転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

26 / 26
26「不戦の気遣い」

 

「お兄様、少しよろしいですか?」

 

 昨日、死んでダンジョンから出て来たのが午後一時。つまり今日の一時までデスペナルティでダンジョンには入れない。

 家でなんとなく天城の配信を見ていると、極美が寝そべっていた俺の隣に正座した。

 

 幽霊って膝くらいまではちゃんと足あるんだよなぁ、なんて感想を抱きつつ、イヤホンを外しながら身体を起こし、極美へ向き直る。

 

「どうした?」

「本日もあのミイラの女王へ挑むのですか?」

「いや、正直まったく勝機を感じられなかったからな……」

 

 今まで培ってきた身体能力も技術もまったく意味がなかった。

 魔法、魔術、よくわからないがその仕組みの中にある『呪い』という攻撃方法はそれの対策を持ってなければ勝てるビジョンが見えない。

 

 そして、今の俺にあの呪いを防いだり解除する手段はない。

 つまり、勝てない。無策でもう一度挑むのは無謀でしかない。

 

「神官系のレベルを上げて、対抗できるスキルが出るのを待つしかないと思ってる」

 

 これがもしゲームなら、一定のクラス保持者でなければ攻略できないなんて構造はクソゲー以外の何物でもない。

 だが、これは現実に発生した超常の話で、理不尽なことは当たり前。呪いへの対策なしに勝てる方法がある保証なんてない。

 

「あの……」

 

 珍しい。極美が自分からこんなに話すなんて。

 なにかあったんだろうか?

 

「私なら……女ならお兄様が受けたという【魅了(チャーム)】の呪いは効かないのではないでしょうか?」

 

 極美と爺ちゃんには対策も兼ねて、昨日の戦闘のことを話してある。

 

 滅びた魔術師(ルイン・カーメン)が使った【魅了(チャーム)】の呪いは、あいつに対して強い劣情を抱かせる。

 性欲だけじゃなく、支配欲や嫉妬心を掻き立てられ抗えなくなる。

 

「女だからって通用しないってこともない気がするけどな……」

 

 そもそもあいつの使う呪いが【魅了(チャーム)】だけだという保証はない。爺ちゃんや極美に浴びせていたもの以外にも強力で面倒な呪いを隠し持っているかもしれない。

 

 それに、極美は大丈夫だとしても俺が洗脳されれば極美の命令権も奪われることになって詰む。

 あいつの視界に入らない位置から極美だけを向かわせることも可能だが、それだと送還のタイミングがわからなくなる。

 

「俺と違ってお前は一度死んだら終わりだ。その程度の勝算で単身突っ込ませるわけにはいかない」

「普段のお兄様なら、負けることなど恐れずに何度も挑んで勝機を探したはずです。今回はそうされないのは、私とお爺様を気遣ってのことなのでしょうか?」

 

 居間で製作系のスキルを試していた爺ちゃんの意識が、僅かにこっちに向いた。

 それがわかるのは、爺ちゃんとの鍛錬の成果なのかもしれない。

 

「なんで召喚獣を気遣って挑めなくなるんだよ?」

「敵の術は、いわば洗脳の魔法です。例えばその状態で『召喚獣を召喚して自害させろ』と言われれば、お兄様は自らがそれに従ってしまうと思われているのではありませんか?」

 

 殺されたんだ。あの感覚は鮮明に思い出せる。

 俺が持つどんなものをを差し出してでも、俺はあの女を手に入れたいと思ってしまっていた。

 極美の言うようなことを命令されれば、俺はそれに従ってしまう気がする……という不安があるのは事実だ。

 

「まぁ、嘘を吐いたってしょうがないか。そうだ。俺はそれが怖いからもっと勝ち目が出来てからしかあいつと再戦する気はない。それにもし勝機が出て来たとしても、お前と爺ちゃんのモンスターカードは置いて行くつもりだ」

 

 俺がそう言うと、極美は深々と頭を下げた。

 

「申し訳ありません。召喚獣ごときのためにそのようなことを思い詰めさせてしまったのは、私の不徳の致すところでございます」

「なに言ってんだよ。俺はただここまで育てたお前を失うことを勿体ないと思ってるだけだ」

「わかっています。私は死者で、召喚獣で、他人です。ですが私はお兄様に感謝していて、その恩を返したいと思っているのです。ですのでどうか、私にお任せいただけないでしょうか?」

