転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
魔法陣に戻れば、そこにはすでに天城が戻って来ていた。
「ふっ、おかえり」
いつもハツラツとした笑みとはまるで違う。
自虐するような表情で天城は微笑む。
「あぁ、大丈夫か? 体調とか」
「うん、思ったより平気。本当に怪我とか全部なくなるんだね……」
「そりゃよかった。じゃあ今日は解散だな」
「あぁちょっと待って。連絡先交換しよ」
「え、なんで?」
「なんか寂しいから」
…………どうしたこいつ。
なんかアレか、初デッドで変な気分になってるだけか。
「まぁ、一々時間を決めて集合するとなにか予定が入った時困るか」
「うんうん、そうそう、だからいいでしょ?」
「わかったわかった」
「ありがと。ねぇ今日の夜電話かけていい?」
「なんか話すことあったっけ?」
「ううん、ただの暇電」
「……おい、マジで大丈夫か?」
俺が脳ミソグチャグチャにしたせいで頭バグった?
いやいやいや、今まで俺だって脳ごとイかれたことは何度かあったがこんな風になることはなかった。
「大丈夫じゃないよ。なんか、私って誰にも必要とされてないんだなって思っただけ。勉強とか運動も別に得意じゃないし、唯一できたダンジョン探索だって死んじゃったし迷惑かけてるし、私ってなんの価値があるのかな?」
めんどくさ……なんなんこいつ……
数時間前まで調子乗ったクソガキやったやん……
けど、そうだな、俺がダンジョンに入り出した時のメンタルと少し似てる気がする。
「価値とかねぇんじゃね?」
「え、あぁ、だよねー。はは……」
「だから頑張るんじゃねぇの?」
「……ネガティブな方がいいってこと?」
「行動の原動力になるなら感情の質なんか関係ないって話。まぁいいや。お前が今後どうするのも、お前の自由だ。精神的にキテるならしばらく休めばいいんじゃね? 俺は明日も行くから多少は休んでも平気だと思うぞ」
入ったの六時だったから腹減った。
「俺は今お前のことより、今夜の夕飯のことを考えなくちゃいけないんだよ」
「え、一緒に食べてくれるってこと?」
「絶対に言ってないよね。どんな難聴だよ。後俺は基本的に自炊派だ」
「え、家に来いって言ってる? まぁどうしてもって言うならぁ……」
「だから言ってねぇよ」
アホくさ。帰ろ。
「変な男に拾われないように気を付けて帰れよ。じゃあな」
「ねぇ待って、一人にしないでよ……お願い……お願いします」
「……友達とかいねぇの?」
「いない。多分私の性格が悪いから」
「あー、なるほど……」
「その反応がもう酷い。泣こうかな」
ウジウジと鬱陶しい。
「お前さぁ」
と、座り込んだ天城の前に立つと、その肩が震え出す。
「ごめんなさい。ごめんなさい。怒らないで、もう殺さないで……」
「っ……」
もう殺さないで。
その言葉は異様に俺の胸に刺さった。
「ご、ごめんなさい悪気はなくて……」
「あぁ、いい、わかってる」
そっか、俺はこいつを殺したのか。今でもあの感触は拳に残っている。
キョンシーを殺すのにも慣れてる最中だったのに……それよりもっと、紛れもない『人間』を俺は殺したのか……
そのせいで、こいつはこうなってるのか。
やばい、なんか吐きそうだ。
けどダメだ。殺した側の俺が被害者面するなんて許されない。
最低でもこいつの前でくらいは、普通でいないと。
「……わかった。ファミレスくらいなら付き合ってやるから」
さすがに家にこの年齢の女を上げるのは事案過ぎるから断固拒否するが、まぁ一緒に外食するくらいなら構わないだろう。
「いいの?」
「あぁ、今日だけな」
「ありがと!」
◆
「じゃあ彩人は固有スキルの効果で色んなクラスのスキルを使えるんだ」
「まぁそうなる」
