転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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21「騎士道」

 

 今日は待ち合わせの時間の少し前に来たから、俺が天城を待つ形になった。

 十分ほど待っていれば天城は「おまたせ」と言って姿を現す。

 

「いや、俺もさっき来たところ。体調は元に戻ったか?」

「えぇ、委員会のカウンセリングも受けたしもう平気」

 

 カウンセリングか、さすが国営機関ともなると色々と充実してるんだろうな。

 

「そりゃよかった。それとこれ返し忘れてたから」

 

 手に持っていた紙袋を差し出す。

 中身は天城の制服の上着だ。

 

 けど天城は今日も制服を着てる。替えも支給されてるのか……

 そりゃダンジョンで装備をロストする可能性があるもんな。

 けど、その可能性を考えてるのに初仕事に一人で来させるのはちょっと違和感がある。

 

「え、戻って来た時そんなの持ってなかったじゃん」

「【亜空倉庫(インベントリ)】のスキルだよ。ダンジョン内じゃないと取り出せないからあの時返せなかったんだ。嫌だったら謝るけど一応クリーニング出しといたから」

 

 ダンジョン外でもスキルが使えることは、天城に教える気はない。

 

「そんなのまで使えるんだ、便利ね。まぁ私の固有スキルと違って外じゃ使えないから不便か。洗濯もありがと」

「おぉ……お前感謝とかできるんだ」

「私のことなんだと思ってるのよ。別に、これくらい普通でしょ……」

 

 死ぬ前と同じような憎まれ口を叩きながら紙袋を受け取ろうとした天城は、手を差し出したまま止まる。

 

「あ、けど手荷物邪魔だから【亜空倉庫(インベントリ)】に入れておいてよ。帰る時に受け取るから」

「俺は荷物持ちですか、まぁ調子が戻ってよかったよ」

「なんで今の会話で調子が戻ったことを確信してんのよ」

「まぁまぁ、ほら行こうぜ」

 

 俺たちは魔法陣の中に入り、『死霊の楽園:第五階層』に転移する。

 

「で、どうする? 首無し騎兵(デュラハーン)の脅威はまだ健在だ。一応ここから逆走して第四階層に行くこともできるけど、ゾンビは無理なんだっけ?」

 

 三つの城が融合した歪な建造物を見上げながら、俺は天城に問いかける。

 身体を抱くように肩肘を抑えた天城の表情は、緊張と恐怖が入り混じっていた。

 

「ううん、一回死んだからか、首無し騎兵(デュラハーン)っていう本物の恐怖を知ったからかわからないけど、ゾンビくらいは平気だと思う。でも……行くしかないのよ。必要な魔力値の減少は20万、でもゾンビだと一体辺りの魔力値は50前後。残り三週間で四千体はさすがに無理」

 

 俺と爺ちゃんと極美の三人が一日十五時間の探索を一週間繰り返して倒せたゾンビの数は千に及ばない。

 たとえ俺が全力を出して、その上で天城と協力しても四千体はたしかに現実的な数値じゃない。

 

「幸い、あいつが動き出す条件は扉の前の通路に行くか、城の中での時間経過とかその辺でしょ? 前者なら被害はないわ」

「後者だったら?」

「毎日私が死ねばノルマを達成できる」

 

 まぁたしかにそうだな。

 残りは二十日。一日に倒せるリビングアーマーは五十。リビングアーマーの魔力値は最低200。

 20×50×200。ぴったし20万だ。

 

「だからもう本当にいいよ。ここまで付いて来てくれて、ありがとう」

 

 なんだそれ……

 本当にそういうつもりだったなら、さっき制服を受け取って別れればよかったはずだ。

 俺に連絡してくる必要なんてなかったはずだ。

 そもそも、着いて来いって言ったのはお前だ。

 

「なんでそこまでする? 普通に無理でしたって報告すればいいだろ」

「だって私は特別だから。強力な固有スキルを持って生まれて、数日前まで死んだこともなくて、ダンジョン管理委員会にスカウトされたって実績もある。これで特別じゃないって方が無理があるでしょ?」

「答えになってない。特別だとどうして身体を張らなきゃいけないことになるんだよ?」

「だって……みんなそう言うもん。同級生も、スカウトしてくれた人も、カウンセリングの先生も、親だって……『特別だから』って『すごいね』って……【頑張って】って」

 

