転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
ダンジョン『亜人の
俺が普段行っている『死霊の楽園』ほどではないがかなり人気のない部類のダンジョンらしい。
その理由の筆頭として挙げられるのは出現するモンスターのほとんどが『亜人』であるということだ。
ゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、その他いろいろ。
紛いなりにも人型の生き物を殺すというのは忌避感を覚える人が多いから、あまりここは人気がないらしい。
とはいえ『亜人の
待ち合わせか作戦会議でもしているのだろう彼らに会釈をしながら素通りし、俺は魔法陣の中へ入る。
初日だから当然行くのは『第一階層』。
一瞬で視界が切り替わるのはいつもと同じ。
しかし、今までと違うのは日光が俺の目に差し込んで来たことだ。
死霊の楽園は基本的に夜だったし曇りだった。
ダンジョン内は異空間なのだから環境は様々なんだろうが、死霊の楽園にしか行ったことのない俺にとってこの明度は新鮮だ。
「明るいけど、視界は狭いな……」
この『亜人の
奇襲されやすい代わりに敵の多い森林か、見晴らしがよく敵の少ない草原か。
「森林だな。【
爺ちゃんと極美を呼び出す。
今日の探索は別ダンジョンでするって説明はしてあったから、二人は驚く様子もなく周囲を見渡していた。
「爺ちゃんは警戒よろしく。極美も狙われないように隠密スキル使っといてくれ」
爺ちゃんの固有スキル【危機察知】は奇襲をほぼ無意味にする上に、敵の攻撃の軌道も多少ならわかるというかなり有用なスキルだが、自分に向いた危険にしか反応しない。
極美を隠密させておけば、狙われるのは俺か爺ちゃんの二択に絞れる。
爺ちゃんは【危機察知】と周囲の生物を知覚する【剣豪】の【
そんなことを考えていると、爺ちゃんは刀を茂みの一つに向ける。
「ギャギャ……」
「ギャ……!」
「ギャア……」
緑色の肌。子供のような体躯。残忍な表情。棍棒と石製の武器が二つ。手斧と槍。
スキル起動【
スケルトンと同ランクってことは、スキルなしの成人男性と互角くらいの身体能力のはず。
問題は武器と数。
「二人とも、一応召喚はしたけど第一階層は囲まれでもしない限り基本手を出さなくていいよ」
頷いた二人はその場で止まり、俺一人がゴブリンに向かって歩いて行く。
「【
取り出すのは爺ちゃんに造ってもらった直剣。【鍛冶師】のクラスを得たことで習得した【
さらに【
結構失敗したせいで、かなりの収益が消滅したが『
ゴブリン程度なら……
「【
一刀一殺で斬り伏せられる。
拳だけの戦闘スタイルじゃ偽物どもに読まれる。
けど、剣技じゃ単純に技術が足りてなさ過ぎて負ける。
解決策は『剣技の練度を上げる』しか思いつかなかった。
「爺ちゃん、今のどう?」
「二十七点」
「一応何点満点?」
「百点満点」
厳しっ……
「極美、ちなみにこいつらの中身もダンジョンに入った探索者のコピーってことはあると思うか?」
「おそらくその可能性はないかと。死霊の楽園の構造は、【
「なるほどな」
じゃあ、あっちから殺そうとしてくるわけだし、躊躇は必要ないか。
ダンジョンに入っているのは俺の意志、ここは亜人の領域なのかもしれないが、そもそも先に地球にダンジョンの入り口なんてものを発生させている時点で、今更棲み分けもクソもない。
けど、おかしいな。少し前まで俺はキョンシーを殺すことに躊躇していた。それは人間と形が似ていたからだ。
なのに、今の俺は人っぽい敵を殺しても身体の震えも心拍数の上昇も感じない。平常だ。
いつ変わったのかと問われれば、それはきっと天城を殺した時だ。
あの時、俺の中でかかっていたブレーキが少し緩くなった。
良いことなのか悪いことなのか判別する方法はないし、残酷さは度胸と言い換えられるかもしれない。
少なくとも今俺が直面している状況に対しては、昔の俺より今の俺の方が都合がいい。
「彩人」
「なに、爺ちゃん」
「お前は強くなった。今は、そう捉えておればよい」
まるで俺の心でも読んだかのように、爺ちゃんはそう言った。
それから第一階層を抜けるのに二時間ほどかかった。
さすがにゴブリンに苦戦することはなかったが、死霊の楽園の第一階層よりも広大というかどっちに進めばいいのかわからなかったから手当たり次第に歩いた結果時間がかかった。
ダンジョンの端の壁に何度かぶつかったあと、木の上から周囲を見渡してみたことでやっと大方の行くべき方向はわかった。
このダンジョンは崖によって区切られた構造になっている。
階層ごとの構造は中央に泉があって、そこへ上の階層から水が流れてきて、さらに崖下の低階層に滝を通して流れていくというものだ。
階層ごとに泉を取り囲むように森林が広がり、そのさらに外側に草原がある。
次の階層に行くためには上流である落ちてくる側の滝を目指し、その近くにある階段を昇っていく必要がある。
階段を昇り切ったところに【
しかし、このダンジョンには人為的なものは今まで一つもなかったが、この階段だけが人工物なのにはなにか理由があるんだろうか?