ハンバーグ定食を平らげた天城はさっきよりはマシな表情で話しかけてくる。
召喚も回復も見せちまったし、隠し通すには無理があった。
それに重要なのは『外でもクラススキルが使える』という部分で、それ以外はちょっと珍しい程度の固有スキルでしかない。
実際、天城の能力に勝てるようになるのはかなり先だろうし。
「彩人は、なんで探索者になったの?」
「大学生の時に付き合ってた彼女にフラれて、なんか自暴自棄になって、殺し合いでもすれば気が紛れるかと思ってダンジョンに行ったんだ。けど思いのほか性に合ってたらしくて、今はこうして生計を立ててるよ」
「へぇ、なんでフラれたの?」
「なんで……相手の本音は知らんけど、多分俺が頼りなかったとかそういう話に帰結するんじゃないか? まぁもう八カ月くらい前だしどうでもいいけど」
実際、思い出す頻度も日に日に減ってきている。
俺はもうその原動力で動いてはいないんだろう。
「でも、そんな顔するんだね」
「どんな顔だよ」
「暗い顔」
「まぁ、気分のいい話じゃないからな」
「そっか、そうだよね。ごめんね。話題変えよ、普段ダンジョンに入ってる時以外はなにしてるの?」
「ダンジョンについて調べることがほとんどな気がする。最近は配信とかもよく見たりしてるな。当たり前かもしれないけど、みんな安全マージンばっかりだからちょっと味気ないけど」
「配信……そうなんだ、私もたまに見るよ。みんな見た目がよくて話が面白いよね」
「そうだな」
やっぱり強いとは言わないんだな。
コメント欄で『最強』とか『強すぎ』みたいなのが溢れかえってる配信者もいることはいるが、たとえば天城より強そうな配信者はかなり稀だ。
そもそもあれはエンタメの領分で、探索で得た宝物や魔石で生計を立てる必要がない人の仕事だ。強さはそこまで求められない。
「推しとかいないの?」
「いるぞ」
配信サイトのフォロー欄から一つを抜粋したスマホの画面を差し出す。
「『マッスルデンゾーチャンネル』だ。ボディビルダーみたいな筋肉ですごい強そうだろ」
「え、意外、全然筋トレとかしてるタイプに見えないのに」
「男はみんなこういうのに一回は憧れるんだよ。俺もちょっとは筋トレしてるし」
俺だってこういう強そうなビジュアルに憧れたけど、筋トレをしているところ爺ちゃんに見られて「絶対やめろ」って釘刺されたからな……
爺ちゃんいわく、見せるための鍛錬と戦うための鍛錬は別物らしい。
今は爺ちゃんの組んでくれたトレーニングメニューをやってるけど、そのメニューだと筋肉が張ったりとかほとんどない。
「意外と中身マッチョだったりするの?」
「そんなことねぇよ。普通の範疇」
「今度腹筋触らせてよ」
「なんかやだから無理」
「ひど。ちなみに他にはどんな配信者をフォローしてるの?」
「えぇっと、あぁこの人とか有名なんじゃないか? 『
「名前は知ってるかも。私は見たことないけど、この人の配信面白いの?」
「いや、普通に顔がタイプ」
「あっそう」
つーかこのモードいつまで続くんだ。
調子が狂うからさっさと戻って欲しいんだけど……
けど、結局ファミレスから出るまで天城はずっとこの調子だった。
◆
翌朝、天城から『やっぱり今日は休むことにする』と連絡が来たので今日は俺一人での探索だ。
「【
やって来たのは第四階層。
爺ちゃんと極美を呼び出し、ゾンビの群れを見据える。
「今日は五層ではないのか?」
「うん、探索者としての能力がまだまだだと思ってさ。いい加減レベルを上げたいと思うんだ」
それに、あの首無しへの恨みで今は頭が満ちている。
「まぁ、基本的な技量はある程度身について来たことだしな、それもよかろう」
よし、爺ちゃんのお墨付きももらえた。
ガンガン倒して、ガンガンレベルを上げよう。