 こいつを見ていると無性にイライラする。

 なんでなのか、やっとわかった。

 言葉遣いとか、態度とか、そういうのはその理由に比べればどうでもいい。

 

 天城は、自分のために生きていない。

 俺は、そんなお前を否定したいんだ。

 

「お前が中二病拗らせてんのはよくわかったよ。だから大人の俺が現実ってヤツを教えてやる。お前はなにも特別じゃない。何故なら、お前が倒せなかった『首無し騎兵(デュラハーン)』は今から俺に倒されるからだ」

「……なに、言ってんの?」

「言葉通りの意味だ。だからお前はリビングアーマーの掃除でもしとけ。じゃあな」

「違っ、そんなこと私は望んでなんか……待ってよ」

 

 別れを切り出したのはお前の方だ。

 お前の望みなんか知ったことか。今更待ってなんてやるものか。

 

 そんな思いを込めて天城を一瞥し、俺は城の中へ入る。

 天城が付いて来ることはなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 扉へ続く長い通路の向こうには首の無い騎士が馬に乗って待ち構えている。

 

「【召喚(サモン)】」

 

 俺の背後に二体のモンスターが姿を現す。

 

「アレを倒す」

「理解した」

「承りました」

 

 俺の宣言に『吸血鬼』と『幽霊』は頷く。

 

「爺ちゃん、勝率はどんくらいあると思う?」

「技量で言えばアレより儂がやや勝る。だが、単純な攻撃力と防御力は儂より高い。お主を護りながら戦うのならば勝機など存在しない。しかしお主が護られる必要なく、戦闘員として申し分のない働きをするのなら、極美嬢の魔術と儂の剣技が時間の限りヤツを追い詰めるであろう」

 

 一息区切り、爺ちゃんは結論を出す。

 

「ヤツが倒れるまで倒れるな。さすれば、お主の勝率は十割だ」

 

 脳筋のクソみたいな結論だ。

 けど、わかりやすくていい。

 

「ハッ、やってやらぁ! 【敵視(タウント)】!」

 

 射程に入り止まる極美と、隙を狙うべく脇に逸れる爺ちゃん。

 俺はその先陣かつ中央を、走る。

 

「【闘気(バトルオーラ)】【加速の刻印(アクセルマーク)】【過集中毒(アドレナリンブースト)】」

 

 身体能力の強化。

 絶対速度の増加。

 集中力の強化。

 

 スキルの発動と共に、俺にできることが増えていく。

 

「【勝者必敗(プロトコル=ヴィクトリー)】」

 

 一度敗北した相手との戦闘時限定の『全スキル強化』。

 

 よかった。発動した。

 ダンジョンのモンスターの状態はリセットされてるから、別個体と認識されるかもしれないと懸念していたが、どうやら【勝者必敗(プロトコル=ヴィクトリー)】はこいつを俺を負かした相手だと認識してくれたらしい。

 

 今までとはまるで違う感覚が頭を染める。

 

 万能。全能。完全。無欠。最強。

 

「リベンジマッチだ、首無しィ!」

 

 首無しが剣を振り上げる。俺は【俊足(ステップ)】を使って跳躍し騎士の顔面に向かって拳を振り上げる。

 

「【鉄拳(アイアンフィスト)】!」

『――謝罪しよう。貴殿を侮っていた』

 

 は……? 喋った? つーかどっから声出してんだ?

 

 いや、今はそれどころじゃねぇ。

 

 剣がくる。真に受けるな。集中を途切れさせるな。

 会話ができるなんて関係ない。俺はこいつを倒すためにここにいる。ブレるな。

 

『――貴殿は不屈の意志を持つ騎士だ。故に頼む、私を僕を俺を、殺してくれ』

 

 あぁそうかい、それならブレる必要なんかなさそうだ。

 

「【流弾(パリィ)】!」

 

 重なる一人称と共に放たれた斬撃は、俺の付けている籠手に弾かれる。

 バカみたいな重さ。超大な魔力。圧倒的な剣速。

 

 けど、弾けたぞ……!

 

「【退魔の光(エクソシズム)】!」

「【飛翔斬撃(アークスラッシュ)】!」

 

 死者を送る黄金の光と、飛翔する斬撃が左右から首無しに叩き込まれる。

 

「心配すんな、最初っからそのつもりでここに来た」

 

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