転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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22「人生」

 

 極美と爺ちゃんの攻撃を受け切り、舞った煙の中より無傷のそれは姿を現す。

 

『――私は貴殿を侮っていた。所詮は意志も覚悟も薄弱なただの墓場泥棒だと思っていた。しかし君は一度ならず二度までも儂に敗北したクセに、またもやここへやって来た。しかも一度目も二度目も、あなたは女性を庇っていた。その在り様は騎士と呼んで相違ないものだ。ならばこそ、拙者は貴様に期待できる』

 

 グチャグチャの一人称と二人称。

 それでもその言い分のすべてに『騎士道』が一貫して存在しているように感じる。

 

 にしても俺と戦った記憶はあるのか。

 

 剣聖骸骨(サムライレヴナント)との戦いで、俺はこのダンジョンのモンスターは一定間隔ごとに状態がリセットされていると思っていた。

 少なくとも、剣聖骸骨(サムライレヴナント)は俺と何度戦っても対応や変化することはなかった。

 

 中身は記憶を引き継いでいるが、操作されている身体はその理解を応用できないってことか?

 

 つーか、

 

「なぁ、そもそもなんでお前はそんな姿になってる?」

『――わからぬ。気づいた時にはこうだった。名乗るべき名がどれだったのかも最早わからぬこの身だが、手前に斬られるのであれば悪くない』

「斬られたいなら黙って静止すればいいだろう」

『――それは不可能だ。我の肉体は僕の意志による制御を失っている。こうして音を操れるだけでも相当な精神力が必要なんだ』

 

 極美の言ってた状況と同じか……

 喋れるのは、騎士様の精神力の成せる技ってか?

 

「そうか、じゃあ本気で殺す。いいんだな?」

『――あぁ。だが、俺は強いぞ?』

「ハッ、知ってるよ」

 

 二度も殺されたんだからな。

 

「【雷撃(ライトニング)】」

 

 目くらましに放った一撃と共に【俊足(ステップ)】で加速。

 身体強化マシマシの後ろ回し蹴りを馬の首元へ放つ。

 

 だが、【雷撃(ライトニング)】は盾で弾かれ、蹴りは差し込まれた剣に受け止められる。

 

 けど、剣と盾、両方を使っちまったら剣豪の一撃が迎撃できなくなるだろ?

 

「【刺突(ピアッサー)】」

 

 【斥候(スカウト)】のクラススキル【光学迷彩(カメレオン)】で姿を消した爺ちゃんは【八艘跳び】で首無し騎兵(デュラハーン)の背後に回り込み、その首の隙間から鎧の中へ刺突を見舞う。

 

『――まず一つ、眼がないんだから当然だけど、あたしは視覚によって世界を捉えていない。一つ、吾輩に中身はない』

 

 基本構造はリビングアーマーと同じか。

 首から上だけじゃなくて中身も存在せず、魔法陣が刻まれているのだろう。

 

 だが残念だったな。爺ちゃんには相手の弱点を見抜く【急所解析(クリティカルインサイト)】がある。

 爺ちゃんは鎧の内側にある魔法陣を狙えるってことだ。

 

 差し込まれた刀が、鎧の内側と接触し金属音を響かせる。

 

『――そして、刻まれた精神の数は命の数だ』

 

 身体を後ろへ半回転させながら盾で爺ちゃんを殴りつけようと振りかぶる『首無し』に対して、爺ちゃんはすぐに刀を引き抜き【八艘跳び】で距離を取る。

 

此奴(こやつ)の魔法陣は、見えるだけで三十以上ある」

 

 さすがに一筋縄じゃいかないか。

 まぁ、この程度で倒れると思ってたわけじゃない。

 それなら最初の遭遇の時に、爺ちゃんが勝てるかわからないなんて言うはずないし。

 

「けど、【減速の刻印(スロウマーク)】は付けられた」

 

 相手の運動速度を一割低減させる【加速の刻印(アクセルマーク)】と逆の呪い。

 これで多少は戦いやすくなるだろう。

 

「押すぞ彩人」

「言われるまでもねぇ」

「【氷槍(アイスランス)】」

 

 坦々と魔法を撃ち出す極美に連動して、俺と爺ちゃんも距離を詰める。

 俺と爺ちゃんで挟んだ状態で、しかも魔法も飛んでくるとなれば全部を迎撃するのは無理だろう。

 

 そして【斥候(スカウト)】のスキルで隠密性を上げている爺ちゃんと、【敵視(タウント)】で意識を引っ張ってる俺の二択じゃお前は間違いなくこっちを見る。

 

『――気を付けろ。魔力を操るのはそちら側の特権ではない』

 

 魔力だ。魔力を知覚するスキルなんか持ってない俺でもわかるほどに絶大な魔力が刃に乗っている。

 これは……【斬撃(スラッシュ)】と似た異能……?

