転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
その強さに意志が乗る。
斬撃は鋭利さを強め、盾はより頑強に変わり、その動きは今までより一段とキレのあるものに様変わりした。
エアリアルブレイドと呼ばれた飛翔する斬撃に加え、盾には【
必殺の刃と鉄壁の盾。
理解不能な能力はなにもないからこそ、単純明快に俺より高位の強さを持っていると理解させられる。
『――条件付きの強化魔法の重ね掛けか。大したものではあるが、使い方がまるで素人だな』
「上から目線でお説教どうもッ!」
振り下ろされた斬撃を紙一重で躱し、そのまま振るわれた横薙ぎの一閃を【
【
すぐに俺はその場から飛び退く。
完全に後手だ……
「技量不足は自覚してる。今鍛えてる最中だ」
『――それで、生涯を賭して研鑽を積んだ我らに勝てると思うのか?』
「あんたらだって本域の身体じゃねぇだろ。それに身体能力だけなら追い縋れる」
『――ならば、一段階ギアを上げよう。ついて来い。【エンハンス:リィンフォース】』
本来は相応のスキルがなければ目視することなんてできないはずのマナが、超高密度すぎて俺にも見えるようになってるんだろう。
言葉通り、速度も膂力も一段階上がった
なんで、馬の性能まで上がってんだよ、とツッコミを入れる間もなく目前に迫った
「【
なんとか転がり込むように横に逃げる。
『――【エンチャント:フレイム】』
炎を纏った剣が俺を追って横薙ぎに振るわれる。
「【
「【
極美の出した盾を斬り溶かしながら剣が迫ってくる。それを俺は四肢を使った跳躍で躱す。俺の真下を炎を纏った剣が通過していった。
悠久の研鑽を感じさせる流れるような動作で、さらに『――エンチャント:ライトニング』雷を纏った刺突が空中の俺を目掛けて進む。
「【
目の前に出て来た爺ちゃんが、刺突に刺突を返した。
刃の切っ先どうしが滑り、
「【
極美の光属性の魔法に対して盾を構えた
ヤバ……ジリ貧すぎる……
身体強化系のスキルはまだ二つほど使っていないものがある。
一つは【
もう一つ【
『――今更、俺を煽ったことを後悔しても遅いぞ』
「言ってんだろ。後悔しねぇために、今お前と戦ってんだ」
つーか、さっきからポンポンとスキルみたいな力を使ってきてるが、なんなんだそりゃ……
もしそうだとしたら、魔法陣の数的に三十人以上が持つスキルを全部使えるってのか?
俺の固有スキルの完全上位互換じゃねぇかよ……
速度、膂力、技量、スキルの数、あらゆる面で俺は
『――ならば超えて見せよ。敗北を目指して残る物など無いと知れ』
「心配するな、手札はまだ残ってる。極美、出せ!」
「【
極美の両脇に二体のモンスターが現れる。
ここ数日で手に入れたゾンビのモンスターカードの余りだ。
二匹は俺の横まで走ってくる。
その一体の腕を掴み、ハンマー投げの要領で
『――【エンチャント:ブリザード】』
上下真二つに裂かれたゾンビが空中で氷結する。
その一撃の合間に、俺は
「【
硬質化した拳を馬の横腹に叩きつける。
さらに……
「【
同じ対象を撃つ限り威力が向上し続ける連撃のスキルを起動。
もう一発!
