転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
レベルを上げスキルを得て、
天城が『死霊の楽園』に訪れなくなって一カ月。
俺の生活サイクルは以前と同じようなものになった。
週の三日ほどを爺ちゃんと修行し、それ以外の日は探索に充てる。
一度倒した後は襲ってくることのなかった二体だが、こっちから挑めば挑戦は受け入れてくれた。
キョンシーの方は喋れないからアレだが、騎士の方も黙っていて、俺が喋りかけても返事はなかった。
二体目の
それに、七、八回目くらいの挑戦で
『――すでに扉は開いているというのに、何故某に挑む?』
やっぱり喋れるのか……
可能性を考えていなかったわけじゃない。このダンジョンの死霊はいくら倒しても減りはしない。
もしかすれば、倒したからと言って捕らわれた魂が解放されるわけじゃないのか?
「やっと喋りやがったか。俺はあんたに勝ったが、内容的には完全に俺の負けだ。ってことは、あんたに勝てるようになればそれは俺が成長したってことになるだろ?」
『――成長のためか……悪くない答えだ。そしてすまぬが、儂には貴公と戦った記憶はない。儂にわかるのは、数十人の騎士の記憶、いつの間にやらこの不出来な人形に入れられていたこと、そしてこの身体は侵入者を討伐するためにしか動かぬ、ということだけだ』
俺と戦った記憶がない?
別の騎士の魂が入ってるってことか? にしては動きや技は前と同じだ。
わっかんね……
やっぱ、奥に進んでみるしかないか。
「まぁいいや。このダンジョンを攻略すれば、あんたも今より多少はマシになるかもしれんしメリットあんだろ。俺の技術向上のための肥やしになってくれ」
『――命を奪わんと襲い来る敵に教えを乞うと?』
「相手は選んでるさ。俺の知ってる中じゃ、あんたほど技術があるヤツは一人くらいしかいないんだ。技術の幅で言えばその人以上かも。だから敵でも関係ない、あんたに学ぶことにした」
『――死への恐怖よりも挑戦と成長の欲が勝つか。面白い男だ』
「ここでの死は偽物だからな」
『それでも、根源的な痛みや恐怖を克服するのは武人でも難しいよ。よかろう、なれば私が貴殿に俺の知る限りの武を教えてやる』
爺ちゃんと、
その間に天城が配信者になって炎上したりもしたが、俺の生活は特に変化していない。
経験値稼ぎと準備運動を兼ねて、通常のキョンシーやリビングアーマーも結構倒したから、暗殺者のレベルがいつの間にか
【
・人類に分類される生物にのみ発動可能。相手のレベルかランクを見抜く。
【
・身体から溢れて一時間以内の血を舐めることでその生物がどの方向にいるかわかる。
の二つを獲得。
次の転職は二次職の【
自身に掛かっている行動妨害系の効果を一瞬だけ完全に無効化する【
極美は【結界師】を極め、【
爺ちゃんは【鍛冶師】を極め、【
全員三次職は色々と増えていたが、レベルアップに必要な経験値量が莫大だからまずは二次職を修めていく。
四次職は、クラスアップに三次職を極めること以外の特殊な条件を満たす必要があると言われている。
俺は【
とは言え、そもそも三次職を極めた人間が多くないし、ダンジョン内でのモンスターや宝物の取り合いで戦うこともあるから手の内を明かさない探索者が大半だ。
四次職の出現条件なんてネットをいくら調べても眉唾レベルのものしか見つからなかった。
◆
年が明けた。
一応
何度も死んで相手の動きを分析した上で、瀕死の状態でなんとか【
一月三日。年末年始は三日くらいサボったから、今日は久しぶりのダンジョン探索だったりする。
おそらくランク4相当である二体に勝ったから、今回はエジプト風の城を進むことにした。
極美も【
これなら三体目のボスにも勝機があると判断した。