第二階層は第一階層と見え映えも出てくる敵もほとんど変化はなかった。多少ゴブリンの数は増えたような気がするし、十体に一体くらいの確率でコボルトが出てくる。
コボルトもモンスターとしてのランクは1だ。ゴブリンより牙が鋭い。一回噛みつかれると剥がすのに手間取る。けどそれだけ。
事前にネットで調べた限り、このダンジョンの最高到達階層は現時点で五十三階層。第六階層でボスが出てきた死霊の楽園と比べると十倍近い規模感だ。
階層毎のレベルの上がり方もそうでもないんだろう。
「この分なら余裕だっ……」
言い終えるより早く、足がなんかに取られた。
木の蔓だ。やば、転ぶ……
「ギャギャッ!!」
俺の油断、隙を待っていたと言わんばかりに樹上からゴブリンが落下してくる。
手には石器のナイフが一本。
完全に俺の頭蓋を砕くコースだ。
「ッ! 【
転がるようになんとか、その場を離脱する。
と同時に、「はぁ」と小さくため息を吐いた爺ちゃんが、襲い掛かって来たゴブリンの首を刎ねた。
「……うん、油断せずに行こう」
「それがよいだろうな」
「そうですね」
ここはダンジョン。ここはダンジョン。ここはダンジョン。
心の中でそう唱えながら、それ以降は足下にも注意して進んだ。
環境設定によるデバフ……
敵は俺。俺が掛かる罠ならあいつらも引っかかる?
探索中にも、頭の片隅では常に俺たちとの戦いをシミュレーションし続けた。
初日の探索時間は約六時間。第四階層入り口まで来れた。
これなら二週間もせずに適正な狩場を見つけられるだろ。
◆
『亜人の
二時間ほどで第五階層までやってくると、ゴブリン、コボルトに加えて『オーク』が出てくるようになった。
「ブモォ!」
「うるせぇな」
豚面のデブい魔物。ランクは2だからゾンビと同等。重量がある分、耐久力も一撃の威力もある。ゴブリンやコボルトとは比較にならないくらい強い。
あと、最初に吠えてたのは仲間を呼んでたらしい。囲まれた。
「爺ちゃん、極美、手伝って」
一匹目を斬り殺したあと、俺は二人にそう頼む。
これが複数出てくるってことを考えると一人じゃ厳しそうだ。
「了解した」
「かしこまりました」
とはいえ、爺ちゃんの剣技と極美の魔術の前じゃただのデカい的でしかない。
そもそもレイスの『物理攻撃無効』のお陰でこの階層で極美にダメージを与えられる存在はいない。かなり一方的な展開だ。
周囲のオークが絶滅し、魔石だけがその場に転がっている。
それを回収していると――地面が大きく揺れた。
「なんだ?」
「巨人……」
爺ちゃんの目が青く光っている。それは視覚系のスキルの発動を意味している。
その状態で呟かれたその言葉に意味がないってことはないだろう。
ドスン、ドスン、と地鳴りが連続する。
木々と葉の隙間から差していた日光に影が差す。
「トロル……か……」
黒い肌を持った一つ目の巨人がなにかを探すように首を振っている。
事前情報にあったな。
このダンジョンでは稀に【
【
ランク的には
「雑魚ばっかでつまんなかったし、アレ誰も戦ってないなら貰ってもいいかな」
「周りの人間の気配はアレから逃げている者しかないようじゃのう」
「お兄様にお任せいたしますが、私は勝てると思います」
二人ともやる気満々じゃん。
「じゃあ決まりってことで。【
「ウォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