 

「ッチ、【(パリッ)――」

「馬鹿者がッ!」

 

 さっきと同じように弾こうと振り下ろされる斬撃に手を掲げた瞬間、横腹に痛みが走る。

 逆方向に吹き飛ばされながらそちらに視線を向ければ、爺ちゃんの足裏が見えた。

 

 その空間に振り下ろされた斬撃は、爺ちゃんの片足を切断する。

 

「くっ、魔力の差とは威力の差だ。お主程度のスキルでコレを止められると思うてか」

「爺ちゃん!」

 

 足を切り裂き、振り下ろされ、地面を砕いた斬撃はそのまま刃の方向を変え爺ちゃんの胴体を狙う。

 

「【聖障壁(セイントウォール)】」

 

 刃と爺ちゃんの間に発生した黄金色の半透明の壁は、刃の到達と共に「パリン!」と音を立て一瞬で砕かれた。

 だが爺ちゃんの機動力なら、片足でもその一瞬で十分だったらしい。【俊足(ステップ)】と【八艘跳び】の併用で極美と同じラインまで離脱していた。

 

「治療が終わるまで戦線を維持しろ。いいか、先の一撃を受けようとは思うでないぞ」

「あぁ、わかったよ」

「【超回魔(エクストラヒール)】」

 

 極美が爺ちゃんの回復を始めたのを見ながら、俺は立ち上がる。

 けど、今の俺にあいつの斬撃が避けられるのか?

 いや、回避に徹すればなんとか……

 

『――呆けるな。身体が真二つに別れるぞ?』

 

 またも剣が振り上げられる。

 けど、どこ向いてやがる……俺はこっちだし、そもそも間合いじゃねぇだろ……

 

 つーかこの角度って……

 

『――癒し手を護れ。それが騎士たる者の務めだろう』

 

 極美狙い……? 【敵視(タウント)】が効いてねぇのか!?

 極美には『物理攻撃無効』の種族特性があるけど……

 

『――【エアリアルブレイド】。空気の刃を飛ばす魔法(・・)だ』

 

 そもそもあれだけ魔力を宿した刃による攻撃なら、魔法じゃなくても極美を切っちまいそうだ。思ったより『物理攻撃無効』って役に立たねぇな。

 

 それに、極美は身体強化系のスキルをまったくと言っていいほど保有していない。

 その斬撃の速度が爺ちゃんの【飛翔斬撃(アークスラッシュ)】と同等かそれ以上なら、極美に回避できるスピードじゃない。

 

 クソ、今からじゃ間に合わない。使うしかねぇ。

 

 一日一回限定スキル。

 

「【主護(マスターガード)】!」

 

 このスキルの効果は限定的な『転移』だ。

 主と定めた対象の目の前に瞬間移動することができる。

 距離の概念を無視できる『転移』の性能は破格だが、一度使うと二十四時間のクールタイムがあるし、ダンジョンの内と外に分かれてる時は使えない。。

 

 それに、別に転移したからって俺の防御力が上がるわけじゃない。

 

『――ほう、それでこそ我が認めし騎士の姿なり』

「るせぇ、【金剛体(アイアンボディ)】!」

「守ります」

 

 目の前に三つの盾――【魔力障壁(シールド)】【聖障壁(セイントウォール)】【氷華障壁(アイスシールド)】が出現する。

 三種の魔法は【隠者(ハーミット)】のクラススキル【無詠唱魔術(サイレンス)】によって一瞬で出現し、敵の攻撃には間に合っている。

 

 けど、普通に耐久力が足りてない。

 三重の結界は軽々と砕かれ、攻撃は俺に到達する。

 

 顔を護るようにクロスして上げた腕と、右胸から左太ももにかけて命中した斬撃が俺の肉を抉る。けど、どこもぶった切られてはない。

 

「中々痛ぇじゃねぇかよ、全部計算通りだけどなぁぁぁああああ!!」

 

 【傷至戦蛮(ダメイジングパワー)】と【自己再生(オートヒーリング)】が自動的に発動する。【過集中毒(アドレナリンブースト)】によって興奮と共に集中力が高まっていく。

 

「【常在回魔(リジェネレイト)】」

 

 極美の徐々に傷を癒すスキルが俺の身体を包む。

 二種類の自動回復効果が俺の傷をどんどん治療していくが、このままだと【傷至戦蛮(ダメイジングパワー)】の効果が切れる。

 

 だったら、治る前に突っ込むしかねぇだろ!