それに、城には何度も入ってるわけだし王様にそろそろ顔合わせくらいしとかないと失礼ってモンだ。
砂岩で造られた宮殿の最奥。
いつもと同じ巨大な扉を護るようにそれは存在していた。
とはいえ、今までの二体とは違い、それは壁や天井と同じ材質でできた椅子に腰を下ろしていた。
種族名は……
――モンスター【
アンクのような形状の錫杖を突き立てた人型のアンデッドは包帯の上からでもわかる女性的な体付きをしている。
今までのミイラと違い、それは全身に纏った装飾品から溢れんばかりの黄金の輝きを纏っている。
その中でも一際強く輝くのは、それの顔を覆う黄金のマスクだ。
「ツタンカーメンかよ。てか純金? なんかの間違いでドロップしねぇかな……」
アレ売っ払ったら装備のロストを怖がる必要もなくなるかもしれん。
「さて、喋れて喋りたいなら喋ってもいいぞ。まぁ、多分なに聞いてもやることは変わんねぇと思うけど」
そんな挑発的な言葉を理解していたのか、わからない。
それは錫杖をこちらへ向けた。
けど、別になにか変わった様子はない。
「なんだ? なにがしたい?」
「お……兄様……」
ドサリ、と後ろから音がする。
「極美?」
視線を向ければ、極美は爺ちゃんの造った杖にしがみつくように体勢を維持していた。
「すでに攻撃されています」
「は!?」
極美のスキル、【
それはモンスターが近寄らない領域を造り出すものだが、呪いに対して味方を護る結界としての効果もある。
「彩人、儂には見える。この廊下を完全に支配する呪われた魔力……これは、儂にはどうしようもないものだ」
呪い……?
まずい……呪いをかけられ続けているのなら、【
それをわかって極美も【
「もう持ちません。破られます……!」
「ッチ、二人とも
送還と共に極美の出していた結界が消滅する。
まったく目には見えないが、今も呪いが俺を襲っているのだろう。
けど、特に身体に変化はない。むしろ道中で使ったマナが回復している。
【呪術師】のスキルである【
「自慢の呪いも俺には効かねぇみてぇだな?」
『魂魄。仙境。不滅。永劫。未来。至るのは我が方である必要もない。憤怒も傲慢も魔術師たるには不要なりて、故に其の方よ、ここを通すわけにはいかぬな』
「日本語か疑いたくなるレベルで意味不明なんだけど?」
『仕組みに理解は不要であれば、民草はただ完成したものを享受しておればそれでよい』
言葉は話せるようだが、会話は不能か。
俺の疑問に答えてくれる殊勝なヤツにも見えないし。
「悪いが俺はお前を倒した先に用があるんだ。押し通る」
『呪いの魔術を分解する吸魔の
セカイの声に『
仮面の中の目が俺を捉えた。
その瞬間、俺はまるで世界が静止したかのような錯覚に陥った。
『――【
なんだこれ……ヤバい……心臓が痛い……
あいつ、めちゃくちゃ可愛い……
身体が勝手に前に進む。
絶対にこの女を手に入れたい……いや、手に入れる。なにをしてでも、なにを捧げても……必ず……
ふらふらと、俺の身体が吸い込まれるように『
絶対に呪いだ。わかってる。わかってるのに、抗えない……
多分【
わかんねぇ。つーか、今はそんなことどうでもいい……
この女が欲しい。付き合いたいとか、そういうレベルじゃない。誰にも目の届かない場所に、俺だけが干渉できる場所に閉じ込めておきたい。
って、
「【
スキルを発動させ、身体能力を向上させ、
『ほう、精神的な拘束を解除できるのか。しかし、一瞬ではな』
俺が突き出した拳は、
『ほれ。其の方が欲しいものを申してみよ』
クソが……抗えねぇ……
「お……お前が……欲しい……」
『そうかそうか、ならば我が方の一物をくれてやろう』
杖の先端が俺に向けられ、勢いよく突き出されたそれは眼球に突き刺さり、脳を抉った。
俺は死んだ。