転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
「お兄様、少しよろしいですか?」
昨日、死んでダンジョンから出て来たのが午後一時。つまり今日の一時までデスペナルティでダンジョンには入れない。
家でなんとなく天城の配信を見ていると、極美が寝そべっていた俺の隣に正座した。
幽霊って膝くらいまではちゃんと足あるんだよなぁ、なんて感想を抱きつつ、イヤホンを外しながら身体を起こし、極美へ向き直る。
「どうした?」
「本日もあのミイラの女王へ挑むのですか?」
「いや、正直まったく勝機を感じられなかったからな……」
今まで培ってきた身体能力も技術もまったく意味がなかった。
魔法、魔術、よくわからないがその仕組みの中にある『呪い』という攻撃方法はそれの対策を持ってなければ勝てるビジョンが見えない。
そして、今の俺にあの呪いを防いだり解除する手段はない。
つまり、勝てない。無策でもう一度挑むのは無謀でしかない。
「神官系のレベルを上げて、対抗できるスキルが出るのを待つしかないと思ってる」
これがもしゲームなら、一定のクラス保持者でなければ攻略できないなんて構造はクソゲー以外の何物でもない。
だが、これは現実に発生した超常の話で、理不尽なことは当たり前。呪いへの対策なしに勝てる方法がある保証なんてない。
「あの……」
珍しい。極美が自分からこんなに話すなんて。
なにかあったんだろうか?
「私なら……女ならお兄様が受けたという【
極美と爺ちゃんには対策も兼ねて、昨日の戦闘のことを話してある。
性欲だけじゃなく、支配欲や嫉妬心を掻き立てられ抗えなくなる。
「女だからって通用しないってこともない気がするけどな……」
そもそもあいつの使う呪いが【
それに、極美は大丈夫だとしても俺が洗脳されれば極美の命令権も奪われることになって詰む。
あいつの視界に入らない位置から極美だけを向かわせることも可能だが、それだと送還のタイミングがわからなくなる。
「俺と違ってお前は一度死んだら終わりだ。その程度の勝算で単身突っ込ませるわけにはいかない」
「普段のお兄様なら、負けることなど恐れずに何度も挑んで勝機を探したはずです。今回はそうされないのは、私とお爺様を気遣ってのことなのでしょうか?」
居間で製作系のスキルを試していた爺ちゃんの意識が、僅かにこっちに向いた。
それがわかるのは、爺ちゃんとの鍛錬の成果なのかもしれない。
「なんで召喚獣を気遣って挑めなくなるんだよ?」
「敵の術は、いわば洗脳の魔法です。例えばその状態で『召喚獣を召喚して自害させろ』と言われれば、お兄様は自らがそれに従ってしまうと思われているのではありませんか?」
殺されたんだ。あの感覚は鮮明に思い出せる。
俺が持つどんなものをを差し出してでも、俺はあの女を手に入れたいと思ってしまっていた。
極美の言うようなことを命令されれば、俺はそれに従ってしまう気がする……という不安があるのは事実だ。
「まぁ、嘘を吐いたってしょうがないか。そうだ。俺はそれが怖いからもっと勝ち目が出来てからしかあいつと再戦する気はない。それにもし勝機が出て来たとしても、お前と爺ちゃんのモンスターカードは置いて行くつもりだ」
俺がそう言うと、極美は深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。召喚獣ごときのためにそのようなことを思い詰めさせてしまったのは、私の不徳の致すところでございます」
「なに言ってんだよ。俺はただここまで育てたお前を失うことを勿体ないと思ってるだけだ」
「わかっています。私は死者で、召喚獣で、他人です。ですが私はお兄様に感謝していて、その恩を返したいと思っているのです。ですのでどうか、私にお任せいただけないでしょうか?」
俺がスケルトンの中に閉じ込められていたこいつの魂を救い出したのは、こいつの主観からすれば事実なのかもしれない。
けど、俺からすればそれはダンジョンに囚われていたお前が、俺の召喚獣として俺に囚われている状態になっただけのようにしか思えない。
「俺はお前を都合よく使ってるだけだ。感謝なんてお門違いなんだよ」
「それは私とて同じことです……」
「……は?」
極美は俯いたまま、俺の問いには答えない。
代わりに、極美は芯のある視線を俺に向けた。
「お兄様、私はあれに勝てます。信じてください」
いつも黙っているばかりで、意見なんてされたこともなかった。
そんな極美は今日はやけに饒舌に話している。
否定しても諦めずに懇願してくる。
「根拠を言ってくれ」
「私の魔術師としての能力がアレよりも高いからです」
「魔術師としての能力? ってなんだよ?」
単純にクラスとか、スキルの話じゃないのか?
それ以外に探索者の性能なんかないんだから。
「生前の私はそういう家に生まれたのです。信じていただけるかはわかりませんが、ダンジョンが現れる以前より、この世界には『超常』が存在していました」