転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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3「死に物狂い」

 

 次の転職先は一次職の【神官(プリースト)】を選んだ。

 理由は怪我を治癒するスキルを覚えられるようになるからだ。

 これがあれば、一日に倒せるスケルトンの数が増える。そうすれば経験値も増えてレベルアップも早くなる。

 

 極美のクラスは色々悩んだ結果【魔士(マギ)】にした。

 選択肢の中で唯一の遠距離攻撃クラスだからだ。いちいち近づかなくても攻撃できるから遊撃の回数が増えると思った。

 クラスを得た影響か、モンスターカードの絵柄と名称も変化し『スケルトンウィザード』となっていた。

 

 弓とかを持たせる選択肢もなくはなかったが、金もないしロストする可能性が高いから却下した。

 

 レベルアップで得られるのはスキルだけではなく、俗に『魔力』や『マナ』や『エーテル』や『MP』なんて呼ばれている特殊なエネルギーも増えるらしい。

 これはスキルを発動するために必要な力で、空になるとドッと疲れる挙句スキルを使えなくなる。

 

 どうやら俺は【転職(クラスチェンジ)】によって複数のクラスをレベルアップさせてもマナの最大値が加算されるようだ。

 証拠に【神官(プリースト)】に転職してもスキルの総使用可能回数は変わらなかった。

 

 【戦士(ウォリアー)】のレベル10で【敵視(タウント)】のスキルを覚え、【神官(プリースト)】のレベル1で【回魔(ヒール)】のスキルを獲得した。

 

 二つとも効果は文字通りで、【敵視(タウント)】は発動するとモンスターの攻撃対象を俺に集中させられる。

 もう一つの【回魔(ヒール)】は結構マナを消費するけど骨折くらいなら治せるし、止血もできる。

 

「かなり戦いやすくなったな……」

 

 スケルトンの身体が消失していくのを眺めながらそう呟く。

 もうスケルトンを倒すのに極美を使う必要もない。まぁ、極美にも経験値を入れたいから一応【召喚(サモン)】はしてるけど。

 

「カカカ」

「やっぱなに言っとるかわかんないわ。まぁいいや、お前の力も見せてくれよ」

「カカカカ!」

 

 クラスを得たからか知らないが、黒い霧のようなローブを纏い似たような材質のとんがり帽子をかぶった極美が手の平の上に造り出した氷の槍を飛ばす。

 それが顔面に命中し、狙われたスケルトンは一発で消滅した。

 

「つっよ。マジカル極美に改名するか?」

「カカカ(フルフルフル)」

 

 極美が覚えたスキルは【氷槍(アイスランス)】というものだ。

 ネットで調べた限り、【魔士(マギ)】のスキルは炎、氷、雷、土属性の四つの選択肢の中からランダムで選ばれるらしい。

 

 俺の【転職(クラスチェンジ)】でもスキルまでは選べないらしく、選択肢が出ることもなくいつの間にか極美はそのスキルを獲得していた。

 ちなみに極美のスキルも『セカイの声』に聞けば教えてくれる。

 

 

 今日はバイトも休みで朝から来ていたのだが、体力もマナもまだ余ってる。

 今まで来たことがないくらい奥まで進んでいると、石像が見えた。

 

 それは【女神像(セーブポイント)】と呼ばれるもので、ここ以外のダンジョンでもよく見られる物だ。それに触れることで転移地点として登録され、入り口の魔法陣から直でここまで来れるようになる。

 それと【女神像(セーブポイント)】にはダンジョンから脱出させてくれる機能もある。

 

「おぉ、ついに俺も第二階層まで来たか」

 

 女神像(セーブポイント)より先はいわゆる『第二階層』と呼ばれ、出てくるモンスターに変化がみられることが多いのだとか。

 

 今帰ればここまで狩ってきたスケルトン四十匹分の魔石すべてを換金することができる。

 一個が百五十円とはいえ、四十個もあれば六千円の収益だ。かなり悪くない。

 

