転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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29「死霊使い」

 

 目を凝らしても見えるのは人影ばかりで、なにをしているのかは見えないくらいの距離。

 

 爺ちゃんの実況解説付きで『極美VS滅びた魔術師(ルイン・カーメン)』の一戦を見ようと思っていたわけだが、なにやら話し込んだ後、今から戦いがヒートアップするのかと思った瞬間……極美の頭上に出現した氷の槍が滅びた魔術師(ルイン・カーメン)の腹を貫いて、終戦した。

 

「つっよ……」

 

 感想なんてそれしかない。なんで勝ったのかがわからなさ過ぎる。

 極美……さん、じゃん。

 

 こっちを向いて手を振る極美を見て、俺と爺ちゃんは顔を見合わせた後極美の方に近寄っていく。

 

「お兄様、宝玉を手に入れました。お納めください」

「あ、うん。いやぁ、さすがっすね極美さん」

「……お兄様」

「はい」

「私、精神年齢的には六十歳を超えているわけですが……」

 

 まぁ、五十年近くスケルトンんの中にいて意識もあったんならたしかにそういうことになるのか?

 

「次にまたそのような他人行儀な呼び方された時は、こんな私が大きな声を出して泣きますよ? いいんですか?」

「わ、悪かったって。冗談だよ。けど、冗談みたいに強かったな」

「いえ、魔術師としての能力はあの方の方がずっと上でした。もし術式が発動していれば負けていたのは確実に私だと言い切れます。彼女がやろうとしたことはそれだけの奇跡でした」

「でも勝ったじゃん?」

「相手は百戦錬磨の剣士でしたが私は銃を持っていた、というような話です。銃を開発したのも私ではないし、その腕が卓越しているわけでもない。ただ、持ち物に差がありすぎたというだけでございます」

 

 それでも勝ちは勝ちだと思うし、レギュレーションやルールがあるわけでもない。

 

「敵に律儀なんだな」

「いえ、お兄様には正しく理解していただく必要があると思っただけです」

「正しく?」

「私の魔術は五十年前の論理です。今の、ダンジョンによって異能の隠匿がされなくなったことで魔術の研究はきっと私の時代よりもずっと進んでいるはずです。今の魔術師は、銃を持つ私に対してミサイルを撃ち込んでくることでしょう」

 

 過去の魔術師に簡単に勝てるように、今の……極美にとっては未来の魔術師相手には簡単に負けるかもしれないってことか。

 

「まぁ、対人戦闘なんて人気ダンジョンでもなきゃ早々起こらない」

「魔術は固有スキルと同じ分類です。ダンジョンの外での戦闘も視野に入れておくべきかと」

「今の俺にそんなモンに巻き込まれるような関係はねぇよ」

「そうですね。お兄様の固有スキルが露呈しない限りは」

 

 怖い顔すんなよな……

 天城にすら俺はダンジョン外でスキルを使えることは言ってない。

 俺の固有スキルを知っているのはこの場にいる三人だけだ。

 

「わかってるって」

「それならばよいのですが」

 

 バレるリスクはない……はずだ……

 

「そういえばお爺様」

「なんじゃ?」

「お爺様はダンジョンが現れた初期に国からの推薦でダンジョンに入ったと聞きました」

「あぁ、その通りじゃよ」

「だったら、魔術の存在を知っていたのではありませんか?」

 

 極美の問いに、爺ちゃんは少し言葉を溜めてから返答した。

 

「あぁ、知っていた。国から口留めされていたがな」

「死後までもですか? お兄様にはお伝えした方がよかったのでは?」

「ダンジョンの出現によって異能はありふれたものになった。しかし、過去にも異能が存在していたということは現在でも一部の者しか知らぬことじゃ。ともすれば、話すことそれ自体が危険を舞い込ませると判断しただけのこと」

「そう……ですよね。申し訳ございませんお兄様。私は私の都合でお兄様に……」

「いや、知れてよかったよ。それになんとなくそうかもなって思ってたし」

「え?」

 

 そもそも、『騎士』や『武道家』や『魔術師』なんてモンが今の時代に存在するわけがない。

 極美の言う通り、それはずっと昔の人間の魂なんだろう。

 

 でも、だとしても、その魂が入ったからって『異能』を使えるようになるのは意味不明だ。

 身体に付属した能力って可能性は、首無し騎兵(デュラハーン)の言動が否定した。

 

「今までのこのダンジョンの様子から、もしかしたらとは思ってたんだ」

「どうやら、少しはモノを考えられるようになったらしいな。分析眼は戦闘でも重要な能力だ」

「爺ちゃんの訓練のお陰だよ」

「……どうやら、私の危惧などはお兄様にとってはとうに解決なされていることだったようですね。それではどうされますか? 一度引きますか? それともこのまま進みますか?」

 

 俺と爺ちゃんは戦ってないから体力もマナも十全。

 ここで退いて改めて来ても勝機が増すとは思えない。

 

「極美は、マナ残ってるよな?」

「はい。数度しかスキルを使っていませんから」

「じゃあ行くか」

 

 俺も爺ちゃんも極美もさすがに、この宝玉を入れたらダンジョンクリアだとは思ってない。

 そもそもクリアなら倒した時点でそうすればいい。

 

 それにこの宝玉の名前は『()玉』。

 この先にまだダンジョンは続いている。

 宝物庫ならありがたいが、さすがにそこまで甘くはないだろう。

 

 ダンジョン攻略は五十年で千人すら成し遂げていない偉業。

 こんなに簡単に終わるわけがない。

 