痛みに喘ぐように馬が悶え、暴れ出す。
そうか、お前痛覚があるのか。
【
「もう一発!」
『――させん!』
「貴様がな。【
俺に向かって振り上げられていた剣は、爺ちゃんの方を向き直った。
三度目の拳が、馬の胴を穿つ。
さっき抉った場所を重ねるように打ったことで、周囲に血飛沫が飛び散る。
「足場が暴れては狙いも定まらぬか?」
馬上から振るわれる斬撃はまったく爺ちゃんに当たる気配がない。
『――くっ!』
さらに残ったゾンビの一匹が
『――これしきで!』
ゾンビが真っ二つに裂かれた瞬間、その上半身と下半身の間を通り抜けるように【
『――ぬ! 【エンチャント:ディスペル】!』
氷の槍が盾に受け止められ、消滅する。
だが、盾も剣も俺に向いてない今――
「四発目ェ! と、ついでに食らっとけ【
血液を通り、電撃が全身を焼く。
ついに、馬の膝が折れる。
「いい加減、上から見下してんじゃねぇよ」
『――よかろう。騎乗することだけが騎士の戦いではない』
馬から飛び降りた
同時に、馬の方は消失現象が始まった。
『――吹き荒れろ【テンペスト・シーズナル】』
唱えた瞬間、
「テメェ、それ騎士っつうか魔法使いだろ!」
『――春雷、炎天下、秋風落葉、猛吹雪』
さらに地面にいくつもの魔法陣が生み出されていく。単語が呟かれるたびに、その魔法陣の種類、色が増えていく。
出現位置は完全なランダム。魔法陣の種類は最終的に四種。
黄、赤、緑、青。その魔法陣から出現するのは、下から上を穿つ『雷撃』『火柱』『竜巻』『氷柱』。
「ッチ……極美、
「よい判断じゃ。極美嬢の機動力ではこの数の魔法は避け切れんだろう」
「つーかどうすればいいんだこれ、俺たちだって体力が無限なわけじゃねぇし……」
「絶対的な安全圏が一つあるぞ」
「どこだよ?」
「
たしかにそうだ。自分の近くでは魔法が発動しないようにしておかないと自分で自分の魔法を食らうことになる。
「って、こんな危険地帯を抜けて近づけるのかよ!?」
魔法陣はヤツの近くに行けばいくほど数を増やしていく。
ランダムかつあれだけ大量に発生する魔法の嵐を全部掻い潜って近付くなんて現実的じゃ……
「道は儂が斬り開こう。というか儂にしか開けぬじゃろう。じゃから、行くのはお主じゃ」
「俺が……? けど今の俺の技量じゃ……」
「似合わん考え方をする。お主の愚かしさも……見通しの甘さも……今に始まったことではないし、治る治らないという話でもあるまい。ならばその『愚直』こそが己が強みであると開き直れ。それが貴様の強さの原点であろう」
俺が……強い……?
あんたがそう認めてくれるのか……?
「わかった。俺『たち』じゃない……あいつは『俺』がぶっ倒す!」
「それでいい。それでこそ自慢の孫じゃ。行け、――走れ!!」
「やってやらァ!」
全力疾走。
魔法陣もなにも関係ない。
斬り開くと、あんたが俺に言ったんだから、俺はただそれを信じて進むだけ!
「一刀流【
圧倒的な速度で俺を追い抜いた爺ちゃんは、俺の進行方向に展開された魔法陣を魔法を断つ【
俺の進む先が切り開かれ、そここそが強制的に最適解の道となる。
八つの魔法陣が斬られた先、俺は今まで一度も魔法陣が発生していなかった地点まで……
『――よくぞ参った。しかしあの剣士は貰うぞ!』
九歩目。【八艘跳び】の効果が切れ、地面に着地したその瞬間、爺ちゃんの足下に青い魔法陣が現れ――
「力の限り、戦え」
俺を見てそう言った次の瞬間には、爺ちゃんは氷柱の中へ閉じ込められた。
「
爺ちゃんがカードに戻る。戻ったってことは即死じゃなかったってことだ。
けどダメージがどれくらいかわからない。もう一度召喚するのは無理だ。
「正真正銘タイマンだ。ぶっ殺してやるよ」
『――我が【テンペスト・シーズナル】は敵を誘導するためのものだ。我が必勝の
「最初っから俺はそのつもりだけどなァ!」
『――一度入ったからにはもう出られんぞ!』
顔なんか一ミリも視えねぇけどわかるぜ。絶対、お前今笑ってるだろ。
最終局面だ。アドレナリンを沸騰させろ。
「【
『――【エンチャント:フレイム】!』
籠手が砕け散る。拳が斬られて、焼かれて、焦げ臭ェ。
けど、そうなってもいいように人間には腕が二本あんだろうが。
「【
「【エンチャント:ライトニング】!」
電撃……は、ゾンビ相手に自虐しまくったから慣れてんだよ!