「けど、ここで退き返すようなチキンには戻りたくねぇんだよな」

 

 俺がダンジョンに来たのは自分磨きの一環だ。

 情けない自分を変えたかった。

 ここで帰ったら元に戻るような気がした。

 

「行くか」

「カカ」

 

 俺は前に進むことにした。

 

 

 第二階層からはモンスターの種類が一気に増える。

 剣を持った『スケルトンソルジャー』。槍を持った『スケルトンランサー』。極美と同じ『スケルトンウィザード』。

 そしてなにより厄介なのが犬型の『スケルトンドッグ』だ。

 

 俺が参考にしているyoutyubeの護身術動画は当たり前だが対人間用だ。

 格闘術も大体そう。犬との戦い方なんて想定されてない。

 ちなみに探索者の戦闘術は参考にならない。『固有スキル』と『クラス』によって大きく戦闘方法が異なるからだ。

 

 結局、初日はスケルトンソルジャー一体しか仕留めきれなかった。

 そもそも湧いてくる頻度も増えていて、時間を掛けるとすぐに増援が出て来る。しかも犬は機動力が高くてパンチもキックも【氷槍(アイスランス)】も全然当たらんし。

 最終的には犬三匹に内臓から食い荒らされた。

 

 結構トラウマ。トラウマ払拭のために今日の夕飯はレバーの焼肉丼にしよう。

 

 

 

 家に戻るとボロアパートに一人。

 貯金もほぼゼロという現実が襲ってくる。

 その上に一人飯。なんか明日のためにスケルトンドッグの対策動画でも見るか。

 

 ダンジョン内ではいつも極美がいるからか、最近は一人の時間が長く感じる。

 

 ダンジョン外でも【召喚(サモン)】できたらいいのにな。

 いや、クラススキルはダンジョン外で使えないってのはわかってるんだけど……

 

 なんとなく、ダンジョン内にいる時の感覚で呟く。

 

「【召喚(サモン)】……って、出るわけねぇよな……」

「カカ」

「は?」

「カ?」

 

 いや「お前が呼んだんやろ」みたいな顔で見てくんな。

 なんで出て来れてるんだよ……

 

 ダンジョンの外で使えるのは『固有スキル』だけのはず……

 

 俺の固有スキルは【転職(クラスチェンジ)】で、クラスを選べるだけの力のはずだ……

 

「まさか……【転職(クラスチェンジ)】で得たスキルは【転職(クラスチェンジ)】に統合されてるのか?」

 

 たしかに複数の一次職になれるのは【転職(クラスチェンジ)】のお陰だ。

 だからその力で得たクラススキルも【転職(クラスチェンジ)】の一部と見なされているってことか。

 

 そんなことあるか……?

 でも、それ以外にダンジョン外でスキルが使える理由に心当たりはないし……

 

「マジか。うん、絶対誰にも言わないようにしよ」

 

 絶対に厄介事に巻き込まれる。

 

 とは思いつつ、翌日の午前中バイト(引っ越し業者より土方の方が稼げるから転職した)では【闘気(バトルオーラ)】と【回魔(ヒール)】がすごく役に立ちました。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 家で動画を見漁って、しかも極美も一緒に見たから『スケルトンドッグ』の動きのイメージは二人とも大体できてる。

 

「今日こそ倒して犬の餌にして共食いにしてやる」

「カカ!」

 

 一応作戦は考えてきた。

 

 作戦名は「俺ごとやれ」だ。

 俺が【闘気(バトルオーラ)】で犬に飛び付き羽交い絞めにして、そこに極美が【氷槍(アイスランス)】を撃ち込む。

 俺にも多少ダメージは入るが、それは【回魔(ヒール)】でどうにかする。

 

「よし、俺ごとやれ!」

「カカカ!」

 

 やっばい! 寒っむい!

