいだ、俺がもっとちゃんと止めてればよかった」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

 

 絶叫が落ち着き、治療されながら浅い呼吸を繰り返す天城は視線を俺に向けた。。

 

「違う……よ。私が……言うこと聞かなかったせい。いつもそう……自分ができないのが許せないから……なんでも挑もうとしちゃうし……すぐ人に噛みついちゃうの。ごめんね……」

「バカ。普段みたいに生意気言ってろよ……」

「……ねぇ、なんで泣いてるの?」

「え?」

 

 そう言われて自分の顔に手を当てれば、何故か俺の頬には涙が伝っていた。

 

「……優しいんだね。私が全部悪いのに……助けてくれたし……泣いてくれるなんてさ。自分が死ぬのはいいのに……他人(ひと)が傷つくのは……嫌、なんだ……」

「ちが、俺は……」

「あぁでも……痛いなぁ……耐えられないなぁ……治療しても死ぬなら……もう……しなくていいよ。むしろ……早く終わらせてほしいな……」

 

 痛みに耐えるような苦悶の顔と、俺を諭すような笑みが混ざった表情で天城は俺を見つめている。

 

 あぁ、俺って人間はどんだけ間違えば気が済むのだろう。

 

 人に尽くしたって意味なんかない。

 そんなことはわかってる。けど俺が今からしようとしていることは、どう足掻いても自分のためだなんて言い訳にはならない行いだ。

 

 それでも……俺は……こいつを楽にしてやりたいと思ってしまう。

 

「……わかった。目ェ閉じてろ」

「うん。ごめんね」

 

 【闘気(バトルオーラ)】【鉄拳(アイアンフィスト)】【加速の刻印(アクセルマーク)】――俺は自分の顔面を殴りつける。

 頬の肉が破れて、口を開けてないのに口の中に風が入ってくる。

 

 追加でスキルを起動。【傷至戦蛮(ダメイジングパワー)】。

 

 スケルトンやゾンビを相手に何度も砕いて来た。

 攻撃力は今の俺に出せる最大だ。

 ミスりゃしないし、痛みを感じる暇もやらん。

 

 俺は天城に向かって拳を振り上げる。

 振り下ろすと同時に、相手の感じた恐怖を引き金にする【現実的恐怖(テラーインパイア)】が発動している感覚があった。

 

 

 ぐちゃり――

 

 

 俺は天城の頭蓋を砕き、脳を潰した。

 

 モンスターと同じように天城の肉体の消失が始まる。

 残ったのは天城の制服の上着が一枚。

 どうやらこれはマナを有した製品だったらしい。【亜空倉庫(インベントリ)】の中に回収しておく。

 

送還(もどれ)

 

 役割を終えた二人を戻し、俺は立ち上がりながら首無し騎兵(デュラハーン)に向き直る。

 

 

「完全に八つ当たりだけどさ、今決めた。お前は絶対俺が殺す。覚えてやがれ……首無し!」

 

 

 首無し騎兵(デュラハーン)の斬撃が俺の首を断ち切り、空中から落ちていく視界を最後に俺は意識を喪失した。

 

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