 

「【俊足(ステップ)】!」

 

 真正面から拳を込めて。

 

『――もう一度だ。【エアリアルブレイド】』

「【氷華障壁(アイスシールド)】」

 

 一発食らって確信したぜ。

 その遠距離攻撃は、近接攻撃と比較して威力が一段階落ちる。

 

 極美の結界一つ間に挟まれば……

 斬撃の予備動作、角度、放たれるタイミング、発射速度を見切れば――

 

「【流弾(パリィ)】!」

 

 弾ける!

 

『――やるではないか小僧』

「さっきからずっとなんでお前ら俺のこと応援するような立場なんだよ? 騎士ってのは自分の技破られてる時に笑ってるモンなのか!? 騎士道ってのは随分としょうもねぇ心構えなんだなァ!!」

 

 一瞬、首無しの動きが止まった気がした。

 

「【鉄拳(アイアンフィスト)】!」

 

 突き出した拳は、騎士の乗る馬が纏った鎧の隙間を抉る。

 こっちはリビングアーマーとは性質が異なるのだろう。騎士と違って馬には中身がある。

 

 殴打は馬の肉を抉り、血が舞った。

 

 抉り抜いた血肉を、俺は口元へ運ぶ。

 

 

 【敵喰超越(プレデターエクシード)】。対象の一部を食うことで、その敵と交戦を続ける間、全スキルの威力が向上する。

 

 

「こっからが本番だ。騎士道だか誇りだから知らねぇが、クソくだらねぇんだよ。力と技と心、全部使って本気でかかって来い。叩き潰してやるからよォ!」

『――我らが在り方を、生き抜いた生涯を……愚弄するか?』

「テメェらの歴史なんか知らねぇよ。俺が否定してんのは、今目の前にいるテメェらだ。自分が培ったものを最後に出し切りてェとは思わねぇのか?」

 

 俺はずっと思ってたぜ。

 死が確定しているのだとしても、全力出して死なねぇと、絶対に後悔するって知ってるんだ。

 

 ヒヨって、震えて、なにもできずただ見ているだけの俺なんて、俺が一番納得できない。

 

 だからずっと全力だった。敢えて手を抜いて殺されたことなんか、ダンジョンに入って一度もない。

 なのにお前は、俺と戦ってくれないのか?

 

『――狂っているのか? それは貴殿の死を意味するのだぞ?』

「俺は、手抜きのお前らに勝つより本気のお前らに負ける方が嬉しいんだよ。まぁ、負けねェけどな」

『――は、はは、あははははははははははははははは! そうかそうか、そのようなことまで言ってくれるのか!』

 

 いくつもの魂が混在しているはずなのに、心の底からの大笑いを上げた首無しは剣と盾を構え直した。

 

『――今初めて理解したが、どうにも身体と(こころ)の目的が一致していれば多少の操作は効くようだ』

「そりゃよかった。退屈しないで済みそうだ」

 

 コツコツと俺の後ろから足音が聞こえてくる。

 どうやら喋ってる間に回復は終わったらしい。

 

「なにをお主らだけで始めようとしておる。儂にも寄越せ」

「仕方ねぇな」

 

 隣まで歩いて来て差し出された爺ちゃんの手を、べったりと血肉の着いた籠手で叩けば、爺ちゃんは血と肉の付いた指で唇をなぞる。

 残った血肉は【炎弾(フレイムバレット)】の応用であろう掌に灯した炎によって灰燼に帰した。

 

 下級吸血鬼の『吸血強化』と俺と同じ【敵喰超越(プレデターエクシード)】が爺ちゃんの能力を強化する。

 

「支援はお任せください」

 

 極美もいつも通り口数は少ないが、覚悟は決まっていそうだ。

 

『――名乗るべき名がどれなのか、判別すらできぬこの身の上。しかし、そのような化物にも人としての矜持を認めていただけるのであれば、礼節と全力を持って相対せねばなるまい。種族名で失礼する、我が名は【首無し騎兵(デュラハーン)】。押して参る!』

「斑鳩十蔵と申す。できれば一騎打ちを所望したいところではあったが、そちらも大勢いるようだし許してくれ」

 

 もういい。どうでもいい。

 こいつにムカついたとか、天城にイラついたとか、このダンジョンを攻略したいとか、俺を強くしてくれたモンスターへの感謝とか……

 

 そういうの全部ひっくるめて、俺がこいつと戦う理由。

 

 それは結局……

 

「斑鳩彩人だ。死ぬ気でやろうぜ。きっとその方が、お互い『人生』を楽しめる」

 

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