 滅びた魔術師(ルイン・カーメン)が背負っていた扉を抜け、三つの城の合流地点の広間に出る。

 そこにあった台座に宝玉をはめ込めば、中央の台座が縦にズレる。

 

 その光景は、まるで棺桶が開いていくようだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 『死霊の楽園:第六階層』

 

 五つの女神像を超えた先には、ズレた墓標の中に隠された階段を下ることで到達することができた。

 

 階段は長く、千段に及びそうだ。即死系のトラップを考えて爺ちゃんと極美は一度送還した。

 

 慎重に進んで行けば階段は終わりを迎え、少し広い空間に出た。

 薄暗いその場所は埃塗れで、壁際には棚がずらりと並び、よくわからない瓶や札、剣や杖、動物の標本などが並んでいる。いくつかある机の上にも本や試験管が並んでいて、まるで地下の研究所のようだ。

 

「いやはや、ここに人が来るなんて何年振りだろうね」

 

 現れたのは少年だった。

 幼稚園児か小学生低学年か、それくらいの男の子。

 椅子に座ったそいつは、机の上に広げた本と手に持った青い光を内包するフラスコを見比べながらこちらに一瞥もくれずに話しを続ける。

 

「人様の家に勝手に入ってくるのは感心しないな。早く帰れば?」

「探索者……じゃねぇよな?」

「そうだね。僕は侵入者ではなく、ここに住んでいる者だよ」

 

 絶対に見た目通りの存在じゃない。

 こいつはこのダンジョンが生み出した『なにか』だ。

 俺はいつでも戦えるように構えながら問いを投げる。

 

 こいつ、今までの奴らとは明らかに違う。

 まともに会話できる上に、身体が操られてるって感じじゃない。

 

「こんなとこでなにやってんだよ?」

「研究してるんだ。だから邪魔しないでよ」

「なんの研究だよ?」

「医者に近いかな。薬でも手術でも、方法はなんでもいいんだけど治療したいんだ」

「なにを?」

「死だよ」

 

 本の隣にフラスコを置きながら、そいつは立ち上がる。

 

「まぁいいや、帰ってくれないならしょうがない。ブチ殺して、追い出すことにするよ」

「お前、アンデッドでもねぇし、操作されてるわけでもないのか?」

「そうだよ。だってアンデッドを創ったのは僕だし、操っているのも僕だもの」

 

 このダンジョンの大ボスってことかよ……

 そりゃいい。こいつを倒せば攻略ってことだろ。

 それに、こいつは極美や首無し騎兵(デュラハーン)……このダンジョンにいた全アンデッドの宿敵ってことだ。

 

「一応聞いとくぜ。なんのためにこんなことしてるんだよ?」

「言っただろう? 死を克服するんだ。そのために僕は『アンデッド』という手段を選んだ。それだけのことだよ。ここはそういう意味じゃ馬鹿みたいに人間が入って来て魂の欠片を落していってくれるから研究には持ってこいだ」

「他人の魂をいじくりまわしてまでか?」

 

 合わない。会話が重なるたびにそう思う。

 言葉が俺の逆鱗の傍を掠めているようだ。

 

「なに言ってんの? 僕が使ってるのは複製だよ。それに、死ななくなるんだよ。他のなにを差し出したって叶えるべき人類の夢だ。僕は生前、不老にはなれたけれど不死にはなれなかった。だからここで、その夢の続きを叶える」

「生前だと?」

「そうだよ。ダンジョンっていうのはね、僕みたいな崇高な使命を前に志半ばで死んだ人間に与えられた神様からの救済措置なんだ。神様ってヤツは、きっと同族を望んでる」

「ふざけんな。テメェ如きが勝手に人の魂を弄んでんじゃねぇ」

「はぁ……そう言えば、僕を殺した王様も君と似たようなことを言っていた気がするよ。どうしてみんな、僕のやっていることの偉大さを理解できないんだろうね。悲しいよ」

 

 話が合わない、のはお互い様なんだろうな。

 

 複製だから。不死のためだから。神様が望んでいるから。

 

 そりゃご大層な話だな。

 

「悪ぃ、まったく理解できねぇわ」

「あっそ。あぁ、それとさ謝る気はまったくないんだけどさ、君の魂ももう勝手に弄っちゃった」

 

 悪寒……いや、殺気!

 

『【鉄拳(アイアンフィスト)】!』

 

 聞いたことのある声だ。

 自分の声の録音を聞いた時の声……が、後ろから降ってくる。

 

「【流弾(パリィ)】!」

 

 振り返り様に、硬質化した拳を腕で受け流す。

 そのままもう一方の腕で【鉄拳(アイアンフィスト)】を叩き込もうとすれば、そいつは【俊足(ステップ)】で後ろに下がった。

 

「まぁ、どっかにいるんじゃねぇかと思ってたよ」

『このガキはクソムカつくが、どうやらこの身体にはコントロールもクソもねぇらしい。まぁ自分(テメェ)を高める糧にすんなら俺以上の適任はいねぇだろ。俺を殺してダンジョンを攻略してみせろ。俺にはそれができるってことは、俺が一番知ってるからよ』

 

 様々な色の皮膚を縫い合わせたツギハギの肉体。

 俺と似た体躯と顔付き。そして、能力。

 

「勝手に似合ってねぇイメチェンさせてくれやがって、なんなんだその身体は」

「ここまで辿り着いた君に敬意を表し、出来得る限り君と同じ、そしてあらゆる能力が君を超える身体を創ってあげたよ。ほら、こっちの方がイケメンでしょ?」

『ブッ、たしかに』

「はい、テメェらぜってぇブチ殺す」

 

 

 ――ボスモンスター【君の改造死体(ドッペルフランケン)

 

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