 てか痛い! 霜焼けやばい!!

 

「【回魔(ヒール)】! はぁ、はぁ、凍え死ぬかと思った。もうちょっと手加減しろ……」

「カカ?」

 

 天然系女子の「ほよ?」みたいな感じで首をかしげるな骨が。

 

 だが一先ず作戦は成功だ。俺に羽交い絞めにされたスケルトンドッグは消滅していく。

 動画でスケルトンドッグの耐久力は普通のスケルトンと変わらないって言ってたから、その情報が役に立った。

 

 とはいえ、今日はスケルトンの上位種を五体討伐するのがやっとだった。

 

 理由はマナ切れだ。

 そもそも極美はクラスを得たばかりで、まだ一日に七、八発しかスキルを撃てない。

 外したり、一撃で倒せなかったりする時もあるし、スケルトンドッグ以外は耐久力もそこそこある。そもそもスケルトンドッグ以外は羽交い絞め戦法を決める前に武器で斬られたり突かれたりする。

 

 面倒なのがスケルトンウィザードだ。

 遠距離からぶっ放してくる炎の弾みたいなヤツ。当たったら一撃で瀕死になる。

 一匹だったら回避できるけど、前衛がいる状態で湧いたらほぼ詰みだ。

 

 極美がやられる前に【敵視(タウント)】で俺に攻撃集中させて、【召喚(サモン)】を解除、送還するのが一番マイナスが少ない。

 

 第二階層二日目は、ロストがあったから得られたのはソルジャーとドッグの魔石が一個ずつ。

 でも一個千円で売れた。ここで安定して狩れるようになったら昼間のバイトの日給を超えるかも。

 

 それに上位種は経験値が段違いだ。

 二日ですでにレベル5を超えている。

 このペースなら来週には次の【転職(クラスチェンジ)】ができそうだ。

 それに俺も極美もマナが増えてるから、倒せる数も増えるはず。

 

 

 

 第二階層三日目。

 

 目の前にはスケルトンソルジャーが一体とその奥にスケルトンウィザードが見えている。

 スケルトンウィザードは単体の時に追いかけられると逃げる習性があるらしく、それで時間を稼がれてスケルトンソルジャーが湧いて来た。

 

「【敵視(タウント)】」

 

 その言葉と同時に二体の視線が俺に釘付けになる。

 

 そのまま俺はスケルトンソルジャーの方に走っていく。

 出来る限りスケルトンソルジャーとスケルトンウィザードと俺が一列になるように意識する。

 これならフレンドリーファイアが怖くてスケルトンウィザードも簡単にはスキルを使えないはずだ。

 

 これで一時的に俺たちが人数有利の状況になる。

 俺のスキルの影響で敵からまったく狙われない極美が側面からスケルトンソルジャーに【氷槍(アイスランス)】を放つ。

 

 命中。のけ反ったところに【闘気(バトルオーラ)】を発動させた拳を叩き込む。

 剣を持ってる敵の方がリーチが長い。【氷槍(アイスランス)】のお陰でインファイトの距離まで詰められたが、また距離を取られたら一方的に斬り刻まれる。

 

「お前と心中してやるよ! あっ、もう死んでんだったな! ガハハ!」

 

 背水の陣。けど、モンスターへの恐怖より自分の情けなさへの怒りの方が勝ってるから、ぶん殴る拳に迷う余地はない。

 

「カカカカ!」

 

 それは敵のスケルトンウィザードの骨の軋む音だ。

 目の前の相手に集中しすぎて回り込まれてるのに気が付けなかった。

 

 炎の玉が飛んでくる。避けらんねぇ。つーか避けたらスケルトンソルジャーに距離取られて斬り刻まれるだけ。

 

「なら食らってやるよ。熱っっっっちぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいなぁぁあ!」

 

 俺の身体は火だるま状態。けど、まだ死んでねぇぞ!