極美は隠密系スキルを複合させ、爺ちゃんは【八艘跳び】で、それぞれ俺から離れていく。
全長十メートル以上ありそうなそのモンスターは、俺を目掛けて引き抜いた大木を叩きつけてくる。
「お任せください。【
三種の結界魔法。
それが【多重結界】の効果によって三つずつ展開される。
計九枚のシールドのうち七枚が割れ、八枚目にヒビが入る。が、『トロル』の攻撃はそこで完全に停止した。
「【
爺ちゃんはその間に振り下ろされた腕の上に【八艘跳び】で移動し、腕を伝って顔を目指して走り出す。
足下にある腕に突き刺された刀を引きずりながら走っている。
しかもなんだあれ。斬撃が太い腕の反対側まで貫通してる。
【
スキルの発動時間の拡張? もしくは連続発動?
少なくとも俺の【
あれどうやったらできるんだ? あとで聞こ。
「【
炎魔剣士のスキル。
そのままトロルの肩まで疾走した爺ちゃんは、瞬きした一瞬の隙を付いて顔面まで跳躍。一つ目を瞼の上から切り裂いた。
俺要らなくねぇ? とか思いながら身体強化スキルを起動。
【
「グォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
さっきとは咆哮の種類が違う。
威嚇ではなく、絶叫の咆哮。
「なんだ。割と利いてるじゃん。【
連撃を叩き込めばトロルの脛が青く染まり、赤い血が溢れ出す。
必死の抵抗とばかりに俺を蹴り飛ばしに来るが、
「【
藻掻いてるだけで、重さはさほど乗っていない。
弾いて、もう一発殴り返す。
トロルの膝が折れ、顔が近づいてくる。
「【ギゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ】!!!」
なんだこれ……この咆哮は威嚇でも絶叫でもない。
聞いた瞬間、身体が強制的に痺れさせられた。
ヤバイ、指一本動かねぇ。視界の端に映る爺ちゃんと極美も動けてないっぽい。
そんな俺に向かってトロルの拳が落ちてくる。
目が見えてなくても、今まで俺に殴られ続けていたわけで、しかも動きを止める咆哮を放ってるわけだから俺の位置はわかるってことか。
このまま頭上からアレが落ちてきたら、もう回復力とか関係ない。
一撃で潰されて死ぬ。
「ナメてんじゃねぇよ! 【
自身に付加されたあらゆる行動阻害を一時的に解除する。
もう拳が迫ってる。けど相手は目が見えてない。
ギリ、避けられる。
「痛ってぇなぁあああああ!!」
拳が体を掠めただけなのに、やすりで削られたみたいな痛みが走る。
質量が違い過ぎる。何階級差だよ?
けど、まだ死んでねぇ! 身体も動く!
「【
で造った小さな傷に手を捻じ込み、肉を剥ぐ。
その血肉で口の周りを濡らしながら、俺のスキルが次々と発動していく。
【
「【
大地を抉った拳の手首を切断する。
「【
殴打で折った足とは逆の足首に刃を入れ、周りを一周しながら断ち斬る。
骨は斬れなかったが、自重を支える機能は完全になくなった。
トロルが俯せに倒れ込んでくる。
ちょうど俺の前に、トロルの首が横たわった。
薪割りに近いフォームで、俺はその首に直剣を振り下ろす。
「【
複数の強化スキルとエンチャントも相まって、俺の一撃はトロルの頸動脈を完全に断ち斬った。
噴水のような血飛沫と共に、その身体が消えていく。
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