 

 俺がスケルトンの中に閉じ込められていたこいつの魂を救い出したのは、こいつの主観からすれば事実なのかもしれない。

 けど、俺からすればそれはダンジョンに囚われていたお前が、俺の召喚獣として俺に囚われている状態になっただけのようにしか思えない。

 

「俺はお前を都合よく使ってるだけだ。感謝なんてお門違いなんだよ」

「それは私とて同じことです……」

「……は?」

 

 極美は俯いたまま、俺の問いには答えない。

 代わりに、極美は芯のある視線を俺に向けた。

 

「お兄様、私はあれに勝てます。信じてください」

 

 いつも黙っているばかりで、意見なんてされたこともなかった。

 そんな極美は今日はやけに饒舌に話している。

 否定しても諦めずに懇願してくる。

 

「根拠を言ってくれ」

「私の魔術師としての能力がアレよりも高いからです」

「魔術師としての能力? ってなんだよ?」

 

 単純にクラスとか、スキルの話じゃないのか?

 それ以外に探索者の性能なんかないんだから。

 

「生前の私はそういう家に生まれたのです。信じていただけるかはわかりませんが、ダンジョンが現れる以前より、この世界には『超常』が存在していました」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜(作者:ちんこ良い肉)(オリジナル現代/冒険・バトル)

火賀灯真は、世界が終わる日を知っていた。▼正確には、世界が“サービス終了する”日を。▼午前十時。▼現代日本にダンジョンが出現し、人類の一部にレアリティとクラスとスキルが配られる。▼世間は混乱し、国家は対応に追われ、凡人は怯え、英雄願望のある者は浮かれる。▼そして俺は、ゲームの周回で猛威を振るった、自爆宝具…もとい戦闘不能と引き換えに繰り出す超火力広域攻撃スキ…


総合評価:5535/評価:8.01/連載:35話/更新日時:2026年06月21日(日) 23:26 小説情報

エロゲ転生〜やり込んだ知識でハーレム無双〜(なお特殊性癖)(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナル現代/冒険・バトル)

やり込んだエロゲに転生してしまった主人公。▼抜きゲー世界であるが、バトルもあるので、死なない、詰まない様にしながらエロく生きたいと思います。▼なお初っ端から周回用アイテムを回収する模様。▼カクヨムとマルチ投稿▼諸事情により未完▼本当に申し訳ない。▼理由は活動報告にて


総合評価:4916/評価:8.2/未完:130話/更新日時:2026年06月01日(月) 18:00 小説情報

ゲーム世界転生〜現代ダンジョン世界かつ1900年開始で生き残るには〜(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナル現代/冒険・バトル)

現代ダンジョン立志伝〜大戦の軌跡〜▼……というゲームをプレイしていたプレイヤー達は、プレイヤーとしての知識を活かして成り上がりを目指すようです。▼2度の大戦以外にも日ノ本を狙う国はわんさかおりますが、プレイヤー達は生き残れるのでしょうか!


総合評価:5405/評価:8.5/連載:103話/更新日時:2026年05月12日(火) 19:51 小説情報

ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。(作者:塔乃登)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

[ストーリー/STORY]▼ここはセンクトアル王立学園。▼15歳になった少年少女が集まる国一番の学び舎。▼貴方の目標は学園生活を通して、学校に存在するダンジョンを攻略すること。▼塔の形をしたダンジョンの中には、さまざまなモンスターとシチュエーションが待ち受けています。▼仲間を集めギルドを設立し、その頂上を目指しましょう。▼300名を越える仲間たちと10名を越…


総合評価:10956/評価:8.5/連載:11話/更新日時:2026年06月30日(火) 07:00 小説情報

ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした(作者:暁刀魚)(オリジナル現代/冒険・バトル)

物語の世界には、時折胡散臭い狂言回しが出てくることがあるだろう。▼なった、それに。▼気づいたらそんな狂言回しになっていた男は、狂言回しの役割を放棄して人々を害する怪異をボコボコにして回ることにした。▼いっそお前の方がやばい怪異だろという勢いで暴れ散らかす狂言回し、阿鼻叫喚の怪異と被害者。▼除霊師達からは怪異と同類扱いされる男の行先やいかに。▼「カクヨム」様に…


総合評価:12563/評価:8.89/連載:17話/更新日時:2026年07月05日(日) 07:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>