 

「【回魔(ヒール)】【回魔(ヒール)】【回魔(ヒール)】【回魔(ヒール)】【回魔(ヒール)】!!」

 

 マナが尽きるまで回復スキルをブッパなす。

 まだ焼けるような痛みは全身に感じる、が、動ける!

 

「必殺、炎パンチ!」

 

 スケルトンウィザードの炎の玉が全身を燃やしている状態で相手をぶん殴る。今発明された俺の必殺技である。

 

 俺の必殺パンチはスケルトンソルジャーの顔面を砕いた。

 

「カカ!?」

 

 それを見たスケルトンウィザードが逃走を試みようと後ろを振り向く。

 

「させっかよ!」

 

 まだ完全に消滅していなかったスケルトンソルジャーの持っていた骨の剣を拾い、それをスケルトンウィザードの背中にぶん投げる。

 

 槍投げなんかやったことねぇが、脳内麻薬ドバドバの過集中状態が俺の投擲能力を一段階上げてくれたらしい。

 剣はスケルトンウィザードの足首を砕いた。

 

「自分だけ逃げようなんざ虫が良すぎんだよ、もう死んでんだから死に物狂いってヤツを見せてくれや! 【闘気(バトルオーラ)】!」

 

 足首が砕けてこけたスケルトンウィザードに全速力で追い付き、立ち上がろうとするそいつを蹴り飛ばす。

 その拍子にスケルトンウィザードの片腕がもげる。

 

 手からしかスキル撃てねぇんだろ。うちにもウィザードさんがいるから知ってんだぞ!

 だから残った左手に集中してれば……

 

「カカ!」

「避けれんだよォ!」

 

 至近距離でぶっ放されたファイアボールを、身体を一回転させながら避け、正面を向き直ると共に全力の拳を叩き込む。

 吹っ飛んで倒れたそいつに馬乗りになって、殴れるだけ殴りつける。

 

「よっしゃぁ!」

 

 スケルトンウィザードの消失が始まったのを見て、アドレナリンドバドバの俺は全力ガッツポーズを掲げた、瞬間――

 

 俺の胸から、槍が飛び出してくる。

 

「クソが……」

 

 首だけで後ろを振り向くと、そこにはスケルトンランサーが立っていた。

 

送還(もどれ)……」

 

 スキルを発動させようと構えていた極美をカードに戻したのは俺が死に戻りする前に極美がやられないようにするためだ。

 送還と同時に槍が胸から引き抜かれ、次の瞬間には額から槍が突き出すのが見えた。

 

 俺は死んだ。

 

 

 

 ――【神官(プリースト)】がレベル10になりました。

 ――クラススキル【解毒(アンチドート)】を獲得しました。

 ――条件を達成しました。

 ――自動的に二次職が付与されます。

 ――キャンセルされました。

 ――固有スキル【転職(クラスチェンジ)】が発動します。

 ――以下よりクラスを選択してください。

 

 一次職【魔士(マギ)】【盗賊(シーフ)】【狂戦士(バーサーカー)】【職人(クラフター)】【失恋者(ルーザー)】【剣士(ソードマン)

 二次職【軍師(タクティシャン)】【死霊術士(ネクロマンサー)】【精霊術士(エレメンタラー)】【殴打士(ナックラー)】【高位神官(ハイプリースト)

 

 

 ――【魔士(マギ)】がレベル10になりました。

 ――クラススキル【魔力回復速度向上】を獲得しました。

 ――個体名『極美』が条件を達成しました。

 ――自動的に二次職が付与されます。

 ――キャンセルされました。

 ――固有スキル【転職(クラスチェンジ)】が発動します。

 ――以下よりクラスを選択してください。

 

 

 一次職【盗賊(シーフ)】【遊撃(ゲリラ)】【戦士(ウォリアー)】【神官(プリースト)

 二次職【氷魔導士(アイスマギ)

 

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