「【
左腕を突き出している間に右腕を治せ。
右腕を突き出している間に左腕を治せ。
拳が振るえればそれでいい。
「【
痛みも、防衛本能も、不快感も、恐怖も、全部忘れて……ぶっトベるのが俺の強み!
『――騎士などと思い違いだった。貴殿は鬼だ。怪物だ。化物だ。魑魅魍魎か地獄の使いか、この世ならざるその狂気、たしかに強い! されども、それでもまだ――私の方が強い!』
押され始めてる。全身鎧とは思えない軽やかな動き。
剣速が拳速を超えてくる。そもそも打撃じゃ
それにこの野郎、打撃への対処が的確過ぎる。
必要最小限の動きで、剣と盾を巧みに使い、俺の攻撃をさばいている。
剣が肩を掠める。頬を、腕を、足を……俺にだけ傷が増えていく。
【
届かないのか。全力の全力を出してもまだ……
「クソが……」
どんどん、ヤツの剣戟が俺の正中線に近付いてくる。
受け切れなくなる。
『――手を抜きはしない。ここはこちらが勝つ。しかし願うなら、どうかもう一度、まみえてくれ』
ヤバい、腕の治療が間に合わない……
炎を纏った斬撃が、頭上より振ってくる。
防御、回避……無理だ……腕が上がんねぇ。逃げられるレンジじゃない。
死ぬ……
「【天凛銃アルソーヴァ】!」
嵐の魔法の領域外かつ、完全に意識外からの射撃。
白い弾丸が、騎士の胸を穿つ。
『――ぐっ!』
敵のマナを吸い取って起こる白い爆発が、トドメの一撃を中断させた。
「天城……!?」
「認めない。私が勝てない相手にあなたが勝てるなんて認めない! だからちゃんと理解して、私は特別で、あなたはそんな私の協力でしか勝てなかったって!」
『――我らが決闘の、邪魔をするなァァァ! 【エアリアルブレイド】!』
飛翔する風の刃の魔法。
その対象は天城……
「でも、色々手伝ってくれたから……」
「避けろ!」
「イイトコは譲ってあげるよ」
天城は身体を斜めに切り裂かれ、微笑みながら即死した。
『――小娘が。しかしその介入も無駄に終わったな』
「……無駄だと? 馬鹿かテメェ……いつの間にか嵐は止んだぞ? それに、身体に纏ったマナが薄くなってるぜ!?」
マナの限界。今までいくつの魔法を使った?
十八のクラスを持つ俺でも、体感的残りのマナは三分の一以下だ。お前はそんな俺に加えて爺ちゃんと極美相手にもマナを使い続けた。
さらに、天城の天凛銃は敵のマナを利用して爆発する。
それに、この……感覚は……
仲間を殺した相手に攻撃する場合、全攻撃に宿るマナ量が増加する。【
「そして、【
『――貴様ッ!』
「どうした? 【
恨みも辛みも、興奮も快楽も、矜持も後悔も――
俺という人間の全部を乗せろ。
どうせ
「ハッ、お前を殺してやる」
全部を混ぜて最後に残ったのは、純粋な『殺意』だけだった。
『――【エンチャント……』
無駄だ。もうお前にそれだけのマナは残ってない。
「俺の勝ちと言いてぇが、俺たちの勝ちだ。強かったぜ、お前」
俺の拳はヤツの剣を折る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
俺の一撃はヤツの盾を砕く。
鎧を砕く。脚部を、腕部を、肩を、腰を、胸を……
魔法陣がどこにあるかなんて関係ない。
全部、全部、粉々にしてやるよ!
抵抗はなかった。というか、足と腕が折れた時点でマナの残っていないヤツに取れる手段はなかった。
破片の山になった
『――見事』
そう呟いて、消えていった。
――アイテム【赤の